第二十四話 冒険者講習3/盗賊令嬢はサーカスがお好き
ばうん!ばうん!
森の中、木々の間をピンボールの様に跳ね回る。
「成程...これは面倒だ」
数秒は無理でも数十秒で抜けてしまえ...という俺の計画は破綻していた。
俺の魔眼...《観測者》。俺は前の、アイリーンが誘拐されたときに、このスキルについて一つ学びを得た。
何故俺が奴の籠る部屋にほぼ一直線で突撃できたのか。その答えがそれ。すなわち、”スキルの効果範囲は視界に依存しない”。
このスキルは”すべての情報を提示する”。下手をすれば情報に押し流されて死ぬが、うまく御することが出来れば...それは即ち透視や遠視を可能とする。
だからこれも簡単にクリア可能...と、思ったのだが。
「そもそも認識を狂わせるとは、な」
蜃気楼を眺めているようなものだ。スキル越しに見てさえ、ゴールは揺らぎ、不確実だった。
だが一つ、発見もあった。
揺らぎのない”道”が存在する。
魔力探知をすれば分かる、地中から湧き出る恐らく妨害のタネであろう魔力が不自然に避けて通るエリア。方向感覚を失わない唯一の安全地帯。
この道がゴールに続くのは見えている。
が。
「物凄く遠回りだな...この道は」
うねうねと蛇がのたうち回ったかのような道。
既にスキルの広範囲化は切っている。だが安全地帯の中でありさえすれば、通常のスキルでも問題はない。
結局10と数分の時間はかかったが、まあ問題はない。もう少しでーーー。
俺はスキルの広範囲化を切っていた。故に、視界の外に居たそれに気づくことが出来なかった。
シュッ!
がきん!
木の葉の幕から飛び出して、運よく左腕に当たって弾かれたのは...ナイフ。
「...!」
誰だ。スキルを拡張する。少し酔いそうになる視界に映るのは...少女の下着姿。
「ぶっ!?」
しまった透かし過ぎた!...この秘密は墓までもっていこう。社会的に死ぬ。うん。
そんな焦りとは別に俺はその少女を認識する。
「ノーノ、か。」
木の枝に乗り、息を潜めている。
初めてやってみました、と言う風体ではない。
暗殺者...ではないだろう。投げナイフそのものは言うほどのものではない。暗殺者であれば獲物は基本黒塗りにするものだ。逆に正体を隠して縫っていないならそもこんなことはしない筈。本人の言う斥候も違う。恐らくはある程度単独で完結する動き。父に習った各兵科の基礎のどれとも異なるその動きは。
「やっぱり、盗賊、だな」
ピクリ、と身じろぎするノーノ。
「出てきて構わないぞ、ノーノ」
言いながら地面に飛び降りる。
「その木に居るのは気付いている。...降りて来いよ」
「...」
さく、と木の上から飛び降りたとは思えない程静かに着地するノーノ。
ぴりぴりと俺ですら分かる緊張感を発している。
いったいどこで着替えたのか恰好が違う。いつもより少し露出の多い服に顔を隠す為であろうフードとマフラー。わざわざドリルヘアも崩している。
「...直すの大変じゃないか?」
思わず問うとノーノはずっこけた。
張り詰めていたはずの空気が流れ去り、どこか抜けた空気に入れ替わる。
「......変装魔法の様なモノがあるので大丈夫ですわ」
髪のセットも魔法でできるのか。凄いな。
「...そういえば、基礎訓練の時から気付いていたようですわね...?一応参考までに、何で気付いたんですの?」
何を言われるかと思えばそんなことか。
「ま、半ばあてずっぽうだよ。入学式の時に言っていた斥候”経験者”と言うのがきっかけ。あとは...余り言うべきじゃないだろうが、まあ、言葉の端々に現れる金に困っているらしき言動と既に冒険者である事。とくれば...金が入りやすい斥候系列の冒険者職業と言えば盗賊しかない」
冒険者には職業が存在する。
これには別に魔法的な作用が存在するわけではないので、兼業したりすることも容易ではあるのだが、それでも冒険者の間では大きな意味を持つ。審査を経なければ名乗れない、資格がなければ技術を学べない程度には。
盗賊もその一つだ。
主に斥候から派生し、索敵、罠看破、鍵開けを生業とする職業。
その性質上、迷宮をはじめとする”遺跡”での活躍を主とする。
