第八十四話 国王謁見III/ガンガンいこうぜ
「竜の鱗」
俺の呟きに、ざわりとさざめいた。
「ーーなんだと?」
国王が聞き返してくるので、俺はもう一度はっきりと告げる。
「竜の鱗を貰いとうございます」
がたり、と宰相が立ち上がった。
「...貴様、何を言っているか分かっているのか」
「当然です」
竜。それはこの世界における文句なしの最強種である。
その膂力、魔力においてこの世界の如何なる生物の追随を許さず、一部では神とも悪魔とも言える存在。
それが討伐されたともなれば討伐者は英雄などと持て囃されること間違いなしの最大最強。
それこそが竜。それゆえに竜なのだ。
当然、その素材は文句なしに国宝級であり、おいそれと譲り受けることは出来ない。
が。
「まあまて」
いきり立つ宰相を国王がなだめる。
ふ、と柔らかく息を吐く。...が、その眼は鋭い。
「因果なものだな。竜殺しの英雄の息子が、竜の素材を求めるか」
え!?と隣でアイリーンが驚きの声を漏らす。
俺は国王を見つめたままだ。
「...おや、驚かぬのか?アヤツは子供には伝えんと言っていたのだが...」
「知りませんでしたよ。文献もありませんでしたし」
「だろうな」
この世界の情報伝達速度は遅い。高速で伝える手段もありはするが地球の様に何万文字の資料をワンボタンで配布など出来ないのだ。
故に、我が父は英雄だ、と知っているものはいても案外何をしたのか知らない奴ばかりだった。
「ま、単なる推測ですよ」
「そうか。...まあそれは良い。だがな。竜の価値は分かっている筈であろう?おぬしが”黒の一座”の制作者であることは解っているが。だがだからと言って渡せるものではない」
すると、辺りがまたざわついた。...あれ?
「皆さん、ご存じないので?」
「おぬしが腕のいい魔道具師と言うことぐらいは知っておろう。だが”黒の一座”に関してはあのはらg...おほん。カモミール商会長が巧に隠しておる。知っておったのは余を含めあやつに直接言われた者だけだろう」
成程?
...ってことは躊躇なく曝露しやがったのかこの王様。
「...ええ。当然、私程度の実績では国宝等をくれてやる気にはならぬでしょう。ですが...」
どこぞの秘密機関の長の様に大仰に手を組合す。ニヤリと笑い、それを告げる。
「国を救う前払いだと思えばどうでしょうか」
近衛騎士団長、ソーデッドの目が細められる。
「...若輩たる君が国を救うと?確かに多少の賊を追い返せる、その戦力は既に騎士に匹敵していると言えるでしょう。しかし君如きが英雄を名乗るのに何年かかる?10年?20年?もっとでしょうか?そのような程度に、保証も無しにすることはーーー」
「一年以内に。ソーデッド騎士団長」
不敬は承知だが思い切り言葉をさえぎり俺は言う。
「一年以内に”英雄”になって見せましょうとも」
ぴくりと頬を引きつらせるソーデッド。普段は温和なんだろうが、...まあ多分怒ってるよなぁ。
「君、馬鹿な...」
「さて、話は変わりますが」
出鼻をくじいてやる。こういうのは勢いが大事だ。不遜に行くならひたすらに。だ。
ちょっと表情に出始めたっぽソーデッドをガン無視し、俺は国王に向き直る。
「この場に陛下の信用できる人物は何人いるんでしょうか」
それは一つのキラーパス。
あまりにもあんまりな俺の言葉に、俺ですら判るほどに場の空気が凍り付く。
ともすれば即刻首を切られても仕方がない発言。
しかし、国王は。
苦笑いを浮かべた。
「なんだ。そこまで調べがついておったとは」
「ええ、まあ。ありがたい今年我が友は皆優秀でして」
「その中にはアヤツも含まれるのであろうな。...全く厄介な男だな。おぬしは」
恐らく、先ほどの言葉で国王は全てを理解している。
何故竜の鱗を欲したか。
何故手に入れられると踏んだか。
何故国を救うと宣言できたのか。
何故それに勝算があると断言できたのか。
だがそれは、俺の考えではない。
国王は、踊らされているのだ。
マリアの、掌の上で。
ちょっと短いですが赦して




