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異世界学術論~結局のところ物理が最強~  作者: N-マイト
第三章 組織闘争編/影を照らす光となれ
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第六十二話 生徒会の一幕/始まるそれはデスマーチ

「さて、仕事だ諸君」


生徒会は会長の一言で始まった。名言を引用したりはしない。


「今日の仕事は前回伝えた通り。というよりも今日からの仕事、と言ってしまってもいいね。来月、”雨精霊(トラロック)の月”、つまり六月の終わりにある”体育祭の運営”だ」


体育祭。諸兄等はこの言葉にどんな印象を抱くだろうか。


俺は恨みである。


運動能力に優れた人物による運動能力のない人物の公開処刑。それが俺の忌憚なき感想である。


が、この世界の、この学園の”体育祭”は少々趣が異なる。

この学園祭の”体育祭”は半分”学園祭”である。そうなっている。

二年以上の生徒たちによる出店なども行われ、つまるところ”運動をする生徒”と”しない生徒”が普通に出る。というのも、この学園の生徒たちはその身体能力に天と地ほどの差がある。日本の様な公開処刑スタイルにしようものなら死人が出る。ただし、この仕組み、割と侮れない。

これ、出店の売り上げなど、”総合成績”で決着が付く。

更に、クラス対抗ではあるモノの、学年ごとにシャッフルされる。例えば、四年Dクラス、三年Aクラス、二年Cクラス、一年Sクラスなど。なんとSクラスは人数三分の一のハンデである。

兎も角、生徒たちはそのため、”全員”で勝ちを狙いに行く必要がある。因みに毎年賞品が設定されている。毎年違うと言うか、校長が用意するので多少の当たりはずれはあるそうだが、それでも毎年本気で取りに行くのだとか。

運動する者も、しない者も。


尚、十月に当たる”秋妖精(ラッカム)の月”の終わりごろにちゃんと学園祭もする。こっちはこっちで結構盛り上がる。

これどっから生まれた文化だと思ったら初代校長(エルフだったらしい)の思い付きだと言う。つまりなんと世界でもこの学園限定。そも体育祭や文化祭も無いのだとか。ってことは恐らく、俺の日本語知識上”体育祭””学園祭”と訳されているだけでこの世界では完全に固有名詞と言う事だ。


で。この学園において、生徒会は大きな権力を持っていたりする。それこそフィクションの生徒会みたいに。

こういうイベントにも結構しっかり口を出せる。


ただ、運営もがっつりやらされるが。


「...と言う訳で、だ。先週も話した通り、”植物紙”の試作品が手に入っているので、さっさと個々人のタスク分けをしてみた」


ばさ、とエレーナ先輩が大量の紙を取り出して配り始める。


「うお」

「うわぁ...」

「去年もやったけど、紙にまとめられるとすっごい多い...」

「ま、殆どが予算に関係する要素なんだけどな...」

「僕は...ああ、やっぱり事務系、というか許可を取りに行く仕事が多そうですね...」


体育祭は、企画に一か月、準備に一か月と決められている。そして競技、出店、イベント系の企画の締め切りが昨日だった、と言う訳である。


「予算は各クラス5万以内、余った分の金もスコアにプラスされるんでしたよね~?」


イゼルマがのんびりと確認する。


エレーナ先輩は深く頷いた、


「そうだ。それが生徒会(われわれ)にとって厄介なところでもある」


がらがら、と彼女は先日俺が設置したローラー付き黒板を引きずって来る。ベアリングが技術レベルから逸脱し過ぎるため使えないので結構動きが重い。


「とりわけ、今日からできるだけ早くやらねばならんのが備品確認と予算計上、確認だ」


かかか、と黒板に書き込んでいく。字がきれいだが胸が当たりそうになっている。消えないだろうな。


「体育祭において、予算と言うのは今日までに申請される。得点のマイナスを受け入れるのならば追加予算も出す。逆に予算が余る場合はプラスが入る。つまり各クラスの使用金額がマチマチな訳だ。書類こそ渡されているが相手は生徒でもある。既に書記と副会長二人にある程度書類の確認は済ませてもらっているが...まあ、齟齬は多いだろうさ。どうしても一度確認に行ってもらう必要がある。細かい計画は各クラスの責任者しか持っていないしな」


