第十四話 魔法学園体験授業2/俺の世界
今日は学園三日目の朝だ。
昨日はいろんな連中に絡まれて面倒だったのでさっさと部屋にこもって研究とか制作とかしていた。
安定してあの先生に勝てるようにしないとな...一単位貰えたしどっか選択授業切るか...。
と大興奮中のロメル、ネア、アイリーンの言葉を聞き流しながら考える。
因みに会話内容は俺。生実況して録音でもしたのかってくらい詳しいロメルの俺とフェルグス線のあらましに二人が大興奮している。
あとカガミとノーノもめっちゃ聞き入っている。
まあ会話に混ざろうとすると面倒なのでスルーだスルー。
「で!アッシュから見てフェルグス先生はどうだったの!?」
あっ巻き込まれた。アイリーンの求めでは逃げられないか。...前逃げた時拗ねられたしなぁ...。
「火力はアイリーンの下位互換、ただし技術はアイリーンの上位互換。正直アイリーンが師事するべきはあの人だと思う」
言うとなんか微妙な顔をする一同。
「あんま参考にならん」
「アイリーンさん中心すぎる感想ですわ、というかそれでも変な感想ですわ」
「ちょっとそれだけじゃ解らないかな~...」
むー、ダメか...。
「ならそうだな、まずは基本性能だが、完全無詠唱で身体強化をしてくるのが面倒くさい。加速に重きを置いているスタイルだが本体のパワーが高いから攻撃力は十分ある。攻撃面では後隙より前隙を減らすタイプ。当たれば後隙は帳消しとか思ってるタイプだな。少ない起こりで確実にとりに来る。防御面ではひたすら堅い。剣の動かし方を完全に理解しているんだと思う。戦法全体で言えばテンションファイターっぽいだけの理論型。攻めよりのカウンタースタイル臭いな、攻めるときはアイリーンっぽい。俺は情報量で圧殺してから現状の対人最大火力を叩き込んでから刺したが、防御やスピードは兎も角火力は其処まででもないから最悪防御手段さえあるなら大火力で押し続ければ多分勝てる。ただ剣で勝とうとすると相当めんどくさい。攻めもできるとは言え基本的にはカウンター型っぽいから待って受けて隙を作るとかしないと厳しい」
こんなところか。
「おい、なんだその顔は」
そっちが求めてきたんだろうが。...アイリーンだけ得意げだな。お前が言ったんじゃないだろうに。
「いや、思ったより出てきてな...」
ロメルが呆れたように言う。貴様...。
「うるさいな、俺は純戦士じゃなくて元々はどちらかと言うと学者とか技術者とかそっちの人間なんだ、理論と言うか相手を解析しないとやってられっか」
まあ、そういうことである。七面倒だが戦士型の連中に感覚だけでついていけるわけがない。
「成程ですわね...っと、つきましたわ」
そんな会話をしていたら次の教室に着いていた。
【占術学教室】と書かれた看板。
まあ、よりによって今日は初手占術学という。
俺の必修になるらしいが、果たしてどうなるか。
非常に不安である。
結論から言おう。不安は見事的中した。
...。
目の前に水晶がある。
魔力を込めてみる。
何も起こらない。
.......。
目の前に水晶がある。
魔力を込めてみる。
何も起こらない。
..........................。
目の前に水晶がある。
魔力を込めてみる。
何も起こらない。
「だあっ!結局何も起こらないじゃねーか!!」
叫ぶ。
尚教室の他の場所でも似たような慟哭が発せられている。
A-Sクラス...約30名の男女が苦戦している。
占術学の先生、トレル・シビル。一見20代に見えるほど若々しいが50を超えているらしい(昔なんかやらかして見た目が固定されているそうだ)彼女が最初に言ったことは、
「皆さんに配った水晶があります。これを光らせてください」
だった。光の色や揺らぎから自分をうんぬんかんぬんと言っていたが、今のところ誰も光っていない。
「自分の内側と向き合うのです」
そう言われてもな...。
「そう言われても、と言う顔をしていますが、貴方ならできますよ」
....!?
