第五十一話 確率論/爆弾発言は
「...何、今の」
ぽかん、という言葉がこれほど似合っている表情はあるのだろうか、という程に唖然としている面々を見て、俺は堂々と胸を張った。
「回復魔法だ!」
「「「んなわけあるかあ!!!!」」」
総ツッコミであった。
かくかくしかじか。
「魔眼の応用による人体構造の把握と回復時の修復を利用した構成制御?確かに理論上は行けるかも知れないけどそんなものが人間の魔力量で成立するの?」
カリオペが飽きれた声を出す。
「いや、まあ、俺もなんでこんな無茶な理論が成立するのか分からないけど魔眼が”行ける”って言うからさあ...」
「固有魔法の開発の補助にもなるのね、魔眼。...魔物化の治療が可能となると獣人達の対抗手段になるのかしら、貴方」
「まあ恐らくは。宣戦布告もしたし俺がターゲットになる可能性は高い...と、言いたいところだけど、そういった予想は苦手だからなあ...」
感情を含めた未来予測は俺の担当ではない。...誰だったっけ、思い出せない。
「心配しなくても王家がほっとかないわ。獣人国家との関係も、この大陸の国との関係も両方ある王国が獣人で構成されたテロ組織なんて放置出来るはずがないもの」
まあ、獣人の立場を下げかねない&獣人を認めているこの国の立場が崩壊しかねない事象だものな。
「それに、王家は王家の血を流そうとする輩に殊の外手厳しいわ。対抗手段の一つになる貴方...そこの貴女もね。当然囲い込むでしょうね」
「まあ、事ここにきて王家は面倒くさいなんて言うつもりは無いさ」
「貴方の御父上みたいにね?」
そう、父みたく...ってなんで知ってるんだ第四王女。
「やかましい。まー、今後の大体の戦略構想はこの襲撃で決定したし、雑にエレーナ先輩とお前、アイリーン、ネア、あとはカガミもかな。このあたりを巻き込んで進めていく感じかな」
言うと、カリオペはげんなりと、ネアとアイリーンは驚いた顔をした。
「え、わたくしもですわ?」
「寧ろネアをほっとくと思ったか?」
「いえ、その、戦力外と言われるかと...」
しおらしいネア。脳筋には似合わんぞ、そのポーズ。
「いや必要だろ。寧ろアイリーンに並ぶ最重要パーツだぞ。多分。まあ身も蓋も無い事を言うと、”教会”の戦力を王国の元で運用する、と言う事が重要になって来ると思うんだが」
するとネアの表情が変わる。年相応の少女から、恐らくは指揮官の顔へとだ。
「...成程。大義名分としてはこの上ないですわね。境界の強力と言う体勢を目せられれば周辺諸国の横やりも少ない、と言ったところですか」
「そこらへんの細かい影響は知らん。教会としてネアが動けるかどうかもな。だが少なくとも、デカいバックアップか、そう見えるハッタリが必要だ。この事件は...子供で解決するべきだ」
そう言いながら、俺は地面に転がる刺客の屍の一つを掴み上げる。
カリオペが行きを呑むが黙殺して顔をさらけ出す。
「...”人間”...!」
ネアが呟いた。
少々熱で変形しているが、少なくともそう見えるのは間違いない。
「まあ、そうだ。獣の因子がほぼ発現していないだけかもしれないがな」
遺伝子のあれこれはあるだろう。こんな組織に参画していると言う事は獣人の血は入っているのだろうし。
「ただそうではない。...ちと熱で歪んでるが、誰か思い出さないか?」
「...余り死人をまじまじと見たくはないけどなぁ」
赦せアイリーン。でも必要な事でな。
「...あ、門番」
「正解だ、カリオペ」
二重丸を上げちゃうぞ。
「なんかくだらないこと考えてない?」
「気のせいだ。そう、こいつは門番だ。”学園のな”」
アイリーンとネアが息を呑む。
そう、これは結構な重要事項だ。
「学園に勤める大人たちはどうあれその全てがエリートだ。なにせ王女様だろうと無防備に通わされるんだしな。王家、つまりは国家が身元と能力を保証した人物でないと清掃員ですら勤められない超難関だ」
どこぞのエルフ商人は例外。あいつ一応ちゃんと身元は保証された上であれだし。むしろ有名商会の長と言うには全く持って知名度が無さすぎるのだ。そこを隠せば身元と能力的に大体の職に付けてしまうのだとかなんとか。
