第七話 学園戦闘試験/対面五秒で
さて。今日の試験は実技試験だ。
模擬戦闘と言う話だったが何をするのか。
六人一組での戦闘である。
学園の定員は250なので、今日受験しているのは2500名(端数切捨て)。よって必要な試合数は一回戦だけで416試合。全部で大体500試合くらい。特設会場で六組一気にやるらしいので大体80試合くらいかな。
おおざっぱなのは受験者数が中途半端なのと、準決勝と決勝の一対一ありきで調整されているから。
まあ、一日がかりである。実力の問題で一試合は短いが、まあそれでも長い長い。
このあたりについては完全にランダムだが...ふむ、順調にいけば決勝でアイリーンとも当たるのか。楽しみにしておこう。
さて。
俺は偶然にも一番最初の試合だった。よって。長い開会式(エンタメとして一般公開されているため)を
試合場で聞く羽目になった。
「それでは、第854回!」
メッチャ多くやってんなぁ...。
「アズワーツ魔法学園、実技試験を開始します!」
ぷあーん。
という審判の笛と共に、全員が動き出す。
さて。ここで少し解説を入れよう。
この闘技場には障壁...まあ結界魔法なるモノが展開されている。
この結界、内側からの魔法を封じ込めるほかにもう一つ効果がある。なんと、死んでも問題ないのである。
結界に入ると体が異空間的な感じで格納され、幻影で戦う...と言うものらしい。
さて、普通なら。...普通なら、例え死なないことが保証されていても、本気で殺しにかかる等、躊躇うはずだ。
ましてや戦闘経験ナシの子供なら猶更だ。
だが思い出してほしい。
俺の欠陥を。
そう。
俺は殺せる。
座標指定、材質指定、形状指定。
俺が、この魔法もどき...”物理魔法”を体得していく中で、先ず行ったのが体系化である。
現象に法則があるのなら、利用するための、再現性を持った術理が必要。当然の帰結である。
生み出す場は手の中に。材質はトリニトロトルエン、その他もろもろ。形状は...せっかくだし立方体。
体積、質量は省いても問題ないことがわかった。と言うか形状に含まれる。
「【夢想印刷】」
一言、俺とアイリーン、それ以外には誰も知らない魔法の名を宣言する。
魔法の名、それは空想を固める為の最大要素。それを教えてくれたのはアイリーンだった。
宗教のめんどくさいあれこれ、と俺は思っていたが...。起こることを、イメージを固めるのに、”名前”が有用なのは当然だった。寧ろ何故言われるまで気付かなかったのか。
そう、夢想を印刷する。その名前が生み出したのは...!
「吹っ飛べ」
TNT。
一般には地雷などに使われる爆薬。
爆発の威力の指標になる等、今日では最も一般的な爆薬と言って良いものだ。全てが正方形の世界とかな。
その威力は凄まじい...とは言えない。まあそれはそうだ。より高性能な爆薬なんていくらでもあるさ。
だがそれはTNTが人を殺せないと言う事に繋がるわけではない。そう、そんなわけがない。
ドカン!
と爆音が結界内を支配する。
恐らくこの時点で既に決着はついている。
まあこの中で立っていられるのは準備していた俺くらいだろう。
煙が晴れてみれば、予想通り俺しか立っていなかった。
「しょ...勝負あり!勝者、アッシュ・クロウ!」
茫然としていたらしき審判が慌てて俺の勝利を告げた。
「今の、爆発魔法...だよな?種類わかんなかったけど」
「ああ。...それを、至近距離で?普通じゃないな...」
「でも無傷だし...」
「クロウで魔法って言うと...ああ、暴走魔女か。血だねえ」
と、観客席もざわつき始めた。
....待って!?暴走魔女って何!?察するにエルザ・クロウのことだろうけど何やらかしたのあの人!?
お、アイリーンの試合だ。
進行の関係上、俺がアイリーンの戦いを観れるのはこの一回戦のみである。
まあ、どうなろうが参考にはならんだろうが。
...げ、よりにもよってさっきのバカ息子もいるのか。
まあ青くなったままなあたり変なことはしてこないと思うが...。
「初め!」
ピー、と俺の居た試合場とは違う笛がなる。
む、全員でアイリーンをやる気か。
だが、だ。剣では父を感嘆させ、魔法の思考を以て科学を身に着けたアイリーンに....。
その程度で抵抗できるとでも?