「ふふ、驚きましたね?集中している証拠ですね」
ぽんぽんと頭を撫でていくトレル。
ホントに50だとは思えんな。
とてとてと教壇に戻り、くるりと回って見せる。
「答えは常にそこにある。けれどそれは本質の中に。簡単には見えません。そう、名前に本質はありません。見た目に本質はありません」
まあ、あんたが言うと説得力があるな。
「本質はいつも己の中に、先入観を除いた先に。占いだと思っているうちは無理でしょう」
...先入観、ね。
光る、光る...光はエネルギー。白熱電球なんかはわざと抵抗を発生させて光っている。”光”は余剰エネルギー、変換しきれなかった熱のなれの果て、とも言える。
ただこの水晶は絶縁体の様な感じだ。かなり純粋なクリスタル...。組成が違うだけで魔水晶の様に魔力をよく通したり、コレの様に通さなかったりするのは正に化学だな。
だが、魔力がこんなにも通らない以上、光を発する訳が..........。
違う。
これすらも先入観か。
有機畑の人間ではないが、それくらいは知っている。
光を発する、なんて書いてある反応が、目にほとんど見えない程度の光しか発しないなどよくある話。
俺は、そうだ。魔法に慣れすぎたのだ。
そうだ。答えは常にそこにある。
もうすでに見えているのだとすればーーーー。
「成程な」
俺は水晶の触り方を変えた。
掌で触っていたのを指先へ。
五指どころか人差し指だけに。斜めに、上から覆うように触っていたのを、ある角度の直径方向に。
すると。
「...え?うわあ光ってる!!?」
アイリーンの言葉の通り、俺の水晶は光輝いた。
魔術とか占いのイメージでよくある、水晶全体がぼう、と光る形ではない。
まるで白熱電球の様に、フィラメントを内包するかのように。
その中心軸から光を放つ。
「...ほう、最適解、ですか...。何故気付いたんです?」
ほわほわとした口調でトレルが問うてくる。
何処まで説明したものか、と思わないでもないが...たぶん、判って聞いている、のだと思う。
「結晶構造」
「....ほう」
にこぉ、とトレルが笑う。
如何やら求める答えだったらしい。
「結晶...水晶は基本的に六角柱状に成長する。そして水晶玉は基本的にその柱を削り出して成形する。その方向に、高圧...出す穴を絞って魔力を流してやれば光る、と言う訳だ」
ぱちぱち、と手を叩くトレル。
しかし、ネアがだが、と声を上げる。
「ですが、何故見つけられたかの答えにはならないのでは?水晶の結晶構造?の方向に魔力が流れるなんて一般には知られていない筈では?」
「まあ、そうだろうな。知ってれば適当にさすってればそのうち光るだろうけど、な。俺は偶々知っていたが、大多数は水晶玉に向きがあることも知らないだろ。まあ、よって、答えはもう一つ。...たぶん達成率50%の答えがある」
すっ、と俺の隣...アイリーンが抱えている水晶玉を指さす。
「よく見るんだ。水晶玉は...既に光っているのだから...まったく、日差しの入る部屋でやることじゃない」
言うと教室がざわつく。
皆慌てて水晶玉を凝視している。
パチパチパチパチ。先ほどより大きく手を叩いてトレルが近づいてきた。
「うん、100点満点、全部言いましたね。言ってしまいますが、初めてでこれに気付いたのは貴方で6人目です。それなりに長い教師人生を通してね。貴方ならこの授業をを通して多くを学べるでしょう。ーーーいいですか、皆さん。これが”本質を見抜く”と言う事です。皆さんは恐らく、”占い”の授業だと思って今授業を受けていたのでしょう。ですがそれは違う。皆さんのイメージ、"胡散臭いもの"という偏見にすぎません」
あ、この世界でも占いは胡散臭いのか。...まだ信じられてそうではあるが...ああそうだ、この世界には神託があったか。あっちに信頼度食われてるんだな。
「いいですか、”占術”とは技術です。学問です。そこには必ず真実があり、物事の理屈がある。己を見通し、物事を見通し、その先を”予想”では無く”予測”する...それが”占術”。...難しいですよね。...そうですね、例えば、水晶玉を思い切り床にぶつけるとどうなるかわかりますよね、そう、当然割れます。それが予測です。それをもっと突き詰めたのが占術、と思っていただければ」
そうか、やはりこれは...
科学だ。
原理を紐解き、導く先を予見する。
それは原始的な科学だった。
地球でも、現代の胡散臭い占いは兎も角、”本当に当たる占い”は過去にいくつも存在していた。
占星術やらなんやら、まあ、昔の占いは想像以上によく当たる。それは”こんな時にこれがあった”の集合体が永く、永く受け継がれてきたが故。
現代地球ではそれを”統計学”という。
経験的に得られたバラツキのあるデータから、数学を応用して数値上の性質、規則性または不規則性を見いだす手法。
それを何世代にもわたって積み上げた、全く持って科学的な手法。
なるほど、おススメされるわけがわかった。
不明瞭なモノではない。
もしかしたら、本当に。
俺の深みを、見れるかもしれない。
実は重要な占い。
トレル先生のモデルはトレロ-ニー先生。
ハリポタ良いよね。




