第五十七話 転生者伝承/前世、それは一つの物語
「転生者は昔にも居た...ですか」
まあ、有り得ん話ではない、寧ろ当然の話。
だが記録残っていたのか。
「まあ、何故かやたら出現するたびに食生活と衛生環境が向上するから職と健康の使者扱いされているが」
「よくある転生モノ過ぎるな!」
『よくある転生モノじゃない!』
うーん余りにもなろう系。
「どういうことよ...」
困惑するカリオペ。
「多分、前世における創作でよくあるストーリーを追っかけたんじゃないかって話」
「...今、長年の謎が解決されたんだが?」
本人へのインタビューに勝るものはないからな、この場合。
「分かった。転生者であることは理解しよう。故にマリア君の言語体系が記憶喪失によって異なっていることもな。だが、それが今回の話題に何の関係が?」
「えっと、俺と言うかマリアの話になるんですが」
『広範な情報が必要ではありますが、断片情報さえあれば”組織”の全容を割り出せます。私なら』
「....なんだと?」
困惑するエレーナ先輩。
「おい、説明不足だぞマリア。えっと、マリアは前世で”数字の魔女”と言われる程の数学者だったんですが」
「おい、それが何の関係がある」
困惑はもっともだ。俺たちも独自性の高すぎるメカニズムに呆れたからな。
「大ありなんですよ。...やり方を説明してくれ」
『えーーー...はいはいわかりました。えっと、先ず情報をもとに”対象”に対するプロファイリング、そしてパラメータ付けを行います。その後環境データ、感情パラメータなどを元に行動データを算出、今回は拠点特定なので...そうですね。”組織”の人員と接触している場所を割り出しつつ”対象”を広げて行って特定する形ですかね』
「「?」」
「...了解、分からない事だけは理解した」
分からなかったらしい。まあしょうがあるまい。俺もマネする気が起こらんし。
「...まって、マリアがいなかったらどうするつもりだったの?」
余計なことを言うなカリオペ。
「...まあ、情報を元に怪しい奴の”物理的に可能な選択肢”を確立の高い順に潰す感じかな。一応”人手”を誤魔化す手段はなくはないし...解決までの期間が伸びるとは思うけど」
うん、引かれている。
「いや、探偵の常套手段だろ、選択肢の虱潰し」
『アッシュのソレは結構命中精度高いけどね。私の演算にも利用するし。ショートカットショートカット』
「(なあ、アイリーン君、君の幼馴染とその知り合いヤバくない?)」
「(そうですか?確かに凄いですけど...いつかは追いついて見せますよ)」
「(基準が狂ってるわね...)」
そこ、丸聞こえだからやめなさい。
「まあ、わかった。言っていることが実際に出来るならやってみる価値は十分にある」
「あ、取り合えず王都を中心に情報収集をお願いできます?」
さら、と俺は横やりを刺す。
「...何故だ?」
「十中八九王都に拠点があるはずなので。まあ、確率論ではあるんで外れたらそれまでですけど」
「お、おう...わ、わかった」
「...いや、王都に拠点があるなら特定とかできるのか?流石に君たちを長期間王都に入り浸らせることは出来んぞ」
『いえ、たぶん行けます。ネット回線がない状態での”推理”は難しいですけど...やったこと自体はありますから』
「まあ、前世から、過去視と未来視、千里眼を同時に持った化け物とか言われてましたし大丈夫でしょ、最強の安楽椅子探偵ですよ」
『ワトソンは必要だけどね』
「そ、そうか。わかった。...集める情報は...いや、この際王都の役人共の全情報を渡した方が正解か?」
「ああ、ハイ。時間かかりますかね?」
「いや、...数か月前までの情報でよかったら家にある。一週間ほど待ってくれ、取り寄せよう」
「「「『え』」」」
ぽかんとする俺たち。
「なんだ、一応軍事を牛耳る公爵家だぞ。その程度出来んでどうする」
そういえば、軍需産業だけじゃなく軍事力そのものも結構なモノだったか。そもそも俺たちの素行調査も生徒会に誘われた時にはほぼ完璧だったしな。
「寧ろその周りの訓練を受けている私が完全に君に出し抜かれたのが業腹なんだが」
睨まれる。
「元々そういうのは得意だったので。本来は...異世界特有の別の手段で情報集めるほうが主ではあるのですが”情報がある場所”をかぎ分けるのには自信があります」
情報を手に入れるための交渉は苦手だけど。
「まあ、あると言うならありがたく受け取ります」
「ああ。その代わりにアレは燃やせよ」
「ええ、どうしよっかなあ」
「嫡子とは言え子供の一存で機密情報を動かすのは本来厳しいんだぞ!流石に怒るからな!?」
「ははは、わかってますよ」
色々とエレーナ先輩の恥ずかしい事が載った書類を会長用の机から拾い上げて持参した時の封筒にしまう。
「アイリーン」
「【火小弾】」
ボッ!と火が飛び、初等魔法の中でも威力が低い小弾系とは思えない火力で書類を灰にする。
「...と言う訳でお願いしますね?先輩」
「....はあ。私は一生君を敵に回さないぞ...」
「ご冗談を。俺なんてまだまだ未熟ですよ」
「君の前世は修羅の国か何かか!!」
まあ、核兵器の存在とかその他諸々を考えるとそうっちゃそうなのかも。俺らそこらへんとの関わりも多かったし...
