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異世界学術論~結局のところ物理が最強~  作者: N-マイト
第二章 解放宣言編/悪意と正義は矛盾せず
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第四十四話 悲哀恋愛/恋人は、思いは、その価値は

元々、鬱屈とした人生だった。


”大国”とは名ばかりの張子の虎、そんな落ち目の国の第四王女。

ああもう、それだけでもくそったれ。


王位継承戦なんて言う勝手も然程実のない血みどろの諍い(はらぐろたいせん)に中途半端に踏み込んだだけの存在。

でも、それだけならましだった。


中途半端なことに、私は魔法が上手かった。

雷魔法、炎魔法、水魔法...速度、攻撃力、回復力を備えた生まれながらの天才少女(エキスパート)。それが私の立場に水を差した。


継承戦の影が薄い可哀そうな小娘から、兄、姉たちに影を落とす邪魔者に。

ああ、一体どれだけの嫌がらせを受けたのだろう。

得意なのは攻撃魔法だったが、一番助けられたのは水の回復魔法、とりわけ解毒の魔法だ。


我が国の継承戦は色々と特殊。

女性でも、幼児でも、何人いようとも全くの平等に継承権が与えられ必ず諍いになる様に仕向けられている代わりに、明確に殺人が禁止されている。

継承戦の最中に不審死が出ればその後は...まあ、色々と不味いことになる。証拠がなくとも。

けれど、例え小娘であろうとも明確な”才能”を持つ者は排除したい。そう言う時に使われるのが違法な”呪薬”...病原薬(シッカスン)だ。あれは()()()()()()()()()()()()()()。それも死なない。

継承戦に持って来いである。


それが私よりも有力視されている王子や王女ーー7人もいるーーからかわるがわる仕込まれるのだ。


最初の二、三回は引っかかったが、それ以降はあからさまな”贈り物”には手を付けていない。


死の危険はない。けれど悪意は常に背中に突き刺さる。

そんな地獄の様な環境で、私は彼と出会ったのだ。


十歳の夏。その出会いは偶然だった。

一般に”魔法派”と呼ばれていたーー不本意にも私の派閥だーー派閥のパーティで、同い年だから、派閥の公爵家だからと引き合わされた男の子。

彼は傲慢で、意地っ張りだった。


ーーそして、彼、ガリアスタ・ガリオンもまた、天才だった。


剣が、魔法が。私に剣は分からないし、身体強化も不得意だったからその時はあくまで感想でしかなかったけれど。私はたった10歳の彼の剣に、そして彼の剣の鋭さを増す魔法に憧れた。


一目惚れだった。そう言って良い。


それからは何かと彼に会った。婚約の話も、彼すら知らないだろうけど、実は私から仕込んだもの。


一度も、彼の眼に私は映らなかったけれど...それでも、私は彼が好きだった。


学園を受ける春。

私は彼の躍進を疑っていなかった。


上には上がいる。そんなことを理解しない私じゃない。今年は救国の英雄の息子、それもとりわけ優秀な子が来ると聞いていたし、その幼馴染の、もう一人の英雄の娘とやらも来ると言う。けれど、彼はそれに次ぐ。そう疑わなかった。


王家の人間は”必ずAクラスにならなければいけない”。SでもBでもなく、A。そんな変な慣習があるせいで、Sクラスになるであろう彼と、少し時間は減るけれど、それでも共に学園生活を送ることを楽しみにしていた。



でも、そうはならなかった。


おかしいとは思った。


試験会場に立つ彼の顔が青かった。アイリーンと言う、例の英雄の娘。彼女にたった一撃で、他の受験者とまとめて倒された。


ああ、体調が悪かったのかな、とその時は思った。

これではあまりいい成績とはならないかも知れない。けれど、定期試験など、クラスを上げる方法はほかにもある。どうにか支えて行かなければ、と思った。


でも、現実はもっと最悪で。


廃嫡。その言葉を聞かされた私の頭からはさあ、と血が引いて行った。


曰く、救国の英雄の娘に手を出そうとした。

曰く、救国の英雄の息子に違法決闘を仕掛けた。

曰く、断られたからと強硬手段に出た。


到底信じられない事だったが、けれどガリオン公爵はそのような嘘は吐かない。

婚約は当然破棄。

なぜ、どうして。そんな疑問が頭に浮かび。

救国の英雄の娘...アイリーンと。

救国の英雄の息子...アッシュ。

彼らへの怒りが浮かぶ。


それでも、そんなものは一瞬だった。


ああ。彼の瞳の中には、本当に私はいなかったのだ。


そんな悲しみが、そこにはあった。



それでも、せめて学園生活で支援を、と思った。

もう二度と、表立って話すことはできなくなってしまったけれど、こっそりと。

少しでも彼の慰めに。そう思った、矢先。


最悪は、連鎖する。


私には有能な付き人が居る。彼女の名はトーレンス。少し男勝りだが常に冷静で、頼りになる女性だ。付き人といえ学園に入ることは出来ないが、城は継承戦の真っ最中。命とかその他諸々の為にもさまざまな情報収集を任せていた。


