第三十話 新入役員/生徒会長の一存
「はあ?」
思わず俺は困惑の声を上げる。
「いや、流石に頭のおかしい女を見る目を向けられたら傷付くぞ」
おっとつい。
いや、なぜ、俺?
接点なんて今日まで無かったと言うのに、一年なのにスカウトしたかった?
「....」
「本格的に不審者を見る目に移行するのはやめてくれ!説明!説明するから!」
微妙に涙目になって弁解するエレーナ先輩。
大丈夫かこの人。
「...んんっ!ええと、だね。多分疑問に思っていることを説明しよう。まずは一年、しかもまだ入学して一か月と少しなのに生徒会役員になれるか、さらに言えば選挙も経ずに役員になれるか、だが。結論から言うとなれる」
...マジか。
「この学園は、他国のそれや...この国で言うと学校とは違って生徒会のシステムが少々特殊でね。会長以外は選挙をしないんだ」
くい、と足を組むエレーナ先輩。
妖艶な雰囲気を出そうとしているがさっきの涙目のせいで台無しである。というか狙って出してたのか?
「...おほん。あー、つまりだな...他役員の人事権限は私にある、と言うことだ。そして生徒会は慣例的に二人は入学直後の一年生を役員に雇うんだ」
...成程、そもそもがスカウト制、と言うことか。
...だが、結局。
「なぜ自分なんです?こう言っては何ですが、そういう人事は身内人事になるのが基本でしょう?少なくとも自分は生徒会役員の顔は...あー、一目見た程度の関わりしかなかったはずですが」
確かアリオスとかいう副会長とは二言程度は話したな...
「まあ、確かに身内人事になるのは認めるさ。というか本来はそうなる予定だったとすら言える」
「なら、なぜ?」
「いやあ、雇う予定だった子が病気で自領にかえってしまったからね。まあ、ありていに言えば席が空いたのさ」
...げ。
「ああ、別に君を責めるわけじゃない。正直あの子...ガリアスタは素行の良いほうではなかったし、あの事件...事故?は正直君が彼だったものを討伐してくれなければ大事になっていたからね」
そうか、奴は公爵の息子。エレーナ先輩の爵位は知らないが、貴族の派閥によっては立場があるか。
「まあ、ウチは一応ガリオン家の親戚にあたる侯爵家でね。ある程度配慮しないと親戚一同から睨まれる。...まったく、この学園でそういう配慮をする羽目になろうとは、世知辛いね」
ああ、派閥どころか親戚か...。結局、身分の上下に左右されない、という謳い文句はこの箱庭でしか機能しない。事象の一部でも学園から、この学術都市からはみ出してしまえばそこは身分社会の地獄である。
「で、俺に興味をもった、とかそんなあたりですか?あなたの親戚がいなくなった原因の」
「棘がある言い方をしないで欲しいな...いや、実はその前から興味は持っていた。君だけでなく、君の幼馴染もね」
「前から?」
「ああ、彼女、この上なく美人だろ?...悪かった、そろそろ変な扉が開きそうだからやめてくれ。私は決して変態ではない!」
その扉開いたらどの道変態じゃねえの?