そして当然、そこに行く以上は冒険者にとって稼ぎとなる。
お宝が手に入るのだ。
一部の落ち目の貴族は己の領内にある”遺跡”に望みを託すことがあるという。
恐らく、目の前のノーノの家もその一つだった...。そういうことだろう。
「そう...ですか。なるほど、発掘物をあてにする貴族はそこそこいますものね」
「貴族令嬢ご本人が携わるのは中々レアケースのような気がするがな」
言うとノーノは一歩下がる。
「そう...ですわよ、ね。...軽蔑したでしょう?貴族の、伯爵の娘が、盗賊なんて」
恐らくだが...彼女は偽名か何かで活動していたのかもしれない。フードやマフラーは今回のために用意されたものではないのは明白。正体を隠していたのは一度や二度ではないのだろう。
斥候として自己紹介したのは今度は本名で登録するつもりだった、そんなあたりか。
だが、まあ。
「いいや?」
「え」
「いいじゃないか、盗賊令嬢。中々いい響きだと思うけどね」
あっけにとられているノーノ。
ま、今思いついた適当だけど。
「言うなれば女怪盗!高貴な身を装束に包み、”遺跡”を駆け巡る冒険者!ワクワクこそすれ、軽蔑などしないさ」
言ってやる。己の人生を恥じることなどないと。
意味のない人生などこの世界に存在しない。遍く旅は意味があり、遍く時は学びをもたらす。
恥じなくてはならないのは人でなしだけだ。俺のような。
だから、人であるお前は美しい。己で稼ぎ、盗賊であろうと気高くあろうとする心は美しい。それは唯一無二の輝きだ。唯一無二の魅力だとも。
ふと、ため息が聞こえる。この場に二人しかいない以上出所はノーノで間違いない。
「気に障ったか?」
問うと、彼女は苦笑いのような、呆れ笑いのような顔をした。
「いいえ。その...面白い方だな、と思いまして。...父に「知られてはならない」と言われていたのですわ。...父も被害者ではありましたが、父にも責任はあったはず。なのに娘に稼ぎを求めておいてその言い草か、と思いもしました。そう思ってしまう私自身をすら嫌悪しましたが...そうですね。認めてもらえる、と言うのは中々にうれしいものですわ。報われた、と言ってしまいましょうか」
ふふ、と笑うノーノ。
「そうですわね。いつかあなたが冒険者になったのなら...右腕を目指してみるのも良いかも知れませんわね」
「その予定はないがな」
「...もう、ノリが悪いですわね...」
だってアイリーンと離れる気はないし。あいつが冒険者になる気がなさそうな以上今のところなる気はない。あいつも移り気なところはあるから可能性自体はあるが。
「...ふう、さて、と...おそらく貴方は見えていますでしょう?この林の出口を」
きり、と気を引き締めたノーノが俺に問う。
そう。忘れそうになったが今は競争の真っ最中。
遭ったからには、互いに敵だ。
「ああ。既に道筋は見えている。遠回りだがな。...お前は?」
「ええ。一応は。...ただ時間はかかる。遠回り以上に、ですわ。...つまり、ここで見逃せば私は負ける」
成程。見逃す気はない、と言うワケか。
「ならどうする?」
「盗賊としては...野盗ではない盗賊としては邪道ですが。...その頸、置いていけ...ですわ」
じゃきん、とどこからともなく取り出された二本の短剣が彼女の手に収まる。
細く、しなやかで、それでいて逞しい、恐らく彼女にこの上なく合致するであろう二振り。
それは。
「魔剣か!」
「ええ。所謂迷宮戦利品と言う奴ですわ。銘は”蝶の様に舞え・蜂の様に刺せ”。私の相棒たちですわ!」
言うが早いか二つの刃が振るわれる。
恐ろしく軽い動きで、首を正確にロックオンした短剣が迫る。
座標指定、材質指定、形状指定!
「っ!【夢想印刷】!」
ぎん!
「盾...ですかっ!」
「毒を喰らうわけには...いかないなぁ!」
彼女の右腕に握られた短剣...おそらくは蜂の様に刺せなる短剣は毒...麻痺毒を生み出す能力を持つらしい。一発当たれば行動不能。...碌なもんじゃないな。
「!本当にその目はいい目ですわねッ!」
まあ、未知の要素である以上仮説を立てる必要があるんだがな!
