第六十九話 掃討作戦準備号②/装備を作ろう!~基本装備編~
「して、これが最初に出来たわけ」
「なにこの全身タイツ」
アイリーンに突っ込まれたのも無理は無い。
今俺がアイリーンに見せつけているのは...見た目で言えば、よく言えばライダースーツ、悪く言えばラバースーツなのだから。
「前言ってた筋力増強インナーのプロトタイプだ」
「ああ、あれね...あーー」
ま、見た目が悪いのは認めよう。
「しょうがないだろ、外部から筋力上げるんだから」
「そーだけどさぁ...」
「ま、見てろって」
これは説明するより見せた方が早いので、さっさとハンガーからスーツを外す。
「よっ」
ぽちっとな。右袖に仕込まれたボタンを押し込むと。
しゅるるる。
「うわっ無くなった!?...って腕輪?」
「そ。腕輪の中に収納できるのさ。向こうで作ってた”変身バック”の応用...ま、ブレスレットサイズなのは薄いからだけど」
ラバーで薄いというとあらぬ想像をしてしまうがそうではない。あくまで色々と透けるのを防止するためのこのラバー感な訳でそもそも厳密にはゴム素材を使っていない。
「ふうん。...え、これもう着けられるの?」
「ああ。自動フィッティング機能もあるから...」
いいつつ、ブレスレットをはめる。
「...変身、は違うよな、ええいぽちっとな!」
口上に迷って諦めた。
どろ、と液状に見えなくもない黒いものが俺の肌を覆って行く。
変身バンク的には女子のほうが映えるあれだがそういう目的でもないのでヨシ。
「くすぐったくないの?」
「いや全然」
其処ら辺はこだわったからな。
人工筋肉繊維とマイクロチップのみで出来た服だから出来る荒業だ。
「よし、と」
三秒程で装着が完了する。
「ううん、やっぱり全身タイツ」
服の下に潜り込んで着るモノな以上ちょっとコスプレ感がぬぐえない。
「まあ本来は鎧とかああいった全身を覆うモノの下に着る奴だしな」
たしか最初は消防の防火服の下に着る用に開発したんだっけ。まあ、思ったよりヤバいものになったからあっちでは封印しちゃったけど。
「でもこうすれば」
きりり、とブレスレットに付いたダイヤルを捻る。
「あ、短くなった」
するすると手からスーツが剥がれて行き、袖に収まるくらいまで短くなる。
「全身を覆うように装着する訳だからな。逆に言えば覆わなければいいのさ」
『エネルギーは何処から取ってるのよ...って前に作った時も聴いたねこれ』
「電池と魔力変換」
蓄電池は前世のものを改良したモノで、魔力をためておくのは水晶を加工したモノ。金魔水晶と言うこれはかなりの量の魔力を溜められる。前世よりはマシとは言えバッテリーの容量はたかが知れているがこっちはサイズに比して溜められるエネルギー量がかなり大きいようだ。フルチャージなら最大稼働で連続5時間は動く。
それで仮面〇イダー...とはいかずとも人間を優に超えるスペックを発揮できるのだから侮れない。魔法込みである以上その能力水準は前世以上だ。お陰で対弾、対爆、耐熱、対切断その他諸々を組み込めた。もはやSFの世界の様だがまあいいのだ。
「でもなんでこんな急いで作ってたの?カーネリアンちゃんがちょっとげっそりしてたよ?」
咎める様に此方を見るアイリーン。
「...悪いとは思っている。だが電磁防護の方がかなり時間かかりそうだったからな。...もう六月だし、一週間後には王城に行かなきゃいけない。まあ行動を起こしている訳じゃないし大丈夫だとは思うけど...」
『用心はしておきたい、と』
「そうだな。とりあえず俺とアイリーン、カリオペの分は作った。...カーネリアンにはすまなかったと思っている」
非常に。
「それはそうと、電磁防護?の方はどうなったの、アッシュ、性格上失敗したモノでも他に使うでしょ?」
良く分かってらっしゃる。
俺は制作物を収納している棚からそれをよっこいせ、と取り出した。
『超電磁砲じゃん!』
マリア、それ違う方だ。著作権に引っかかるわ!