「おほん。はっきりいって君たちは異常だったのさ」
「異常?」
「ああ。異常だ。”優秀過ぎる”と言う意味でな。何百年も続く学園の歴史だが、入試の座学で満点を取って入学したのは四人しかいない。...君たち二人を入れて四人だ。そう考えれば君たちに興味を持つのも当然だろう?」
....成程。と言うか自分の点数初めて知ったな。
「...なら何で俺なんです?少なくとも主席はあっちでしょう?...それとももう勧誘してあるとか?」
「ああ、それなんだが、スカウトはしていないよ。勝手ながら生徒会で素行調査をさせてもらってね。結果、君の方が書類仕事に向いているということになった」
成程、ストーカーか。「なんか君の中で私の評価がぐんぐん下降している気がするなぁ!?」五月蠅いですよ変態先輩。
まあ、実際問題”生徒会”...この学園でも権力を持つ側である以上スカウトする相手の素行調査はしなければならんのだろうが。
「まあ、俺の方が書類仕事に向いているのは事実ですが。...両方雇おうとはしないんですね」
「まあ、もうひと枠は既に決まっていてね。まあ、規定上はゼロ人でも百人でも構わないんだけどね。慣例と言う言葉は便利だが面倒なモノさ」
成程な。そちらは予定通り、と言うことか。
「私の説明はこれで終わり。君を勧誘するうえでの疑問は解消したと思うんだが」
「まあ、そうですね」
「だろう。では改めて言わせてもらおう」
く、と手を組んで、エレーナ先輩はに、と笑う。
「生徒会に入ってくれ。アッシュ・クロウ」
俺はその言葉に答えるべく、満面の笑みを浮かべて、言った。
「嫌です」
静寂。
ぐんぐんと張り詰めていく空気を破ったのはエレーナ先輩だった。
「...まあ、実は断られるのは予想通りだ」
「そうですか、では」
なんか面倒そうな気配を感じたので踵を返そうとする。
「まあまて、これは悪い話じゃないんだ」
「...いや、正直面倒なだけでしょう」
「そうでもないぞ、生徒のため...うんだめそうだな。就職時にいい評価になるぞ」
いや、そんな日本の大学教授みたいなこと言われてもな。
「まあ、足りんか。それもまあ、予想通りと言えば予想通りだが...大体の生徒は”生徒会”に所属出来るとなると飛びつくんだがなあ」
キャリア形成は大事だものな。...とはいっても俺はやりたいことあるしなあ...。
「まあ、分かるとも。君は魔道具作りに熱中したいのだろう?そのためには生徒会に時間を割く余裕はない。...倒れるくらいだしね?」
う、失態を話題に出されるとあれだが...まあ、その通りだ。素行調査の確度高いな...。
「とはいえこちらとしても、一年時点の私よりはるかに優秀であろう人材を逃がしたくはなくてね。...一つ、君に...まあ、ありていに言えば餌を用意した」
「餌...ですか」
「ああ。少し我が家の自慢となるのだが、ね。我がレピオス侯爵家は、軍需産業や工芸を主に取り扱う領なんだ。鉱石資源とかも豊富にあるしね」
...ふむ。
「まあ、それもあって、そちらに関する人脈は幅広いんだ。私個人に限定してもそちらに顔が広い自信はある。...例えば、自動人形の作者とか...ね」
「...っ!」
マジでストーカーじみた調査力だ。いや、この一週間、その人材を探して動いていたから調べればわかるんだろうが、すぐにそれをカードに使うか、この先輩は。
「それだけじゃない。優秀な魔道具の製作者の知り合いはごまんといる。私の頼みなら...さらに言えば君の腕があればある程度は教えを乞うことも十分に可能だろう。...どうかな」
「ぐ」
魅力的だ。物凄く。
ウチの教授も実力は高いが魔道具の世界は職人芸の世界でもある。教授の人脈とは違う人脈が手に入るとすれば魅力は天元突破していると断言できよう。
「...活動日は」
「金曜日と土曜日、まあ今日と明日だな」
この学園は週休一日である。
うう、週二かぁ~。
「まあ、この部屋自体は空いてるからいつ来ても良いんだがな。...私は基本常駐している」
成程。最悪業務は別日に回せると。....ん?
「いつもいるってそれ友達が「言わせないぞ!」あ、はい」
流石に察したわ。
なんか色々残念だなこの人。
「~~~~~~~」
悩む。悩んだが...結局は先輩のさらなる一言で落とされた。
「ちなみに生徒会特権で学園の設備はただで使い放題だ」
「よろしくお願いします会長」
俺も現金だな。...だって、設備聞いてると出来ることや作れるモノがぐっと増えそうなのだ。
「ああ、宜しく。...ああ、入ってきてもいいぞ」
「え?」
急なそのセリフにぽかんとした俺をよそにぞろぞろと生徒が入ってくる。
そうか、話してる間に活動時間に突入していたか。
まず見えたのはメガネをかけた神経質そうな男。こいつは見覚えがある。前話した副会長だ。
彼を筆頭に男女が6人入ってくる。ほとんどが上級生だが、最後の一人は同学年だった。
「まあ、流れが良いし紹介しよう。彼らが我が生徒会の役員、君の同僚になる者たちだ」




