第十一話「理想の勇者」
「今更なんだがどうしてカルラは直接ここにきたんだ?偽物だと思ったなら王にでもいって正式に調べてもらえばよかったんじゃないか?」
「本当に今更だな。⋯お前の様子がどうも気がかりでな。悪意から嘘をついているわけではなく、周りの空気にただ流されているだけのように見えたんだ。そう思うと放っておけなくてな」
「お前ってやつは⋯⋯ありがとう」
偉いっ!偉いぞカルラっ!
その通りなんだ!
本当に優しいんだからもうっ!
「礼などはいい。あとはだな⋯もし本物なら、その⋯サインとかをだな⋯⋯」
「ん?なんていったんだ?もう一回いってくれ」
「勇者に会いたくて、その、サインとか握手をしてもらおうかなって⋯⋯」
「こんな時間に?お前それ、勇者からしたら夜這いだと勘違いするぞ」
「ちがぁぁぁう!!」
素でそういうことしちゃう子なのだろうか。
勇者に限らず大抵の男の子は勘違いしちゃうだろうに。
そして気懸かりだったことを聞いた。
「王様が俺に謝ってたよな?約束の日ではないのにって。あれはどういう意味なんだ?」
「勇者の置手紙の話はしただろう?『この世界がやばいよーって時に呼んでくれ』と。つまり世界に災いが起きた時ということだ。だが今は世界ではなくこの国の危機。約束の日ではないことに対する謝罪だろう」
そういうことか⋯⋯ん?それ結構大事なことじゃね?
俺が呼ばれちゃった理由ってそれに関係しそうじゃない?
「それよりもだ、これからのことを決めておこう⋯カケル」
「そうだな。ん?カケル?」
「お前の名前だ。いつまでもお前や貴様と呼ぶわけにもいかないだろう」
「それもそうだな。いきなりだからビックリしたよ。でも人前ではそう呼ばないでくれよ?」
「当然だ。私たちの関係性がバレるのは面倒だからな」
「そうだよな、一夜を共にした仲だってバレたら気まずいもんな」
「なっ、変な言い方をするな!!」
顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけている。
こりゃあ面白い。
からかいがいがありそうだ。
「とりあえず明日のことだな。王様はまた明日っていってたけど何かあるのか?」
「明日はこの国の建国記念日だ。毎年この日は国を挙げてお祝いをしている。そのお祭りがあるんだ」
「俺はそのお祭りをただ楽しめばいいのか?」
「そんなわけがないだろう。そこで勇者の帰還を発表する」
「なるほど⋯⋯⋯え?お祭りで?」
「毎年お祭りが始まる前に必ず国王による開催の儀がとり行われる。そのタイミングで王の口から直接発表し、そしてお前の登場だ」
「なんだそれ?そんな派手にしちゃっていいのかよ?」
「派手でなければ意味がないのだ。国民だけではない、近隣諸国にも広めなければならないからな」
今から胃が痛い。
これからとんでもない大嘘をつくんだもんなぁ。
明日の予定、嘘をつく。
なんだよそれ、どんな予定だよ。
「そんないきなりだとパニックになるんじゃないか?」
「安心しろ。お前がこちらにくる前から既に噂を広めてある」
くる前って、失敗したらどうするつもりだったんだ。
いや失敗してるんだけどさ。
「カルラはどうするんだ?また王の護衛か?」
「いや明日はカッ⋯カケルの護衛につく予定だ」
名前を言うだけでなにを照れているんだ。
さっきまで普通に言えてたじゃないか。
付き合いたてのカップルみたいでこっちまで意識しちゃうだろ。
「俺の護衛⋯王の方はどうするんだ?」
「王にはもっと大勢の護衛がつく。逆に言えば勇者の護衛は私と私の直属の部下のみだ」
「カルラには部下がいるのか。もしかして結構偉いのか?」
「偉いわけではない。私の部隊は少し特殊でな、女兵士数人のみで編成された特殊部隊だ」
少数精鋭ってわけか。
しかも女兵士のみ、かっこいいなおい。
「細かいことはお前に任せる。ただし下手なことは言わないほうがいい。少しでも疑われてしまえば力を示す以外の道がなくなってしまう。つまり終わりということだ」
「緊張するな」
「ああ。今日のお前を見ている限りでは大丈夫そうだが、民が思い描いている勇者とは程遠かった」
「偽物なんだから当たり前だろう」
「そうではない。国民には頼もしさを、他国へはおそろしさを見せつけなければならない。もっと堂々としろ」
そうか、他国への脅威にならなければいよいよ俺が生きていていい免罪符がなくなってしまうのか。
俺はなにを弱気になっているんだ。
生きるって決めたんだろ、覚悟は決めたはずだ。
本物か偽物かなんてどうだっていい。
自分は伝説の勇者だと本気で思えばそれでいいんだ。
これから先、俺に求められるものは演技力。
なりきってやるぜ最強の勇者に。
勇者が、いや俺が帰ってきたって知らしめてやる。
第二章に突入です!
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