第二十話 異世界魔法工学/机上から飛び立つもの
あれから一か月が経過した。
結局王城には呼び出されなかった。
代わりにこの都市の領主から褒美をもらった。
この学術都市の長はイコールこの学園の校長なので、ロータスから貰った。
所望したのは魔物の素材である。
いやぁ、有機物は無限に新物質が掘れる鉱脈と高校時代の化学教師が言っていたが異世界の有機界は無法地帯そのものだな!
それを使って授業の合間を縫い色々と開発していたらいつの間に、だ。
入学の季節から1ヶ月。地球世界での五月。この世界では樹精霊の月とも言うそうだ。知らなかったけど。
と言うのも貴族文化なのだと。"四季妖精"と"八大精霊"で月を表すのだそうだ。ま、脳筋辺境末端貴族が使わないのも宜なるかな。たぶん現代日本の卯月とか葉月とかそういう感覚だ。
さて、こんなことを呑気に考えてる以上、俺は手持ち無沙汰なのだが。
「すぅ…」
チラリと奥の木椅子で眠りこけているカーネリアンを見る。
彼女の目の前に転がっているのは昨日の…いや、今朝の成果物である。
手持ち武器だ。
俺の強化鎧の製作は絶賛延期中。
あいつに依頼したものが届けば目処が付くが…生憎とまだだ。ったく俺の全財産の1000万以上を渡したんだからさっさと持ってこいよ。え?元々自分の金?知らん。
ま、という訳でノルマ達成&相棒撃沈でやることが無い。
新しいものを作り始めても、俺も寝いるのも良いが…まぁ、今からじゃなぁ。
がら、と部屋のドアが開く。
ここは学園に併設された工房の一室。過半数は薬学科の範疇となっているが、元々は魔道具科の所有である。
「はー、まさかと思ったけどまた徹夜?」
呆れながら入ってきたのはアイリーン。
手荷物お盆からは白い湯気が立ち上るマグカップ。…コーヒーか。コーヒーは近世のモノだろって今更か…。
「毎度毎度よく分かるな」
「カーネリアンちゃんの同室のコに聞けば一発ですー」
成程納得。
ガリアスタを殺した時、正直嫌われていたと思っていのだが、思いの外アイリーンは普通に接してくれた。…いや、寧ろもっと自分から構ってくる様になった。
平然と人を殺すってのは好感度が下がりそうな行動なんだがなぁ。
「あ、一応朝ご飯代わりにスコーンも持ってきたよ」
ぱ、と取り出される出来たて感満載のスコーン。
つまりアイリーンの手作りである。
ヒロインの手料理、と言うとラノベ、特になろう系では基本的な流れと言うものがある。
アイリーンはと言うと…。
「ありがとな。お、美味い」
上手である。
「えへへぇ、カガミちゃんに教えてもらったの」
にへ、と相好を崩すアイリーン。
正直、こいつの手先と言うか、料理の腕はかなり高い。
うちの料理長が割と本気で仕込んだのだとかなんとか。
まぁ、ウチの領は母親二人が死ぬ程料理できないからなぁ。ああはなるなとのお達しか。
貴族は料理しなくても良いだろ、と思うものが大半だろう。俺も初めはそう思った。
だがこの国の貴族は最低限の料理は教えられる。
と言うのも、料理スキルが必要になる習わしが存在するのだ。
結婚である。
結婚の時、この国の女性は必ず料理を作る。
パーティに出す全ての料理を…とは死んでしまうので言わないが。
必ず1品、新郎に新婦が手料理を振る舞うのだ。
よって料理とは貴族女性においても立派な花嫁修業となるのである。
「ふみゅ…あ、あいりーん…おはよ…」
アイリーンが入ってきた音に反応したか、カーネリアンが目を覚まし、眠そうに目を擦りながら起き上がった。
「おはよ、カーネリアン。…で、昨夜は何作ってたの?…なにかあるとは思ってないけど、あまり夜遅くまではダメだよって言ったよね?」
にこぉ、と笑うアイリーン。表情こそ笑顔だが言ってる内容的に多分笑ってない。
