表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界学術論~結局のところ物理が最強~  作者: N-マイト
第一章 学園入学編/一年生。それはピカピカの
19/93

第十九話 顛末備忘録/真実は闇の中

ぼろぼろ、ミート・スライムの身体が崩れて行く。

竜巻が拡散し、墜落した炭と燃えカスの塊と化した奴が力なく地面に沈む。

だが、生きている。


黒ずんで、ボロボロになりながら、それでも蠢いている。


「なんだ!?なにがあった!」


「きゃあ!何、あれ!」


流石にド派手にやり過ぎたか、生徒たちが集まってきた。

不味いな、もし人間を喰われて回復でもされたら周囲を巻き込んで焼き尽くす必要が出て来る。

この状況自体は解決できるだろうが、意図的に周りを巻き込んだら俺も晴れて犯罪者だ。

面倒な。

そう思いながら魔剣を構える。


だが、奴は動かなかった。


周囲に人を認識してもなお、攻撃動作を行わない。


不思議に思っていると。


それは起こった。


「gi...i...i...ii」


もこもこ、と肉塊が隆起する。

すわ攻撃か、と身構えるが...攻撃する様子は微塵も無い。何のつもりだと思っていると....。

奴は、奴は。

()()()()()()

それは手も無く、足も無く、貌もない、只コブの様に肉が盛り上がったに過ぎなかった。

なのにそれは...正しく、人だった。


「a...」


肉の人形が口を開く。口がないのに、はっきりと。


「ko...こ、ころ...せ」


「ーーーー」


それは、ミート・スライムの、俺に殺されないための方策なのか、本当に()()()の願いだったのか、それは誰にもわからない。

けれど、確かに。


それは、頸を差し出した。


「”コア”...か」


スライム系の魔物...地球世界のフィクションでもスライムの弱点としてよくある設定。

”コア”。

スライムの身体を維持する種であり、心臓。それがコア。


それが。炎の竜巻を耐え抜いて守ったはずのそれが。

奴自らによって露出されていた。


「ーーーそうか」


憂いを持って俺はそう言う。


哀れだった。

確かに俺は痛烈に奴を下しただろう。

もしかしたら貴族として終わりを迎える運命だったのかもしれない。

ただ、それは”人らしい”愚かさだった。”人らしい”失敗だった。

ただ、これは....。


人の尊厳を、生命の尊厳を喪って。

もがいている姿は、酷く哀れだった。


からん、と魔剣を下ろして、俺は奴に歩み寄る。

そして、すっ、と俺はコアを握る。


「サヨナラだ。死後の事なんて信じちゃいないが...眠れ、安らかに」


.......一思いに、握りつぶした。



ぱあん。

奴の身体が爆ぜる。

肉片と血が飛び散り、俺はそれを浴びてしまった。

...嫌がらせか?


はあ、とため息を吐いて俺はべったりとついて肉片や血を払い落とす。


くるりと辺りを見渡す。

悲鳴を上げられる。


うーむ、どうも酷い状態の様だ。


「えーと、どうなってる?」


「りょ、猟奇殺人鬼にしか見えない....」


そりゃ酷い。寧ろよく質問に答える気になったな。


少なくともアイリーンが先生を連れてくるまで待つ必要があるんだよな、と考えていると、今しがた俺に答えてくれた男子生徒が話しかけてくる。


「これは...いったいどういう状況なんだ?端とは言え、学園にミート・スライムがいたように見えたん...だが。ああ、僕は三年のアリオス・タリオ。”生徒会”の副会長だ」


ああ、そういえばこの学園にも生徒会はあったんだったな。事件らしき現場に駆け付けるとは勤勉なことだ。


「アッシュ・クロウだ。...おっと、です。あー、事が事なので、公表OKか判らないんですよね...。」


たはは、と頭を掻く。ぬるっとした。


「どういうことだ?只事でなさそうなのは見て取れるが...魔物化...あっ」


あら、気付いたか。

ミート・スライムは普通のスライムと違い自己分裂を起こさない、”魔物化”限定で発生する魔物。

この学園にミート・スライムが生まれるような体積を持つ生物かつ、こんな校舎の端に足を踏み入れる生物なぞ一種類しかいない。


「...そうか、それは確かに下手に言及するのは不味いな。...現場を封鎖しておこう。...先生も来たようだしな」


見ると、アイリーンとフェルグスが駆けてくるのが見えた。


手でも振っておくか?...ん?なんか加速してないか?強化魔法!?

うわ、ちょ、その勢いはやば...


「アッシューーーーー!!!!」


がばん!と派手な着弾音と共に俺は抱きしめられる。


ぐええ。


「こんな血だらけになって!ケガしないでっていったじゃん~~~~!!!」


「違う、これ、返り血、汚い、から、やめとけ、うおおお、ぎぶ、ぎぶ、お前、強化魔法、で、全力で、抱きしめるな!死ぬ!」


「うわあああああああああんん!!!!」



閑話休題。



「で、それが事の顛末、と」


ロータス(こうちょう)が呻く様に言った。


「正直言って耳を疑いたい気分だが...フェルグスの奴や冒険科、魔物科の連中のお墨付きだからな...間違いなく学園内にミート・スライムが発生した、か....。」


「なあアイオダイン、レコ、こいつの言った事は...()()()()()()()()()()()()ことは可能か?」


ロータスが後ろを振り返る。

問われたのは二人の教授。


アイオダインと呼ばれた方は、スネ〇プっぽい根暗な40くらいの男。彼は魔法薬学教授。本名アイオダイン・ロクナン。

レコと呼ばれたのは瓶底メガネのヲタクっぽい30っぽい女。彼女は魔物学の教授だ。本名レコ・アノルル。


「ふむ...貴様の魔眼とやらは確かかね?」


ぬ、っと皺の寄った顔を近づけてくるアイオダイン。

根暗そうではあるが圧力のある顔だ。


「まあ、少なくとも、人間よりは嘘を吐きませんよ」


ははは、と笑う。


「それを私に伝えているのは人間(きみ)ではないか。...まあ、いい。信用しよう。どの道手間はかかるが現場のサンプルからある程度は分かることだ。...そうだな。恐らくは、としか言えん。魔法薬と言う以上、液体に魔力を仕込むのは常識であるし、”禁忌の薬”と呼ばれる魔法薬の中には幾つか服用者の身体構造に変化を起こすものもある。だがどうやって人間を魔物に変える程の高濃度魔力を捻出したのかが分らん。」


