第四話 突発的魔法教室/異世界バトルは物理と物理
アイリーン・ソラウ。彼女はお転婆な女の子である。
剣術が好きだし、貴族故に許されないが基本野を駆け山を駆けるほどにエネルギッシュな女の子である。
よって今日も存分に駆け回って遊んでいた。
前世俺の常識なら10回は気絶するほどの運動量だ。さすがに少し疲れたが彼女はまだまだ元気であった。
すごい。
さて、俺たちが遊ぶとき、いつもならソラウ家のおじいさん執事とウチのおばさんメイドの監視がつく。
ウチの屋敷の裏側は実は森直結である。父曰く魔物もいるらしい森の方へ行かせる訳には行かない。
だがしかし。今日はそうではなかった。
偶然にもおじいさん執事はアイリーン父と我が父に付く必要が生じ、ウチのおばさんメイドは絶賛風邪引き中である。よってここにいたのはウチのメイド&ソラウ家執事見習いであった。
だがまあ、ここで想定外が起こる。後に聞いた所によると、誰も知らなかったがこの二人、恋人同士であった。さて、普段別のところで働く二人、たまの休日程度でしか会えない二人の突然の逢瀬。言い渡されたのは利口で有名な子供の面倒。さて、どうなるか。
まあ、サボりおったのである。
スキルで見たら案の定情事中である(目は逸らした。前世含めフル童貞舐めんな)。ガキほったらかしでナニをヤってんだチクるぞこの野郎。
で、だ。
監視者のいない環境×お転婆×好奇心の多いお年頃×冒険しがいのありそうな森=どうなるか。
答えは簡単。検算するまでもない。
「もりいってみるよ、アッシュ!!」
みようよですらない断言である。というか返事の前に駆け出していやがる。
...あっ速いヤバい見失う!
「ちょッ...待って!」
一応中身大人として、倫理観欠如の人でなしとはいえ、子供を一人で危険なフィールドに出さない程度の分別はつく。
ぐんぐん遠ざかるアイリーンを追いかけるため、後を追って森に飛び込んだ。
...
......
.........。
「迷った...。」
「まよったねー...。」
推定30分後。子供二人は当然のごとく迷っていた。
このガキンチョ、森の中だろうと全力ダッシュで一度も転ばない。動きをトレースしたから俺もできたが野生児かこいつ。
まあ割と付いて行くだけでやっとだったので俺も道なんぞ覚えちゃいない。つみです。でなおしてまいれ。出直す道が分からん。
「どうやって帰るかな...」
「んーどーしよっか...」
くっそ可愛いなコイツ。悪いとは思ってそうだがそれはそれとして無邪気すぎる。
「ま...森の奥に入ってきたはずだからあっちの方角に行けば人里に出れる...かなあ」
川があればそれを伝っていけば着く...ハズ。ただサバイバル知識は雑学程度しかないし実践できる気もしない。よってウチの領地からズレたらイコール死だが...。仕方ないか。
さて、ここでこの森について解説しよう。
我が家の裏の森、正式名称ノノの森。この森ははっきり言って魔物の森である。
流石に人里や街道の周辺にはいない...が、我が家から南西に5キロほどの場所に、とある魔物のテリトリーが存在する。
《高圧水流》エルダー・ハイドログリズリー。この世界に存在する魔法、それを本能的に使いこなす...我が家庭教師曰く邪神の使い、それを10にランク付けしたその中で”E”にランキングされるハイドログリズリー。水魔法により高圧の水を噴射し敵や獲物を仕留める凶悪な魔物。そこそこの騎士二人程度で仕留める魔物...と、ここまでが通常種の説明である。”二つ名”...。通常の魔物と隔絶した力を持つ個体に授けられる称号。そのハイドログリズリーは永く生き、《高圧水流》を賜った。その水流は砲撃に例えられ、一つの騎士団...勇猛を誇る我が父においてすら、仕留めるに叶わなかった...”C”ランクの魔物である。
「GUOAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!」
木々よ倒れろとばかりの咆哮が響き渡る。木々の奥から巨体が飛び出してくる。...熊!?
熊とは思えない程の巨体の腕に付く剣かと見紛う大爪。
爆発的に振るわれたそれは...
「え」
ーーーーっ!
「アイリーンッ!!!!」
死んでも構わない?ンな訳ないだろ馬鹿野郎っ!!!