「「アッハイスイマセン」」
女は怒らせるモノじゃない。父の格言である。
「...全く。で、作ってたのはこれ?」
ぱ、とカーネリアンの前に転がっていたソレを拾い上げる。
「剣?...にしては柄が変だけど」
くい、とアイリーンがグリップを握る。
剣としてみれば確かに妙。なにせ握った時に刃が腕と並行になるのだから。
「ああ、それは」
「”ガンブレード”ね!」
おい、台詞取るな。
「銃...剣?銃、ってことはアレかな?...火打石がついてないみたいだけど」
しげしげとガンブレードを眺めるアイリーン。
それは銃の銃身下部が全て刃になったような...そんな武器。
まあ、フリントロック式じゃ無いケド。
「前装式はちょっと実用性低すぎかなぁ...いろいろ内蔵してるの。装填も簡単になる様にしてるし」
前装式、つまり火縄銃とかフリントロックは装填にやたら時間がかかる。魔物などが存在するこの世界ではその程度でまともな戦力と言えはしない。せいぜい魔法も剣も不得手とする者のお守りである。
さらに言えば黒色火薬かつライフリングも無いので威力もクソである。
本当は文明からカッ飛んだアイデアは不味いのだろうが...前回の反省を踏まえると、な。
そんなこんなで今回は後装式。セミオートは時代的に流石に不味いと言うか、銃に関しては素人知識なのでいきなり連射は不味い。あとメインギミック的にもちょっと邪魔。ボルトアクションは剣との相性がクソ。よってレバーアクションを採用した。
「ま、それにただ銃と剣を合体するんじゃどうにもならんからな、いくつか仕掛けを用意してある」
「ギミックねぇ...私とっては銃を実用圏内に持ってくのがギミックな気がするけど」
いじってるうちにある程度は分かったのか、桿の部分をガチャガチャするアイリーン。かきん、かきん、と動作確認用薬莢が地面に転がる。実はライフル弾じゃなくて散弾の薬莢...一発しか入れてないので一粒弾と言うべきか、だが。
「...もしかして、これが秘密?」
お、察しが良いな。
「そーー」
「そうよ!その中に火薬と火打石の役割をするものを入れて弾で蓋をするの!そうすると装填が凄くスムーズになるのよ!...まあアッシュのアイデアだけど」
おいだから台詞を取るな。
「...腕の時も思ったけど、よく思いつくよねこんなの」
「まあ、魔眼が有るからな」
嘘ですそこらへんは前世知識です。
「うーん、それだけかなあ。まあいいや、で、他のギミックってなあに?」
待ってました。
...しゃべるなよ。
チロッとカーネリアンを牽制して喋り出す。
「”杖”なんだ、ソレ」
「”杖”?」
杖。若しくはワンド。数多の創作において魔法使いが魔法を使う際に使用するとされているもの。
この世界においてもそれは同様である。
杖と言うものの構造を分解すると、構造体、魔力伝導体、芯の三つになる。
構造体、は言うまでも無く杖を形作るモノ。これに関しては正直素材も形状も何でもいい。形はある程度魔法の発動のしやすさに関わって来るが...極論指輪型の仕込み杖...”杖”?も存在するそうなので実用圏内ならどうとでもなる。今回は...まあほとんど金属製だ。
次。魔力伝導体。これに関しては一部例外を除いた有機物や魔法金属に分類される金属が担う。
大抵の人間が想像する”杖”では木が構造体と魔力伝導体を兼任するわけだ。性能を上げようとすると魔導銀なんかで掘りを入れたりするわけだ。今回もミスリルやらなんやらを多く準備した。一応銃床を木の魔物の木材にしてある。
最後。芯。まあ要するにハリ〇タで言うフェニックスの尾羽やらドラゴンの心臓の琴線やらユニコーンの鬣とかああいうものである。ここが魔法の発動を担う重要機関であり、此処に使用する素材でどれだけの出力となるか決まる。