現状で判っているのは右手の剣が毒の能力”のみ”であることだけ。左の剣は完全不明。
ノーノがこちらにばれている前提で動いているのか、それともこちらの条件を既に知っているのか。それだけでも彼女のとる手段は大きく変わる。
対してこちらの取れる手段は実はそこまで多くない。
爆撃など大規模な攻撃は正直論外。遭遇戦である以上ほかの連中の目印になりかねないモノを展開してしまうのはマイナスだし、火器の類は厳禁だ。
故に近接戦で圧殺してしまうのが一番手っ取り早い。
「起動しろ、《偽・魔導義手・白銀の絡繰腕》」
...来た。
私は彼の言葉にそう思う。
白銀の絡繰腕。アイリーンさんによれば彼オリジナルの魔道具。どんな状況にでも対応できる十徳ナイフのような物...だそう。
私が見たのは試験の準決勝、決勝の時に使っていた相手の動きを止めるもの、光魔法っぽい攻撃、衝撃波を放つのであろう攻撃、地面を爆発させた攻撃。...これだけでも大概びっくり箱だが、一番の効能は多分、肘から風を吹き出す機能。
機動力とは全ての戦術の根底になりうる。少なくとも私はそう思う。
私達の学年で魔法込みでよーいドンで...例えば1,000m直線を一番速く走れるのはアイリーンさん。それは間違いない。彼女の素の身体能力に上乗せされる冗談みたいな出力の身体能力強化は途轍もない。瞬発力とトップスピードだけなら英雄級、と評される程だ。
けれど、機動力、という点においては私の方が彼女より勝る。
戦闘において、いかに速くても、結局直線であれば対処はできる。
だってその移動経路に針でも設置しておけば勝てるんですもの。
アイリーンさんもそれを分かって居るから”あの”戦法を磨いたのでしょうから。
では、アッシュさんは?
はっきり言おう。
機動力偏重である私から見ても化け物だ。
アイリーンさん程ではないにしろ高い身体能力から生み出される跳躍力、前述の義手が生み出す足場に寄らない起動変化、そして、もう一つにして真骨頂...。
「【演算仮定・力量演算式】&【運動不定式】!」
この特殊な身体強化。
これらが合わさると、空中で蛇の様に曲がる跳躍が完成する。眼で見ると非常に気持ち悪いが、唐突に軌道が変化する突進なんて、有効打にならない方がおかしいレベルだ。
そもそも気持ちの悪い機動ができると言う事が凄い話。
飛行魔法そのものは普通に...ではないかもしれないが優秀な魔法使いで使う人はそこそこいる。足場に頼らない軌道変更方法は飛行以外にも存在はするし見たこともある。
だが、”なんの脈絡も無く”、”直角以上の角度であろうとも”軌道変化をやってのける人など、恐らくは彼以外は存在しない。
だが。
そうであるからこそ、私はこの林で、彼と闘う事を選んだ。
正体は正直晒してしまうつもりだった。
”わたくし”では無く。”わたし”としての全力を見せてみたい。そう思っていたから。
例え引かれてもいい。軽蔑されても構わない。
私の”理想”がそこに居たから。私の”妄想”がそこに居たから。
まさか、ばれているとは思わなかった。まあ、基礎訓練の授業で勘付かれそうになったときの誤魔化し方が適当過ぎたのは認めるが、それにしても入学式の時の台詞がヒントになるとは。
それだけじゃない、受け入れられてしまうなんて、予想の埒外にもほどがある。
これはまあ、此処までの懐では、此処までの男では、アイリーンさんが惚れてしまうのも分かると言うものですわ。
正直人の心の機微に疎い様な気はしますが...だからこそ、筋が通っている、様な気がします。
ああ、だからこそ、私は思ってしまったのでしょう。
全てをこの方にぶつけてみたい、と。
「貴方の胸を借りさせて貰おうか!」
あえて、”盗賊”の私としての口調を出す。
この私はそこそこの冒険者として名を馳せている。
と言うか年齢に比しての実力は頂点クラスとして二つ名まで賜っている。
だからこそ今は、学園の一年生五位ではなく。
「『同年最速』、”ノイン”...いざ尋常に!」
ちょっと小恥ずかしいけれど、他の若い冒険者では比較にならない”速さ”を持ち、他の若い冒険者では比較にならない”早さ”で地位を上げた、『同年最速』として、機動力を競い合う!
