第二十二話 冒険者講習1/激走!爆裂筋肉!
さて、今回は諸兄らにこのアズワーツ魔法学園の学科と授業について説明しよう。
この学園には10の学科が存在する。
先ずはこの学園の花形とも言える"戦闘科"。軍に所属する魔法使いを主に育成する科である。
"法術科"。ある程度戦闘科とも共通するところはあるが、こちらは宮廷魔道士として…知識人やSPとしての科。
"医療科"。卒業後教会に所属する者が多い。一般魔法しか使えない以上出世は望めないが重要な職である。
"薬学科"。魔法薬を生業とし、人を救いも殺しもする。
"錬金科"。素材のスペシャリストを育成する。研究者にして生産者。求められる知識は幅広く、金属や魔物の素材だけでなく農作物なんかもその内。大臣職を多く排出している。
"建造科"。屋敷や砦、城、果ては船や攻城兵器など、大型のモノに魔法を刻む魔法使い達を育成する。
技師にあたる職業だが、複数の魔法陣を相互作用させるなど非常に難度が高く、高給取りの職だったりする。
"魔道具科"。学園では例外的に研究者"のみ"を排出するための科。言ってしまえば窓際族。
"魔物科"。魔道具科に続き研究者の多い科。魔物のスペシャリストであり、時に戦術を組み立てる際に呼ばれたりもする。魔物使いとして大成する者も多い。
"天文科"占術科とも。彼らは星の運行を利用した魔法を用い、不安定ではあるがその規模は個人の魔法すら超え、極めた者は未来すら見ると言う。
そしてもうひとつ。これらに迎合せずある意味において独立した科が存在する。
"冒険科"。"国家に貢献する者"を育てる学園においてそれは異端の科。
彼らは世界中を旅するもの。国家という牢獄から解き放たれるための翼を与える科。
この世界の学術組織はほぼ全て"ギルド"と呼ばれる組織がスポンサーとなる。国家にとってもかなり重い運営費の一部を肩代わりする代わりに設置されているのだ。
「ふー」
500mのランニングを終え、おれは深く息を吐く。
いま行われているのは基礎鍛錬の授業。
主には戦闘科や冒険科の授業だ。
この学園では授業選択の幅が広い。全員必修の授業と、科毎の必修さえとっていればよその授業だろうと無制限に取れる。
我が教授曰く「貴方達は最低限取ってれば十二分以上」だそうなのであっちこっちに顔を出している現状だ。
1分のインターバルを終えれば再度500m、今度は出来るだけ速くとのお達しだ。のんびり走って置いていかれたアイリーンやネアに追いつかねば。…魔法抜きだしキツイかな?
そんなことを考えていると、横から声がかけられた。
「あら、こんな所にいるんですのね」
「ああ、だがそれはお前こそだろ?」
声の方向を向くと居たのはノーノ。学年十位以内の成績優秀者かつ数少ない冒険科所属の貴族令嬢。
「なんだ?それとももう二周終わらせたのか?」
ちょっと皮肉気に返してやると鼻で笑われた。
「ふん、そんな訳がありませんわ」
ま、だろうな。アイリーンすら途中だし。
「ああそう言えば、ノーノはもう初めてじゃないのか」
「その言い方は語弊があるのでやめるですわ」
おっと。
下ネタ臭かったか。
「ん?態々咎め…」
「お黙り。はぁ、私としては貴方が今ここにいることの方が意外ですわ」
露骨に話題を逸らされたがまぁいい。
その疑問については簡単な話だ。
「"理想の生徒像"を考えれば当然だ」
「…成程?」
先を促してくるノーノ。…妙に教師臭いな。ホントに教師が化けてたりしないだろうな?
「ま、兵士だろうと冒険者だろうと、多くの場合必要になるのは個々人の疾走でなく、団体としての駆け足だ。」
冒険者は個人主義、なんて言ってるのは少なくともこの世界ではマヌケなのである。
人間に槍を持たせるとライオンと大体同等の戦力、と言われることがある。と言うかアフリカでは襲ってきたライオンをパイプで殴り殺した研究者が居るらしい。
結局地球世界で割と"一人旅"が成立していたのは意外と簡単に野生動物に勝てるから、人間を脅かせない環境を作れたからだと思うのだ。
だが。この世界では、これだけ播種に成功して、魔法を研究して尚、人間は大多数の個人は生態ピラミッドの最下層近くを這いずる猿に過ぎない。
世界を旅しようと言うものが個人主義など、サメが顔を出している上に荒れている海へ裸一貫で飛び込むようなものだ。
「そうですわね。わざわざ二回走れと言った事を理解しないといけない、のでしょう。まあただただウォーミングアップの意味もあるのでしょうが」
それはそう。
「そういえば、斥候なんだっけ?」
「え”ッ...ええ、そうですわ!」
なんか狼狽えた?入学式でそう言ってただろうが。
斥候経験者...経験者?