「よって仕事の地位...というべきナニカは国家の役人と同程度...と言うのは知ってるよな」
要するに国家公務員だ。しかも日本で言う第一種クラスの。
「...それにねじ込める、と言うことは国家は信用できない、そう言いたいのね」
「そうだ。...カリオペ、お前ホントにAクラス?」
学年主席とってもいいんじゃないの?ってくらい知性を感じるぞ。
「王家はAクラスに入学しなきゃいけないのよ。あとまだ呼び捨てを許した覚えは無いわ」
「へいへい王女サマ。...話を戻すが、少なくともこいつらは国家の要職に付ける程度には暗躍しているってわけだ。今、獣人国家との関係もあるこの国で活動を開始したのにも理由があるんだろうな」
カリオペがハッとする。
「...まさか、この国の転覆、いや、この国を乗っ取ってほかの国への足掛かりとするため...!?」
「...そうなのか?」
沈黙。約三名からの呆れた視線が突き刺さる。
「...政治力学とか心理学は対応範囲外だ。まあ、言えることは大人は信用できそうにない、ってことだな。俺たちがメインで動かざるを得ない」
「...そうね。下手をすれば国家が動くことは予想済みでしょうし。対抗策、若しくは撹乱するための人員がいることくらいは予想してしかるべき、か。...でも、学生が動ける規模を超えてそうだけど」
「だから先輩を巻き込む。確かあの生徒会長の声はけっこうな人間を動かせるはずだ」
「確かに”学園”の”生徒会長”の肩書はそこらへんの貴族を上回るし、本人の能力的にもかなり無茶は効くわね。でも協力してくれるの?」
「ガリアスタの事件から構想自体は練ってたからな。生徒会に所属したあたりから殺し文句くらいは用意してある」
「...えっと?嫌な予感がするよ?」
アイリーンが言う。何を失礼な。
「家のスキャンダルをちょっと掴んでるだけだが?」
「「「なんでだよ!」」」
二度目の総突っ込み。解せぬ。
「え、いやだって人に頼み事をするときは相手の恥ずかしい情報の一つくらいは携えておけって...」
「誰だよその偏った情報源!いや、絶対カモミールさんでしょ!」
「まあ、そうだけど」
「やっぱアッシュの教育に悪いんじゃないかな、あの人...」
疲れたような顔をするアイリーン。
「カモミール...?」
不思議そうなカリオペ。まあ、どうせこうなればコイツとは引き合わせる必要が出てくるしいいだろう。
「七つの森の首魁だよ」
「え!?七つの森の商会長とつながりがあるの!?」
まあ、そうもなろう。あいつ、巷では”謎の商会長”らしいからな。
「ああ。一応、数年前から新進気鋭の魔道具造りとして奴のド...金貨箱をやらせて貰ってる」
ふん、と少し胸を張る。特許料は美味いぞ、はっはっは。
するとなぜかカリオペはわなわなと震え出した。
「ま...まさか、例の”黒の一座”は貴方の...?」
「ん?ああ、そういえばそんな風にブランド付けされてたな。...あの野郎、ネーミングセンスが微妙なんだよなぁ、なんだよ一座って」
事もなげに認める。面倒だから名前を広めるなとはカモミールには言い含めてあるが、まあ知り合いにばらすぐらいは問題ない。カーネリアンにも言ってあるし。
だが、カリオペはさらに震え出す。なんだこいつ、と思っていると、震えた口でか細く、
「その...ヘアアイロンには...お世話になってます...」
と言いおった。
「ふは」
思わず吹き出す。
くせ毛だったのか、こやつ。
「何よ。...女性が作ったと思ってたんだけどな、あれ...」
「美容系が多いのは金を出す人が多いからに過ぎん」
閑話休題。
「...成程。確かに情報、戦力、行動力と揃ってるようね。けど...それはそれとしてどう動くつもり?国の捜査とは別に、で動くのはかなり難しいわよ」
「だからお前だ。第四王女」
ニヤ、と笑って指差す。
「...う、嫌な予感」
「多分正解だ。お前には”お転婆王女”を演ってもらう。”ヒーローごっこ”と言い換えてもいい」
ため息を吐くカリオペ。
「はあ。つまり我儘を言って捜査権を認めさせろと。無茶苦茶ね。可能だと思うけど、そんなことまでして私になんのメリットが?」
「あれ、仇は討ちたくなるもの、と聞いたんだが?」
