第三話 異世界基礎学/ここは異世界、おれは転生者。
転生。それは人生のやり直し。
人生のやり直し。それはつまり胎児からのやり直し。
まあ、つまり。
「黒歴史だ...」
俺、小鳥遊 灰兎改めアッシュ・クロウ、8歳(+19歳)。
痛恨のミス(理不尽)であった。
転生というと自意識を確立したところに割り込むとか、ある日突然思い出すとかそういうあれを連想するかもしれない。
ただしこの転生は違った。仮説だがおそらく受精卵に脳の構成とか魂の構成的なアレをインストールしたのだろう(適当)。その結果どうなったかといえばのじゃショタならぬだぜペドの誕生である。だぜペドってなんだ。まあ要するに見た目は赤ちゃん、頭脳は大人である。
そう、体は赤ちゃんなのだ。
普通の飯なんぞ食べようがないし我慢しようにも体が勝手に泣くしでかいのも小さいのも漏らす漏らす。
まさか齢19にもなって母親(今生)の乳にむしゃぶりつく羽目になろうとは。飲まねば死ぬから飲んだがオギャる趣味はないぞ畜生。
まあかなり美人なのが救いか。
因みに自慢だが俺の容姿はかなり美形である。基本性能にはやはりというかなんというか見てくれや生まれも含まれていたようで、両親ともに超美形のもとに生まれた。男爵生まれなのは少し疑問に思いもしたが...おそらく柵の問題だろう。最高スペックというわけでもなかろうしな。聞いた限りでは領内の経営状況も安定しているようだし、過度に華美な趣味を持っていたり暗君だったり暴君なわけでもないいい両親である。
それはそれとして赤子時代は地獄であったが。
それに関しては必死な努力によりどうにかした。どうあがいても1、2年かかったがそれはもう大変に頑張った。
さて、乳児期が終われば次は幼児期、教育のスタートである。
オマケ機能なのか語学に苦労することはなかったが(よくわからないがイタリア語っぽい言葉な気がする)、他の事はなかなか大変だった。
中世レベルというだけはあるが碌に学問が進んでいないのだ。
うっかり科学に触れかけた時は誤魔化すのが大変だったし...幼児がこの時代最新の事を言い出したら一般的に大事である。今のところどうにかなっているが割と既に周囲では神童扱いっぽい。
まあそれは良いのだ。問題は剣術、そして魔法である。
俺...いやもう前世の俺というべきか。前世の俺は自他ともに認めるモヤシ野郎であった。100m9秒を切ろうという時代に50m12秒14というスペックである。一応手慰み代わりに剣道を習っていた時期もあったが...まあお察しである。
よって剣術は苦労した。肉体スペックは高く生まれた。生まれたとも。思い通りに動く肉体なぞ願ってもないものである。しかし我が脳髄には”運動”の二文字がインストールされていないのである。
まあ苦労した。年齢的なスキルの使用制限が解除されなければ詰みであっただろう。
魔術に関しては...現在進行形で苦労中である。
この世界において魔法とは、神に願い、祝詞を捧げ、恩寵を得ることで初めて魔法という現象として発現する...と教えられた。
科学至上主義にそんなことできるかマヌケ。という話である。
魔法適正なるものはあった。それもかなり高いそうだ。だが”祈る”という行為自体が俺にはできなかったのだ。
これもスキルで”観れ”ば解決...と思った。まあ近づいたとは言えよう。
とはいえ俺の脳内に刻まれた”魔法は存在しない”という観念によって妨げられているらしい。未だ魔法を使うには至っていない。
さて。女神に与えられたスキルとやら、《観測者》の是非であるが...。
一言で言おう。想定以上だ。
これ、一言で言い表すならばスパコン搭載のホロスクリーン搭載義眼である。超高速で検索、観測、計測が全て終わる他、必要な情報の取捨選択、サーモグラフやレーダー、ソナー機能、さらには俺自身の思考をメモやイラストの様に貼り付けることまで可能という、観測者のイメージ以上の機能を搭載していやがった。
ちなみに剣術の解法はこうだ。まず父の剣術(多分めっちゃ強い)を普通に見て記憶する。次に今度は《観測者》を起動し、筋肉の動きを重ねて記憶する。そして視界に軌跡を表示させつつ記憶の通りに体を動かす。恵まれた運動神経が完コピする。
