第五話 異世界学園入試/異世界来てまで受験かい!
その後のエピローグをくれてやろう。
俺は両親に割とこってりと絞られながら帰宅した。俺は巻き込まれただけなんだがと思わなくはなかったがそれはそれだ。
母は如何やら回復魔法の使い手でもあるらしく、腕は再生しなかったが、火傷でグズグズになった切断面を綺麗にしてくれた。傷のフレッシュさは大切だ。病気に関わるからな。
怒られた後、俺は二つ質問をした。
希望照らす光の聖剣とやらについてははぐらかされてしまったが...。もう一つ、何故あんなにも早くたどり着いたのか、についての回答は得た。
曰く、「いやな予感がして庭を観たら俺達が居ないことに気付いて」、「勘でこっちの辺りを走っていたらアイリーンを見つけて全力でここに来た」
だそうだ。
アイリーンを見つけた場所が妙に離れていた気がしたが...あいつも魔法の才能とやらが有るらしいし身体強化でもしたのかもな。知らんけど。
その後は質問攻めだった。腕について触れなかったのは彼らなりの優しさだろうか。まあ当の俺は気にしていなかったのだが。
兎も角俺は魔法について母から質問されまくった。
曰く最後の魔法と最初の爆炎しか目撃していないけれどもしや新しい系統の魔法でも発見したのかと。
銃本体は見られていなかったようなので土魔法と言う事で誤魔化した。
爆発は炎魔法と言う事で。
我ながら苦しい言い訳だが面倒ごとの予感がするので仕方がない。
て言うか爆炎を見て察するとか怖いなオイ。
で、誤魔化せたのか否か微妙なところで家に着くと、当然と言うかアイリーンに泣き付かれた。
心配と罪悪感とで押し潰れそうになった顔で泣きじゃくられると何も言えない。
ただ残った右腕で頭を撫でるのみだった。
そして、それから6年の年月が経った。
急展開?いや、仕方ないだろう。ひたすら修行して研究して勉強してたシーンを流して何になるのさ。
よってまあ、カットだカット。
特筆すべきことはあまりない。
両親とアイリーン父が過去、竜種を撃破したことを知ったり(三人としては恥ずかしい話らしい)、アイリーンがものすごいべったりするようになったことくらいか。
前者は親sを人間かどうか疑う羽目になったし、後者は...どうしようか。俺の肉体ももう思春期なんだが。引き離すと泣きそうになるしどうしろと。6年治らないとは思わなんだ。
ああ、今の状況を説明しなければなるまい。
今は、”学園”に向かう馬車の中だ。乗り心地は悪い。
地球世界中世において、学校と言うのは存在しなかった...と、言う訳ではない。大学と言った教育機関は11~12世紀にはぼちぼちと出来始めていたそうだ。とは言え、文字を読めない貴族がそこそこの数いたと言われている通り、現代日本の様な義務教育と言うよりは高等教育に近いモノなのだろう。恐らく。
で、この世界においての教育はというと、概ね地球世界と変わらなかったりする。他家に子供を預けることが無いくらいか。ただ、一つ大きな違いがある。当然、魔法の存在だ。
この国に、いや、この世界おいて魔法とは、半ば生産力、軍事力に直結する物である。よってあらゆる国は常に優秀な魔法使いを求め、また彼らを運用している。ただ、教育機関の設立前は、魔法使いは全てが独学の産物であった。各国は砂漠から砂金を拾い上げるかの如き所業を強いられていた。ならば、金の卵を国自ら育てようとなるのは自明の理と言える。
そして魔法は編纂され、体系化され、一つの学問となった。
今や”学園”は国にとっての重要機関の一つと位置付けられ、成績上位で卒業すれば最高級の栄誉と地位が約束される、ある意味で夢を叶える場であった。アメリカじゃないけど。
まあ、要するに魔法の才能がある子供はほぼこの”学園”...この国においてはアズワーツ魔法学園を受験するのだ。
因みに倍率10倍である。フザケンナ。
とはいうがこの国では”学園”と”学校”の二種類が存在し、”学校”は一般魔法...要するに学園より下位の教育を行うのだが、”学園”と”学校”は合同で試験を実施する。
まあそっちも落ちる点数だったらどうしようも無いがそっちまで含めると倍率は1.5倍になる。
まあそれは兎も角として、だ。
受験である。
..........受験である。
現代日本の戦争、人生の転換点、多くの子供の心を惨殺してきた凶悪犯、受験。
俺は一応中高一貫校の出なので、転生挟んで通算三回目の受験である。
まあ人によっては中高大院の四回受験するので(浪人は一回とする)最高記録ではないが、まあ二度と触れたくないものにもう一度頭を突っ込む羽目になったわけだ。
まあ、語学は無いし理科もオマケかつ数学も小6の方が難しい気がするのでそこはいい。
歴史も割とどうにかなった。
問題は”呪文学”である。
基本、”学園”は実技で魔法の実力を判断する。
この世界には無詠唱や祈祷魔法と言った、覚えている呪文量からは判別できない実力が存在する故だ。
しかし、だ。当然知識や知性も問わねばならない。魔力の強いだけの馬鹿は魔物と似たようなものだからな。
よって基礎学問と言える、数学理科歴史を問う訳だが、その他に常識としての”呪文”が問われる。
それが問題だ。呪文など俺にとっては胡散臭い宗教の長たらしい説教の文言とそう変わらないのだ。
何をどう覚えろと。
「無詠唱でいろいろ出来る割に呪文の覚えが悪い」
とは母の言だ。うーむ。
まあ6年でどうにか覚えた。
また、それと並行して様々なことをした。
先ず剣の修行である。熊の一件から俺は近接戦闘の必要性を学んだ。
基本、戦闘距離と言うのは時代を経て遠くなるものだが、遠距離からの火力投射に耐えられるなら寄って来るよなそりゃあ、と言う話である。よって今後どんな目に合うかは知らないが近接格闘能力は盛っておいて損は無いと判断した。
父を超えるぞ!
