第六十話 掃討作戦準備号①/装備を作ろう!~方針決定編~
「...さて、色々とジャマが入ったが...」
おほん、と咳払いをして空気を締める。
「今日呼んだのは、皆の戦力強化を図りたいと思ったからだ」
ふむ、と皆が頷く。
「一応、このパーティの目的は”先日カリオペを襲撃した組織の撲滅”だ、正面戦闘は...多分回避不可能だろ」
「まあ、でしょうね」
直接対面した面々が頷く。あの狂気というか執念は並大抵じゃなかったからな。
「まー、流石に突入etcは大人に任せる予定ではあるんだけどさ?」
『「正直、信用できなくない?」ーーーってこと?』
イエス。だ。
「...だがそこまでする程か?」
訝しむエレーナ先輩に俺は苦笑する。
「ま、最悪の想定ではありますよ。...でも、この資料を置かれちまうと、ちょっと...」
ばさ、といつの間にか置かれていた資料を手に取る。
カモミールの言っていた途中経過報告だろう。
「これは...何が書いてあるんだ?」
「まあ、簡単に言えば容疑者リストですよ。ま、何代にも渡って獣人が潜入しているとは流石に考えづらいので、由緒ある家の連中は除いた、王都の”一定以上の地位を持った”役人の経歴です」
「...成程。だが...」
「これ見てください」
ぺらり、と表紙を見せつける。
「これは...「こいつは多分確定でしょ」?...こいつは高確率で黒と言う事...な、王都の警備局長だと!?」
そう、王都の警備局長が相手の刺客である。それはかなりの重大事項だった。
「まそれだけなら良いんだがな。学園都市の捜査もしなきゃいけないんだし。厄ネタが眠ってても不思議じゃあない」
『...なんのかんの言いつつなにより色々と作りたいんでしょ?』
「YES」
がく、と皆が崩れ落ちる。
「いや、ものすごく対策とか必要なのかと思ったのに...!」
カーネリアンがぶーたれる。ま、態々呼んだのにこの結論ではな。
「実際危険な場面が来る可能性はあるんだ。巻き込んだ以上俺には皆を無事でいさせなくてはならない責任がある。転生バレのお陰で使う技術に制限も無くなったしな」
「ホントにあれで制限してたとは信じられないわ...」
別にいいだろ。
「で。だ。大体皆欲しいモノとかあるか?」
取り合えず聞くと全員唸り出す。
「うーーーん...唐突に”何が欲しい”と言われても...」
うーむ、話の振り方が悪かったか?
「...あ!わたし、ブーツ欲しいかも、ブーツ!」
ぴょい、と手を上げるアイリーン。
「ブーツ?」
「そう、空飛べる感じのヤツ!」
ワキワキと腕を動かしながら説明している。かわいい。
「...俺のヤツの二番機とかじゃ?」
「うーん、かっこいいけど、嵩張るかなあ、って」
まあ、お前ならそういうよな。
「んーーー...飛行制御となるとなあ。...あ、いや、そういえばアイリーンお前飛べはするよな?」
アイリーンは一瞬ピンとこなかったのか言葉に詰まる。
「あの炎のヤツ」
「え?......ああブーストアクセル?飛ぶと言うかは超すごいジャンプみたいな感じだけど」
得心したらしくぽんと手を打った。
「とは言え空中制御できはするんだろ。カーネリアン、炎の噴出をある程度方向制御可能に出来るか?」
「出来るけど、え?人力制御ってマジで言ってる?」
「大マジだが?アイリーンが出来ない訳ないだろ」
『無茶じゃないかなぁ』
「まあアシストは付けるけど。電子的な制御で」
流石に完全人力制御は狂気だろう。
「異世界の技術って事ね。...むこうじゃ人が普通に飛ぶわけ?」
『人単体では飛ばないよ。いや、飛ぶけどネタ枠と言うか...』
「実用化されたのは無かったかな。遊びでひも付きで短時間飛べる位。燃料の問題がね...」
