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第二話 インテリジェント・デザイン論/チート転生はよくある話

科学とは。

科学とは、この世界を解き明かすものである。

科学とは、神を否定するものである。

そんなことを言ってのける我が師(こうこうのたんにん)も今思えば中々に狂人だった気がするが...。

本質的に科学と神は相性が悪い、これは確かである。大概の神話において、神は現象をつかさどるものとして描写されている。例えばギリシャ神話の最高神、ゼウスは雷を司る神だし、エジプト神話のラーは太陽を司る神である。しかし、現代において神は物理法則によって置き換えられた。雷は放電現象で説明されるし、太陽は核融合によって輝く天体であると説明できる。そのすべては高次的な知性体に(神)にでもデザインされていないと説明がつかないと宣う連中もいるが...まあ少なくとも物理法則に神は干渉していない...と、思う。


では、へたり込んでいる俺を満面の笑みで見下ろすこの自称女神は一体いかなる存在なのか。


「えー、エフィル、だったか...?いま女神って言ったか?」


恐る恐る尋ねると、


「ええ、私が女神ですよ!」


と言いやがる。俺は頭を抱えた。「頭沸いてんのかこの奇天烈」と言えたら楽なことこの上ないが...。

周りを見渡す。一面の白。テクスチャもオブジェクトも設定し忘れたゲーム画面のような、全ての境界が消滅した白の世界。頭から手をおろして床を触る。反発。だが確実に触れているのに()()()()()。唐突に不感症になったのでもなければこんな物質は発見されていない。そもそも死んだはずの俺が無傷で起きているなどありえない...。


「畜生、認めざるを得ない。ここは俺の世界じゃない...か」


「む。その言い方だと私を女神とは認めない...と言っているように聞こえますよ?」


白い頬を膨らませて自称女神が言う。...流石に全否定はまずいか?


「生憎無宗教を貫く気でね。なり損ないとはいえ純粋な科学の徒でありたい」


言うと自称女神はため息を吐いた。


「成程。...まあいいですよ、女神と名乗ってるのも便宜上にすぎませんし。」


あっこの自称女神キャラ変えやがった!おい萎びたOLみたいな顔してるぞこいつ!


「あなたみたいなめんどくさいのにリップサービスなんかしてあげませんよー、だ」


...なんか絶妙にイラつく。金髪碧眼のTHE彫刻女神風の女がだるんとしている。なんだこれ。


「まあいいや。お察しの通り私は女神、といってもあなたたちの定義する"神"ではないです。”神族”...あー、神といってもただの生物?みたいな?前に来た人によれば...おむにばーす?の生物になる...らしいですね?」


「...頭悪いのか?」


なんか知性を感じないぞこいつ。


「不敬ですよ。...まあ学はあんまないですけど。現地派遣のぺーぺー社員ですよ?職種上一般”神”より地位高いですけど」


成程、神様も資本主義の奴隷ってか?世知辛いね。

そんな皮肉を押し止めて、根本的な疑問を投げかける。


「で、推定たまたま上に撃った弾丸が降ってきて死んだ哀れな俺に何の用だ?転生とか言ってた気がするが...。」


言うと自称女神はもう一度笑う。


「だから転生ですよ?チート転生。日本の人は好きでしょう?」


まあ、読んではいる。転〇ラとかあり〇れた...あれは転移か。まあ割と暇なときに読む。さすがに創作に科学突っ込みを入れるほど野暮なつもりはないのでなかなか楽しい。

まあ現実に起こるとなると話は別だが。


「科学的じゃない...いや、多次元宇宙論は物理定数の相違の可能性を挙げている、文明レベルも違うだろうし最低限の説得力...いや思考放棄の言い訳はできる...」


再び頭を抱える俺。どうやって別宇宙から俺を観測したのか、そもそも生物的死を迎えたであろう俺をどうやってサルベージしたのか。魂を回収したとでもいうのか?いや量子脳理論を応用すればどうにかなるか...?


「ぶつりていすう...?」


バカじゃねえのお前。

「バカじゃねえのお前...ハッ!?」


思わず声に!


「ほんとに不敬ですね!?神によっては殺されても文句は言えませんよ!?」


まあ敬意を払う気はないが。知性のなさそうな...要するにバカに払う敬意はないってな。...言ったらさすがに殺されるかな。とはいえバカにする気まではないので謝罪はしておこう。


「...正直すまんかった。もろもろの疑問はほとんど捨て置くが3つだけ質疑に答えてもらいたい。」


軽く頭を下げると自称女神は呆れたようにため息を吐いた。


「...まあいいです。一々真に受けてたらどうしようもないですし。...学はないとは言え一応責任者なので情報はそこそこありますよ?」


ふふん、と胸を張る自称女神。何がとは言わないがでかいなこいつ...。


「じゃあ一つ目。何故転生させる?そこに何の利益がある?」


「エネルギーを得るため...違いますね()()()()()()()()()()()()()というべきですか」


ふむ。


「世界には膨大なエネルギーが含まれている...というのは解りますよね」

「当然」

「でしょうね。...あなたたちのものの様な世界は私たちの世界ではエネルギーの生産装置、及びろ過装置...だそうです。詳細は知りませんが、文明というものそのものが私たちのエネルギーになるそうです。阿頼耶識だか集合的無意識でしたっけ、それが関係しているんだとか。よってそれが不安定になると私たちの不利益になるのです。つまりそれを解決する必要があるのですが、それに転生者を必要とします。その世界の阿頼耶識に転生者の意識を組み込むと、異世界の意識の参入により”場”が揺れる...と、どういうわけかまた安定化するんだそうで。」


