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異世界学術論~結局のところ物理が最強~  作者: N-マイト
第三章 組織闘争編/影を照らす光となれ
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第七十九話 王城会食IV/国王と王女

「あーーーーーーーーーー.....そのだな。三人とも、壇上に来てくれはせぬかな」


どうしようか途方に暮れていた俺を助けたのは、壇上に座る男性の声だった。


凄く豪華な椅子に座った、豪華な恰好をした、五十代くらいの男。細身だががっしりして見える体格を持ち、顎と上唇を覆う髭は丁寧に整えられている。くすんだ銀髪と銀色の瞳を持っている。

まあ、流石に理解もしようと言うもの。特に銀眼を持つ者は俺は彼の他に一人しか知らない。


「もちろんです、陛下」


助かった、ほっとした思いだったが、俺の思い通りである、と言わんとばかりに堂々とする。なんか圧倒されてるっぽいし完全にやらかしてるけど勢いで押し切ってしまえという。


ざざざ、とモーゼの海割りが如く会場の中心が割れる。


あれ、こういうのって会場の端を通るものじゃないの?と思いカリオペを見ると、頭を抱えた彼女が通れ通れと身振りをするので素直に進む。


壇上に辿り着くと、何時のにやら用意されていた椅子に座るよう促される。


「ジェームズ・トルディアナだ。...もしや、だが...本当にパーティの作法は習っていないのか?」


座るや否や、ジェームズ国王がそんなことをこっそりと聞いてくる。


「...ハイ。正直助かりました。何をすれば良いのか分からなかったので...」


素直に答えると国王は額に手をあてて天を仰いだ。


「あのバカ者め。一生パーティになど参加しないと言ってはいたが本気で実践する気だったのか...」


どうも我が今生の父、アレスと浅からぬ仲の様だ。呆れとも取れる言葉をつぶやいた。


「すまぬ。実を言えばカリオペに君たちにパーティの事を黙っておけと指示したのは余でな。...まさか本当に作法を知らぬとは」


父よ、多分これに関してはガチで怠慢だぞ馬鹿野郎。横で驚愕しているっぽいアイリーンは習っているのだろうな。...うーん。


「...一つ聞くが、エスコートの仕方が恋人に対するものだと言う事は?」


え?....は!?


「...知らぬか」


「...父のを真似しただけでして....」


「「「oh...」」」


三方向から浴びせられるサラウンド呆れ声。ちょっと悲しい。


「...今度何としてでもあの馬鹿野郎はパーティに呼びつけて説教してやる。絶対だぞあの野郎」


ぶつぶつと口調を崩して恨み言を吐く国王。...ウチの父(&俺)が迷惑を掛けます...。


「お父様が振り回されてるの始めて見たわ...子がこれなら親も似たようなのなのかしら...」


ぼそっと横から聞かれるがそれには反論したい。俺の性質はほぼ前世だと。


「言いたいことはわかるけど割とお父さんとお母さんにそっくりだよアッシュ...」


解せぬ。


「まあ、うむ。アレの...アレ等と言うべきか。アレ等の無法振りはこの場に居る者は少しくらいなら皆知っておる。余の手違いと言う事にしておけばよかろう」


マジで何やらかしたの俺の両親。


そんなこんなで改めて国王が俺達の紹介をした。確かに国王が先ほどの一件を手違いと言ったあたりで額に手を当てる者が幾人かいた。


「何したんだろう...」


うん、ほんとに気になるなアイリーン。


また、国王が俺の父とアイリーンの父を”悪友”と評していたのが気になった。

カリオペを見ると首を振られたので知らないらしい。うーむ、謎は深まるばかりだ。


暫くして、国王陛下のご尽力により騒ぎは収束。乾杯の音頭の後通常の和やかなパーティが開始された。


余りにも印象的な登場をしたであろう俺の元には結構な数の貴族たちが挨拶に来た。

何故か横に立ったカリオペが必死な表情で何を言えばいいか、どうすればいいかアンダースーツの機能まで使って耳打ちしてくる。流石にその辺は習って...いや、怪しいな。ちゃんと聞いとこう。


アイリーンはと言うと、ほれ込んだであろう大量の男達に囲まれて困っていた。ガチで助けを求められれば弾き飛ばしてでも救出するが。...あれ殆ど皆伯爵以上なんだよな。流石の俺でもしり込みする。と言うかさっきから二十秒ごとにカリオペが止めるのでとりあえず諦めた。カリオペが二十秒の正確性がやたら高いことがついでに判明した。


そんなこんなで面倒な挨拶を作り笑顔でこなしていると、特徴的な体系をした若い女性が...