生き残ろうと冷徹な判断を下す想いに欠けた本能をねじ伏せて、冷たい理性を強制的に燃え上がらせる。
駆けろ!駆けろ!駆けろ!足を吹き飛ばしても構わない!
そんな俺の心の叫びが、さんざん否定したそれに届く。そして今、俺の中で。初めて超常の蕾が花開くーーーー!!!
ばあん!
風になる。ひたすらにそぎ落とされた俺の原始的な運動命令を増幅し、常識を超えた筋力が俺の体を吹き飛ばす。半ば無意識で加速されていく俺の視界ですら一瞬に見えるほどの加速。
引き延ばされた時間の中、今はほんの少しゆっくりと振り下ろされる爪とアイリーンの間に、十倍速でなお等速以上で動く体を滑り込ませる。
間 に 合 っ た ! !
漸く熱を持った本能が諸共に飛びのけと命令を下す。
ザグッ!
「がッ...!」
鮮血。勢いを殺しきれず、理想に届かない距離しか飛べなかった俺への理不尽な罰則。
それでもと翳した腕を、怪物の爪は容赦なく吹き飛ばす。
「ーーアッシュ!!」
守る対象の悲痛な叫びが耳元で聞こえる。
クソ、痛い。痛い。痛い。
後悔が頭の隅に芽生えるが黙らせる。俺は共感などできはしない。他人が傷付こうととも知った事ではない。それが俺の本性だ。この行動は、人とはかくあるべしと俺が組み上げた人格を演算した結果に過ぎない。けれど。けれど...。オマケで生きながらえている転生者より、この未来ある子供を優先するのは当たり前だろうッ!
「ーーー大丈夫だ、アイリーン。...クソ熊...最悪の状況だが...お前のお陰で...場所が分かったぜこの野郎...」
親父の話ならここは屋敷から南西10km。ならば家の方角は...!
「あっちだ、アイリーン」
後ろを見ずに指差し、アイリーンに告げる。
「逃げろ」
「だめだよ!アッシュ、うでがたいへんだから...!はやく、いっしょににげないと」
悪いな。俺はそれには従えない。
「大丈夫だ。さっきの速さを見ただろう?大丈夫、俺は...戦える」
言い聞かせるようにつぶやく。アイリーンだけじゃなく俺にもだ。
大丈夫、大丈夫。せめてこの子を守る力くらいはあるさ...。
「でもッ!」
「黙って走れッ!!」
なお言い縋るアイリーンを俺は怒鳴り飛ばす。
「言わねえと解んねえか?邪魔だからさっさと失せろクソガキ」
「ーーーーーっ...んっ...」
ざっざっざっざっざっざ....
後ろでアイリーンが遠ざかる音がする。
おーけーおーけー、それでいいぜグッドガール...。
さて、と。
死ぬか。
「おーおー、待ってくれるたぁ優しいねえこのクソ熊め」
片腕のないファイティングポーズ。長い間は持たないかもしれないが...。《観測者》、起動。
「胃もたれくらいは、させてやるぜ...!」
「GRRRRRRRR...」
笑ったぞこいつ。畜生、知性もあるのか?
...ッ!!
起動した魔眼に筋肉の膨張が映し出される。警告。避けなきゃ死ぬ!
「くおっ!」
チッ、さっきの推定魔法は効果切れか!クソ、どうやって発動した!?
クソ、上方56°、速度130km/hッ!!
「らッ!」
叫び、想い...違う、イメージか!そうだ、脳波感応するならイメージが重要なのは当然か...どうすれば使える?いや、そうか。俺なら出来るッ!
パチパチとスパークの様な思考でそこに辿り着く。
「イメージするのは爆轟、爆薬。種類は...ああもうニトログリセリンでいいや!どこまでイメージすればうまくいく?化学式はC3H5N3O9、要求量は...ええいどんだけ効くかわからん100ml寄越せぇ!!」
RE破壊力1.5、同質量のTNTの1.5倍の破壊力、触れただけで爆発する超絶危険物!
願ったそれは、果たして成功した。
じゃば、と透明の液体が空を舞う。
魔物は...《高圧水流》は、水を操る力を持つ故に無視した。
しかしそれは爆薬。無色透明の破壊の権化。ただ少しの衝撃ですら、爆発と言う名の牙を剥く。
ぽたり、と腕に引っ掛かり....。
キュ...ドオオオオオオオオオン!!!!
