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異世界学術論~結局のところ物理が最強~  作者: N-マイト
第二章 解放宣言編/悪意と正義は矛盾せず
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第三十八話 幕間/異世界に工業を

「..........ネジが...ない、だと」


いつもの工房にて、俺は愕然とそう零した。


サミュエル氏との邂逅後、技術提供を受けた俺たちは学園に戻ってからはさっそく本格的に(パワードスーツ)の製造に着手した...のだが、さっそく問題に行き当たった。

尚、いくつかお土産もある。アイリーンなどは小さな普通の人形を貰って大喜びしていた。

まあそれはいい。それよりも今はこの致命的問題をどうにかせねば。


ネジがない。

確かに、今まで複雑かつ繊細なものは俺が全て作っていたが、まさかネジが根本的に存在しないというのは予想外だった。


「ネジねえ...まあ、固定具としてのネジは知ってはいるけど大分昔に廃れたって聞いたわよ。鋳掛けとか、魔物由来の接着剤とかの方が小回りが利いて便利だし」


鋳掛けとは溶接の原型的技術である。

...確か粘着粘液魔(スティッキースライム)の死骸と茶色大蜘蛛(ブラウンスパイダー)の糸嚢の乾燥粉末を混ぜると万能瞬間接着剤になるんだったか。異素材もいけるア〇ンαみたいなやつ。向日葵の種の油を掛けると固まるのだ。何故...。


効けばリベット止めはあるそうで。「その類ならそっちの方が安いでしょ」だそうだ。

...仕方ない。


「作るか」


「作る、って...確かにアンタの魔法なら作れるかもしれないけど、今更使うもんなの?」


カーネリアンが怪訝な顔をする。


「そうだ。寧ろ精密な作業でこそ必要になると言っていい」


「嘘ぉ」


信じてくれないらしい。


「たぶん、ネジがなくなったのは簡単に精度の高いネジを作れなかったからだろう」


予想にすぎないが。


「精度?」


「ああ。ネジってのはこう...えっと、見せた方が早いか。材質指定、形状指定、【夢想印刷(エクスポート)】」


ころん、とネジが掌の上に出現する。


「ーーーこう、ぐるぐるとらせん状に溝...出っ張りか?」


「どっちでもいいわよ。で?」


「ああ、まあ溝でいいか。溝がある。ここに...【夢想印刷(エクスポート)】」


ガラスでできた()()()の模型を作る。


「こう、はまる側の溝がかみ合うワケ」


キュルキュルと適当に嵌める。


「そうね。それは分かるけど、...だから何だってのよ」


「ん、っとね、接合力は摩擦力とほぼイコール、っていえば分かる?」


「....?」


首をこてんと傾けるカーネリアン。


「釘は...こう、木との摩擦で保持されてるだろ?」


机を指して言う。

説明下手なんだよなあ...。


「んーー...あー、まあ分かるかも」


良かった。通じた。


「でもネジはその...()()()()()で保持してるわよね?」


ぱっと俺からネジの模型を奪うとカチャカチャと振って見せるカーネリアン。


「まあ、そうだな。だが、きつく締めるとちょっと変わってくる...面倒だから適当に」


く、とネジを垂直に引っ張る。


「...そうか、きつく締めあうと溝と溝が強く擦れ合うのね。そうすると表面積は釘よりも圧倒的に多いかし引っ掛かりもあるから抜けにくいのか」


「そう言うこと。精度が悪いとがたつくとか摩擦不足になりやすいワケさ」


「...でも鋳掛けでいいような気もするけど」


「まあ、あれも良い技術なのは間違いないけどね。強度がこっちの方が稼ぎやすい。極端な話、ヒヒイロカネとかでネジを作ったりすることもできなくはない。...普通に加工すると超面倒だと思うけども」


多分時間がかかるとか言う次元ではない。


「まあ、後は熱の問題だな。熱でやられちまう素材を止めたりする時にもいい。歪み防止にもなる」


まあ、総じて精密な工作に向く、と言っておこう。


「成程ね...まあ、有用性は理解したわ」


「そりゃよかった。...設計上結構な数のネジが必要になるんだが、それ全部俺が作ってたらどうしようもないし、と思ったんだが...」


これではあっても素材とかもろもろで意味ないか。



「ううむ」


「どうしたの?」


「いや、それなりの数と精密さ、小さいのも必要だし、手動製作じゃな...と思って」


タップ(嵌める側を作る工具)はどの道必要ないが、ダイス(ネジの溝を作る工具)じゃ間に合わない。


「仕方ない、旋盤の出番だ」


「旋盤?」


カーネリアンが首を傾げるが、こればっかりは作った方が早い。


「前作ったでかいモーター持ってきてくれ」


「え、ええ...」



三十分後。


「これが...”旋盤”...!」


モノづくりの魂故か本能的に凄さを理解したのだろう。目を輝かせたカーネリアンが舐めまわすように旋盤を見ていた。

もとにしたのは村田デイ錯書とは何の関連性もない村田機械のモノ。...まあ、マニアックすぎるから詳しくは言わないが工場に置いてあるガチの奴だ。サイズ別に三機作ってある。試しに作ったクソデカモーターから動力を分けているので馬力は問題ないし、動力源についても問題はない。

加工用の刃も異世界使用の特別品。鋼鉄であろうとバターの様に削り取るだろう。


まあ、ネジ製作だけなら専用の機械があるんだが。今回は何かと加工精度が重要な割に数が多いからな。カーネリアンも使いつぶす勢いで振り回さねばならん。


「なんか不穏なこと考えてない?」


「ヴェッ!マリモ!」


「露骨に噛むな!」


まあ、それはおいておいて。今日はネジを作りつつ使い方教えないとな。


ヘルメットと防塵ゴーグル、念のための防刃ジャケットを作りながら俺はそんなことを考えた。

ネジは産業の基盤です。

いろいろかっ飛ばして旋盤が出来てますがそもそも主人公が超精度3Dプリンターなので問題はありません。

溶接が要らない子扱いなのは主人公なら一体成型出来ちゃうからです。

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