「まあ、そう言う事で。悪いなアイリーン。俺らはこのまま活動だから...」
取り合えず話はひと段落したし、もうすぐ生徒会が始まってしまう。俺たちは役員だし、マリアは”設定”上俺に付けておかなければならんが、どうしてもアイリーンは別だ。帰す必要がどうしてもある。
「りょーかい」
そう言ってアイリーンが立ち上がると、エレーナ先輩から横やりが入る。
「あ、待った。君たちに今日任せる予定だったことがあってな。そのついでにアイリーン君を寮まで送ってきたまえ」
そう言って手渡される布の切れ端。
「これは....なんです?」
読めんが。
「...すまん。校長が書いたんだが、片手間に書くものだからあの人のメモは書き損じが多くてな....とりあえず集合場所は読めるだろ?ちょっとした雑務だから行ってきてくれ」
「了解しました、会長」
「わっかりましたー」
俺とカリオペが行くと言うことは自動的にマリアも付いてくる。要するに来た面子でそのまんま出て行くことになった。
ばたん、と少し重い生徒会室のドアを閉めた時、俺は忘れ物に気付いた。
「あ、ペン落としたわ」
『ああ、あのちょっと高そうなボールペン?』
「あれ前世で見かけた10万単位の高級品の再現&改良品だから多分結構高いぞ」
最近魔法に任せて自作したヤツである。
「先に行ってて...は不味いか。悪いが少し待っててくれ」
「早くしなさいよ」
「へいへい」
どうせソファーの上に落としてるしすぐだ。
がちゃ。
「む、何か忘れものか?」
「ええ、少々ペンを落としてしまった様で...お、あったあった」
思った通りソファーの上に落ちていた。ズボンのポケットの縁に止めていたが取れたらしい。少々発条を固くしておくか、と思いつつ顔を上げると、書類を真面目そうに読んでいるエレーナ先輩が目に入る。
ふと、悪戯がしたくなった。
そっと、俺はエレーナ先輩の傍に寄り、耳の辺りに手を当てる。
「む、なんだ、ごみでも付いてーーー」
「可愛かったですよ、先輩。...ものすごくね」
「ん”ッ!?」
そしてそっと、囁いた。
どうも驚かせることに成功したようなので、怒られる前に生徒会室から逃げ去った。
だから俺は。
真っ赤になって机に突っ伏すエレーナ先輩も、「それは...反則だ...」という呻きも、知りえなかった。
.......その日、珍しく生徒会長はポンコツであったと言う事象もまた、俺の預かり知らぬ所である。
主人公は顔はちょっといいかな程度ですが声は良いです。相当良いです。ちょっとダウナーな松岡禎丞イメージ。それか島崎信長。
別に生徒会長はフラグが立ったと言うより、いい声のASMRに脳を焼かれたのです。まあそれはそれで変態の扉がだんだんこじ開けられてきてますが。全開になるとフラグが立ちますが、全開になった変態性によっていろいろと悲惨なことになります。今のところ開くなら、Mルート(レベル2)が私の中で有力です。が、ヤンデレドMルート(レベル5)に入った日にはヤバい事になります。
主人公は無自覚ですがちょっとSです。でもあくまでちょっとなので変態性がエグイ事になると普通に引きます。
たぶんそこまでは行きませんが。
因みに主人公のハッキングスキルはギリギリペンタゴン(アメリカ国防総省)に証拠を残さず侵入できる位です。当然2050~60年代の。つまるところほぼ全ての国の国家機密を好き放題ぶっこぬける怪物です。コワイ。
まあ脚で情報集めさせても交渉役さえいれば名探偵クラスなんですけど。
ちゃんと自前で鍛えたスキルですよ?
マリアは「大体のことは数学で解決できる」って言って実践してるやべー奴です。数学のスキル、というか演算能力そのものは天性のモノではありますが当然この辺の応用は自前です。
私の方針としては転生者もそうでない仲間も、”やべー奴に更に強いモノを持たせて無双させる”という方針でやってます。凡人が唐突に俺TUEEEではなく天才が努力した上にチートコード手に入れた感じが好き。
まあ、当初予定していた主人公の天才度より既に数段上になって来てますけど。
私の頭が彼に付いていけるか不安になってきています。




