第四十七話 三頭合成魔獣/ショーダウン・メインディッシュ
「が...はっ」
狼男が崩れ落ちる。
全身に穴を穿たれて。
同時に魔道具も破損したのだろう。霧はいつの間にか晴れていた。
「な...ぜ」
ヤツの口からは疑問が漏れた。
「近接攻撃ならいざ知らず、派手な音をかき鳴らす飛び道具如き、避けられると踏んでいた、か?」
なぜ迎撃には正確な位置が必要だとヤツが吠えたのか、それは奴の能力値が回避型だったからだ。
この世界の魔法には、いくつか”特質”が存在する。
攻撃型では主に、”火力型”、”速度型”、特殊型の三つ。
当然、敵の戦闘法によって愛称が出て来る。こちらの攻撃を回避してくる相手には”火力型”の中の派生形、”範囲攻撃型”をぶつけるのが定石である。だがそこでまたこの霧が厄介になって来る。この霧は見たところ”範囲攻撃型”系統を減衰させる効果を持っていからだ。呪文に出てきた『燻る灯』はこれを指していると言ったところか。ではどうするかと言うと大抵は”速度型”の”高弾速型”を使う。だがまあ、これは往々にして低威力、小範囲である。こうなると弱点狙いが必要。そう、回避型、ましてや霧の中ではすこぶる相性が悪い。希少な”即着弾型”はその全てが光魔法か雷魔法。やはり霧と、まあ物理的に相性が悪い。
総じてこの魔道具はこの狼男...若しくはその集団に特化した調整をしている訳だ。厄介極まりない。
しかもだ。よしんば”高弾速型”を連射でもして弾幕を張ったとしよう。
奴は避ける。
この世界、速いと言っても、例え中距離程度の間合いですら(そもそもの反応速度限界が地球生物より速いようであるが)生物の反応速度限界を超える速度魔法は著しく少ない。
そしてヤツの優れた耳。
雑に撃ったところでまず当たらない。
だが。まあ。解決方法は、それゆえに非常にシンプルだった。
「は、田舎者め、知らなかったか?遅れてるぜ」
あえて馬鹿にするような声を出す。
かちゃかちゃとアグレシアをもてあそんで。
”遅れてる”。こいつの様な速さを生業とする...ましてや暗部の様な職であろう、情報を大事にしているであろうモノには効くだろう。
「こいつの弾丸は音より速いんだぜ?」
軽い調査程度ではあるが。
この世界の文明にはまだ、音速の概念は存在しなかった。
一部の雷魔法等それこそ”即着弾型”は音速どころか光の速度だが、光に”速さ”を当てはめる気がない。
中間の速さがないといけないのだろう、恐らく。だから、音速以上の弾丸は初見殺し足りうる。
時速約1300km。散弾の平均飛翔速度である。音速が時速1200km付近なのでたった100km/h程度の違いだが。
それでも音より弾丸の方が速く的に届く。
霧の中、音を頼りにしていては先に届くのは鉛玉のほうだ。
「音より、速い...?」
理解できていないであろう狼男が呆然と呟く。
まあ見えない音に速度があるとか考えてないだろうしな。光だって秒間に30万kmぽっちしか進めないと言うのに。
「ま、そんな訳だ。無知を呪えよ、狼男」
じゃこ、と銃を回して、銃口を狼男の額に向ける。そして無慈悲に引き金をーーー
「ッ、仕方ない、やれ!実験獣!」
その時...襲撃から、一度も微動だにしなかった...最早その場にいた者のほぼ全てから存在を忘れられていた者...小柄な女が進み出る。
緩く歩くように、しかし高速で、だ。
そっさに剣を振る、と吹き飛ばされる。
「爪...か」
実験獣と呼ばれた女の右腕が肥大化し、鎌の様な爪が生えている。
「...オオアルマジロか。妙なところを持ってきたな」
要するに爪がデカいアルマジロである。ならばこの女はアルマジロ獣人...と言う訳ではないだろう。
「解放しろ」
「!.....VUAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!」
狼男の指令に呼応し、身に纏う装束を破り裂きながら女の形が変わっていく。脚は豹...恐らくは魔物、”雷電青豹”、尾は蛇、石化鶏蛇の尾部分、前足はアルマジロではなく剛腕大猿の腕、強風大鷲の翼に暗黒狩狼の頭、獣帝獅子の頭、海狼大鯱の頭を獲得。
三頭合成魔獣とでも言うべき、恐るべき魔物の合成体へと変貌した。
「なんとなく、”そうなんじゃないか”程度には予感はしていた。...あの薬、魔物化薬は人間だけが”魔物に変化する”効能を作り出す要因じゃないとな。何か、”基になった何か”があるとは思ったが...”コレ”か」
思わず声が漏れる。
冒涜的な話じゃないか。魔物に、自由に変身できる...人間を材料にしていたとは。
恐らくは、いや、十中八九こいつが原型。こいつの...細胞か何かをつかって服用者を乗っ取らせる。薬、薬液自体はこの細胞を制御、活性化させるオマケ。この魔物人間の細胞が本体。つまりはある意味における細菌兵器!