「...」
「それから、そうだな。見るからに大規模なテロ組織を潰したとしたら、まあ十分な”功績”になるんじゃないか...逆に、王権争いから逃れられるような、武闘派の...な」
ニヤ、ともう一度笑う。怪しい雰囲気を出したいならとりあえずニヤついとけbyカモミール。
「...はあ。あんたほんとに心理学苦手なの?」
「現実的に可能な選択肢を全部潰してるだけだ。別にここで断られようが最終的には首を振らせる」
「こわ。...わかった、わかったわよ。協力する。...で、いつから動く訳?」
「...それで、こいつに話が戻ってくるんだ」
つい、と未だ寝ている少女へ視線を向ける。
「...情報を得る、ってこと?」
「まあ、そうだ。ただ記憶があるかどうかすら不明だし、キメラ能力がどこ由来かも判らんのがなぁ」
最悪なんのプラスにもならん。まあ、そういう問題で助けたのではないが。
「...あれ、記憶のあるなしは分からないんですの?」
「人体実験は初めてでな」
...うん、何となくだが引かれた気がする。
俺は逃避気味に眠る少女の顔を覗き込む。
あどけない顔だ。
我ながら先ほどまでキメラだったとは思えないほど完璧に治療できている。
そこではた、と俺は思い至る。
顔にどこか違和感がある、と。
顔の特徴だ。顔がおかしい。
いや、醜いとかそういうアレではない。寧ろとんでもない美形だ。だが違和感がある。
ちら、とアイリーン、ネア、続いてカリオペを見やる。
三人とも三者三様に整った顔立ちだが、顔のベースには民族の特徴が出る。
もう一度少女を見る。...そうか。
やはり民族が違うのだ。
いや、ただ民族が違うだけではない。
民族の違い程度、この世界にも当たり前にある。と言うよりも地域ごとの顔立ちは地球世界のそれによく似ている。
ヨーロッパ風の顔立ち、中国、日本風の顔立ちもある。
だが。あくまで”風”なのだ。
この世界の人類は生物的には魔法などというものが使えること以外は地球人類とほぼ同じ生物だ。だが、その進化の道筋は、世界戦が異なる以上は全く違う。
よって俺たちは完璧な”欧米系の顔”ではないし、この世界においてそれは現われない...筈だった。
目の前の少女は確実に欧米の人間だ。と確信する。危惧はしていた。”俺以外の転生者”だ。
仮称”神界”で俺は転生させられた。女神(仮)が言うには複数の転生者が異なる世界に転生しているとも。だから同じ世界に転生者が来る確率は低いのだろう。だが、それが確率の、小数点の果てに在ろうとも、再帰性のある”技術”である以上、確率はいつか突破される。
目の前にその”確率”の果てが現れようとも不思議ではない....。
そう思い、身構えたとき。
少女がちょうど、目を覚ます。
そして、アイリーンとネアが少女に優しく話しかけようとしたとき。
少女は、言葉を発した。
予想して、しかし予想だにしなかった言葉。
「Where am I?」
それは紛れもない英語。聞きなれて、それでも苦手だった、かつての世界の言語。
その時、俺は強烈に予感した。
ーーーああ。
面倒なことに、なりそうだ。
どうでも良い補足ですが、この世界に実装されているのは肌や民族の違いではなく、”そもそもの種族の違い”です。厳密には”中華人”、”来陽人”、”西洋人”は全て種族が異なります。進化の系統樹が微妙に違う。
まあ、主人公どころかこの世界の学者も判ってない事なので”民族の違い”とほぼ相違は無い。
また、この理由もあって基本的に”ヨーロッパ系の顔”など地球の民族の特徴を持つ顔は生まれません。”西洋人”は”西洋人”の顔のベースがあり、例外は在り得ません。ハーフでも基本どちらかに寄り、顔立ちが魔あったりはしません。よって基本的に新たな顔立ちが発生することはありません。よって地球人っぽい顔が居れば確定で転生者です。が、違いは”種族”の固定観念がある以上どうしても認識し辛く、認識できるのは両方の顔立ちを知っている者くらいです。
尚主人公は”西洋人”に日本的要素が混じった顔をしています。が、当然気付かれることはありません。中華、来陽の血が入っているとも疑われたりはしません。あくまでも”種族”は”西洋人”なので。