「っってエレーナ先輩!?」


思わぬ人物の登場に驚愕する。

そこに居たのは、我が生徒会の長たるエレーナ先輩だった。


「ああ。来た。いやね。君に見せた”アレ”は実はこの王都にもつながっているんだ」


あれ...ああ影回廊か。あれなら...まあ当日に出ても普通に間に合うか。


「いや、しかし凄い登場だったな。...私ですら少し”キた”ぞ。...惚れるかと思った」


「あれ、別に惚れても良いんですよ?」


冗談だと思いそう嘯くと彼女はう、と身を引いた。


「...余り君はそういう冗談を言わない方がいいぞ。...一定数は本気にする」


「そうですか?ああ、まあ、顔は良いですからね」


母の遺伝子が強いが故にか、少し中性的でもある。


「...ああ、そうか。二つ目の顔なのか君には...」


俺たちにしか聞こえない絶妙な音量で言う辺り上手いものだ。


「いや、だが君では”前”でも...よそう。推測で言うものではない」


そうだぞ、先輩。前世じゃあ俺は完全な非モテだったのだから。


「...と言うか、君の租の服は何処で調達したんだ?良い品なのは伝わって来るのだが、如何せん私にはどこの作品か...ってまさか」


「さっき自作しました」


「おおう...」


頭を抱えるエレーナ先輩。


「一応聞くがデザイン元は?」


「前世っすね。前世で小説家の友人と画家の友人が居て、小説に合わせてキャラデザ...まあ衣装デザインを依頼した時のヤツが印象に残ってて」


具体的に言うと依頼内容は、”日本の大正ロマン風の、貴族服と軍服の中間位を狙った上で模様は和風”である。我ながらクソみたいな依頼だが、小説読ましたら「確かにそう描くしかない」と言われたのでまあ俺は悪くない。

尚おだしされた物がかっこよすぎて前世でコスプレ用にこっそり自作したのは秘密である。


「ああああああああ....」


「...どうしました?」


ますます頭を抱え込む先輩に、俺はきょとんとした顔を向ける。


「いや、気付いてないのか?アッシュ...。その服の出所は絶対に聞かれるぞ。気になっている貴族も多そうだしな」


げ。

ああ、そうか。調子こいて高級繊維...少なくとも見た目上はそう見える素材で、この世界に存在しないだろうデザインをカッコよくぶち抜いたら脳も焼かれよう。


「...お抱えの針子って事にして誤魔化すか」

「それしかないな。自作、しかも材料費無料でとなるとな。...ん?君生物材料は作れないんじゃなかったか?」

「化学繊維っていって生物由来じゃないんですよ」


まあポリエステルとかの安っぽいアレじゃ無いけど。


「そういえば、会長も制服なんですね」


カリオペが言い、俺もようやくそのことに気付く。

俺とアイリーンの様にパーティについて知らされなかったわけでは無かろうに、彼女は学園の制服を着ていた。

ばれないように会場を見渡すと、男性で学園の制服を着ているのは幾人か居る。連休と言う訳でも無かろうに、とは思うが、学園はあんまり出席日数見ないからな。其処ら辺は融通が利くのだろう。

しかし女性で制服を着ているのは見たところアイリーンと先輩だけ。子供らしき令嬢方も皆ドレスで着飾っていた。


「む?...ああ。いや、なに。私はあまりドレスが好きでは無くてね。はは。もし騎士にでもなれたら騎士服で誤魔化すさ」


笑って先輩は言うが、俺にはどうも乾いた笑いに聞こえた。

まあ、何かあったんだろうな。


「...さて、アイリーン君を救出して来よう」


「あ、ありがとうございます」


少々居た堪れなくなったか。先輩は男に囲まれたアイリーンを助けに行った。


暫くまた貴族たちを適当に相手する羽目になる。

先輩が予言した通り服の出所を探ろうとしてくる者もいたが適当に誤魔化しておく。いっそのこと舶来品の魔改造と言う事にでもしようかと思ったがやめた。


隙を見て時折、置かれている料理を口に運ぶ。

物凄く豪勢な筈なのに何処か軽食臭いのは、立食形式と言うのもあるがあくまで交流の場であるが故だろう。味も、高級食材なのは間違いないが今一つである。この場には大量の貴族が居る。食中毒の一つでも起こせば大惨事故致し方無しではある。


