第六十三話 生徒会の二面/倉庫の中は大魔窟
「「『............うわぁ』」」
カリオペ、マリアと三人、俺たちはげんなりと項垂れる。
「気持ちは痛い程解るわ...」
付いてきたファナさんが溜息を吐く。
俺達の眼前に展開されていたのは....。
「ゴミ置き場じゃないんですかコレ」
「残念ながら倉庫なのよね...」
この一言に尽きる。一年にはあまり交渉などの対応は任せないという会長の言に従って(俺が脅迫しかねない、とかそういう事ではない筈だ)、俺たちは備品の確認に倉庫に来ていた。来ていたのだが。
「広大なスペースに所狭しと、ね。何と言うか...ちょっと私には例えられないわ」
「そりゃ王族の眼に入る所を散らかすバカはいないでしょうよ」
雑多、雑然、乱雑。そういうしかない程の有様。やたら広大な倉庫に、備品が散乱、というほどではないにしろ、テレビでたまに紹介される汚部屋が如く溢れている。
「...これ、各訓練場の方でもやるんです?」
此処はあくまで校舎内にある備品倉庫。ハードルとかそういう競技に使いそうなものはここにはない。
「大丈夫。そっちは教官たちが中身を把握しているからそっちに回せばいいから。...ここはね、生徒会所有のそうこなのよ...一応」
「「げー...」」
カリオペが「淑女の反応じゃないわよ」と突っ込まれているが気にしない。というか気に出来ない。
何せ見渡す限りの物、物、物。
「どうするかな...」
地球なら電子タグ付けてAR表示で探せる様にしておくんだが...あ、既に仕舞われてる以上意味ないか。
「あ、これ」
ぺろんと羊皮紙が差し出される。
「これは?」
「大体何が何処にあるかっているメモ?地図?まあそんなものよ。去年すごーーーーーーーく苦労したから整理と一緒に作っておいたの。教師陣とか時間余ってる人とか巻き込んで」
大掃除は済んでいると。成程。少なくともこの広大な倉庫内から探し出すよりかはマシか。
「まずは大物から探しましょう、テントとかは数多いわ」
ファナさんの号令に従い、俺達は動き出した。
一時間後。
「「...................」」
「まあ、うん。疲弊するのはよーーーく解るわ。休憩しましょうか」
埃に塗れた俺たちは、げんなりと倉庫前に設置されたベンチに沈んでいた。なんでこんなものが倉庫の前にと思ったら用途はこれか。
「ふう」
服の埃を埃取りで削ぎ、髪についた埃はヘアブラシで取り合えず取っておく。
「あんたホントに用意周到ね、貸しなさいよ」
俺と同じく、埃だらけで若干白くなっているカリオペがずい、と寄ってきた。
「ヘアブラシは今さっき作った物だけどな...」
断る理由も無いので渡す。
「あら?何となくだけど見たことないブラシね。毛が太いわ」
「生物素材は作れないからな」
「ふうん」
そう言うと彼女は埃だらけと言う事でシンプルなポニーテールにしていた髪を解いて髪を梳かし始めた。
『...おつかれ』
ほんとだよ。設定上仕方ないけど倉庫の入り口で待っているだけだったマリア。羨ましいったら仕方ない。
「魔眼でどうにかならないの?」
「ならん。万能ではあるけど全能ではないの」
この様子だと透視しないとどうにもならない。出来ない訳でもないけど、透視とかは30秒も使っていると目が破裂しかねない。
「...あ、シラミとか無いわよね」
「人聞きが悪い!つーかそれ使ってる時点でアウトだろそれだったら!」
カリオペめ、失礼な。
「あ、ごめんなさい、それ私にも貸してくれるかしら」
ファナさんが鞄を探ってからそういう。この人も髪が結構長いんだよな。
「忘れました?」
「壊れてたの忘れてて...」
ぽっきりとおれたブラシを見せられる。ブラシって折れるもんだっけ?
「今朝鞄ごと落として。他は平気だったんだけど鞄の底に入れてたこれはだめだったのよ」
ああ、なるほど。
「あ、だったら...【夢想印刷】...っと。どぞ、あげますよ」
「あら有難う。...ああ、そういえば貴方の魔法は残るのよね。...色々破格だわ」
生徒会メンバーには転生者であることは言っていないが魔法のことは言ってある。エレーナ先輩が厳重に口止めしていたから漏れたりはしない筈だ。
「....」
「ん?なんだじっと見つめて」
カリオペが睨んできていた。
「別に」
....?
