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異世界学術論~結局のところ物理が最強~  作者: N-マイト
第三章 組織闘争編/影を照らす光となれ
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第七十五話 王都到着/敵地か、それとも。

「いや、まさかそのようなことになって居ようとは...」


先ほど声をかけてきた騎士の上司だと言う中年の男が汗を欠いている。


この国における騎士団は近衛騎士団を含めて12。第1騎士団は精鋭部隊で、魔物戦も対人戦もお手の物なエキスパート。第2~第5が対人戦、つまりは戦争を含む人が起こす問題に他処する騎士団。第6、第7は魔物等の対処を行う騎士団で、第8は魔法専門の部隊、第9は大陸でも珍しい”魔物使い”の部隊、第10は詳細不明(恐らく特殊部隊)で、目の前の中年男や、先ほどの男が所属していると言う第11騎士団は、貴族たちの私設軍と役割がほぼ同じ...つまりは、警備隊などとは違う、王都周辺の治安維持部隊である。


「私達も驚きましたよ。あと少し、王都にほど近い所で賊の襲撃が起こるとは」


がたがたと揺れる馬車の中、フランキスカの嫌味が鋭く飛ぶ。


まあ例え相手が悪名高い大盗賊団とは言え、王都の近くで出現した以上は第11騎士団の怠慢とみなされても文句は言えない。実際は寧ろ俺達が討伐してしまったとはいえ、襲われたのが王女含む国王が呼びつけた客人とあらば猶更だ。


だからこの上司とやらは脂汗を搔いているのだろう。下手したら首が物理的に跳びかねない事態だしな。


「いや、申し訳ない。まさかベヒーモス盗賊団が出没するとは思わず...」


「貴方は盗賊団が出没するときに知らせでも貰うのですか?」


ぐぅと声が詰まる中年。筋肉多めのその身体をハムスターの様に縮こませている。

ある種戦場的なドレスを纏った女性であるフランキスカと見比べると最早踏まれそうなイメージすら湧いてくる。


「...はあ。良いでしょう。今回は責任を追及はしません。...我々も、護衛対象を戦わせてしまった負い目がありますし」


「な!?...それほどまでに奴等は強いのですか?あの”鋼鉄舞姫(スティールダンサー)”が手に負えない程に」


驚愕した中年騎士が聞き返す。...いやなんだその香ばしい二つ名は。流れからしてフランキスカの事だろうけども。


「...いえ、止める間もなくほとんどを殲滅してしまわれたのです」


「な!?」


オーバーに驚く中年騎士。


「...失礼ですが、おいくつでしょうか?」


「14」

「14です」

「14よ...私は言う必要なかったかしら?」


「いえ、ありがとうございます。...いやはや、お三方とも将来有望ですな...」


しみじみと中年騎士は言った。


「...では、王城までで宜しいですかな?」


話題が変わる。一応急いだほうがいいと第11騎士団の馬車の中で事の顛末を話していたのだ。本来は物資、兵員輸送用の馬車なので乗り心地はそこまでよくはない。


「はい」


フランキスカが頷くと、中年騎士は馬車を停めろと合図を出した。


「それではここで私は。王都に先駆けも出さねばなりませんので」


事の報告、若しくは王女が第11騎士団の馬車で来ると伝える為だろう。そう言って彼は馬車を辞し、直ぐに馬車は再び進み始めた。


「...護送される犯罪者の気分ね」


無骨な、恐らくは防御のためだろう、小さな窓に鉄格子まで張られた馬車を眺めてカリオペが呟く。


「兵員輸送用の馬車ですから。...いざと言う時は置き盾代わりにも使うそうですよ」


そう言えば牽いていたのは軽めとは言え装甲馬だったな。なかなか面白い運用法だ。銃はこの世界、少なくとも一般に知られてはいないようだが、魔法がその役目を担っている様だ。装甲車を盾にしての銃撃と同じような発想があるらしい。


「護送車は内部鉄板で扉も鉄格子付の二重構造だったみたいだからな。そこまでではないだろ」


「そうだけどちょっと回答としてはズレてる気がするよアッシュ...」


む、そうか。


「...そういえば、盗賊の討伐?を期せずしてしたことになるのか?」


ふと思い出したので聞いてみる。


「そういえばそうね。フランキスカ、なんか褒章とかでるの?」


カリオペが振ると、フランキスカは顎に指先を当てて淡々と答えた。


「ええと。基本的に盗賊の、特に今回のベヒーモス盗賊団のような大きな盗賊団の討伐は首魁の討伐が必須条件の一つなので、”盗賊団の討伐”とは数えられません。しかし少なくとも盗賊20人の討伐、7人の捕縛となればそれなりの褒章は出ますね。...ただし、一般の人間や冒険者であれば」


少し喜びかける俺達だが、続く言葉に詰まる。


「基本的に騎士団所属の我々や、子息、息女ではありますが貴族のお二人、当然王女であるカリオペ様も基本的にはこれに当てはまりません。大きな盗賊団の討伐であれば功績の一つに数えられるでしょうが...」


「討伐したとは言えない、と」


「はい」


カリオペが続け、フランキスカが頷く。

ううむ、そう上手くは行かんか。小遣い稼ぎくらいにはなると思ったんだが...


「...考えてみれば、あんたはとっくに自力でお金稼いでるんだから気にしなくて良くない?」


「...まあ、それはそうなんだが」


実際今のところ金銭面の不安はない。


そうこうしているうちに馬車は王都に辿り着く。カリオペの実家にして、彼女を襲った奴等のアジトがあるであろう敵地。


王都へと。

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