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4.九条先生のお父様

<簡単な登場人物紹介>

・九条くじょう 真まこと Ω(オメガ)

黒髪の美青年。20歳。

小中高大飛び級を繰り返し16歳で医学部を卒業し国家試験も満点で合格。特例で医師免許取得。自身が院長のΩ専用メンタルクリニックに勤める。

16歳で妊娠、17歳で出産しており3歳の愛息子・ルイがいる。

番は人気俳優・天上院 蓮だが、彼には一途な想い人「カレン」がおり、自ら身を引いて息子と二人で暮らしている。昔から今も蓮のファン。


・天上院てんじょういん 蓮れん α(アルファ)

茶髪、切れ長の瞳にスタイル抜群、圧倒的イケメン。25歳。

子役時代から俳優として活躍し、今や国内外で人気のアイドルであり俳優。また世界的規模の天状製薬社長の息子であり、投資家などさまざまなジャンルを席巻している。

テレビに露出するたびに想い人「カレン」に愛を囁くことでも有名。


・九条 ルイ

真と蓮の間に生まれた子供。三歳。

三歳児とは思えない風格をしており、容姿は親譲りの端麗さ。すでに三か国語を習得する神童。

真をこよなく愛している、父親が蓮であることを知らない。


・「カレン」

蓮の想い人。詳細は不明。

何百人と他人の命を救ってきたのに、

世界で一番大切で、愛した君を、

どうして救えなかったのだろう。

ーーーーーーー



「しゅーちゃんは、悪くない。・・・悪いのは、全部、私・・・」

彼女は薄目を開けて最後の力を振り絞ると、自分の腕にそっと触れた。

「世界で一番愛しい人・・・この子たちを・・・お願いね・・・」

そう言うと微笑んで、彼女は静かに息絶えた。

自分の運命の番は、出産による失血死により16歳で命を落とす。

急な陣痛、破水。オペ中だったため自分は彼女のコールに気が付くことができなかった。

彼女は自身の仕事を誇りだと言ってくれたが、自分は他人の命を救い、君をーーーーー。

花恋かれん・・・・必ず、この子たちは守り抜く。俺のすべてに、代えてでも」

弱弱しく泣き声をあげる双子の男児をそっと抱きしめながら、九条修二くじょうしゅうじは涙を流した。


************


「父さん、天上院蓮さんのファンクラブに入ってもいい?」

息子・九条真は前触れもなく修二に唐突な提案をした。

書類から顔を上げると、いつになく真は真剣な表情を浮かべている。

「・・・・・入ることで、何か利があるのか?」

「うん、ファンクラブに入っていないと握手会とか、イベントに応募できないから」

「ーーーーーーー」

真は双子の兄・みのると違い、自分に従順な生き方をしていた。

反抗期も特になく、幼少期に自分と同じΩの助けになる医療がしたいと言って以来、医療の才能を開花させ、飛び級し自分と同じように医療の道を進んでいる。

Ωであり、さらに自分や花恋に似た美しい容姿をしているため、今までいろいろとトラブルに巻き込まれかけたが、自分が穏便に事を済ませ、危害を加える&加えそうな者は排除してきた。それが原因なのか、真は何かするときに決まって自分に報告するようになった。陰で何かしても、自分にすべて筒抜けなことを、今までの経験から重々理解しているようだ。

「握手しに行って、どうするんだ」

「直接お礼を言いたい」

「何もされてないだろう」

「子役時代から、彼の存在が僕の励ましになっていて・・・・・」

真・語り始めて早10分。

「そんなに好きなら、私が天上院蓮に個人で会えるよう掛け合って・・・・」

「そういうコネとか使わずに、正々堂々ファンとして会いたい!」

珍しく食い下がる真を見て軽くため息を吐く。

こうなった真は意地でも自身の意見が通るまで自分と徹底抗戦する。

以前からよく蓮のドラマや映画を見ていると思っていたがーーーー。

「真、お前を握手会に一人で行かせるわけにはいかない」

「じゃあ、父さんもファンクラブに入ってよ。僕がイベント関連で当選しても、父さんも当選した時しか行かないから」

その言葉にさらに眉をひそめる修二だが、良い提案だと思った。

真を自分の目が届かない場所に一人で行かせるわけにはいかない。

それに一緒に当選して、蓮に会うことはどうでもいいとして、真と外出できることが修二は嬉しかった。

パソコンで蓮のファンクラブを検索する。


<<天上院蓮オフィシャルファンクラブ 『はっぴー☆れーん!』>>

登録者数 4256万人

年会費  7000円

はじめましての方→............

officialぐっず→.............