「『雷電、連鎖、然らば制圧。【雷電斬光】』」
斬、と剣が振られれば、力なく五人が倒れ伏す。
斬撃を帯電させる、と言う、正に魔法的な見た目...しかしその発想もとは間違いなくスタンガンという、中々ちぐはぐな魔法。その実、超帯電させた金属を剣風で飛ばしているのだが。
要するにテーザー銃に近い効果を持つ魔法だ。
結界の性質上ひと思いに殺してしまった方がダメージ少なそうだがそこは言わないお約束である。
あいつ優しいから、人を傷つけるのが難しかったのだろう。
なお、本来もう少し試合を引き延ばしてほかの子の出番も作ってあげようとしていたが公爵家のバカ息子氏がいたことと俺が見ていたためぶっ放したらしい。
優しいなホント。
さて、2回戦だ。流石に1回戦を突破しただけあってさっきよりはレベルが高そうな連中が雁首を揃えている。
ふむ、たしか様々な戦術を見せると追加点が入ったりするのだったか。
ならば、と掌をこっそり上に向ける。
ぷあーん、とどこか間の抜けた笛の音。
座標指定、材質指定、今回は形状不定だから体積指定、後ついでに状態指定、と。あ、ヤバそうだから土手もつくっとこ。
「アイルビーバック...ってな...【夢想印刷】」
出現したのは赤く輝く液体。ターミネーター2のラストシーンを知っているだろうか。
T-8000は自らを溶鉱炉に沈め命を絶った。金属でできた彼をすら死に至らしめたモノに、人の身で耐えられるのか、いや、出来ない。
「「うわああああ!?」」
逃げる対戦相手。しかしそれは意味がない。あまり知られていない事であるが、実は液体状態の金属は非常に流れやすい。
液体の流れやすさ、とでもいうのだろうか。液体が流れる時にも抵抗は発生する。ドロッとした液体と水の違いのようなものだ。それを粘性というのだが、実は液体状の金属はこれが低い。鉄ですら水の2分の1しかない。つまるところ。
だぱーん!!
彼らが反応するより早く、液状化した超高温の金属流がその全てを呑み干した。
名付けて溶鉱殺戮ってところか。まあ名付けても名前はもう使わないケド。
「しょ、勝負あり」
引かないでくれない?
3回戦。6人戦闘は最後だ。
...もう完全にロックオンされてるな。何人かは速攻で魔法よりも速い剣だろうと殴り掛かってくるだろう。
...ふむ。
ぷあーん。
ドッ!ガッ!バキバキバキッ!
「はいおしまい」
悪いね、普通に殴っても強いし超速いんだよね、俺。タネは見せるかもしれないし見せないかもしれない。
と、まあダイジェストと言われてもしょうがない速度で俺は勝ち上がった。瞬殺してるから評価怪しいかもしれないけどまあいいか。
だが、準決勝。俺はそこで怪物と出会った。
「えー、いよいよ準決勝、第一試合となります。片方はすべての試合を瞬殺でーーー」
実況が拡声魔法とやらでアナウンスしている。ちょっとうるさいな。プロのスポーツ選手とかもそう思うのだろうか?
そんなことを考えながら闘技場に上がると、反対側から対戦相手が出てきた。
「あなたがあの、クロウ家の...。よろしくお願いしますわ、アッシュ様」
ふわり、と優雅にカーテシーをするのは、ええと、実況曰く....。
「ネア・ユグドラ...だったか?...早速で悪いが、教会のシスターが魔法学園に何の用だ?」
ネア・ユグドラという...シスターの格好をした赤毛の少女だった。
”教会”。
それはつまり宗教団体である。...などと阿呆な講釈をする気はない。
この世界において教会とは、知識の源流と言われる。
地球世界と同様、元々知識人は教会に多かった。よって現在の魔法の源流も元を辿れば教会に行きつく場合が多い。とはいえその時代も遥か昔。魔法の知識は失われ、教会は魔法の中心ではなくなった。
しかし、教会に所属する者..."執行者"と呼ばれる者達の使う魔法はそもそもが通常の魔法ではない。
故に使い手は希少かつ須らく強力であり...専用武器である”教会”仕様のメイスで武装している以上執行者であろう彼女が、14でそれに就いているという超エリートの彼女が、魔法学園で学ぶことなどない...と思ったのだが。
「あら、あらゆる知識は無限かつ深奥に至れるモノではありません。何であろうとも学ぶことは大切なことですわ」
成程、これは俺が悪いかもしれない。
一応もと科学の徒だからな、魔法であるが貪欲に学ぶ姿勢は評価するべきだ。
まあそれはそれとして奇特な人確定だが。何故かって?教会の公式声明ではなくあくまで執行者内の話だそうだが一般魔法は下等な技術だと言われているそうだからだ。
「これは失礼。...改めて宜しく」
一礼し、初期位置に付く。
実況が場を盛り上げる中、この試合の審判が笛をゆっくりと口に付け...。
ビー!!