「『我が身体は閃光の如く。我が脚は風の如く。その姿は幻影の如く。大風精よ、大光精』よ、雷鳥をすら置き去る、疾さを我に!【最速たれ・勝利の偉業】!!」
7小節を誇る長大な魔法。二つの属性を併せ持つ複合魔法。私の隠し札にして奥の手。2小節以下、3小節、4小節5小節を超える”超級”。
超級となると小節の数が直接強さに繋がらなくなってくる。これは6小節の”超級”に負ける程度の性能でしかない。これは私が使えるただ一つの”超級”。なんならこれ以外は私は上級も使えない。が。”超級”はそれだけで。
レベルが違う。
「はっ!」
「らっ!」
二人が交差する。左腕と刃がお互いの力を逸らせ合う。
「っち、速い」
アッシュさんがそう言いますが、その台詞は同時に私のものでもある。
二度は見ているその機動。だがしかしそれでも、私に迫るほど速い。
だけど。
「ふっ」
たん、と地面を軽く蹴る。それだけで。
「なっ!?」
弾かれ、そして跳ね返る。
この魔法の、一つ目の効果。この魔法の通称の一つでもある跳ね回る風。
私はどんな体勢で、どこから接触しても、直前の速度を保持して跳ね返る。地面や木等に限定されるが。
そして二つ目。
「やあっ!」
「...っ!」
大回り。前に見た彼のそれとは比べるべくも無い程の半径だが...確実に曲がる。
湾曲する閃光。
弧を描き迸る光が彼の首筋を狙い飛ぶーーーー。
だが。
「...ハッはぁ!半径がデカいぜお嬢さん!!」
そう、これだ。
たった半径一メートルでの回頭。三日月などとは言い様も無い極小の軌跡。
”超級”でもないくせに、私よりも小回りが利き、私に追いすがる程の速さを持つ魔法。
ふたつを重ね掛けしていることは間違いありません。ですが、普通はそれでも”超級”には届かない。そういうもの。
なのに。
この男は、私に届く...いや、超える。
「風に巻かれな!【風力推進】!」
未だ剣も抜かず、それでも己の腕こそが武器だと叫ぶかのように、風を吐き出す銀の腕が振るわれる。
その軌道は蛇の如く、予想不可能な動きで持って迫りくる。
「っ」
後ろへ飛ぶ。追って来る。曲がる。最短距離で迫る。
当然だ。できるなら私だってそうするであろう選択。
でも。
「ぐう!!?」
右手に刺さった短剣に驚く彼の表情が間近に映る。
やったことは単純。前に飛んだ。たったそれだけ。
それでも、この、”ぶつかる”という条件だけで発動するこの魔法では、十二分に発動圏内。
そっくりそのまま...いや、地面をけり飛ばした速度すら重ねて差し迫る私に、彼は反応しきれなかったのだ。
それでも蜂の様に刺せは防いでいる辺り彼もなかなか怪物だが。
「はは、まさかさらに加速するとはな...!それが音に聞く”超級”の特性か!」
そう。私の魔法が彼に絶対的に勝ると言える、ただ一つの点。
”無限加速”。
”超級”は必ずどこか、”タガ”が外れた力を持つ。この魔法においてそれは、”速度上限”。
現実的に到達できる速さはある。さっきの様に速度加算するにはちょっと特殊な動作が挟まるので指数関数的に速度が上昇する訳ではない。
だが、制限も無い。そんな性質。地面を、壁を、天井を。
蹴るたびに私は加速する。
そしてそんな性質を持つからこそ。
「さあ、踊ろうか!ミスター!」
だか、ダカダカダカダカ!
小刻みに、打楽器を打つような音が辺りに響く。
この魔法の基本を一通り開示してからの次。
三次元軌道を捨てた妙技。
「二段構えの驚きとは恐れ入る。...”タップダンス”は思いつかなかった!」
”地面を蹴ると方向を変えられる”。ならば、とあの試験を見て編み出した技。
地面を蹴る、蹴る、蹴る!
その度に私の軌道は急速に変化する。
滑らかな弧とは言えないかもしれない。けれど200角形がほぼ円にしか見えないように、それに近いものはある。
二次元限定。彼は三次元でやる以上、下位互換の軌道しか取れない。
が。何度も地面を蹴る、その以上。
「【白熱する舞踏会】、とでも名付けようか。さあ、私はほっとくと加速し続けるぞ!」
速度が乗り続ける。
「ち、...捉えきれん!」
させるモノか。
数々の物質の召喚を成したという彼の【夢想印刷】。確かに脅威だが、私に当てられるものではないでしょう?