はあ、と溜息。やろうとして挫折したことの一つだからなあジェットパック。こっちの世界で出来てるから良いんだけどさ。
「こっちの世界だと魔力とか言う凄いエネルギー源があるし、核融合が使えるし、それで魔力のブーストが出来るし」
『待って待って待って!核融合!?何それ聞いてない!』
あ、そういえば言ってなかった。
「いや、凄いよな、魔法金属。まさか核融合動力が実現できるとは。因みに義手も鎧も核融合で動いてる」
「...どういうこと?」
『異世界でも...えっと屋敷サイズでも実用化には程遠かった技術を超小型化にまで成功してるってこと。要するにバカ』
酷い言いぐさである。まあ、多分向こうでも半世紀位は技術先取りしてるけど。
「ま、そう言う訳で可能だな。背負いものは増えるかもしれんが。リュック的な」
「あ、まあそれくらいはいいよー。腕とか足の稼働を邪魔しなければ」
ホントに機動力とパワー重視だなぁ。...俺の影響か?(自分の変態機動を思い出しながら)
「了解。服とかインナーでの筋力強化手段みたいなのもいくつかストックあるしそっちも試すか」
『...ああ、アレ?えっと”超人タイツ”だっけ』
「適当に付けた仮称を蒸し返さないでくれるかなぁ!」
ほんっとに技術検証につくった適当ネームだぞ!
『はいはい。”マッスルスレッド”だっけ?』
「そうそう」
生体電気に反応して伸縮する素材である。エネルギー入力によって人間の筋力をけっこう強化できる優れもの。神の手のヤツが間違って作った繊維を強化改良した合作である。
あれに魔法金属とか応用した人工筋肉を応用できれば結構なパワーアップが図れそうだ。あとはカーネリアンに魔法付与してもらうとか。
「っていうかそれは全員配布か」
『それが丸そう』
だよな。
「えっと、私は...あの鎧ちょっと欲しいです」
話がひと段落した時、おずおずと言ってきたのはカガミだった。
「...あ、お高いのなら大丈夫です!その...」
「あ、大丈夫大丈夫。色々あって魔法付与とか除けば自分で生産できるようになったから」
そう言いつつ棚から透明の立方体を取り出す。
「一番金かかる所が無料になっちゃったからね」
するとカーネリアンが絶叫するように詰め寄ってきた。
「そそそ、それ自動人形の空白基盤じゃない!え、まさか、どうやって!?」
「落ち着け。いや、素材自体は二酸化ケイ素...水晶にあれこれの魔法金属と金が混ざったモノだったからあとは再現して正確に加工すれば、って感じ。流石に下手にバレると市場崩壊すると思うから仲間内だけでな?」
年収が国家予算になりかねない。
「あ、はい」
声が震えているカーネリアンだが一度捨て置く。
「と言う訳。まあ最初からカガミには鎧をやる気だったけど」
「え、そうなんです?」
「そう、光学迷彩...透明になる仕様の」
「ちょくちょくアッシュ君は私を忍者にさせようとしますよね!?」
鋭いツッコミである。
「まー、前世じゃ過去の存在だったけどそれでも人気あったからね、憧れだよね」
「う...憧れ...」
適当に言っただけだが割と揺らいでいる。押すか。
「ま、本物とか知らないから目指すのは前世で見た超技術NINJAだけど」
忍者じゃなくてNINJAである。ニンジャでもないぞ。
「...まあ、協力なのには変わりないですし良いですけど」
了承を得られたのでその方向で行こうか。
「ふむ、それは私にも作ってもらえるのかな?」
「...良いですけど、入ります?」
胸部に視線を向ける。マキシマムにエキスパンドされた自前の装甲が鎧に入るのだろうか。
「失礼な!私だって...うん、無理だな」
ば、と胸を抱える様にして飛び退られたが直後に項垂れた。まあ、抑えきれずに弾けてたからな今...