だから知りえたのだろう。


彼、ガリアスタの死を。


「その、ガリアスタ様は...魔族に変貌を遂げ...アッシュ・クロウによって討伐されたそうです」


今度こそ。私は冷静さを失った。

今度こそ、私は強い恨みを抱いた。


何故彼が。

何故彼が死ななければならなかったのか。


彼女の情報は断片的だった。恐らく機密情報だったのだろう。

私には詳細は知りえないことだった。

彼は傲慢で、少し解釈が利己的だったりしたかもしれない。けれど、彼は女性を誘拐するような人でも、乱暴するような人でもなかった。

そもそも放っておいて魔物になるような人間はほぼいない。狙って学園内で魔物化なんて普通はしない。

だからこそ、この事件には黒幕が居ることは理解していた。

だからか、アイリーンと言う子が被害者であることは、何故か直ぐに納得できた。


ああ。けれど。直接手を下した、アッシュ・クロウ。彼はどうしても許せなかった。


愛する物に手を掛けた。そんな彼の行動に、どうしても私は怒りを覚えた。


けれども、もし彼が、少しでも罪悪感を覚えていたのならば。私はこの気持ち(怒り)を抑え込もう、と思っていた。どうしようも無い状況だったのは間違いない。彼すらも、ガリアスタに掛けられた陰謀の被害者なのだ、と思っていた。


けれど。


あいつは何とも思っちゃいなかった。


「ん?ああ、死んで当然とは言わないが、仕方のない話だろう。...なぜ俺に聞く?」


こっそりと、「ガリアスタ様がお亡くなりになったと聞きまして...その、どうお思いでしょうか」そう尋ねたその日、あいつはそう切り捨てた。私が黙っているとすぐに興味を失い去っていた。

疑問は、恐らくは”緘口令が敷かれているはずだが?”程度の者だったのだろう。”関係者”なんて思いもしなかったのだろう。


私はそれが許せなかった。


無表情で、ああ、隣町の誰も知らない奴がしんだと言われてもな、と言う風に。全くの無関心。

アイリーンに同じことを聞いたら、「...その。...悲しい、話です」と返された。たぶん、私が彼の知り合いだと言う事は分からなかったのだろう。いや、だからこそ加茂知れないが。明かせない情報を言わないよう、言葉を選んでそう言った。


百歩譲ってアイリーンは赦してやろう。けれどアッシュは許さない。


その後、あまつさえアイツは生徒会に入会した。

それも会長に気に入られて。”最高の回復魔法使い”。学生の身だと言うのに、そんな二つ名を賜る彼女に。


ああ、なぜ、よりによっておまえが。


私の愛する人を殺したお前が!


逆恨みなんてわかってる。

けれどあいつが許せない。

自然。あいつにはキツイ態度を取った。


だが、あいつは私にとって最低以下だった。


「だったらなんだ」

「俺に何の非がある」


堂々と言い放った。


ああ。言わなくても解る。お前が言いたいことはこうだ。

『正義は我にあり。故に殺すことは当然だ』

瞬間、私の頭は沸騰した。

咄嗟に魔法を放つ。意図せず、ガリアスタの得意だった魔法の一つを。


それを、あいつは魔法も使わず完封した。

一撃を腹に。

止められなければ、次は蹴りを頭に喰らっていただろう。


冷えた目で。


私こそがゴミである様に。




会長が仲を取り持とうとするのは分かっていた。

あいつと課外授業の班が同じになることも。

私は会長の企みも、あいつの行動も全て阻害した。

最早恭順はあり得ない。


だから、この課外授業...”にゅーびー☆さばいばる”とかいうふざけた看板を掲げられたこの授業で、私はあいつを黙殺することにした。


だけど。

現実は非常である。


そう。


私を苦しめる事件は。更に続く。

ちょっと忙しくて更新頻度がおち気味です。書かねば。


まあ、はい。良いですよね。重い女の子って。

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