爆発、爆音。高熱の爆風が吹き荒れる。
「ッ...あっぶねえ至近距離で爆発さしたらどうなるか忘れてたわ...。」
果たして俺は生きていた。鉄と劣化ウランの塊を無理やり地面から生やした。エイブラムス戦車にも使われる装甲材質をミルフィーユ状に。ちょっと髪が焦げた気がするがまあいい。奴は...!ヤバいっ!!??
「上昇気流...というか上昇突風、出来るなら風速80m/sッ!!」
ごお、と風が吹き俺が吹き飛ばされる。すると、下を何かがぶち抜いた。
「水ブレスッ..!」
クッソゲームかよ畜生!!!
今の水流マッハ10だったぞ、そっちにあった木が消し飛んでるじゃねえか殺す気か!?殺す気だったなコンチクショウ!
だがそこで、意識が薄れクラっと来る。
ッ、やっばい失血か!回復魔法なぞ使えない。見たこともなければ理屈も知らん。なら...!
「鉄!表面積円形50平方センチ!温度400℃!あと血を150cc!嗚呼もうめんどくさい!ダイナミック止血&輸血ゥ!!ぐあいってえ!!」
雑に熱した状態の鉄板を召喚して傷口を焼きつつ血を浮かべて無理やり血管にぶち込む。ちなみに俺はRH+のA型ァ!
着地。ちょっと足がしびれる。熊の方を見ると...あっ大きく振りかぶってる!
「行けるか!?ベクトル付与ォ!理由は知らん!...無理だよなやっぱ!くそ、形状仮想構成、細かいのは無理、じゃあこれだなチタン合金盾ぇ!」
ガッきぃん!!
後ろに跳んで爪を受け、ぎりぎりで着地。
ぜえはあと荒く息をする。
さて、どうするか。
どのみち俺には魔法らしい魔法は使えない。魔法もどきだ。イメージが重要らしき魔法においてしかし俺に超常のイメージは不可能だ。
出来ることは物質の召喚か、物理現象の再現か。それも精密機械のような細やかなモノは無理だ。
奴を見る。異常な耐久力だ。至近距離で爆薬の爆発を喰らったにも関わらず、右腕のほぼ全損に近い損傷と言う傷だけで収まっている。
奴の防御を突破するにはより強く、より重い衝撃が必要だ。
なら。
「GUAAAAAAAA!」
爪の薙ぎ払いが一度、二度。
倒れないように注意しながらジャンプ、バックステップで躱す。
クッソ、隙が少ない。せめて大技を...あっ来やがったァ!!
グヴァァア!!ズバァン!
大奔流が耳をかすめる。
畜生、転がって無かったら死んでたな...だが、隙を見せたなクソ熊ァ!
「座標指定。質量、体積指定。材質指定。形状、指定なし。オーケー、ぶっ放せ!!」
ごご、ん!
大気を震わせ、それが現出する。
奴を影が覆い尽くす。
奴が見上げたがもう遅い。
「GUOA!?」
「重いし硬いぜ、それは。脳天からじっくり味わえよ...タングステンの塊を!!!」
がっ....ごおおんんん!!!!超重量の物体の衝突が大気を震わせる。
タングステン、正確には合金や高純度でないものだが。それは非常に硬く、密度が高いという性質を持つ。
そんなものの巨大な塊がぶつかれば、いかな奴といえどもただでは済まない...!!
「やったか!?やって無いよなぁ!!!」
ぼごん!と奴の水ブレスが無残にも塊を粉砕する。
くっそあのブレス、残弾無限でクールタイムなしか!?
ばらばら、とそれだけで実は結構な重さを持つ破片を撒き散らしながら熊が出て来る。
そこそこダメージは追っているらしいが...まだ十全に動けるそうだ。
...体格、毛皮の材質、どちらを取っても耐久力が異常だな。
となると...秘密は魔法か?
魔眼を魔力を観るチャンネルに切り替える。すると、奴の表面を青い光が滑っているのが見えた。これか、カラクリは。
どうも正解だったらしく、視界に情報が表示される
引張強度、切断強度...ふむ。
如何やら奴の毛皮は点の攻撃、ゲーム的に言うなら貫通系攻撃によわい、と....。あと電気にも弱いそうだ。ポケモ〇かよ。理論純水作って出直してこい。
だが、まあ、ギリギリ...あれなら突破できるか?