父は剣だけで竜と一時間は張り合えるらしい。
ムリ!
となったが、まあ同年代よりは強いだろう。実はアイリーンにも勝てないが....。
次に魔法...魔法もどき、俺命名《物理魔法》の研究である。
アイリーンにはバレたこの魔法は、スキル(こっちもバレた)と併用すると俺の想定を超える応用性を見せた。
簡単に言うと、3DCADと物質なら何でもどんな状態でも印刷できる3Dプリンタの組み合わせである。しかもスキルが顕微鏡代わりになるので精密な作業も時間さえかければ可能である。
俺の脳が疲弊する弱点を除けばほぼ完璧と言って良い。生産職になろっかな、ぼろ出そうだけど。
まあ、母には俺は戦闘魔法より魔道具生産が得意な魔法使いと思われている。普通の。
アイリーンにばれたのは部屋でこっそり精密機器を作っていたからだ。なんで鍵持ってんだよ俺の部屋の。
尚、俺がアイリーンに物理魔法を教える事になったことを付記しておこう。
彼女は聡明とまではいかなかったが努力家ではあった。魔法が基盤となったこの世界では想像もつかない術理をある程度理解してくれた。
...ほぼ転生してますと言っているような物の気がするが言っていない。というかバレなかった。
どうもスキル自体はたまに持っている者がいるようなのでそれで見つけた法則として誤魔化せたらしい。
話がそれた。そんなこんなで俺はあるモノを作っていた。
それはアイリーンの献身と魔法側の人間であるからこその発想に支えられ、出発前夜に完成した。
それはーーーー
「アッシュ、学園が見えるよ!!」
おっと、馬車の揺れの中当然の様に寝ていたアイリーンだが、いつの間にか起きていた様だ。
彼女はこの6年で、下馬評通りの凄まじい進化を遂げた。
気の強そうなツリ目はそのままに、絹を超える髪は一層美しく、ちびっこ特有の筈の卵肌がそのまま残り、顔立ちは最早黄金比すら霞むほど。一瞬俺ですら神の存在を受け入れそうになる,,,いやそんなことは無いのだが、それほどに整っていると言って良い。
体つきはとても同い年...14歳とは思えない程メリハリがつき、薄っすらと見える筋肉がその整いを際立たせている。
絶世の美女と言う言葉すら惜しい...かもしれない。少なくともこの旅の途中でも結構な数の男を魅了していた(手を出そうとした奴はボコボコにしてやった。)
そんな、気が早くもう既に学園と学校の共通制服を着た彼女は、馬車から身を乗り出して学園を指さしていた。
「止めろ無防備すぎるパンツ見えるだろアホウ」
とまあ、お転婆は治らなかったが。
「はあい」
とニコニコしながら戻って来るアイリーン。少しは恥じらえ下着だぞ。
どうでも良いが地球世界と比べてこの世界は貞操観念が割と現代に近いほうだ。貴族女性が当然の様にミニスカと言うと歴史考証の人にライダ〇キックされそうだがそうなんだから仕方ない。
変なところだけ時代が進んでいるのはこの世界の特徴かもしれない。衛生観念も高いし。魔法のお陰だけど。
「ったく、緊張感がないな」
明日から受験本番だというのに。
「大丈夫でしょー?、だってアッシュと私だよ?」
自信満々である。まあ過去問満点×2で慌てろと言う方が無理か。
尚アイリーンは文系の様だ。数学が苦手だったが小学生の算数より中学生の数学で解いた方が簡単だったりするのは良くある話、つまりそう言う事だ。
「それにしても間に合ってよかったねー、それ」
アイリーンは俺の左腕を指さした。
今の俺の左腕はカラじゃない。しっかりとモノが存在していた。
そう。これが俺の6年の結晶である。
最初に、学園の実技テストが模擬戦と聞かされてから、自分で作った魔道具の持ち込みであれば許可されると聞いてから、俺はこれの制作をしてきた。
《偽・魔導義手・白銀の絡繰腕》
それは俺とアイリーンの努力の結晶。
恐らくアイリーンが「ミスリルとアダマント、魔鋼を使う」というアイデアを出さなかったら今頃倉庫番になっていたモノ。
そう、この義手は科学の結晶だが魔法の産物でもある。