「・・・・・・・」

天上院蓮のことは、彼が幼い時から知っている。

それに真は知らないが、蓮の父・天上院守てんじょういん まもるとは幼馴染で親友だ。

蓮に会わせようと思えばすぐ会わせられるのだが・・・。

「(真を知らんところに放り出すわけにもいかないしな・・・幼馴染の息子を応援する意味も込めて、このふざけたファンクラブに入るか・・・)」

修二が大きくため息を吐くと、手際よく自分と真の入会手続きを始める。

「さすが父さん!お金は僕の口座から引き落としで・・・」

「真、私に隠れて一人でライブや握手会に行かないように」

「うん!ありがとう、父さん!」

満面の笑みを浮かべる真に思わず赤面してしまう。

真には悪いが、四千万人近くもファンがいて、二人揃って当たるわけがない。

修二はそう高を括っていたが、まさか年内の握手会に二人とも当選するとは夢にも思わなかった。


*********


「(まさか握手会当選日が、自分の帰国日と重なるとは・・・・・・・)」

修二はストックホルム・アーランダ国際空港のベンチに腰を下ろした。

現在、ノーベル生理学・医学賞受賞のため海外に来ており、パーティを終え先ほど空港にたどり着いたところだった。帰国は明日の13時半、車を飛ばしたら、ちょうど握手会を終えた真の迎えができる。

「握手会の帰り時間あたりには間に合うと思うんだが・・・まだ発情期が来ていないとはいえ、念のため予防として抑制薬を飲むように」

「☎<父さん、本当に大丈夫だよ。僕が体を鍛えているし、かなり強い抑制薬だから、もし発情期が来たとしても大丈夫>」

「・・・・・・・・・・・」

修二と天状製薬で開発した新薬の抑制薬は、副作用がほとんどなく、それでいて効果はかなり強い。予防的にも服用でき、修二自身、薬さえきちんと服用すれば、万が一発情期がきたとしても、真はおそらく大丈夫だと思っているがーーーーー。

「(ただもし、運命の番に出会ってしまったら・・・・恐らく、薬の効きは悪い・・・)」

そんな一抹の不安を感じながらも、修二は自分に大丈夫だと言い聞かせる。

Ωの多くは十代の後半から発情期が訪れるし、世界にたった一人しかいない運命の番に、このタイミングで出会うとは考えにくい。

だがやはり心配で海外から真に電話をしたが、彼も外出対策は十分のようで、少し安心した。

「☎<また当日の様子、細かく連絡するね。父さんも、気をつけて帰ってきて>」

真はそう言うと電話を切る。

「・・・・・・ノーベル賞、辞退すべきだったか・・・」

「なーーーーに言ってんの!名誉なことなんだし、総理からも直々にお願いされちゃったんだから、そんな勿体ないこと言わない!」

修二の隣で授賞式に一緒に参加していた天上院守に肩をたたかれる。

「それに辞退なんてしたら、真くんキレるよ」

「ふふ、そうだな・・」

他愛のない会話をし、修二たちは飛行機に乗り込んだ。

今思い返しても、あの時、賞を辞退して真のそばにいてやれなかった自分が、悔やみに悔やみきれない。


帰国して初めて見た真は、発情期によるひどい熱に浮かされ、首から血を流し、運命の番に散々犯された後だった。

倒れて息遣いが荒い真を抱きしめる。

この状態で放置すれば命が危ない。

救急車の手配を済ませ、九条病院のΩ病棟の個室を確保するよう医療秘書の花宮に電話をかける。

「(薬の飲み忘れはないはず、つまりーーーーー)」

こうして発情期が起きたということは、真が運命の番と遭遇したということだ。

傍で一緒に帰国した守が必死に真を犯した運命の番、天上院蓮を必死に押さえつけていた。

彼は理性を失った獣だった。

「(そうか・・・・あいつが、真の運命の番-------)」

運命の番だからという理由で、息子をこんな姿にしていい理由にはならない。

もし彼を誰も止めていなければ、彼はこんな状態の真を犯し続けていたのか・・・?

ぼろぼろの姿で目を伏せる真を修二は呆然としたまま優しく抱きしめた。

「真、もう大丈夫だ・・・すぐに病院に連れて行くからな・・・・・・」

「父・・・さ・・・・・・ん」

か細い声が聞こえる。

「僕が、彼を、ああさせたんだ・・・・・僕は、番になりたかった・・・・・彼は、悪くない・・・」


ーーーーーしゅーちゃんは、悪くない。・・・悪いのは、全部、私・・・ーーーーー


世界で愛しい自分の番の声が聞こえる。

藤宮ふじみや 花恋かれん。世界でたった一人の、私の番。

あの時、自分は彼女に誓ったはずなのに。

息子を必ず守り抜くと、決して、傷つけさせないと。

「だからお願いーーーーーーーー蓮を・・・・・殺さないで」


ーーーーー世界で一番愛しい人・・・この子たちを・・・お願いねーーーーー


自分がこんな状態でも、なお他人を気遣う息子と彼女の姿が重なった。

今まで誰にも言うことができなかった自責の念がどっと自分を襲う。

何百人と他人の命を救ったから、なんだ?

愛した君たちを救えないなら、こんな才能、必要ないーーーーーー。


「花恋・・・すまない・・・・私がいつも、不甲斐ないばかりに、大切な者を、守ると誓ったのに・・・!花恋!!!!!!!!私はーーーーーー!!!!!!!!」

泣き叫びながら自分は花恋の残した宝物を強く抱きしめた。

運命だろうが関係ない。

真をこんな状態にした、彼の運命の番を、そして私自身を、私は決して許さないーーーーーー。

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