目指すは撃破、賭け代にするのは己の命、死ぬつもりでもぶっ殺す!なら限界まで己の全てをぶん回せ!
その熊は、森でも強力なモノの一頭であった。その力で熊を、虎を、亜竜をすら下し、人間共を薙ぎ払ってきた。一度だけ、危ないところまで行ったが...生き残った以上は己の勝ちだ。
そしてそんな熊の永く、多い戦闘経験が、目の前の人間は変だ、と結論付ける。
最初に見た高速で動く魔法。その次に見た爆発する水の魔法。そして今さっき見た重い塊を出す魔法。
そのすべてが熊にとって異質だった。よって熊は考える。
魔法を使ったら気を付けよう。
と、当たり前の警戒をする。
しかし、それが仇となった。
その人間は、熊の警戒を知っていた訳ではない。
その人間は、意表を突こうとしていた訳でもなかった。
その人間は、ただ己の出来得る限りをぶつけただけだった。
けれどそれはある意味、幸運の女神が微笑むかのように。
その熊の、意識の隙間を突いた。
ばごん、ばごん、と熊は左腕で殴りつける。何度も、何度も。
しかし思考の片隅では人間の魔法を警戒する。すると、人間が背中に手を回した。
何かと思うと、取り出したのは剣のような物だった。
それを見て熊はせせら嗤う。
あんな鼠の歯とそう変わらない程度のモノでどうするのだ、と。
故に熊はこう考える。この人間にはもう戦う牙はもう残っていないのだ、と。
ならば全力で殴り殺してしまおう。
そう思い熊は大きく振りかぶり...
身体を駆け巡る痺れと痛みに、驚愕と苦悶の声を上げた。
「GuOAAAAAAAAA!!!???」
「っへっへっへ、やりィ!!」
奴の悲鳴に自然と笑いが零れ落ちる。
何をやったのか。簡単だ。電流を流してやった、だ。
知ってるか?スタンガンは9Vの電池でも作動するんだ。要は昇圧するんだ。電流は減るが要するに電撃を体内にぶちまけるのが目的だからな。
今回はカーバッテリー付きで電流もたっぷりジャンボスペシャルだ。魔物のお前は死なないだろうが大ダメージは避けられない。そうだろう?
そして、だ。
「GU......OAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!」
奴の口内で魔力が灯る。
はっはっは。
そう来ると思ってたぜ!!
身体は痺れて動かない。目の前には自分に電気を流したクソ野郎。なら最大火力...じゃなかった。最大水力をぶつけるよなぁ!!??
だが。
それが狙いだ。
が、と俺は、続いて生み出したそれを奴の口腔へ向けて構える。
昔、アメリカに居る親戚の家に連れていかれた事がある。親戚そのものは血は兎も角中身は完全なアメリカ人で、ゴミ英語力のせいで彼との会話は通訳必須だったが。
彼に、一体どこから手に入れてきたのか、あるモノを見せてもらったことがある。
それは一つの拳銃。トリプル・アクション・LLCが作った、技術実証の為の銃。世に出回らなかった、雷霆の名を冠した一つの怪物。
Triple Action Thunder。
50口径弾をぶっ放すためだけに作られた単発式拳銃。アホみたいな反動に、たった一発の装填数。当然実用性などクズ以下だ。
だが、今だけは。
そのクソ威力と単純さが役に立つ。
「雷撃ふたつ目!ファイヤー―――――!!」
ゴアァンンン!!
少なくとも拳銃が出していいものではない爆音を轟かせて、雷霆は破壊を叩き出す。きっちりと弾道計算されたそれは、狙いを一ミリも外さずに、狙う先へとぶち込まれた。
残りの腕も持っていこうとする反動に抗いながら俺は笑う。
「さて、だ。クソみたいに固い熊よ。.50BMGで、口の中にぶち込んでも、お前の脳には届かんだろうさ。だがよ、お前が今その水ブレスをぶっ放そうとした元は何処かなぁ~?」
それは口の直上、副鼻腔の下。そこに魔力が凝集している場所があった。恐らく水ブレスを準備する器官だろう。さて、それの機能を最大限発揮している時に茶々が入ったらどうなる?
ボン!
