第二十九話 生徒会執行部/迫る暗闇と甘い匂い
翌日、放課後の話だった。
前日の大はしゃぎの大型犬と化したアイリーンの相手、更には今日の戦闘科の剣術訓練を経て中々に疲れ切った俺は若干ふらふらと廊下を歩いていた。
「ふいーーーー....ああ、くそ。この世界にエナドリが無いのが憎らしくなるぜ...」
くらくらと頭が揺れる。考えてみればここ数か月、いや、下手したら数年単位で碌に休憩を取っていないような気がする。勉強に、訓練に、この世界の研究、一日が300時間あっても足らないタスクの嵐。あくまで”人らしく”ふるまうためにもさまざまな誘いに付き合うということも考えると異常なまでに”休み”がない。
ああ、こんなことを考えるのも疲れのせいだ。全くカフェインが恋しくなる。
あのケミカルなえぐみ、人工的にぶち込まれたクソみたいな甘味、強制的に冷たく脳を揺り起こすあの不快なまでに爽快な感覚。
指定で最高な人類の英知。米国産の馬鹿で天才的な飲料。
あれがあれば、もう少し...。
ふら、と脳に空白が生まれる。
おっと、不味い不味い。
今日は流石に無理は出来ないか。どのみち鎧の方も行き詰っているし、部屋に戻って惰眠を貪るとーーーー..........。
...。
.......。
..............。
「ーーーーーーーーーハッ!!!」
ガバァ!ぼむんっ!「きゃッ!?」どさ。
....何が起こった?
辺りを見渡す。うん、真っ暗なうえに首が稼働しない。何処か柔らかい圧迫を顔に感じる。起き上がろうとしたがこれに跳ね返されて寝かされたか?
まて、何か甘い匂いがする。これは...
「ね、私の胸に思い切り顔を押し付けるのはやめてくれないかい?」
...あっ、すーーー。
びゅばっ。
「きゃ、...あはは、速いねえ」
ふたっ、と赤い豪奢なソファにもたれかかる謎の女性。如何やら俺は廊下で寝てしまい、目の前の女性に膝枕されていたらしい。そして起きようとして彼女の些か豊満すぎるバストに顔を押し当てたまま手を座面に突いた格好で固まっていた、らしい。
「..........」
「..........」
静寂。多分傍から見れば俺の顔色がゆっくりと青紫に変化していくのが分かるだろう。そう要するに冷や汗は強アルカリ性...!ってそうじゃない。
「すいっ...ませんでしたぁ!!」
がばっ!と全力で土下座。この世界でも土下座は全力の平伏のポーズ。頸を差し出しても構わないと言うポーズである。
はは、斬首か。まあセクハラ野郎には相応しいゴールか...。
「あ、いや、顔を上げたまえ。別に咎めようと思ったわけではないよ。流石に寝起きかつ私の勝手な行動が原因だ。それを咎めては流石に理不尽だろう?」
そう言われてふ、と息を吐いて顔を上げる。
「...いやほんとすみません。多分廊下で倒れてたんですよね?」
「ああ、そうだな。流石に唐突に倒れた人間が目に入ったからな。私と言えど肝が冷えたよ...ああ、座り給え」
うう、情けない。
頭を抱えながら女性の前にあるもう日一つのソファに座る。
「寝不足とか働きすぎとか、そういう症状だったな。その年で根を詰めていると将来過労で死ぬぞ?」
うぐ。そういえば前世でも色々やりすぎと怒られていたような。...あれ、誰にだ?