「だが、上に逃げればそう変わらん!」
そうなるでしょうね。正解は正解。でも足りない。
「【走る雷矢・速射】」
走る雷矢そのものは低級魔法のちょっと上の方程度の魔法に過ぎない。
だが、それを連射したならば?
「くそ!そう言う事か!!」
流石、気付くのが早い。
そう、これこそが、私の必勝パターン。
幾ら素早い、起動が変わる突進であってもある程度以上には対処される。
だがしかし、一瞬の隙でもあれば攻撃を差し込むことはできる。
なら、一度。
怯ませるだけでいい。
それが故の雷魔法の連射。
雷魔法には怯み効果がある。
相手も魔法使い。ほぼ抑えられはするだろうが十分だ。
そして。
「更にダメ押し。『蝶よ花よ咲き踊れ。【導きの先に道は無く】』」
この剣は...右と左、両方共に、迷宮戦利品としては低級の部類...Eランクの上のDランク如きに過ぎない。
だが。大型の魔物にはあまり通用しないホーネットスティングは兎も角、バタフライダンスは、その中でも破格の性能を持つ。
「分身!?違う、幻覚か!ガンメタじゃないか!」
彼の視界には何人もの私が映っていることだろう。
自慢の魔眼も効いていない筈。
なんせ、感覚異常だ。
私を幻視しているのは彼自身。認識が狂っているのに判別できる道理は無い。
雷魔法は幻覚まで避けている辺り流石だが、私の攻撃までは見切れまい。
そう思っていたのは仕方がない。この先を対処するには遅すぎる。
だから、私は彼にトドメを指す為に跳んだ。
跳んで、しまったのだ。
認めよう、私は慢心していたと。
どこか、本気を出せば勝てる、と思っていたふしがあったのだろう。
最速たれ・勝利の偉業を使い、【導きの先に道は無く】を出して負けた事は一度も無い。出す前に早々に焼き払われたことはあるが、発動まで行って負けた事は無かったのだ。
だからこそ。
彼の力を見誤った。
じゃりん、と。
加速された動きでもって。
彼は私が、余りにも抜かないので、考慮を忘れていたそれを、剣を抜き放つ。
今更、と考えた。強力な魔剣を持っているのは知っているが今更出してどうする、と。
だが、その形は、伝え聞いたものとは異なっていた。
本能が警鐘を鳴らす。
このままでは死ぬと鳴き叫ぶ。
「ッ!!」
咄嗟に私は魔法の制御を手放した。
魔法は制御しなければ暴走する。当然のことだ。通常は危険な事故だ。だが、私はそれを利用する。多少のダメージと方向のランダム性を対価に、一度だけ空中での方向転換を実現する。
運良く真右に折れ曲がった、その時。
がうん!
爆裂音と共に。
私の左腕が消し飛んだ。
長い。
ちょっと斬る場所が...。
魔法の等級とかダンジョンとか、急に設定が飛び出て来る回って感じ。
主人公が余り魔法らしい魔法に興味がないとか冒険者になる気がないこともあって説明させる状況に無いのです...。
まあどうせダンジョンは出てきます。
魔法の等級について。
作中の説明通り呪文の長さで大まかに分類できます。
初等魔法は人を殺せない程度の威力しかないです。ちょっと痛いくらい。
低級から人を殺せる魔法が出て来る感じ。
中級からは魔物討伐とか冒険とかで立派に戦力になれます。
上級は割と戦術級の魔法を使えます。範囲攻撃とか大隊丸ごと強化とかそのレベル。
”超級”はマジでレベルが違う。攻撃魔法だと一軍が消滅しかねません。主人公が変態なのであれですがアローショット・トライアンフでも亜竜クラスならふつーに勝てます。魔物だとAクラス。
二分の一×質量×速度の二乗=運動エネルギーなので加速しまくって突撃すれば勝てます。
でも主人公は知恵と変態機動で避けます。
因みに”超級”を扱える者や匹敵する力を持つ者を”超級戦力”と呼んだりすることもあります。ちょっとマイナーだけど。
筆頭は主人公両親ろアイリーン父。
主人公は超級戦力ではありませんが超級戦力にも勝てます。そういうもんです。