....どういうことだ?情報が曖昧過ぎて理解不能だ。ただ...。


「まて、その口ぶりだと俺に使命のようなものはないのか?この類の物語ではよくある話だと思うが」


「ないですね。よくある話のような魔王自体は存在しますが。何せ()()()()()()()()()()


.......なるほど。少なくとも神気取りの裏はちゃんとあるということか。それは...。


「...断言するってことは手段があるわけか。例えば...そうだな。集合的無意識に作用して滅びを回避()()()...とか」


いうと自称神は目を見開いた。図星か?


「ご名答。その通りです。まあ一々やってたらきりがないので正確には()()()()()()として最初から組み込まれている仕組みですが」


それは...凄まじいな。荒唐無稽だが...少なくとも魔法の二文字で片づけられるよりはマシか。

考察の意味がないからな。


「じゃあ二つ目。チート転生と言っていたが何かもらえるのか?またもらえるなら選べるのか?」


「貰えますね。あと自分で選べます。大概のものはありますよ。...因みに、仕掛けとしてはあなたを世界から引っこ抜いたときに発生したエネルギーの再利用です。こっちでは自動車程度のエネルギーですが転生すれば凄まじいエネルギーになるそうです。なので...まあ、オマケですね。」


先回りで理屈を教えてくれた。話が早い。


「成程、じゃあ三つ目。どこに俺は転生させられる?」


聞くと、自称女神は笑った。


「それはまあ私の口上なので後回しでお願いします」


芝居がかるなはよ言えや。

...言わないけど。


「ま、というわけでチートスキルを選んでください」


ぽん、と百科事典サイズの分厚い冊子が渡される。

...


「いや紙かよ」


なんとなく未来文明臭がしたのだが。


「イメージですよイメージ。それも意外とハイテクですよ?開けばその人に適合するであろうプリセットスキルが大量に表示されますからね。そこから選ぶのがベターです」


そう言えばずっと間抜けな体勢だな、と思い胡坐を掻いてカタログらしきそれを開いてみる。ふむ。

科学を冒涜するようなものが大量に並ぶかと思ったがそうでもないな...。

ふと思いついて後ろから開いてみる。

”時間停止”...。

ため息。


「自分から地雷踏みに行ってどうするんですか」


「理解に苦しむがもう仕方ないな...」


パラパラとめくる。"核融合"..."毒性付加"...危険すぎる。というか核融合は何に使うんだ。

"重力操作"他も大概とはいえ仕組みが意味不明すぎる。...ん?


「なあ、このスキル、ものによって起こる現象の差が激しくないか?」


少なくとも”核融合”と”剣聖”スキルのスキル規模がイコールとは思えない...次元を切り裂き始めたりしなければ、だが。


「あー、気付きました?」


にま、と今度は人の悪そうな笑みを浮かべる自称女神。

...こいつ。


「隠し効果...というようなものがあるんですよ。簡単に言いますと、起こる現象がしょぼければしょぼいほど体の基本性能が強化されます。筋力が上がったり、傷を受けにくくなったりまあ他にもあります」


成程。派手な能力を持つと本人は貧弱に、シンプルな能力なら強力な本体が、か。リソースの割り振りと思えば当然だな。仕組みは意味不明、いや、それについてはしばらく思考放棄だ諦めろ。

となると派手な能力は地雷だ。本体性能が低いと死ぬのは当然だ。本体性能にもしも出生が含まれるのなら...。下手すると"詰み"だ。


「変なところに罠仕込みやがって」


そう愚痴ると自称女神の笑みが深まる。


「まあ、安全装置ですね。」


「安全装置...そうかそういうことか!()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


舌打ち。


「...そうですね。何なら転生したその瞬間にあなたの役目は終わります。あくまでその後はあなたへのオマケ...死をちょろまかした相手へのお詫びの様なもの...。しかし、転生先の世界の文明を荒らしまわられては本末転倒、故に組み込む運命を、言ってしまえば賢明な者のみに運命を授けるのですよ。運命というよりただの思考誘導ですケド。」