「ほんとうに...察しがいい...。面倒なあいてだ。...だが、こいつに勝てる訳がない。判るのだろう?こいつはほぼ無制限に魔物の力を使用可能。更には攻撃を喰らえば肉片が体内に侵入、速やかに魔物化する」
「そこは嘘だ。制御が効かない以上魔物化はしない。一部生体機能が歪められて攻撃された部位が使い物にならなくなるだけだ。...性質の悪い毒だな」
「ち、見ただけでそこまでか。本当に面倒な。...で、勝てると思うのか?俺も...まだ動けるぞ!」
じゃき、とナイフを一本、ヤツは構える。
ち、回復薬を隠し持っていやがったな。
仕組み上完全回復は出来ないが、見た目上傷は無くなっている。被弾するまでは完全回復と変わらん。
このキメラにかまけていれば後ろにいる連中を殺す、ということだろう。
まあ、確かに雑な広範囲攻撃は現在厳禁である。事情はいろいろあるが手持ちの範囲攻撃でキメラを撃滅しえない以上、向こうの行動隠しになりかねない攻撃は不可。
よって面倒な戦闘に、しかも集中させないと言いたいわけだ。さすが暗殺者きたない。
まあ、でも。
この状況程度、予想しているとも。
「ごめん、遅くなった」
「ホントだぜ、まったく」
「ち!くそ、その女もか!」
アイリーンが立ち上がった。
回復魔法で毒による状態異常を治すのは困難である。
似たような症状の病気に、しかしそれぞれに違う特効薬がある様に、同じ麻痺毒でも、それぞれ無毒化の魔法は微妙に異なる。
この性質は非常に厄介で、故に魔法使いの暗殺に毒がよく使われる原因でもある。王族で魔法使いともなれば毒の対策のために何百もの解毒魔法を覚える程だ。
だから解毒に時間がかかったのだろう。大体の方向性は”経口摂取の解毒薬で俺が簡単に解毒できた”というちょっとしたヒントで誘導しておいたが。解毒に経口摂取か血液注射が必要かで系統が大きく変わるからな。
「じゃ、狼さんはわたしが持つね。わたしでも追いつけるでしょ、多分」
余裕だろ、正直。
「じゃ、この哀れなキメラは俺が躾けよう。何、迷子の迷子の子猫ちゃんをハウスさせるだけさ」
お犬のおまわりさんと違って優秀だからな、やってやる。
とこの世界では通じない冗談を言って俺はアグレシアの銃口をキメラに向ける。
「さあて、と。演算の時間はここで終わり。条件式も、定数も、乱数表も出揃った。ま、行動表が組み上がったと言い換えてもいい。あとは再現するだけさ、人力でな」
アクションゲーム系のRTAは元々得意分野だ。世界大会を人力乱数調整で時たま荒らしていた”鳥烏”とは俺のことさ。...TAS疑惑が出たり、記録が殿堂扱いされて萎えたけど、この世界なら時効だ時効。
「さあさあ、やっていきますかリアルタイムアタック。はーじまーるよーってな。ここまで来れば英雄的な役割も必要ない。ちょっとした実況尽きで...効率的にぶち殺す」
主人公の生きていた2050年代ではVRゲーは一般です。マ〇オとかは画面操作だけど、スマ〇ラとかはVRです。2D格ゲーだったのが創造神の交代後、ダイブ系VR機体を本世界の任〇堂が出したことでVR化しました。多分200キャラ位居る。キャラ覚えるのが世界一大変な格ゲーと言われている。
主人公が最も得意なのはスタンドアローン系VRアクション・RPGゲーの再興到達点とも言われている”フラッシュ・メガスピード”というタイトル。イメージはソニックとモンハンと無双ゲーとアーマードコアを合わせた感じ。超高速でステージを駆けまわりながら銃とハルバードが合体した武器を振り回す人狼系サイボーグが主人公。性別選択ができるうえ主人公の体型が性別で結構違うものが結構違う珍しいゲームだったりする。
RTA的には女性、小柄でグラマラスにするのが定石。当たり判定は小さいわりにパワーが少し高くなる。
速度低下はするが少し。諸々を含めるとデメリットは無い。
交配した未来が舞台で、地球を実効支配、地球人を家畜化している宇宙人を最後の戦士たる主人公が根絶やしにするエログロが濃密にぶち込まれたストーリー。強制ムービーシーンは一切無く、ステージ選択画面から見れるサブストーリーを除けば一切ノンストップでクリアできる。
唯一の低評価点が初期版だけR18で発売されたことと言うレベルの超大作。RTAは全年齢版のほうが早いです。
ただこのゲーム、RTAで理論タイム叩き出すにはレベルアップで貰えるポイントで速度をカンストさせなきゃいけないが、そうすると人類には制御不能と言われるまで達すると言う、タイムアタック勢にだけは鬼畜を超えた難易度をたたき出す。
現状、カンストまでわき目を振らず速度を取り続ける理論値チャートを成功させているのは主人公一人だけ。VRだろうといるTASさんに0.62秒まで迫った猛者。
尚理由は終盤に入るまでは速度が育っていない事を考慮されてギミック等の密度が多めなため。速度カンストしてるとワールド1と2が詰みレベルの鬼畜難易度となります。