いやあエフィル様々である。こっちの神に祈るよりあっちの自称女神に祈る方がまだ良さそうなくらいだ。ありがたやありがたや。
それに関連するのだが。この世界では物理的な法則が地球世界とはかなり違った。
この世界...この世界では世界が球体なことは解っているらしいがいまだにこの星の名前がついていないそうなので、この国...トルディアナ王国世界と仮定するか。長いな、トル世界でいいや。
ともかく、トル世界では地球の118元素に加えいくつかの妙な元素が存在する様だ。主にはミスリル、アダマント、魔鋼である。オリハルコンなんかはこれ等や他金属との合金だった。
また、魔力が存在する。
魔力そのものはなぜか単体で大量に空気中を漂っている素粒子である、と結論付けた。そしてこの魔力、精神感応性を持っている。これが非常に厄介で、魔法を行使しようとするとこの素粒子のふるまいで魔法という現象が生まれるのだが...どうも次元を超えた作用なのか何なのか質量が増える。
...質量保存の法則は効いているそうなので俺の研究不足であろう。まあまだスキル使い始めて二年だし仕方ないか。
法則を解き明かせば使えるようになるだろう。
まあとりあえず。魔法に神は関係なかったことは間違いない。何せ脳波に反応するだけの物質なのだ。これバラしたら教会あたりに殺されるかな。
む、説明が長いって?モノローグしてないで話を進めろ?まあそうだろう。とはいえ俺も好きでこうしているわけではないのだ。
なんせ暇なのである。
すごーく、暇なのである。
地球世界だと貴族の子供は丁稚的なのに出されたりして意外と大変だったと聞いたことがあるがトル世界ではそうではない。よって一日四時間程度の勉強と剣術稽古の以外はやることがない。本は...普通の本は結構少ない。どうしても紙が貴重な世の中である。物語や学術書が貴族とはいえ辺境の男爵領程度にまで出回っているわけがなかった。母親はどうやらそこそこ名の通った魔法使いらしく、魔導書を多数持っていたが...まああれは仕掛けが分かった今ただの宗教書である。よって結局暇である。
まあ一応前世でボッチだった俺にもこの世界では友達がいる。それもガールのフレンドだ。
19...いや今は+8だから27が8歳相手に友達とか犯罪じゃねーかとか言っちゃいけない。俺もそう思うけど。
今はその友達を待っているところである。彼女はクロウ男爵家に使える準男爵家の令嬢である。尚、イギリスにおいては準男爵家は平民だが、少なくともこの国ではれっきとした貴族である。
と、門が開いて件の女の子が走ってきた。
彼女の名はアイリーン・ソラウ。金髪碧眼の超が付く美少女である。正直ロリコンのお兄様方なら全員ひっくり返る自信がある美貌だ。なんで辺境の準男爵家にあんなのがいるのかわからない。気の強そうな吊り目は鳥を惑い殺す程に魅力的で、髪は絹糸がそこら辺の草の繊維と思うほどにきめ細やかで、美しい。
まあ将来は引く手数多だろう。と一般的な感性を持ち合わせない俺ですら確信できる。
ほんとなんでこんなところにいるんだこいつ。
「アッシュー、あーそびましょー」
子供特有の若干舌足らずの、それでも美しいと確信できる声が耳に入る。
まあ、未来の絶世の美女の子供時代を独占できるというのは今生の武勇伝の一つくらいにはなるだろうし悪い気もしない。故に俺は楽しそうな声を上げるのだ。
「はいよ、今日は何して遊ぶ?」
あんなことになるとは知らずに。
よくある最後。
主人公はキリ〇、ヒロインちゃんはアリ〇的な見た目。
魔力について。
サイコ〇レームが空気中に漂ってるイメージ。脳波に反応してふるまいを変えるほどに不安定だけど物質的にはめっちゃ安定してる。量子もつれというか転移的なのを簡単に起こせる物質で他空間からお仲間を持ってきて結びつくことで物質を簡単に生み出せるというすごい現象を持っている。この他空間というものが重要で、魔法はここからエネルギーを吸い上げる手法でもある。
ここで明かした理由はだいぶ先まで出てこないから。