第七十一話 大富豪/カードゲームは魔力を持つ
それから、基本的に旅は和やかに進んだ。
流石大きな街から王都、つまりは首都までの街道とあってよく整備された街道と言えよう。所々に宿場町も存在し、なんと王家も止まる高級宿に泊まらせてもらえることになった。
当然、俺が女子勢と共に寝る訳も行かないので部屋が別れている...というかまさかの一人一部屋である。
...だが。
「...なんで二人とも俺の部屋に居んの?」
俺が寝る予定だったデカいベッドの上には寝間着姿の女子二名が転がっている。貴族淑女的に不味いんじゃないの?え?地球の貴族と違って結構緩い?あっそう!
「え~。だって暇だし~」
「私はアイリーンがこっち来てたから付いてきた」
うん、まあ、そうだろうなお前らは。
「いや、俺ってば列記とした男だし...」
特にカリオペは不味いだろが王女様。
「いや、だったら襲う素振りぐらい見せなさいよ」
「ヤダよ方々に殺されるし、別にそこまでしてエロいことしたい程獣でもないし」
「でしょおー?あんた妙に危険な匂いがしないのよ、もう安全通り越して物足りないまであるわ」
「随分と酷い言いぐさだな!」
後それじゃお添えって言ってるみたいなもんじゃないか!
「この年の女子なんてあけすけでナンボよ。どっちかと言うとこっちが素だし」
ある意味精神年齢の差だったんじゃなかろうか。ガリアスタと上手く行かなかったの....言わんとこ。
「で、何するのよ?」
「は?」
「アイリーンが「アッシュの部屋行けば面白いことあるよ!」って言ってたけど」
何を言っているんだアイリーン。
じろりと睨むと期待の目を向けられた。
現在は夜七時頃。飯も食い終わり(絶品だった)風呂も浴びた。さらに言えば知らん土地と言う事で外出は却下。と言う事で部屋遊びだ!という発想は理解できるが。
ふむ。手頃で多人数ね。
定番があるさ。
「トランプをしよう」
言いつつばさ、とどこからともなくトランプの束を取り出す。
「...用意が良いわね。もしかして予想してた?」
「まあアイリーンが入ってきた時点...というか一緒に旅すると決まった時点でな。カリオペが付いてくるとは予想外だったが」
そもそも学園に来るときにも二人でトランプで遊びまくったしな。
「トランプ...ってカードの事か。デザインはみたことないけど」
「地球仕様だからな。こっちとは違う」
どちらかと言うと日本仕様と言うべきかもしれないが。
こっちの世界のカードは1~10、従者(V)、王女(P)、女王(D)、王(R)の14枚でスートは剣、盾、弓、杖...まあ、枚数を除けばフランス式とラテン式を混ぜた感じの見た目である。
あとジョーカーは無い。
と言う訳で相違点を軽く説明する。
「成程ね?ジョーカーが大体のゲームで肝になる、と」
「それで、何するの?スピード?」
「いや、スピードは二人用だしな...」
あとお前の反射神経は化け物クラスだし。思考速度10倍の俺で10回に3回しか勝てないってどうなってんのさ。
「んんん、あ」
そういえば大人数じゃないと面白くないからと封印していたゲームがあるな。
「ちょうど王女様もいて面白そうだし、アレをしよう」
「王女が丁度良いってどういう事よ」
ふっふっふ。
「そう、それは王族のいる国...封建主義国家ではある意味禁断のゲーム...」
ニヤリと笑う。アイリーンが「禁断のゲーム...」と目を輝かせる。
「何?やっぱり賭けでもする訳?」
この世界のカードは賭け用みたいなところあるからな。でも違う。
「ふふふふふふ、ある意味もっとヤバいゲームさ」
怪しい顔、二人がゴクリと息を呑む。
緊張が走る中(多分)、俺はその名前を言い放つ!
「”大富豪”だ!」
「あはははは、革命!」
「チクショウ、俺の手札が紙くずに!」
「いや、これまず...あああこの私が大貧民に!」
三人とプレイヤー数としては最低限ではあったが、存外大富豪は大盛り上がりを見せた。
尚、アイリーンは直感型だが単純に引きが強い、俺は微妙に弱い(駆け引きが苦手)が計算しつつカバー、カリオペはゲームそのものは強いが単純に引きが弱い、とわりと拮抗した勝負模様になった。
今はそれぞれが大富豪経験者で、大貧民はカリオペがすこし多いと言ったところ。
「ぐ...楽しいけど嫌なゲームねえ、これ!”革命”とか勝負ってことに関わらず恐怖しか感じないわ!貴族...と言うか王族として」
「ま~何にせよ貴族主義が滅んだあとに出来たゲームだし...階級闘争と言うか、資産闘争が激しくなった後だしねえ。気を抜くと金持ちがみぐるみをはがされると言う...」
「怖いわ!」
資本主義とはそういう物です。
「でもこれ面白いよ?必要なのもカードだけだし」
「それは理解するけどね。ジョーカーがどんなカードにでもなれるって言うのも戦略性が増していいわ。けどこのゲームは仲間内だけ。広めちゃだめよ」
「面白いのに?」
「だからよ」
アイリーンの疑問に、カリオペは懇々と説明を始める。
「面白い、ってのはこの場合魔力だわ。魔法の魔力と言うよりは魔性の魅力ね。このゲームは革命やら都落ち...というか基本要素からそうね。...つまり”上流階級に逆らう”という要素があるのがヤバいわ。それにゲームを始めるのも簡単。最悪木片からでもがんばれば作れるでしょう」
まあ、ほぼ完璧に同じものを作らないとイカサマし放題だから大変とは思うけど。
「つまりこれは多分平民等下々にも広まるわ。そうして”上に逆らえる”という基礎意識を持った人間が量産されかねない...」
「考え過ぎなんじゃないかな...」
「いいえ。というよりも王城の連中はここまで考えなきゃいけないのよ。国家転覆をたくらむ連中なんて居る所には山ほどいるわ。私達が目下追っている連中を含めてね。だから足をすくわれないようにするのよ。多分面白いからこそ不味い文化だと思われるでしょうね」
成程な。確かにちょっとヤバいゲームとは思っていたが、思ったよりもヤバいようだ。
流石は王女、よく見えている。
「...ふーん、じゃあ、カリオペちゃんは続きしないんだ」
「....やらないとは言ってないわ!!」
...まあ、王女とは言え子供である。
楽しい遊びの魅力に逆らえるわけも無く。
そうして夜は更けていく。
最終的に夜11時頃、もう寝ろとフランキスカに怒られるまで大富豪大会は続くのだった。
多分貴族社会に大富豪とか持ち込んだら面白いよね、と思った小ネタ回。