「GUGI!?!?!?!?」
当然、暴発する。
口内で木々を貫く程の魔法が爆発し、さしもの熊も耐えきれず、
地に倒れ伏ーーーーーーーー
さない。
「おいおい嘘だろ、まだ耐えるのかよ」
左腕消滅。右肩脱臼。脳は限界まで酷使され鼻血が垂れ始めている有様。
打つ手なし、だ。
「「.....」」
喉をやられたのか無言の熊と、声を出す力も残ってない俺。両者無言のまま、熊の左手が持ち上がる。
ああ。終わりかーーーーーーー。
「よくやった!我が息子よ!!!」
「後は任せて!!」
この、声は。
ばっ、と飛び出した、スラリと細く、それでもすさまじく頼もしい背中は、アレス・クロウ。俺の今生の父。
横で呪文を編み上げるのは、エルザ・クロウ。俺の今生の母。
国中にその名を轟かせているらしき二人の、余りにも早い到着である。
「ハハッ...。」
悪いなクソ熊。助っ人召喚と言うズルい決まり手だが...勝負は俺の勝利の様だ。
「たあッ!ハアッ!...!エルザ、こいつ、そうとう弱ってるぞ!」
アレスがエルザに呼びかけると、
「ええ、判ってる!あれで、終わらせましょう!!」
とエルザが打てば響くように返す。
アレ...?と思っていると、エルザが先ほどとは違う呪文を口にする。
「『拘束、束縛。樹木精の茨よ、かの者を抑え止めたまえ!【茨の枷】』!!」
「KU....」
声が潰れた熊が茨によって大地に繋がれる。
それを見て我が父は持つ剣...素人の俺ですら一目で名剣だとわかるそれを大上段に構え、エルザと共に呪文を唱え始めた。
「「『我らを照らす光の神よ』」」
剣に薄っすらと光が灯る。
「「『我が剣に光を』」」
刃を満たすように光が流れる。
「「『我が剣に破邪の力を』」」
風船が膨れる様に、宿った光が膨れ上がる。
「「『我は守護するもの。我は希望の騎士。これは、無辜の民を救う戦いである!!』」」
そして、臨界を超え。
希望の光が放たれるーーーー!!!
「「『希望照らす』ーーーーー」」
そして。
聖剣がーーーー
「「『光の聖剣』!!!!!!」」
振るわれた。
無音だった。
アニメやゲームの様な、派手なエフェクトや、派手な効果音は微塵も無く。
振るわれた聖剣は、只世界を白く染め上げた。
そして、無限にも思われた時間、しかし酷く短い刹那の後。
色を取り戻した世界には。
クソ熊の姿は、どこにもなかった。
魔法を覚える為のお話。
科学信奉者の主人公が一回上手く行ったからって急に魔法が使えるか、ですが...。使えます。一回偶々、我を忘れた状態で起こったそれを、殆どを自力で組み立てなおす。それだけ彼の頭脳が異常かつ、その程度で魔法が発動する程彼の才能は強大なのです。
聖剣について
聖剣、と主人公が認識していますが、あれは正しく聖剣です。名前がなぜこっちの世界と同じかと言う問題に関してはまあ色々あります。それはまた。
聖剣は一子相伝の魔法とは似て非なる理論で起こる現象です。自分ひとりで発動する者もあれば、希望照らす光の聖剣の様に配偶者若しくは掛け替えのない相棒と共にぶっ放すモノもあります。
それはそうあれと、人々が望んだ無意識の結晶。人類史と言う基盤が支える希望の剣。
因みに主人公がスキルで聖剣の光を見てもなんか変な波長の光にしか見えません。破邪を齎す光なんて理解できません。
さらに豆知識。聖剣は此方にも存在する名前かつ、男性、未婚の女性なら家名、結婚した女性なら洗礼名に当たる箇所に聖剣の名前の一部が刻まれます。エルザの方が聖剣の担い手なので彼女の名前は”エルザ・ヴルフ・クロウ”となります。アレスは要するになんかめっちゃ剣が強くてエルザとメッチャ波長が合うだけの普通の兄ちゃんです。でも剣だけで竜と一時間は張り合えます。なんだこいつ。
因みにハイドログリズリーは不利を悟るとめっちゃ逃げます。アレスは前回そのせいで弱い奴の方から逃げられた。今回はしびれが抜けないまま捕まったのでオダブツ。
追記:失血量が少なすぎるとご指摘をいただいたので修正