「ううむ、まあ、考えますけど、全身装甲はきついかも?」
胸部を覆う装甲と言うよりは思い切って胸当て程度にしてしまった方が...行けるか?それでも。
まあ元々回復職よりの魔法職だそうだし後方支援メインとすれば最低限防御力が確保できればいいか。
「...」
何故かしょぼんとしているエレーナ先輩。
「...あ、もしかしてコンプレックスだったりします?」
男からは分からないーー俺は特にーーが、ボンキュッボンも行き過ぎると虐められると聞いたことはある。まあそうでなくとも美人は嫌味を言われるものなのだとかなんとか。
「...いや、大丈夫だ。...元々魔法騎士に憧れがあってな、それだけだ」
「ああ、なるほど」
確かに騎士=全身鎧か。過去にその体形ではとかでも言われたのかもな。ん、ちょっと考えるか...。
「...えっと次、カリオペ」
「え、自己申告制じゃないの?」
まあそうだけどもう実質残り二人だし...。
「...まあいいわ。私は鎧はイヤ。と言うかあまりごつごつしたの着たくないわね。後衛だし、別に軽装でも良いんじゃない?って思うけど」
「ん~、じゃ、服の方で強化するか?俺が今着てるシャツみたいな」
工房に常備している予備のシャツを取って来る。
「ちょっとカーネリアン、こっち持ってて」
「ああ、はいはい」
俺とカーネリアンの間でぴん、と張られるシャツ。
「材質決定、形状指定...【夢想印刷】っと。えい」
ぽん、と空中に現れたナイフをそのままシャツに突き出す。
ぽいん。
「あ、弾かれた」
「金属繊維を利用して耐久性を上げてある。...まあ、渡すのはどうせこいつの改良版だ。衝撃に対して硬化して防げるようにとか機能は盛る。そこらの魔鉄鎧以上の防御力になるだろうさ」
まあ、少なくとも防弾、防刃、耐火、耐衝撃は必須である。
「さ、次はネアだが」
「わたくしは...少なくとも戦闘中に着ているモノは変えられませんわ。あれは”祈祷魔法”に必要な要素ですので」
「そうなのか」
まあ、見るからに特別仕様の鎧ではあったけど。スカートアーマー付きの部分鎧。
「追加装備は?」
「それは問題ないですわ」
ふむ。さらに装備を追加することはOKなのか。
「ってことはフルアーマーか...」
そう呟くとマリアが噴き出した。
『フ、フルアーマーネアちゃん...』
何を想像したんだ何を。
「まあ魔法金属系は接合部に使っても超強いからどうにでもなる。メイスに更に被せるとかもできるだろ」
「成程...」
「何かタイプ関係の要望ある?」
「えっと...」
顎に指を当てて考えている。
思いついては居るだろうに言おうとしない。
「えっと...その、パワー重視で...」
少し赤面しつつおずおずと言った。
ああ、うん。脳筋思考が恥ずかしかったのか。
「ん。了解。んじゃー、大体の方針は決定とーー」
『私は!?』
叫ぶマリア。
「...いや、体型どころか種族すら変化する人間に装備作ってどうするのさ...」
『う”』
着れないだろうが。
「まあ、武器は全員適宜作る予定だけどさ。...あ、銃いっぱい持たせるか」
『その私は阿修羅すら凌駕しそうだね...』
気持ち悪いからって理由で生き残りそうだなその台詞だと。
「ふむ、思ったより早く...ってわけでもないな。寧ろ案外時間かかったな」
案外良い時間だ。休日の午前中に少し無理を言って集まってもらった形だし。いや、起床時間は寮生だと平日とほぼ変わらないことが多いので、皆午前中暇だからOKと言っていたが。
「ま、解散と言うのもなんだし皆で食事でもとるか?」
『...目立たない?』
ま、そうだな。
生徒会長+一年生4人+保護された女の子ってどういう組み合わせだと。
「そんなもの気にするか。せっかく知り合えたのなら親睦を深めて損はあるまい」
「だね。生徒会長さん、すごく楽しそうな人だし」
アイリーンが言ったことが決め手となり、その日は集まったメンバーで昼食を取った。
少なくとも。
中々に楽しい食事であったことを付記しておこう。