なった瞬間、先に動いたのは...ネアの方だった。
「《我が主に請い願う》...【駆けつける疾さ】」
ぎゅ、と加速するネア。追って俺も意識を加速させるが...尚速い。
くそ、これが教会の祈祷魔法か!!
祈祷魔法、それは文字通り神に願うことで実現する魔法である。
一般魔法も神に願うというプロセスは挟む。しかしそれは「炎を出してくださいお願いします」のような、結果を定めてそれをやってくれと言う願いである。
しかし祈祷魔法はそうではない。
それは神にその身を委ねる願い。神の御心のままと言ってのける魔法。
その全てが神に願うのみという、魔法の仕組み...魔力粒子に作用して現象を起こすという現象に対して、ある意味最も効率の悪いはずの魔法。
その特性は”不定”であること。
ある程度の方向性こそ決めれるが、何が起こるかは術者自身にもわからない。
だがしかし。魔法を学ぶ者たちの間に実しやかに語られる自称がある。
曰くーーーー。
その魔法は常に最適解である。
術理を超え、戦術を踏みにじる理不尽、それが祈祷魔法なのである。
いまも...!
10倍速でなお速い!!
俺は内心で毒吐きつつ、水中の様にゆっくりとしか動かない左腕を、それでもぎりぎりでメイスの前に差し出した。
かきぃん!
神速の叩きつけにしては静かな、それでも鋭い音が響く。
思わず浮かべた表情は、互いに驚愕だった。
「予想以上の出力だ...!」
「今のについて来ますか...!?」
がん!と同時に力を込めて跳び退る。
ふう、と息を吐き、ネアは再度メイスを構えた。
「すみません、...失礼なことに、貴方を見縊っていた様ですわ。」
すう、とこちらも息を吸う。...もっと侮ってくれても構わんよ?
「本気で行きますわ。《我が主に請い願う》...【守護する身体】【裁きの力】」
あーあ、これで硬くて速くて力も強い奴の誕生だ。クソゲーかな?
ぐ、と体をたわませるネア。次は受けられない。そのまま吹き飛ばされて終わりだ。
このままでは。
「起動しろ、《偽・魔道義手・白銀の絡繰腕》」
我が魔腕が起動する。
ラインに光がともり、装甲が展開する。人の腕を再現した形から、武器としての形へ。
「(魔道具...自作、無意味と断定するにはクオリティが高い...けれど)、正面から砕きますわ!はぁっ!」
ボッ!とネアが跳ねる。衝撃波すら伴った高速。それは正に砲弾が如く俺に迫り来る。
しかし。
「【見えない壁】」
「!?...くッ、進めない!?」
その言葉と共に起こった事象は、その砲弾を簡単に受け止めた。
「何がーーー」
「静電気」
見れば彼女の赤毛が逆立っている。
そう、静電気。
...”見えない静電気の壁”というものをご存じだろうか。
南カロライナのとある工場で起きた事件。それはポリプロピレンの加工を行うラインで、作業員が何もないはずの空間に壁のようなものを感じ、その先へと進めなくなったという話だ。
まあ正確には原因不明なのだが...静電気はそれだけの力を持つ。
「くッ」
ばっとネアが跳んで下がる。逆立った髪が気になったか撫で付けてからこちらを睨む。
「雷魔法の魔道具ですかッ!」
まあそうとも言える。魔法の力を借りてるからな。だがそれでは足りない
「おもちゃ箱と言わなかったか?【音響衝撃砲】」
バン!と空気が爆発する。
強烈な衝撃波がネアを叩く...あ、耐えやがった。
「ッ...複数効果で、しかもこれだけの...ですか。それは、随分と燃費が悪くなりそうですが...?」
首を振りながらのネアの言。
まあ、そう思うだろう。大きな能力には代償が伴う。それは魔法であろうとも同じ。
普通ならこんな戦法ではあっち以上に魔力を消費し、すぐに動けなくなるだろう。
が。
「いいや?」
「...!?」
そう、そうではないのだ。あまりにも低燃費、あまりにも無法。それがこの腕、白銀の絡繰腕。
「知ってるか?とある筋曰く最新の研究だそうだが...魔導銀にある加工を施すと、ぶつけた現象そのものを増幅するんだ」
正確にはミスリルのアマルガム。水銀と混ぜ込んだ合金が持つ性質だ。アマルガムである以上非常に扱い辛いのだが、ほんの少しアダマントを充填すると性質そのまま(少し下がるが)固くなる。それを各部に使っているのだ。
