Da伊LX捌話 ◆■〇▼/#$%")*;:?\|]<.(未知の言語により識別不能)
「...ふう」
私は味気ないオフィスで溜息を吐く。
一仕事終えた疲れが重く肩にのしかかる。
「お疲れ様です、エフィルさん」
我が上司の無感情な声が頭上から降って来る。
「ほんとですよぉ、ルルㇾリリャ主任」
「ルルレリラです。言い間違える位ならルルでいいと言っているでしょうに」
主任の出身地はやたら言いづらい名前が多い。同じ出身地だと後輩のギャギュガガン君とか。
「そうは言われても上司ですし。でも不思議ですね。唐突に彼に”特別支援”を指令するとか」
疑問をぶつける。今やっていたことはとある”担当”に対する特別支援。普段は...少なくとも私がここに就職してからの数百年は行っていなかったことだ。
「CVATの予測が出たので。この予測によると彼は第1,458,642,231,254世界の”生産効率”を10倍に跳ね上げるとの試算が出ましたので」
「わざわざフルで言われても兆単位じゃ面倒くさいですって。...え、十倍!?」
私達、”神族”の暮らす世界、通称”基幹世界”における動力源。それは”下層世界”の文明が発生させる”精神エネルギー”を利用している。それを収穫する世界の安定化を図るのが私の仕事だ。...最近、学がない事を下層世界の人間になじられたのでちょっと勉強している。
とは言えそんな世界でも千差万別。猿に毛が生えたような文明では精神エネルギーなんて推して知るべしだし、逆に試行世界186、所謂地球世界なんかの進んだ文明では非常に膨大なエネルギーを生み出している。
第1...ああもうめんどうくさい。私が室長を務めているこの部屋の人員が担当している世界は、文明そのものはレベル6...地球世界的に表すと中世ですか。あの程度の文明しか持っていませんが、魔法が他世界よりも比較的一般化されているせいか、精神エネルギーの量はそれなりに優秀と言われていた。
それが将来的に十倍、となると結構とんでもない。文字通り桁違いのエネルギーを生産する、”優良ランキング”に乗るほどではないだろうが、それでも一軍に名前を連ねる程になるのは確実だ。
「そうです。ですからわざわざ”たった一人”に支援するという命令が下されたのです。発展枯渇の昨今、全体から見ればほんの少しでも、そこに多額を払う所はいくらでも存在しますから」
”文明の停滞”。これは”神族”で何千年、何万年も前から提唱されている話だ。
極まった科学と魔法によって実現した超技術。無限のエネルギー、無限の資源。これに胡坐をかいた私達は結局、成長することをやめてしまった。
けれど”永遠の停滞”なんてありえない。
何時からか、神族は、”霊長の自滅”という段階へもぐりこんだ。
子供が増えないどころの話ではない。医療技術は究極であるのに寿命が年々縮んでいく。脳が委縮し、考える力が死んでいく。それはある意味種族の意志。”もう疲れた”と言う声なき声。溶ける様に様々な者が死んでいく、世界の終わりを感じる終末世界。
緊急で行われた、権利すら無視した世界的な実験、研究の末に出された結論が、”精神エネルギーの枯渇”だった。
それを変えたのが仮想構築世界理論。
世界そのものを仮想的に構築し、そこに人類を強制的に発現させる事で、神族が生きるのに必要な精神エネルギーを確保する。そんな理論。
しかしこの理論そのものは失敗に終わった。”完璧”を求める神族の描いた文明は常に同じ結論をたどりすぐに滅びてしまう。そんなものでは精神エネルギーなど作れない。
そこで思いつかれたのが、”下層世界”を利用する事。
我々の住む基幹世界の下層に存在する枝葉の世界。規模の小さな宇宙たちを、有効利用しようとする考え方。
本来では我々の”基幹世界”の様なエネルギーその他を保有する世界でしか起こりえない”知性体の発現”と”文明の発生”のきっかけのみを外から持ち込み、下層世界での文明の発展するエネルギーを一部吸い上げる、という仕組み。
仮想では無く物理的な世界であることからこの試みはあっけなく成功し、一時期は文明を保つ限界数を割り込みかけていた”神族”の人口はすぐに上昇に転じ、今や最盛期に匹敵するレベルにまで回復した。
それでも、影響はあった。無限にエネルギーと資源が生産され、一時期は消滅していた”貧富の差”の復活である。”精神的豊かさ”に大きな差が生まれてしまい、その補充は”下層世界”からのエネルギーを取り込む事だけ。世界運営に関わる事象な以上、それは大きな”差”であった。
更に、精神的な問題が多岐に渡った結果、精神的な差は知能の差としても現れている。今や基幹世界の下級市民と呼ばれる者達ははっきり言って知能レベルが地球世界の小学生と変わりない。いや、もっと下だ。数百年生きた大人でも、こっちの感覚では赤ちゃんどころの話ではない年齢である地球の9歳そこらに大きく負ける。まあ下層世界との比較は差別発言になるからあれだけど、頭の良さなんて多分平均は地球の方が上も上。一応”精神的豊かさ”における上流階級の端くれである私でも、例の”彼”のことを天才だと称するしかないくらいだ。多分知能レベルは地球の偏差値50位の高校生と一緒。最近は勉強のお陰か伸びてきてるけど。
「そういえば、貴方最近”精神スコア”が上がってましたね」
「まあ、前にちょっと馬鹿にされまして。...下層世界の人間に負けたくない、くらいの意地は持ってますよ。その位の地位はありますから」
「ああ。前に”原始的な勉強”も精神スコアの上昇に役立つという研究結果も出てましたね」
「精神スコア...えっと、サイコダイナミクススコア、精神力動の数値,.,でしたっけ。私は795点が最新なんですけど、主任はいくつでしたっけ」
「もう少しでランク上がりますね。頑張ってください。私は一応905です」
「3ランク上かあ。遠いなあ」
でも多分”彼”の方が高いよね。...”抱えてるモノ”のせいである意味低い可能性はあるけども。外れ値は面倒くさい。最近の勉強で私が学んだことだ。
「ああ、話が脱線してしまいましたね。兎も角、”彼”には最大限の”特別支援”が可能になりました。具体的に言うと”ランクオーバー”です」
「...それ、二軍以上の世界が滅びかねない時に発令されるヤツじゃないですか。個人単位とは言え異例も異例ですね...」
「まあ、世界そのものの運営もそうですが、”彼”個人の方にも少し関心が寄ってるのですよ。”精神エネルギー”の補給ナシに自己進化が可能な神族は最早一人も残って居ません。彼の研究によってそれが覆る可能性もゼロではないのです」
思ったよりすごい話だった。
「まあ、そんなわけで頼みます。昇進の道を開けることは難しいですが成功すれば給料は大幅に上がりますよ」
給料アップ、つまりは精神エネルギーの供給量アップである。これは嬉しい。
「頑張ります!」
ちょっと残業にはなるが、どうせ家に居ても彼氏も別れたばっかだし、もう少し様子を見て帰ろうか。
件の彼...
”アッシュ・クロウ”の。
今回は一番最初に登場した自称神の彼女のお話。
設定が大風呂敷状態ですが纏められるんですかねコレ。