魔導銀は疑似神経に、魔導金は動力炉に、魔鋼は駆動部に...。アダマンタイト合金は動力伝達(常温超電導ってマジかよ)、ミスリル・魔鋼合金は一部装甲に...。と、ゲームの存在を使いまくった。
「それも出せるならそれで食べていけるんじゃないかなぁ...」
とはアイリーンの言だが論点は其処ではない。
この元素を地球に持ち帰りたい衝動が俺の内で溢れた。
この元素、地球にあれば文明レベルが四つは引き上げられる超物質である。
この腕に使われているだけで、アダマントは超小型核融合を可能とし、オリハルコンは超電導、ヒヒイロカネは物理衝撃のエネルギー変換等々...。
一応もう一度言おう。俺は魔法らしい魔法は使えない。氷の剣なんて出せないし、葉っぱで鉄を斬るなんてできる訳がない。
これはあくまで素材特性から生み出した技術だ。地球での机上の空論をいとも簡単に実現する下地がここにある。
「...この話がSFになってても可笑しくないな」
「えすえふ?」
おっと言葉に出ていた。
あー、この義手の機能は...実技テストで使うしその時まではナイショだ。
「いや、何でもない。あ、そういえば宿は取ってあるんだったよな?魔導伝書..だったっけ、あれ使って取れるって言ってたけど」
魔導伝書とは、簡単に言うと100km飛んで目標地点に絶対に命中する紙飛行機である。雨に濡れるとアウトだし高価だが、こういった際に非常に有用なモノである。
「うん、取ってるよー、流石に最高クラスじゃないけど、アズワーツ学園のすぐ近く」
お転婆のママだが気の利くようになった。と言うか気の回しすぎな気はする。俺は俺で準備すると言った時にはもう遅かった。まあそれで一等地をゲットしてるんだから文句は言えない。
暫く俺たちはそんなとりとめもない会話をしながら馬車に揺られていた。
すると、馬車は何事も無く、学園と学校のある都市...ジュワローズ学術都市へとたどり着いた。
..........。
「なんで二人で一室なんですかねえ!!?」
事件発生、と言うか事案だろこれ。
良くある宿側の取り違え...ではない。曲がりなりにも貴族が泊まる宿。可能性はないでもないが、只では済まない可能性の方が高い以上妙な代替案は出すわけがないし何処かで気付く筈。
つまりアイリーンの悪だくみである。
「てへっ☆」
いやそれ古いよ!!こっちじゃ最新かもしれんけど!
「こいつ...」
思春期の男女が密室に二人。
何も起きない筈がなく...。
なかった。
「じゃ、俺はあっちで寝るから」
「あ、はい」
俺は!もう中身30代!(肉体の問題か精神性は変わっていないっぽいけど19と言い張っても日本基準犯罪である)
...と言うか試験前に何かあったらダメでしょ。
主人公はヒロインちゃんの恋心に気付けません。
共感することができないと言うか一切空気が読めないのを無理やり経験則でごり押してるので恋心は理解できません。
多分押し倒しても無理。性欲が無い訳ではないですが、理性と言うか人格を自分で作っている以上めったなことは出来ない。彼自身から恋心を学ばせるか、告白ぶっぱ以外に方法は無い。
ある意味誘惑が不可能なのでそこは安心。
制服ですがブレザーとセーラーの中間みたいな感じ。ファンタジー制服なのでローブ風でもある。
学園と学校が制服一緒なのはコストの問題。でもネクタイ、リボン、帽子で差が出る。金のラインがあしらわれている。
当然、エリートの証として振り回す奴はいるが、事情を知っているとちょっとマヌケ。
なにせパートのおばちゃんがちゃっとつけやすいというだけで選ばれている。
魔法金属について
地球世界には存在しない金属元素です。元素には規則性がありますがどれが超電導とか核融合に必要になるかがわからないので原子番号何番に当たるかは言いません。ただまあ、原子番号に小数点以下が存在した、と言う仮定。
因みに地球の19世紀位に見つかってたらイスカンダルの協力なしで今頃フルスペック波動〇付き宇宙戦艦ヤ〇トが完成してます。その位のヤバい奴。でもこの原子が存在する宇宙では文明が発展しえないのです。当然主人公一人でそんな技術革新は出来ないのでこの話はSF足りえません。核融合炉が作れたのは偶々に近い。