「つまり、だ。この腕自体がやっているのはものすごく簡単。ちょっとパリッとくる程度の静電気を起こし、ちょっとうるさい程度の音を鳴らす。それだけでいい」
ま、その程度の魔力すら別の方法でケチってるがね、はっはっは。まあ、弱点はないでもない。これ、空間の魔力をけっこう吸い上げて増幅している。余りにも使いすぎると空間魔力自体が足りなくなる。...まあそこまで行けば相手も魔法使えなくなるけど。
「ッ...凄まじいですわね、貴方こそ学ぶことがないんじゃありませんの?」
冷や汗を垂らすネア。まあそうだろう。祈祷魔法はその殆どが放出系ではなく自己強化系の効果(あたりによると出る場合もあるみたいだけど)。さっきの様に防いでいればそれだけで勝てるのだ。まあ父は突破してくるけど。
「いいや全然足りんさ。...ああ、安心してくれ。時間切れなんて狙わない。まあ性に合わないと言えばそうだが...殴り合おう」
言って構えると、ネアは驚き、微笑んだ。
「慢心を責めることは出来ませんわね。感謝しますわ。貴方の姿勢に。...ええ!ええ!存分に殴り合いましょう」
...もしかして:のうきん
おっとやべえ!
ボッ、と地面が爆ぜる。
一度発動している以上これ以上ネアは速くならない。予測をフルで回せばギリ躱せる!
「【風力推進】!【振動爪】!」
扇風機程度の”風”が、網を介して”暴風”へ。肘から空気を吹き出し、ネアに負けない速度を得て、彼女へ叩きつける。
ガッ、とネアが避け、数瞬前に彼女がいた地面に爪が触れる。
そして。
ビキッ!ズドガァン!!
マッサージ機程度の振動が、大地震クラスの揺動へ。
地面が噴火のごとき爆発を起こす。
「くあっ...」
砂礫に巻き込まれたネアが呻く。しかし健在。まじかすげえな。巻き込んだ時点で勝てると思ったんだが
「...大振りですわね!動けないでしょう!?」
そうだな、吹き出し口も肘だけ。この体勢からネアの攻撃には対処できないと思うだろう。
でもな。出来ちゃうんだなあ!これが!
「【演算仮定・力量演算式】!!」
ぐん、と体が唐突に発生した力に吹き飛ばされれる。
ちょっと計算が適当だったので乱暴な着地になる。
「!?...勝手に吹き飛んだ!?」
ですわ口調どこ行った。
我が魔法もどきその2、【演算仮定】。物理的事象はその全てが式で表せる。簡単なところだとf=maとかな。
これはその数値や式を弄る魔法。
要するに自由に数値を弄れる物理エンジンの様なモノだ。
様々なことが出来る。
例えば重力のベクトルを変更するとかな。極形式って便利だぜ。
「横に落ちる変態...ってね。さあ、奇天烈機動だついて来い!【演算仮定・力量演算式】更に追加!【演算仮定・運動不定式】!座標指定、材質指定、形状指定!【夢想印刷】!」
バババババッ、と空中に足場が出来上がる。正方形の金属板。そこへ向けて重力場を作りつつ何倍にも出力をぶち上げたジャンプでスーパーボールの様に跳ね回る。
「んなっ、はぁ!?」
ふはははこれが物理学と数学の非常に間違った使い方だぁ!!!
続く。
跳ね回る中二病。なんてね。
ネアちゃんも美人です。
祈祷魔法
神様なら奇跡を起こしてくれる、と言う、多くの人々の認識に支えられている魔法。普通の魔法より聖剣の方に近い魔法です。
集合的無意識にアクセスしてそこから魔法を使うので効率は良くないけどとんでもなくその場に合致した効果になるので強い。要するにストレンジベント。
演算仮定
父親や幼馴染に対抗するべく編み出した魔法。投げたものが加速しながら飛んでいく、軌道の途中で曲がるジャンプなど随分な無法が可能。サインカーブを描きながら突っ込んでくる。(アイリーンは普通に見切ったし父親は多分封殺できる)
主人公は演算仮定を使うつもりはなかった。空想印刷は普通の魔法の応用で誤魔化せるけど演算仮定は根本から存在しない理論なので完全オリジナルとなる。
オリジナル魔法を開発する人はそれなりに居るけど入学前に持ってるのは異常。いままでの最年少記録は主人公母の16歳だった。
つまり公式には2歳、本当は8歳時点なので8年更新である。ヤバい。