「おいまさか盗賊...」
「ほら時間ですわ行きますわよ!」
また話題をそらされたが...まあいい走るか。
あくまで魔法抜き。
まあ、あのお転婆にさんざっぱら付き合わされていた俺の脚力を見せてやろう。
「ふー、ふー、ふー、ひーー...」
「流石にあそこから私に追いつこうとするのは無茶だよ...」
走り込みが終わり、ひっくりかえった俺にアイリーンが声をかける。
正直返答出来る程息が落ち着いていないので甘んじて言葉を受けるしかない。
こいつ息全く上がってないな。汗は掻いているみたいだ。少し甘酸っぱい匂いがする。
「はーい傾聴~!」
りん、と良く通る声。主は冒険科の教官、リリネ・ファルタ。30代程度(自称永遠の18歳)の女性だ。
割と名を馳せた冒険者だったそうだがケガで引退。この国に戻ってきたら知り合いは皆子供がいた...というわりと哀れな経路を辿り絶賛男募集中だそう。
いや、生徒も範疇に含めるなよ、人間族で15歳差は事案だろうが。
「走り込みは終わり!次は腕立て、腹筋、その他諸々いつも通りね!」
なかなか一般学生にはハードなメニューである。
ま、結局育てるのは兵士だと言う事だ。
俺たちの魔法使いのイメージ...モヤシ男は一定以上の実力、誰も寄せ付けない圧力でもないと前線に出せない。
戦場において筋肉は大抵の事を解決する。
凄くIQの低い台詞だとは思うが事実だ。
どれだけ優秀な作戦でも駒の基礎能力が低くては展開すら出来ない、と言う事だから。
たっぷり一時限を使った基礎鍛錬を終え、俺たちは運動場の縁に腰を下ろす。
「ふいー...」
ぺたー、と何故か俺によりかかったアイリーン。
「アイリーンでも”あれ”はきついか」
「だって余裕そうと見るやトンデモし始めるんだもん」
アイリーンは大分きつい鍛錬をさせられていた...と、言うか全員が個々人の体力に合わせた鍛錬メニューなのだ。
向けて来る視線がちょっと気持ち悪いと言われているリリネだが筋肉にかける情熱は半端ではないそうで、生徒の限界とか最適な鍛錬を見抜く能力がとんでもないのだとか。
尚噂程度だが彼女は男女問わず筋肉が性癖らしい。ううん、業が深い。
「ま、次は冒険科の授業ですけれどね...」
ぱたぱたと服をはためかせて風を起こすのはネア。彼女も大分きつい鍛錬をさせられていた。
「わたくしはそこまで...と言うか下半身中心の鍛錬でしたのでどうにか無事ですけれど大丈夫ですか?」
ノーノが氷魔法で冷たくしてもらったであろう革の水筒を渡してくれる。
ありがたく貰っておくとして。
「俺はひたすら瞬発力を、って感じだったからなあ」
俺の瞬発力は実は魔法だよりだったりする。マラソンランナー型の筋肉配分を人間パチンコでかっ飛ばして補ってる訳だ。瞬発力がどうにかなった方が楽なのは間違いない。
「私は逆に持久力強化へとへとです...」
無限ランニング編を敢行させられていたカガミがひっくり返ったままぼやく。
割とこいつら貴族令嬢としての自覚薄くないか...?典型的日本なろうの”嘘貴族”のノーノが一番それらしいぞ...。
というかアイリーンとカガミは近い。汗の匂いが漂ってくるくらいだ。
「暑苦しいから離れろ...」
「ええ...。はい」
「ひどい言いぐさ~」
ぶうぶう言っている二人を押しのける。
「にしても」
ふと、ノーノが後ろを振り返って言う。
「あれは...一体」
「「「筋肉バカ(ですわ)」」」
俺、アイリーン、ネアの声が一致する。
俺たちの視線の先に居たのは。
「おおおおおおおおおおお!!!!」
未だに暴れているロメル。
「リリネ教官のフルパワーコース回ってあれなんだよねぇ...」
ちょっと遠い目をしているアイリーン。
アイリーンは...ネアもか。二人とも戦闘力は確実にロメルよりも高い。近接戦闘に限定しても間違いないと断言できる。
だが、筋肉においてロメルには敵うべくもなかった。
瞬発力、持久力共に化け物クラス。リリネ教官が引いてる当たり冒険者にも中々いないんじゃないか?
ここまでの筋肉量でネアやアイリーンに戦闘力が劣るとなると、単純に経験不足か...
「もしかしたら競技者向けなのかなぁ」
これのどちらかである。
この世界にもスポーツ競技は存在する。庶民でも割と見れる娯楽と言うことで各国でも人気だ。
が、まあ興行であることも間違いはないので。
地球世界と違いあまりスポンサーという概念が浸透していないこの世界では案外生活は厳しかったりする。
少なくともどんな業種でも魔法使いの方が高級取りなので、魔法使いがスポーツ向けの筋肉を持っていてもはっきり言って見せ筋である。
まあ、足が速いというのはそれだけで役に立つんだけど。
「うおおおおおおおおおお!!!!!!!」
あそこまで行くと何と言うか芸術的だな。
だがまあそれはそれとして脱ぐな。半裸で走るな。
ムキムキなのは分かるが公序良俗に反するだろうが。
極熱筋肉!
4000字だと短い気がしないでも?まあその場のノリで変わる様になるかも。
ロメルがムキムキなのは家系。




