第六十五話? BADEND/TITLE1_死山血河都市
どすり。
王都。本来は人が溢れる一大都市にして、市場賑わう王家のお膝元。
けれど。今は。
「きゃあああああああああーーーう”」
ぞぶり。
本来は買い物帰りだったのだろうか。まだ年若い女性の胸元から凶悪な刃が生える。
ぶしゅう、と裂く鮮血の華。
ぶち。
凶悪な刃が何本も、その町娘をつかみ、引き裂いた。
「KYKYAKYAKYAKYA」
兎のぬいぐるみを凶悪にしたような顔が、今しがた町娘を引き裂いた凶悪犯が不気味に笑い狂う。
がぶ。
踊り食い、と言うには既に町娘は絶命しているが、その兎は町娘を口の中に落とし、喰らった。
ばん。
次の瞬間、次はその兎の頭部が消え去った。
俺が血溜まりの中に立っている。
濛々と煙を上げるのはアンツィオ20mm対物ライフル。威力がクソ強い事で有名な対物ライフルだ。
俺なら皮肉か、勝利の台詞でも言うところだが、俺は無感動に見下ろし、その場を去った。
始めに死んだのはカリオペだった。
例の”組織”壊滅のため王都を訪れた俺達。何故だかカリオペが父に呼び出されたと王城へと赴くと言う。
勿論と了承し、俺、マリア、アイリーン、エレーナ先輩、ネア、カガミの六人は少し早めの食事をとっていた。そんな折。
突如王城が爆発した。
轟々と立ち上る紅蓮の華と、飛び散る石の破片。何故か”この俺”はカリオペが確実に死んでいることを予見する。
直後、街の人々から悲鳴が上がる。
そちらを向けば兎の様な、人の様な魔物がいる。
「ーーー!」
恐らくは”組織”の仕業。そう直感し、王城で何が起こったか何となく察しつつ、眼前の魔物に対処しようとした、その時。
「ーーーーぇ」
アイリーンの口から刃が生えた。
カガミの頭が何処かへと飛んだ。
ネアの胸部が圧壊した。
エレーナ先輩の上半身が飲み込まれた。
ぎぎ、と俺が壊れたように後ろを向く。
先ほどまで店員が立っていた場所に、店員の制服の切れ端を張り付けた、兎の顔。
魔眼が訴える。仲間たちの死を。
魔眼が訴える。眼前の兎もどきこそが犯人と。
「.....う”お”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!!!!!!!!!」
じゃきん、と空中から砲が生まれる。怒り故か、それは単純な構造。19世紀の滑腔砲。しかし、その魔物に耐えられるものではなかったようで。
べこり、と頭がちぎれた。
しかし、その間にも兎もどきは俺の周りに集まってくる。
俺を、仲間の死体を喰う為に。
寄るな、触るなと泣きじゃくる様に繰り返し、次々と兎を撃ち殺す。しかし、多勢に無勢と言うべきか。俺が周辺の兎共を駆逐した時には、既に仲間がこの世に居た痕跡は、肉片一片そこには無く。
ふつり。
俺の心の”線”が切れる音がした。
一気に表情が抜け落ちる。
仲間。それは人でなしを人の形に保っていた唯一の要素と言って良い。
心の支えと言って良い。
それを喪い、殺され。
そうだ。俺は絶望したのだろう。
ただ、物言わぬ機械となり果てた。
ずがん!ばがん!
魔法は最早俺の味方だった。
”考える”という機能が失われた俺の殺害衝動を拒む理は其処になく。
無言にて凶悪な、前世の物理法則を超える兵器を生み出し、撃ち放つ。
時には弾丸そのものを空中に出現させて飛ばす。
燃やす。貫く。凍らせる。切り裂く。
殴る、蹴る、薙ぎ払う、穿つ。
それはある意味で歩く厄災が一つ追加されたに過ぎなかった。
助けを求める人々に目もくれない。寧ろ射線が被れば無感動に”それ”ごと撃ち抜く。
人は”俺”にとって最早単なる肉塊と変わりなく。
ふと、獣の匂いがする。
どんな因果か、俺は偶然に”組織”の本拠地を探り当てていた。
辺りの景色は不明。しかし俺の起こした爆発で地面は抉れ、そこから、恐らく地下施設に続くであろう入口の残骸が覗く。
前に立つのは二人の獣人だ。顔は分からないが、確実に獣人だった。
何事か言っている。だが”俺”は聞いていない。
前触れも無く。獣人の片割れが爆ぜた。
驚愕する間もなく、二人目も。
返り血がかかる。
視界が塞がれないように払い、除く穴に掌を向ける。
ごう!
まるで、ガスの充満した洞窟に火をつけたかの様に。
入口が内側から爆発した。
ひゅるるるる、ずがずがずがずが。...どどどどどどどど!!
続いて、次々と上空から地下深く、金属の槍が突き刺さり、次々とその身に宿す烈火の炎を撒き散らす。
地中貫通爆弾が俺の出番とばかりに鳴き踊る。
ふと、俺が思いつく。どうせ生きている意味など無いのだと。
何故そう思ったのか?知りはしない。もうそう思う事すらできはしない。
だから、衝動のままに俺はその権能を振りかざす。
ひゅるるるるるるるるるる
独特の風切り音を奏でながら、上空の曇り空の灰色を突き破り、それは空に落ちてきた。
丸っこい体、四角い枠に短い翼を四つ納め。
鋼で出来た醜い鳥ですらない何かが、その図体に対して妙にゆっくりと振って来る。
ぴし。
割と前世から特技であった指鳴らし。
すこし上手く行かず気の抜けた音であったが。変化は劇的で。
ほろり。
先ずはその胴体が解けた。
ひか。
瞬く星の様な。蒼いひかりが底から除く。
ちろり。
白色の炎が、蛇が巣から出てきたかのように、その舌を舐めずらせ。
かっ。
視界は。その地は。消え去る。
そして、俺の意識は浮上した。