書類のコピーがない世界故だ。細かい事は一人しか知らないとかがざらにある。


「競技についても多少異なるがほぼ同様。これは基本教師陣なこともあって細かい書類が用意されているが、聞き込みは必須だ。行ってくれ」


ごくまれに生徒発案の競技がゲスト枠的に列席したりもするがそれはそれ。今年は無いらしいし。


「で、備品確認。これが必要とされている備品だ。これを纏め、数が揃っているかの確認を取る。...これは年によっては地獄だな」


「片づけが徹底されていないと大変なことになってますからね...」


成程...。


「で、最後に予算計上。最終的な予算云々の確定は追加申請などもあるし開催まではしないが、取り合えずこの紙面に書いてあるものと不足している備品分の予算は今のうちに計上しなくてはならん」


なお切らしている備品を要求した場合は仕様予算ゼロで購入可である。ただし買ってくるのは教師だが。


........凄まじい量の仕事である。


「これでも昨日のうちに仕事を簡略化させたから去年よりは楽なんだが」


昨日、エレーナ先輩に泣き付かれ、俺、アイリーン、マリアと先輩で必死に纏めたのは秘密である。例外(マリア)は兎も角アイリーンに手伝わせたことがギリギリ機密漏出判定されかねないと言う事で、口止めに高級マカロンをデカい箱で渡された。美味かった。


「去年は何度も何度も同じところに確認を取る羽目になったりしたからな。行く場所ごとに纏めてあるから多少は楽なはずだ」


まあ、多分今後もそこそこ増えるんだろうけども。

ここら辺は使いやすく捨てやすい植物紙があってこそである。羊皮紙は何をするにも高価であるからな。

纏め作業とかすればかなりの金がかかる。

今回はサンプルなので高価どころかタダだ。


「正直、新学期で皆慣れていない中行う今回のイベント運営が最もキツイ。こんな序盤に修羅場を持ってくることになるのは会長として心苦しくはあるが、頑張って欲しい。...実は今日、無理を言って少しだけ門限を伸ばしてもらってある。終わったら少し私の行きつけの店で食べようではないか」


おお、とみんなが盛り上がる。...どうせ甘いものがおいしい店だろう。行くけど。


「今日中に終わらせられる部分は終わらせる。勝負は今から金が二回なるまでだ。万一やることが終わったら備品倉庫へ直行だ。行くぞ、出陣!」


おー!と...この世界では誤用ではない勝鬨...勝つ前鬨?を上げて俺達はそれぞれのタスクをこなす為に出撃した。

カレンダーについて。

実はすっかり忘れていたカレンダーについてです。物語内で適宜登場しますが一度まとめを。

一月 冬妖精ドイルの月

二月 雪精霊スノウベリーの月

三月 風精霊シルフの月

四月 春妖精シンリーの月

五月 樹精霊ドリアドの月

六月 雨精霊トルロックの月

七月 夏妖精トムソンの月

八月 火精霊シュウテクトルの月

九月 土精霊ノームの月

十月 秋妖精ラッカムの月

十一月 金精霊ケツァルコウトルの月

十二月 休精霊ウィティロポツタウの月


季節妖精が1,4,7,10月で、それぞれ妖精画で有名な画家から取ってます。

残りは精霊で、ヨーロッパ系の伝説とアステカ系の神話から取ってます。なんでアステカかは多分そのうち。


尚、この世界の宗教では、一年の終わり=ウィチロポチタウの月の終わり、つまり大晦日に皆、”休息”として死に、正月に新たに生き返るという観点があります。だから休精霊。なので、冬妖精に”生誕”の加護があったり。”脈”の妖精とも。春妖精の仕事っぽいですが彼女の仕事はどっちかと言うと”成長”や”結婚”にあります。総じて”縁”の妖精なんて呼ばれ方も。

夏妖精は”鍛錬”とか”回復”を司ります。”動”の妖精とも。

秋妖精が”結実”とか。”福”の精霊とよばれたり。

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