第九十話 王都散策/デート&デート
デートモドキの行軍は、少々暗い雰囲気と共に推移した。
ある種久しぶりのぶらり旅なのだが。
まあしょうがないと言えばしょうがない。何せ王都を揺るがすことが確定しているのだから。
なお、働き者の暗部が途中で例の紙切れを引き取りに来た。
鮮やかなスリの手口で持っていかれた。カリオペが知っている顔かつ国王直属なのは間違いないとのこと。
わざと顔見せたな。
「....」
微妙な顔をして屋台の鳥串をアイリーンは食む。
「気分じゃないか?」
聞いてみると曖昧な頷き。
「まあ、ねー...人が死んだのもそうだけど、”あの人たち”が王都を襲撃する、となるとね...」
王都襲撃、それはある意味で政権転覆か政権への脅迫を意味しかねない事である。
俺たちはそれが起こることを事前に知ってしまったわけだ。
「でも、防ぐ手立てはないんでしょう?」
カリオペがげんなりとした顔で言うが、その通りだ。
「現状、奴らの尻尾は遥か彼方だ。国王直属の暗部が動いてこの結果じゃあ、動くまでひっ捕らえるのは正直難しいだろう」
うえ、と二人の顔がさらに歪む。
「でも、あれだけ大口叩いた以上なにかしらはやらなきゃいけないんじゃないの?」
「まあ、それはそうだ。...打つ手がないわけじゃないしな」
「...やっぱりあるのね、秘策」
半眼でこちらを見るカリオペに向かって俺は笑う。
「そりゃそうだ。俺が黙ってやられるわけがない」
すっと懐からとあるものを取り出す。
まるで青いタヌキの様に勢いよく!
軽快なSEと共に飛び出したそれは!!
「...ネズミ?」
アイリーンが呆れ、カリオペがドン引いている。
そう、俺が取り出したのは例のタヌキが嫌う、ネズミ。
「...型の魔道具、とでも言うべきかね」
中身は前世で作った事のある地上用小型ドローンを改造したモノ。大気中から魔力を抽出して動く優れモノ。
”大気魔力濾過装置”。我らが教授、ローゼナ女史の持つ特許が一だ。
まあ、生み出せる魔力が少なすぎて役に立たないとの仰せだが。そこらへん、ローゼナ女史が聡明な割に残念な所以だろう。この前中庭で一人寂しく学園一安物たる黒々パンを食っていたのは哀愁が漂っていたというかなんというか。...なお黒々パンとはその名前の通り黒パンより黒いパンである。一時期地球で話題になった世界一黒い塗料を思い起こすほど黒いパンだ。
味?...炭水化物って炭素と水素を含んでれば何でもいいわけじゃないと思うんだ。
...が、俺のドローンは超省電力仕様。一部技術者からニュートンに喧嘩を売るつもりかと叫ばれた代物だ。精々ちょっとした回転装置をくるくる回す程度の...発電機を回せるパワーがあれば良い。
「名付けて鼠型地中探査機、超音波探査装置を利用した、”地下施設発見器”とでも言うべきかな」
ドヤァ!と誇らしげにみるとアイリーンの呆れが深まった気配が。
「...いや、超音波と言われてもね...」
しかし空気の読めない俺はそれに気づかない。
「そう、超音波だ。鼠の鳴き声は”チューチュー”、俺らにも聞こえる音...だがそうじゃない。音には俺たちにも聞き取れない音がある。それが超音波、音を超えた波だ!鼠にもそれが出せる。街に居てもそこまでおかしくない獣が超音波を出せる!おあつらえ向きだ!そう思わないか!」
「アッシュの鳴き真似が可愛い」
うん、難しかったらしい。
...暴走したか。
「おほん。まあノックして空間があるか調べる方法の凄い版だな。散策中に何機か放ってある。四日もすれば王都中の地下が筒抜けだ」
再度どや顔を向けるとカリオペが額に手を当てて呟いた。
「...お前ならそのうち女湯の透視とかもできそうだな」
「...できなくはないぞ」
ばっと身体を掻き抱いて身を引く二人。おいカリオペお前が言ったんだろうが!