むぐむぐとやたらデカいフランスパン(中にチーズとバターらしきものが充填されている)を頬張っていると、大きなワイングラスを持ったジェームズ国王が近づいてきた。


「ふむ、初めてのパーティは楽しめているかな?」


「ええと、まあ、はい?...でっ」


ぱかん!とカリオペに頭を叩かれる。

すると国王は笑い出した。


「はっはっは。パーティは合わなかったかね。...だが、カリオペが楽しそうなのは嬉しいと思うよ。純粋に。親としてな」


まっすぐ見つめられたカリオペが頬を赤くして俺の後ろに引っ込んだ。


「...大事にしておられるのですね」


ふと、そんな言葉が口を突く。


「む?」


「いえ。どこか...父と、同じ目をしていたもので」


それはこの世界の父でもあり、前世の父を指す言葉でもある。

二人とも、家族愛と言う言葉にかけてはとても強い人だ。それと同じ目をしている彼なら、家族愛は強いのではないだろうか。そう思えた。


「...そうか。アヤツと、な。...だが、それは返上しよう」


「失礼を言いましたたか?」


「いいや。アレには届かんと言う意味だ。...余は結局、余の跡目争いと言うバカげた闘争を止められんのだからな」


国王はゆっくりと俯く。何を思い浮かべているかは伺い知れない。しかし、大いなる憂いを抱いていることだけは、俺でも分かった。


「席が一つしかないなら争う以外に道はない」


「何?」


ふ、と顔を上げる国王に俺は続ける。


「席を譲り合えるのが人間です。それを理想と思えるのは素晴らしい。ですが隻が一つしかないのなら、己が座りたいと思ってしまうもの。それは本能であり、消せない情動。であるならば、一定の規則(ルール)で縛る他にない。それをお作りになったのでしょう?」


さっき断片的に聞いたのみだが、継承権争いにおいて人殺しを明確に禁じたのはジェームズ国王だと言う。いや、元々殺人は禁じられているのだがそうではない。ばれなくても、だ。兄弟殺しに明確に王の資格なしと書いたのは大きな意味を持つ。


「故に。貴方は偉大で立派な国王(父親)だ。...少なくとも私はそう思います」


そう言って、気付く。あたりを見まわすと、結構な数の貴族が此方をじっと見つめていた。


ふと後ろを向くと頭を抱えたカリオペが。


あ、やっべ。


「あー、その...出過ぎた真似をしました...」


俺にも緊張という言葉が辞書にあったのか、どうにも妙にテンションが高くなっている気がする。変なことを延々と口走るのもそのせいだろう、きっと。


流石に自国の国王に向かって説教まがいの事をするのはガチでヤバいことくらいは知っている。内心冷や汗ダラダラだ。気分はまるで処刑台の死刑囚である。


が。俺の恐怖に反して国王は大きく笑った。


「ふふ、ははははは!いや、素晴らしい言葉であったぞ、アッシュ・クロウ!いやはや、娘と同じ年齢の少年に気付かされるとは、余もまだまだと言う事だな!」


ともすれば皮肉っぽくはある誉め言葉。だが、何となく本音何だろうなと思った。


「いや、本当に君はアヤツに似ておるな。空気を読まぬ癖に、その時一番必要な事をして、一番必要な言葉を言い、颯爽と去っていく風の男。はは、君になら娘を任せられそうだ。娘を頼むぞ。これからもな」


「はい、謹んで」


一応と思い騎士の礼の最上、跪き頭を下げた姿勢を取る。


「...鈍いくせに行動が一々最大火力なのもそっくりだな...苦労するぞ?カリオペ」

「...はい...」


なにか良く分からんが呆れられた気がするな。

その後すぐ国王に戻れと言われたので立ち上がる。


「ではな。余もまだ挨拶回りがあるし...じきに音楽も始まるしな」


音楽?と引っかかったその瞬間、こーん、こーんと金が鳴った。


「おっと。思ったよりも時がたっていたらしい。...ではな」


壇上に目を向けると、ぞろぞろと楽団らしき集団が楽器を持って入場し、会場では中心付近に居た貴族たちがさっと刷けていた。


おい、まさか。


「ダンスパーティか、これ」


「そうみたいね...」


パーティは、まだまだ終わらない。

あんだけ引っ掻き回しておいて同収拾付けるんだよバカ!(前話を書いた自分への罵倒)

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