...それは今は良い。それよりも一つ引っかかったな。
「症状が判るんですか?」
「ああ。まあ、魔眼持ちだからな...ああ、一年は知らないか。この部屋についても分かっていないようだしな」
...む。焦りが酷かったか、目の前の女性の胸以外の情報をほぼ認識していなかった。部屋を見渡...そうとするが、豪奢な部屋と判る程度で完全に未知の部屋なので黙殺。女性の方から情報を得ることにする。
深紅のすこしウェーブのかかった髪をロングにし無造作に垂らした、大人びた女性。瞳は蒼翠で、厳しくも優し気な顔立ち。それはまるで炎と海を同時に湛えた様だった。目を極力動かさないままに視線を下げる。
少し年期の入った制服を爆裂させんと押し上げる双丘に居心地悪そうにのっかっている赤いリボン。
上級生か...。まあいや当然か。こんな妖艶な14歳が居たら多分将来はちょっとした傾国の美女だ。,,,似たようなのが知り合いに居るな。
このの学校は四年制。各学年はリボンまたはネクタイの色で判別する方式だ。ネクタイは学年が上がっても使い続けるので四年ごとに色が一巡する訳だ。
前世でも多分よく使われていたシステムだろう。俺も中高とそうだった。
俺たち一年は緑、二年は青、三年は赤、四年は紫なので....つまり三年か。うん、二年差しかないのか凄まじいな。
ついそのまま視線を降ろす。
腰は、恐らくつけていないであろうにコルセットを付けたように細く、かと思えば臀部はしっかりと丸みを帯びている。
スラリと伸びた脚はしなやかで長く、目の前の女性がそれなりの身長を持つであろうことを告げている。
前世では創作程度でしか拝めない凄まじい肉体だ。
よくイラストなんかの胸や尻は設定がCカップとか言ってるけどこれじゃGはあるだろ!とかなんとか、まあ10cmとか20cmとか時にはもっと、詐称というか誇張されるのが常である。
まあ、俺としては二次元の存在なんだから可愛けりゃいいだろうと思っていたが、現実に現れると、うん、まあ、重要かもしれん。
いや、これはサイズ詐称と言うか見たまんまなのか。
牛というか、何と言うか。うん、失礼極まりない。
いやはや、アニメ体系という奴が現実に現れると性的感情よりも感嘆が来るな。だからといって下品に感じない辺りはこの女性の魅力と言う奴か。
だが、まあ、これでいくらか情報は集まった。
赤い髪、青翠の眼、高身長でスタイルが抜群。かつ魔眼持ち。
「...生徒会長」
「おお、正解。たった四秒で推測するとは中々やるな」
まあ、加速してるからな。
因みに情報の元は噂と言うか学園の評判だ。まあ、体型に言及している辺り下卑た噂が混入していたのは間違いないが...まあ、そういう情報は意外と外部からの方が見えるものだ。
ええと、確か。
「エレーナ・レピオス生徒会長...で、あってますか?」
「そうだな。エレーナでいいぞ....というとヤツに怒鳴られるな。エレーナ先輩と呼ぶといい。...エレーナちゃんでも構わんぞ?」
「冗談言わないでください」
ころころと笑う生徒会長:エレーナ...先輩。初対面の俺を膝枕してたりと結構トンデモなのだろうか。
「そういえば、魔眼...て何なんです?」
「ん?...ああ、君のそれよりは下等なものだ。確か...診察者だったかな...」
病理学...診察と言うよりはその人物の病気や体調不良の原因が判る...とかそういう魔眼か?
「まあ、そう言う訳で君の体調不良を”診た”からね、勝手ながら魔法で”治療”させてもらったよ」
今気づいたのだが、確かに先ほどから身体が軽い。
疲労の原因はたしか細胞内の物質の酸化やら細胞機能の低下、だったか。たしか回復魔法の理屈は大雑把に細胞状態の回復と細胞増殖とかそこらへんだった筈。なら一応範疇になるものもある、のか。
「...言っておくがあくまで一時的な、それと治りやすくするだけの魔法だ。今日は早めに寝たまえ」
まあ、それには素直に従うべきだ。回復とはやはり時間を使うもの。機会が出来たのだから素直にやすむべき、か。
...ふむ、だが、それにしても...。
「む。どうした?そんなに見つめて」
「いえ、”深紅の天使”...あの二つ名も、その様子じゃ大げさではなさそうですね」
言うと、エレーナ先輩の顔が恥ずかしそうに歪む。
ふむ?慈愛をもってその回復魔法による施しをしているとの噂だが。
「...あー、その名前は...ちょっと恥ずかしくてね。やめてくれると助かる」
まあ、そう言うのならそうなのだろう。やめておくに越した事は無い。
「了解です。...ああ、その。助けていただき、ありがとうございました。それではこれで...」
生徒会長と言えば彼女も多忙な身。今はほかにだれもいないようだがじきにこの部屋、推定生徒会室にほかの役員も来るだろう状況で、流石に長居する訳にも行かない。早々にこの部屋を離れよう、そう思い俺は席を立とうとした。
「ああ、待ってくれ」
だがエレーナ先輩に呼び止められる。
「え、と?お...自分がここに居たままだと先輩の活動の邪魔になるのでは?詳細は知りませんが恐らくこれから生徒会の活動でしょう?」
問うと、エレーナ先輩は片眉を上げて返答する。
「ああ、まあそれはそうなんだが。...今日の出会いは確かに偶然だが...私個人...いや、生徒会長として、君に一つ用があってね。そういう意味では今日の出会いは運命的なものと言えよう」
「はあ、....それで、その用、とは?」
そこでエレーナ先輩は唇を歪める。
にやり、と。
妖艶に。
「生徒会に入ってくれ。アッシュ・クロウ」
おっぱい会長。
エレーナは戦闘科所属。将来目指すは戦う軍医。
3サイズは上から1■■、5■、8■(編集済み)。
侯爵令嬢でめっちゃ有能。次回説明するつもりですが先に言うと、この学校の生徒会では会長の年齢制限がありません。極端な話一年がなってもOK。エレーナは二年で就任した事になりますね。
でも当然それを実現するには相当な能力と人脈が求められます。基本はやっぱり三年~四年がなるのが基本。
だからこの会長はすごいのです。