「電磁加速砲な?銘を”ペネトレイター”としている。...まだ試作段階だけども」
「わあ、おっきいね。これも銃なの?」
電磁加速砲なんて知っている訳がないアイリーンがそう質問してくる。
「まあ、そうだな。銃の一種だ。...よっこいせ」
テーブルに置く。
銃身部分まですっぽりと覆う箱型の筐体に、大型のスコープを備えた見た目。機関部は後方配置だがそれでも150cm近い大きさを持つ箱である。
「手持ち式って事で火薬の力も借りている。弾頭威力が最低限保証されてるってわけだな。激発された弾丸を電磁気力...あーーー...まあ電気の力で再加速する。えっと銃口速度は...メモメモ...」
確か実測数値を書いたメモがあったな、と最近散らかり始めている作業机を探していると、後ろから声がした。
「最大マッハ7.2よ。はあああああ疲れた...」
声の主がカーネリアンだった。
「お疲れ...あれ、今日は休めって言ったと思ったんだが」
何も作業とか任せてないぞ
「それはありがたいけど、ちょっと別件でね。特許申請が溜まってて...」
「ああ...」
俺由来の技術は基本的に秘匿する方針だが、何も新技術を生み出しているのは俺一人ではない。当然カーネリアンもそうだ。彼女は”ドワーフの技術と人間の技術の融合”をテーマに開発を行っている。
その中でいくつか”人間の手でも作れるドワーフ式の魔道具”だったりと革新的な技術を生み出していた。ただこれは後々カーネリアンも魔道具技師として名を売っていくうえで俺の技術系統が根本的に違う制作物と違ってパクられる可能性があるとのこと。
だから特許申請をいまからしておく、と言っていたのだが...。
「ああもう書式が分からないし求められるデータ量が尋常じゃないし何なのよこれ!」
「始める前にその先は地獄だぞ、って言っただろうが」
特許の出願が面倒くさいのは異世界でも共通だった。
「でもさあ!」
とは言え制作物に関する民度ははっきり言って地球世界よりも悪いのがこの世界だ。独占販売などを含め技術を保護するという思想自体はあるが、結構緩いのが実情。特許を取って居れば国に訴えた時点で取り締まれるが、特許が無ければ訴える場所すらない。著作権とか意匠権とかもつい最近出てきたばっかりの概念だそうで、特許なしでは裁判とかにならないのが普通なのである。
「まあ大変そうなら王都から帰ってきたら手伝うよ」
「助かるわよ神様ぁ...」
崇めるな崇めるな。
『そもそも14歳が特許書類書いてるほうが変な気はする』
マリアの言にこくこくと頷くアイリーン。まあ、それはそうだけども。
『そういえば私は貴方達が王都言ってる間はどうするの?今回は連れて行かないんでしょ?』
「エレーナ先輩かカガミに頼む予定」
保護から一か月がたつと言う事で順次回復している”ように見せている”。そのうち相部屋ではなくなる...かもしれないが。それはそれとしてまだこちらの言葉を喋れないので一人にするわけにもいかない。
と言う訳でエレーナ先輩に頼んでみている。
渋っている訳ではないのだが、まあ侯爵令嬢ともなると色々と都合があるようで。
「直接利益を生み出すのでないと面倒な議論が挟まる余地が生まれるものだ」
とのことで。この世界じゃ貴族が金を稼ぐこと自体は別にはしたないとか無いからな...。
『あー、だから校長先生?の前でエレーナさんに懐いている所を』
「そういう事」
結構行き当たりばったりで吐いている嘘なのでマリアの負担が大きくなっている気がしないでもない。でも現状喋れないことにするしかないしなぁ...。
「まーそんな訳さ。そういうわけである程度”仕込める”武器を含め三人分の護身用装備を固めてるわけアイリーンのもな」
「まるで戦争に行くみたいだね...」
「まあ、顔割れてるしなあ」
向こうが何時襲ってくるとも知れない。確率は低いだろうけど、例の夢のこともある。
備えあれば憂いなし、だ。
追記、なんか思ったより遅かったので弾速早くしました。