ふるふる、と首を振ってアイオダインが引き下がる。

すると代わりにレコが口を開いた。


「そうですね、拙からも、可能ではある、としか。」


拙!?珍しい口調だなこの人。


「魔物化の条件は”一定量の魔力を取り込む”ですから。...ほかの条件はない、と現在の研究は言っています。よって、現在拙が持つ知識の中から申し上げますと、可能ではあります。しかし、現実的に用意できる量の魔力ではないはず、です。」


具体的な量は知りえないが、自然界にあふれんばかりに存在する魔力の、エントロピーの増大をねじ伏せる程高濃度かつ大量の魔力が最低でも魔物化には要求される。そうなると、はっきり言って非効率すぎる気はする。


「ただなあ」


ぼそ、と口にすると全員の視線がこちらに向く。


「...なにか心当たりでも?」


「......俺の魔眼は、犯罪者を見るとカルマ値...まあ、罪の量が可視化できるんです。...最近気付きましたけど」


「...衛兵や裁判官に持って来いだな。で?」


「犯罪者だ、と確定しないと見えないんですよ。原理不明ですけど。...奴の...あの三人のカルマ値は、ちょっと変だったんです」


「...もったいぶらないでくれ」


じれったくなったのかロータスが先を促す。


「そうですね。じゃあ結果から言いますと、奴らのカルマ値は全て殺人が2.5でした」


言うと、教授陣が顔をしかめた。


「それは...だがどういうことだ?察するにそれは()()()()()()()()?それとも複数人で殺せば分割なのか?」


「違いますね。一応リサーチ事態は...衛兵詰め所に行く機会があったのでしましたが、複数人で殺しても1は1です。ーーーあるじゃないですか。()()()()()()()()()()()()()()()


全員が気付く。驚愕と嫌悪が顔に浮かぶ。

なぜならそれは。


「「「()()()()!!」」」


生贄儀式。地球世界にも存在する儀式。生贄として選んだ者の命を捧げることで神に願う儀式。この世界では実際に効果がある魔法。

だがこれはこの世界でも禁忌中の禁忌...”禁断”として定義されている。

だが、禁断の魔法たる理由は、()()()()()()()というだけではない。人の死を呼び声にして発動するとしている魔法は実はいくつもあるし、禁止されていることは多いが知ることは不可能ではない程度である。

ではなぜ生贄儀式は禁断なのか。

それは。


「生贄儀式は”死”ではなく”命”を捧げる。ーーーつまり、()()()()()()()()()()()()()()()。ならば、そうなるのも当然の話。恐らく、魔物化の魔法薬は人間10人を犠牲にして作られるものなのでしょう。残り足りない1/4は恐らくは」


「魔法薬の製作者か。...アイオダイン」


「ああ、言おう。()()()()()()()()()。...おそらくは。ウォーラットを生かしたまま溶かす魔法薬があるが、あれはかなりのリソース量を持つ。...仮説にすぎんが、人間10人の魔法薬など、推して知るべしというべきだ。いや、間違いない、と言うべきだな。知識にすぎんが、生贄儀式とは、そういうものだ」


空気が張り詰めていくのを感じる。


三人が次々と言葉を交わす。

自らの知識や仮設を交換し、今の段階で可能な限り真実を見出そうとする。


結果は。


「すまんな、待たせて。...結論として、黒幕はどうしようもないな。生贄儀式を利用する組織や国に見当がつかん。完全な真実は闇の中、と言うしかない」


まあ、そうだろう。なんせ、使った時点で人類の敵。全人類が殺しに来るとさえ謳われる所業である。


「だが、逆に言えばそれだけの存在が我々の学園に手を出そうとしていることを、犠牲...はあったが、まあ小規模の事件として処理できた。礼を言おう。ーーああ、もしかしたら後々王城の連中から褒美が出るかもな」


それは...まあ、褒美が出るなら欲しいが。


真実は闇の中、ね。


俺は奇妙な予感を感じていた。

何か、大きくて暗いものが忍び寄っているような予感。


そしてそれは的中する。

この学園は、この国は。


とても大きく、暗い本流に飲み込まれていく。

第一章完、ってところ。

まあ、世界の基礎とどんな事してくる連中が敵なのか開示するまでのお話でした。





生贄儀式について

この世界には輪廻転生の概念があります(あくまで宗教的概念)が、生贄にされたものは永遠にこの世に魔法の一部として刻み付けられる運命となります。なのでクソということ。

自我は残りませんが、自立式の魔法とされる場合もあります。それも輪廻の輪から外れることになるという概念のでどころ。

この魔法は、人間すべてを魔力に刻み付けてしまうことで操作可能な魔力の範囲と強度を大幅に向上させる形をとります。よってこれを行使される人間は少しずつ自分が消えていく絶望を味わいながら消滅します。

人格排t...おっと誰か来たようだ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>例を言おう。 礼を言おう。 かと
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