トロルの灯
ヤルッコは、薪を集めるために森へ行きました。
季節はちょうど夏から秋へさしかかった頃で、木々は赤や黄色に彩られています。頭上では小鳥たちが鳴き交わしていますし、時折きつねやりすが顔を見せました。地面に落ちている枯れ枝を集めながら、ヤルッコは森の散歩を楽しみます。
歩いているうちに、ヤルッコは、地面の上の枯れ葉の中に真っ白な棒のようなものを見つけました。
拾い上げてみると、それは真っ白なろうそくでした。きっと、誰かが落としてしまったのでしょう。森の中にあってもしょうがないと思い、ヤルッコはそれをポケットの中にしまいました。
森の奥まで来ると、木の上から奇妙な声が聞こえてきました。
「よう、ヤルッコ。一つ、賭けをしないか?」
「どんな賭けだね?」
「この森には、トロルが住んでいる。明日の日が昇るまでにそのトロルに一目でも会うことができれば、お前さんの勝ちだ。黄金の詰まった壷をやろう。会うことができなかったら、お前さんを頭から食ってやる」
ヤルッコはちょっと考えて、うなずきました。もともと、向こう見ずな性格なのです。
「いいだろう、賭けに乗った」
木の上から笑い声が聞こえました。ヤルッコは集めた薪を一旦樫の木の根元に置いて、森をずんずん歩きます。トロルがどこにいるのかは分かりませんが、森に住んでいるというからには、どこかに家があるのでしょう。
しかし、森を一周、二周してもトロルどころか人っ子一人出くわしません。日が暮れるころにはヤルッコはすっかり疲れ果てて、元の樫の木のそばに腰かけました。ちょっと休憩と思ったのですが何故か猛烈に眠くなり、そのまま寝入ってしまいました。
気がつくと、もうすっかり夜になっていました。真っ暗な森の中は静まりかえっていて、ちょっと身動きするだけでも大きな音が木々の間に響きます。
ヤルッコはすっかり怖くなりましたが、ふと昼間にろうそくを一本拾ったことを思い出し、ポケットから取り出しました。
不思議なことに、取り出しただけでろうそくに灯がともり、ヤルッコの目の前を照らしてくれました。それを持って彼はまた森の中を歩いて回ります。夜明けまでにトロルに会わないといけませんからね。
いくらかも歩かないうちに、ぼうっとした灯りがいくつも森の中で動いているのが見えました。ヤルッコは足音を忍ばせ、灯りの近くへ進みました。ぺちゃくちゃしゃべる声も聞こえます。期待に胸を高鳴らせ、木々の陰から顔をだしました。
そこにいたのは、鼻や歯の大きなトロルたちでした。皆ろうそくを一本ずつ手に持って、座ってしゃべったり踊り回ったりして、楽しんでいるようです。ヤルッコは彼らに話しかけに行こうとしました……が、何かがヤルッコをきゅっと引き止めました。
トロルは、人間の客を歓迎してくれるでしょうか? ヤルッコのお母さんは、トロルは人ややぎをばりばりと頭から食べてしまうのだとよく話して聞かせてくれました。もしかしたら、ヤルッコが今飛び出して行ったら、あっという間に食べられてしまうのではないでしょうか?
ヤルッコはろうそくの灯を手で隠し、しばらく様子をうかがうことにしました。
トロルたちは、木の実で作った酒を飲みながら、楽しく話しています。
「明日の朝、ごちそうが手に入りそうだぞ」
一人のトロルが、仲間たちにこう言いました。
「ほう、そりゃまたどうして?」
「森をぶらぶら歩いていた人間に、賭けをもちかけたんだ。わしらトロルに会うことができたら、黄金の壷をやるとな。だが、人間なぞにわしらの宴が見つかるものか」
「我らのろうそくを持っていないと、宴を見ることもできないものな」
「おまけに、ろうそくを持っていないものが近づいたら、食べてしまっていい決まりだ」
トロルたちは大声で笑いました。
その時、一人の女トロルが、怒った声で子どもらしきトロルに言っているのが聞こえました。
「まあ、お前、ろうそくをどこにやったんだね?」
子どものトロルが泣き出しました。
「落としちゃって、見つからないんだ」
そう言った途端、トロルたちは静まり返りました。何十人ものトロルの目が、一斉にその子どもトロルと母親に向けられます。その空気といったら、ナイフの刃のように冷たく、固いものでした。
たまらず、ヤルッコはトロルの群れの中に飛び込み、持っていたろうそくを子どもトロルに握らせて叫びました。
「そら、落としたろうそくとは、これだろう」
トロルたちは驚いたのなんの、あっという間にヤルッコの前から逃げ出し、辺りは真っ暗になりました。ヤルッコは、何だか妖精に欺かれたような気分になりながら、暗い夜道をゆっくりと辿って家に帰りました。
次の日の朝、ヤルッコが家の扉を明けると、きらきら光る黄金がぎっしり詰まった壷が置いてありました。