第四十九話 聖剣抜刀/もう一つの聖剣
「GUAAAAAAAAAAAAA!!!!」
アッシュと入れ替わり、躍り出たわたしを出迎えたのは、怒りの咆哮と雷だった。余程鬱憤が溜まっていたのか、一番の威力を秘めて。
普通に受ければ即座に灰になりそうなそれ。
でも、わたしには”コレ”がある。
「ていっ」
”アーバン”のリングを引き絞る。
かちん、と握りの窪みに嵌った瞬間。
バシャン!と小気味よい音を立てて、各部のパーツが展開する。びゅわ、と独特な音と共にその間を魔法の膜が埋める。
その姿はさながら傘の様で。
しかしそれは盾だ。わたしからすれば無敵とも思える程の、頑強な。
ばりばりばりぃ!
雷が盾に突き刺さる。
すごい。全く持ってびくともしない。
重さも無いからすこし防御にコツはいるが、わたしの魔力量の前では全く持って貫かれる気がしない。
「ん、いけそう」
飛び掛かり攻撃を軽く逸らしながら呟く。
人間相手より単純な分こっちの方が楽かも知れない。この大きさなら”アレ”も有効そうだし。
やるか。
「ふぅ...すぅ...はぁ...」
深呼吸と共に魔力を高めていく。
”これ”ばかりはこの作業が必要だ。大概の魔法...魔力量だけであれば”超級”の魔法もぽんぽん放てる程あるが、それでもこれには当てはまらない。使用条件、燃料とするのはわたしの全魔力。1でも1万でも等しく全ての魔力を燃やす魔法。
一応はアッシュにすら秘してきた魔法だ。いや、魔法と言う概念にすら当てはまらないモノだ。
がん、がん、ずばばば!
不味いモノだとわかるのか、キメラが必死に攻撃を仕掛けて来る。
だが、結局は届かない。
それだけこの左手に握る盾は堅いのだ。
「「「『GUAAAAAAAA、GYAAAA』!【GTA!!!!!!!】」」」
その時、しかし状況は変わる。
魔法をキメラが放った。
暴風が、雷撃が、猛毒の奔流が溢れ出す。
「ッ!」
しまった、という程でもない。盾は全てを防ぎきるし、回避に辛いと言う程の密度でもない。
しかし、集中は乱された。
わたしは”これ”を使うにあたってまだ未熟。地に足を付けて詠唱しなければならない。故にこの状況、例え少しであろうとも、動いての回避をしなければならないこの状況は非常に不味い。
だが。頼もしい、けれどもわたし自身の力で決めようと思っていたわたしにはちょっと悔しい声が響く。
「【夢想印刷】!更に【何を掛けてもゼロ】!」
ふ、とわたしを襲う魔法が消え去り、がごごん、とキメラの動きを止める様に金属塊が覆い隠す。
「アッシュ!」
思わず叫ぶと、彼はわざわざ仮面を外してニヤリと笑い。右手に持つ剣をわたしへと放り投げた。
「かましてやれ、担い手」
「!...わかった」
やっぱばれてたかあ。一応隠れてこそこそ練習して、ここぞと言う時に驚かせたかったんだけど。
まあ、仕方がない。
はし、と私は剣をつかみ取る。
何時の間にテントに寄ったのか、それはちゃんと私の愛剣だった。
銘を”白の巨剣”。通常の両手剣の3倍近い重さとわたしの身長を大きく超える長大な刀身を誇る巨剣だ。高性能な魔剣ではあるがその全てはシンプルな強化に注ぎ込まれ、”ひたすらにただ折れない”。
巨剣にして剛剣。それがこの剣。
「『輝ける全ての頂点よ』」
じゃき、と未だ金属塊に埋もれ呻くキメラへと切っ先を向ける。
「『天地開闢の租たる裁光の神よ』」
ゆっくりと剣を掲げていく。大気が渦巻く程の魔力を纏い、少しずつ剣が”重み”を増す。
「『我が剣は断罪の刃』」
きらり、と刃を透かすように光が灯る。
「『我が剣は赦しの刃』」
その光は刃を満たすように広がっていく。
「『正と負を裁き導く。故に我は全てを視よう。与えたまへ。示したまへ。これは、未来を切り開く一撃である』!」
光は収束していく。剣のかたちを変えていく。
薄く、鋭く。細い、あり得ざるべき平面へと。
「『未来への標、』ーーーー」
きん、と光の揺らぎが収まった。
鋭く研がれ、束ねられた光は、光だと言うのに水に濡れたかの様。
それは神々しさを身に纏い、振るわれる時を待っていた。
だから。
わたしはそれを振り抜く。
「『開闢の刃』!!!!!」
しゃん。
剣が、大きな力が振るわれたとは思えない、ささやかな鈴の音。
しかし効果は劇的で。
ぴ、と。
キメラの身体に線が描かれる。
そして。
「「「GA?」」」
あっけなく、その身体はふたつに別たれた。
これまたちょっと引っ張った”聖剣”。アイリーン・ソラウと言う名前は一応伏線だったんですね。うん、下手。
まあ兎も角クラウ・ソラウについて解説を。
要するに、概念的な”切り離し”です。ヒットしたモノを二つに”分ける”ことを強制します。物理的にはパッカーンです。ヒットした時点で幸運値で真っ二つになるかどうかの判定が入ります。防御力とか関係ないので単純に運が悪けりゃ死にます。レジストに要求される幸運は放った側の魔力依存。つまりアイリーンが撃つとメッチャ高確率で真っ二つ。ただし、もう一つ判定に影響する値が存在し、それが”カルマ値”と呼ぶべきモノ。これはまあ、受けた対象が今までの人生でしてきたことに左右され、これが悪行に極端に偏っていると幸運にマイナス判定が発生します。幸運100が60になったりするわけ。逆に善行によっていると(少し甘い評価)強制的に真っ二つな確立がゼロになります。悪人だけぶった切る剣。でも無機物は常にカルマ値が0、善行も悪行も無いのでまあ確率で皆パッカーンするやべー剣。
因みに放つ対象の状況によっては更にいろいろなモノが”切り離され”ます。
善悪の二面性とか、まあ色々。場合によっては肉体に傷一つ入れずに目的のモノだけ切り離すなんて言う芸当も出来たりできなかったり。そこらは次回。
主人公はそこら辺の使用を理解しています。がっつり研究出来る位にはアイリーンの練習はバレバレだった。