よって低品質の素材を使う訳にはいかない。
この世界で魔法は手から放つこともできる。実際この学園に限定すれば素手魔法使いの方が多い。就職すると話は変わるが。
よって杖を作って素手より弱くなりました、と言えばその製作者は逆さ吊りだ。
よって今回は...ちょうど校長からのご褒美もあったので、かなりいい素材を使った。
まあ、ドラゴンやら不死鳥やらユニコーンの素材なんて目が射出されて成層圏までカッ飛ぶくらい高いので使える訳がないのだが。
それは金属妖精の毛だ。
”毛”であること以外の情報は何故か与えられなかったが...髪とかじゃないのか?まあ、金属妖精の女性の毛を編み合わせたものだそうだ。
校長曰く、良く判らんがお前と相性良さそうだから予算内でこれにした、そうだ。
よって。
「こいつは本当は銃でも剣でもなくて杖なのさ」
言うとアイリーンが訝しんだ。
「なんでそんな面倒な名前なの?」
「見た目と語呂ね!」
「...だ、そうです」
名付け親はカーネリアンである。ファイナルな幻想に出てきそうな名前は偶然の一致なのだ。
「あーね...あ、忘れる所だった、早くしないと授業遅れるよ」
「「あ」」
時計を見る。現在始業20分前。
「「やっば」」
カーネリアンとお互い更衣室に向けて駆けだす。
絶対哲也で缶詰になることが想定されているよなと思うコレを今回もありがたく使わせていただこう。
ざっと桶に水を出して顔を洗い、ちゃっちゃと作業着から制服に着替える。風呂はちゃんと夕べの内に入っているのでヨシ。
さ、授業で寝ないようにせねば。
ま、本格的なお披露目はまた今度。
杖について。
ほとんどハリ〇タの杖の設定と同じと思って貰って。因みに杖が人を選ぶのはオリバン〇ーの店が発祥だそうで、元々は杖を作ってもらいたい人が自分で素材を持ち込むスタイルなんだそうです。
芯に関しては基本的に魔力を帯びたモノであれば杖の体裁は取れます。一部の宝石なんかも芯になれたりする。素手以下の性能ですがゴブリンの目玉とかでも杖にできなくはない。血液とかでも行ける。
要するに魔力の中継増幅器。上手ーく使えばファン〇ル攻撃できる...かも。
妖精と精霊について
本質的には同じ存在。というかほぼ同じ。だが精霊の方が自然よりで自我はあるが比較的薄く、妖精は自分の意志で動く。簡単に言うと自然現象のオマケに意識がくっついてる感じなのが精霊で、意識に減少がくっついてくるのが妖精。
レプラコーンについて
金属を司る妖精。鍛冶が得意。ドワーフたちの信仰対象だったりする。因みに校長はレプラコーン”達”と知り合い。他にも居るけど。
つまり毛は本人が貰ってきた。
杖の強力な芯にするには一人の毛でなくてはならず、かつ髪だけでは微妙に足らない。更に言えば呪術的論理みたいなのもあって”全身の毛”を用いる必要がある。繰り返す。”全身の毛”である。因みに一度特殊な処理で溶かしてから紡ぎなおす事で芯にする。当然全部の毛を持ってかれた妖精はツルッパゲ状態になるが、妖精なので次の日には元通りになる(一日家に引きこもる)。なのだが受けてくれる妖精はなっかなかいない。体毛フェチ相手にするようなもんだし。
それは校長がお願いしてもそうだが、今回は魔導版画(写真みたいなもの)に写した主人公で釣った。格安で済んだぜ(白目)
因みに妖精の体毛で作られた杖はそこそこ存在します。大抵はお願いしに来た美男美女に釣られて提供されます。が、精霊は提供してくれないというか提供されてもそのうち消えるので精霊の杖は存在しません。
あと妖精には男性もいます。
妖精の杖は好事家とかフェチの間で高値で取引されますが、男性の毛が入っている確率は考えないのでしょうか?