「...欲しいのか?欲しいならやるぞ」
「そういう意味じゃないわよ!...くれるなら貰うけど」
「?」
困惑しているとファナさんが笑い出した。
「ああ、ヘアブラシのプレゼントは夫婦間でやることが多いのよ。私みたいな家が王都から遠い貴族は余り気にしないんだけど、王都だと演劇の印象的なシーンにもなっているものだから」
ああ、王家は王都の本家本元みたいなものだからな。影響もあってしかるべきか。
「それにしても、随分と仲良くなったわね。最初はあんなに険悪だったのに...あ、不謹慎だったかしら」
ま、因縁の原因もいちおうの仲形成も人の命がかかわっている訳だからな。一般的感性なら不謹慎ではあるのかもしれない。
「いいえ、そんなことは。今でも思うところは無いではないけど...悪い奴ではないみたいだから。困難でも一応、私を打算無く助けてくれた人ですし」
「あら、友達というより王子様?」
ふふ、と笑うファナさんにカリオペが真っ赤になって反論する。
「違います!...そう!腐れ縁よ腐れ縁!」
「...腐るの早くないかしら」
「...正直俺も腐れ縁な気はしますね。足が早い素材だったんじゃないですか?」
鰤とか。
そんな言い合いをしていると、廊下の向こうから人影が現れた。
「ちょうど休憩中か、どこまで進んだ?」
「あ、エレーナ先輩」
「あれ、もう終わったので?会長」
ファナさんがふわりと笑いながら問いかける。
「ああ。偶々今日中に確認を取るべき相手が一所に固まっていてな。教師陣とかバラバラに散らばっているものと思置ていたが、いや幸運だったよ」
「ああ成程。因みにこちらは10分の1くらいが終わったところですね」
リストに付けたチェックを見せる。
「...ふむ、やはり去年より大幅に進みが早いな。この分なら他の日に臨時で活動を入れたりする必要も無いかもしれん」
休日出勤!?
「ま、やることが早く終わるに越した事は無い。充分休めたと思ったら再開しよう。私も手伝う」
「じゃあ、始めましょうか」
ニ十分ほど後。
俺達は薄暗い倉庫の中でまだまだ終わりの見えない備品探しにいそしんでいた。
「えっと、トンカチ5、のこぎり7、やすり、千枚通しに鑿...ってこの辺全部2年Aクラスか。工具ばっかだな。木工してどうする気なんだ?」
「ああ、エンバーの組か、あそこは確か東洋の”祭”をショーとして出すとか言っていたな、セット用じゃないか?」
ショー系は確か金は取れなくて、純粋に来場人数×演目時間がポイントになるんだっけか。
「成程...あ、先輩方の組は何するんです?ほら、一年の方は運動以外はやらないので...」
「ウチか。Sクラスは10人しかいない事もあって出店しないことが多いんだが、ウチには”歌姫”がいるんでな。歌だ。まあ4年Aクラスから少し応援を呼んでいるが」
「ああ、ラクミーさんね。彼女の歌は手強そうね。あ、私のクラスはAで貴方たちとチームは一緒ね」
ああ、そういえばそうだった。
「...で、私のクラスは普通に出店ね。出来るだけ数を増やす方向だけれど」
それはそれで頼もしくはある。
「いち早く闘技場内のスペースを確保したのは流石だな。やはりあそこでやるトーナメントバトルが一番盛り上がる」
トーナメントバトル、要するに決闘大会だ。魔法もあるこの世界では格闘ゲームを観戦しているようなものだ。ド派手で楽しげなのはそうだろう。
「確か二年Sクラスは出さないのよね?」
「ああ。イゼルマは確かほかのクラスに応援に出ると言っていたが。ちょうど同じチームである三年のBに友人がいるとかで。...あそこは...ガールズダンスパーティ?伝説の転生者の踊りを今ココに...ふむ」
なんか謳い文句がアイドルライブ臭いな。
『転生者の踊り...ってことは社交ダンスとかじゃないのかな』
「(多分な)」
「何故かミニスカの申請来て驚いたわ。生足はやめろって言ってるのに。普通に下は来なさいよ下。せめてスパッツって言っておいた。すぐに修正版きた辺り解ってたんでしょうけど、女子からのOKは...来てたのよね。責任者がそもそも女子だし」
「『(アイドルライブだ...)』」
なんか察した。
そんなこんな、途中でメンバー全員が揃いつつ備品を捜索した。
結局終わることはなかったが、活動時間終了の鐘が鳴れば仕方がない。俺たちは当初の予定通り、暗くなってきていた街へと繰り出した。
ヘアブラシは結構いいブラシ。つやが出る効果って人工の物でもあるんですかね?
ミニスカ申請
ミニスカ申請、というのはどちらかと言えばただの飾り。その実、つまるところ少し過激な恰好をしたい、という申請にほかなりません。胸元まで開いた衣装とか。
でも特別に許可が出ない限りは禁止です、今回も...というか生徒会開設以来通ってない。諦めて肌色のタイツの着用を。