成程性格の悪い。考えなしのバカはここで大げさな能力を選んで、下手したら能力を使う前に死ぬ、と。

ならば、俺が選ぶのはやはりこれ、このカタログを最初に開いたときに妙に目に飛び込んできたそれだ。


「これでいこう」


それを指さすと、自称女神は驚いた顔をした。


「『観測者(オブザーバー)』ですか?地味というか...ぶっちゃけ"観る"だけのスキルですよ?」


「ああ。...だが、こいつは見る情報は俺依存だ(知りたいことを知れる)。そうだろう?」


にやり、と笑みを向ける。...いや解ってないなこいつ。当たり前でしょみたいな顔しやがって。

俺はため息を吐いて説明する。

このスキルの()()()を。


「”知りたいように知れる”それはつまり全知に近い。例えば対象の質量、加速度、熱量、沸点etc...。無限の可能性があるだろう?」


そういうと、自称女神は怪訝そうな顔をする。


「でもそれは現在(いま)の情報にすぎません。未来(さき)の事は解らないでしょう?現在の情報しか見れないそれでは...確かにあなたなら他人よりも詳しい情報を見れるかもしれませんが、だからと言って役立つ能力とは言えませんよ?その分基礎能力が高くなりますけど」


その疑問はもっともだ。今その瞬間の情報が分かったところでどうしようもないことが殆どだろう。

()()()()()


現在(いま)のすべてが分かればそれでいいのさ。あとは簡単だ。数瞬先のことを()()()()()()()。リアルタイム・シミュレーションだな。...用法違うかもしれんが。」


驚く自称女神。こいつ随分表情豊かだな。リアクション芸くらいは出来るんじゃないか?


「え、無理では?いくら計算が速くても計算する前にことが起こるでしょう?」


「まあそもそも計算は早いな。暗算の世界選手権の優勝者に勝てる(非公式)くらいには一倍速(そのまま)でも早い。...怪訝そうだな。...母親くらいにしか言ってなんかったんだがまあ自称とはいえ女神様だ、教えても構わんか。」


ちょっと青筋が見えた気がするが気にしない。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()


今度こそ自称女神が驚愕した。


「えっ...と、それは十倍の寿命というわけではない...ですよね?」


「そうだ。俺は十倍速の時間で生きている。というべきか。確か常人の脳が30Hz程度で駆動してるらしいから俺は300Hz...という単純な話でもないらしいんだが。...ああ、安心しろ。10倍の時間を認識できるだけだ。お前の声がスーパースローになるわけでもない。」


「それは別にどうでもいいですけど...それは生まれつきで?」


「ああ。ある意味で俺が非常識(ファンタジー)な話だが、まあ一応科学的矛盾はないらしい。下手に使()()と死ぬし、他にも代償はあるが、な。」


「代償、ですか?」


「ああ。共感性と倫理観の欠如だそうだ。どうも一部脳組織の発達の代償に前頭葉の体積か削られていることが原因らしい。これでも頑張って人のふりをしているが、恐らく俺は傍らで人が死のうが、この手で殺そうがなんとも思わないだろう。...俺としてはそれは嫌なことだがな」


いうと自称女神は妙に納得した様な顔をした。


「成程、敬意に欠けているのはそのせいですか」


違う。


「まあ、可能なことは理解しました。...そう考えるとベストマッチかもしれませんね。基本性能は私があたえられる最高性能、超速の頭脳と情報を得られる目。...字面だけ見れば凄まじいですね。異世界だしそう一筋縄では行きませんが」


まあそうだろうな。


「ではスキルも決まりましたし転生と行きましょうか」


ぴ、と自称女神が姿勢を正し、立て、というジェスチャーをする。


「...唐突だな?」


とはいえそういわれては仕方ないので立つ。


「まあ、後が(つか)えてるんですよ。あなたとは別の世界にですが他にも転生する人もいるので」


ああそう。当然俺一人が特別ではないだろうが、意外と頻度が高いのかもな、転生。

ホントに地球科学の常識が吹き飛びそうだ...。


「では転生者よ!」


くるり、と自称女神...エフィルが芝居がかった動きで回る。


「今から送るは剣と魔法のファンタジー世界!あなたに使命は与えません。勇者を目指すのも、魔王を目指すのも、世紀の大富豪でも、世紀の殺人鬼になっても構いません!...どうか、良い旅を。旅人よ(トラベラー)。」


真剣に、少し憂いを持って、世界を見守る者(じしょうめがみ)はそう言った。

俺は、なぜかその時初めて自称女神(エフィル)の本音を見た...そんな気がした。

そうだな。せめてなんか言うか...ふむ。


「じゃあそうだな。さよならだ(Good-bye)、エフィル。精々矮小な人間らしく楽しんでくるさ」


言うと、体が光り始める。いかなる原理か体の内側から光っている。

そして。


「最後によりにもよって皮肉ですか...」


そんな女神(エフィル)の呟きとともに俺の意識は途切れた。

次回からようやく本格的に物語スタートです。

インテリジェント・デザイン論は要するに高度な知性体がこの世界をデザインしたのではないかという理論です。まあ科学に神をねじ込もうとする個人的クソ理論ですが。

因みに自称女神エフィル達は世界をデザインしたわけではないです。ただ超科学の産物と共に実地調査とかしてた時期があるのでそれが各世界で神として認識されてる場合もあります。

”神族”と言ってますが神ではないです。あくまで”宗教に縛られないもの”とか”すごいことが出来る種族”を日本語訳したら神として出力されてます。ガバガバ翻訳です。

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