「実際の映像とはまた違うがな。壁の向こうの画が描ける、みたいなものか」
3Dマッピングを壁越しに行える装置だ。もともとは隠れん坊とかサバゲーに使うために作ったものだ。
だが、CGを出力できるが精度の問題で実際の映像とはまた違う。色もないし。あとたぶん解像度の問題でエロい目的で使うには向いてない。
「悪用する気もないし、そもそも現状まだ作れないよ。悪用する気ならここでぶっちゃけない」
「それは...」
「そうね...」
すすす、と二人がまた元の位置に戻る。
そも、盗撮するくらいなら普通にそういうモノを買う。春画くらいこの世界でも普通に売ってるんだから。
むしろ大々的に売りすぎなくらいにな。
「おい、そこの兄ちゃん」
声を掛けられた。
思ってもみない声に驚いて振り変えると、そこには屋台に立ったおっさんが。
額にしている...ねじり鉢巻きといい、妙に和風なのが気になる。
「よう、驚かないでくれよ兄弟!」
格上げ早いなこら。
「...アンタにこういうのも変かも知れんが何か用か?」
「ふっふっふ、屋台の店主が声を掛るったあ役目は一つ!買ってかないか?」
...まあ、そりゃそうか。タイミング的に変な相手か疑ってしまった。
「...”ブルービール”?青いの?」
アイリーンが屋台においてある値札を見て言う。
一部がガラスでできている、ちょっと現代っぽいビールサーバー。視線を向けるとその中には明らかに青色の液体が。
「青色二号?」
「なんだそりゃ、こいつがウチのブルービールだぞ。あとそんな素材は聞いたことないな」
おっと、色が随分似てるから有名な食品用の着色料の名前を。
だが、色に着目した俺たちと違い、カリオペはその名前に心当たりがあったらしい。
「ブルービール...ってことは貴方あの葵蜜屋の店主?」
「おお、旅人にまで知れてるとはな」
旅人...とは少々違い、カリオペのホームタウンは一応ここだ。とはいえ王族まで知れ渡ってるとは本当に有名な店らしい。
「たまに宣伝のためにこうして屋台出してるんだ。ウチの店はちょっと場所がな」
分かり辛い裏路地にあるらしい。先々代...初代は隠れ酒場みたいなものを作りたかったらしいが先代とこいつは拡大したいらしい。
「まあ酒精は入ってないが」
酒精無しか。そりゃ悪くない。
「んじゃくれ」
「あいよ、彼女さんたちの分はオマケしとくぜ、色男!」
「「かっ...」」
一杯分の駄賃を渡すと三杯のジョッキが突き出される。白色粘性生物のゲル部分を焼き固めた素材。...まあほぼプラスチック的な素材で、使い捨てが基本な屋台向けの食器である。
白色粘性生物は魔物では珍しく簡単に養殖が可能で、食べ物は...一般には秘匿されているが、人間の糞尿や生ごみである。解毒作用、抗菌作用が強いのでこうして食器に使われることが多いが、まあ、知識を持っている人は引く人が多い。...そりゃそうか。
「ははっ、羨ましいだろう?」
「とってもな!」
にっと笑ってやると店主もニカッと笑い返す。
「「なっ...」」
何故か固まっている女子二名を押し出しつつ、俺は店主にひらひらと手を振ってその場を去った。
「ありゃ、大物だな。...嬢ちゃんたちは苦労しそうだが」
店主の呟きは、残念ながら耳には届かなかった。
「...おいしい」
少々ばかり膨れたままに、アイリーンが感想を言う。
「そうだな」
”冗談でもそういうことを言うな”と二人に説教を受けた俺は少々ばかり痛む頭をさすりながら同意する。
「ベリー風味、ってところかしら。バターの様な匂いもするし、何というかイメージと違うわね」
この国の成人年齢は18。まだ20になっていなかった前世の俺を含め飲酒経験のあるやつはここに居ない。
マリアはあるかもしれないが、どちらにせよここに居ない。感想を聞くことは出来なかった。
「まあ、かなり甘いな。ビール=苦いとは限らない、ってことか?」
そう言いながらも、俺たちは王都を練り歩く。
魔道具屋では俺の作品が堂々と展示されていたり、やたら誇張したPOPが飾ってあった。なかなか恥ずかしい。
アクセサリーショップでは二人に軽くペンダントを贈ってみた。頬をつねられた。何故だ。
昼食はカリオペが入ってみたいと言うのでいわゆる大衆食堂に入ってみた。何故か生の状態でほぼ塩漬けと同じ味がする兎の魔物、塩兎を使った、”塩兎のバターソース和え”、フルーツと穀物の中間と言われたりする庶民御用達の甘味である甘麦で作った”ラクトパン”、あとは”野菜のスープ”というべたなメニューもあった。
ちなみに魔物食、案外王都周辺の庶民には一般的なんだとか。結局家畜に肉を食べた方が美味いのだが、まあ家畜の肉は高いからな。自然、狩猟した肉の割合が多くなる。
考えてみれば我らがクロウ男爵領ではそこそこ牧畜が盛んであった。森の中なのに普通に牛が練り歩いているのは中々奇妙だったが、中々恵まれた環境だったんだな、と少々臭みの抜けきっていない兎肉を食みながら思った。
古本屋に寄ってみた。
学術書の棚を見て、適当に医療の本を取り出してみたがすぐに棚に戻した。
何故か?タイトルが”四体液説”だったからだ。
...いや、もしかしたら真面かもしれない。...ダメだった。
四体液説とは血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁のバランスで健康は作られているという説である。
いや、黒い液体が身体から出てきたら怖すぎるだろうが。
カリオペは掘り出し物の魔術書を発見したらしく小躍りしていた。
”料理魔法”と書いてあった。
...ちょっと興味深いな。
武器屋に行ってみた。
禿頭のギガマッチョ店主に少々ビビりながらいろいろと見まわしたが、中々いい腕を持っていたらしい。いい武器が多く置いてあった。たびたびあった安物のちょっと頼りないのは弟子の作品らしかった。
軽い短剣を一本、アイリーンが買っていた。
そんなこんな、ちょこちょこと屋台の食べ歩きを挟みながら散策していた。
始めは食べ歩きなんてはしたないと拒否していたカリオペも、そのうち耐えきれなくなって豪快に食べ始めた。”罪の味ね”とは彼女の言葉。...まあ、好き勝手食ってると太るタイプの味麦価だから分からんでもない。
そんなこんなしていると、次第に日が傾いてきた。
「黄昏時ねえ」
「詩的な表現だなお姫様?」
「うっさい」
カリオペと軽口をたたきあう。
すると、少し前からアイリーンがなにも喋っていないことに気づいた。
「そうした、アイリーン。静かじゃないか」
普段俺といると一分以上黙っているのは授業の時と飯の時だけなのに。
「...なんかびみょーに含みを感じる」
半眼で見られた。さっと目をそらす。
「む...まあいいや。ちょっと気になるんだ、あれ」
そう言って彼女が指さしたのは後方。
その先を見てみると。
「...”奇想占幕”?...占いの館ってところかしら」
ある種禍々しい門構えの小さな店。それは、ある意味で俺たちの運命を決定づけることになる。




