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2.九条先生の愛息子

<簡単な登場人物紹介>


九条くじょう まこと Ω(オメガ)

黒髪の美青年。20歳。

小中高大飛び級を繰り返し16歳で医学部を卒業し国家試験も満点で合格。特例で医師免許取得。自身が院長のΩ専用メンタルクリニックに勤める。

16歳で妊娠、17歳で出産しており3歳の愛息子・ルイがいる。

番は人気俳優・天上院 蓮だが、彼には一途な想い人「カレン」がおり、自ら身を引いて息子と二人で暮らしている。昔から今も蓮のファン。


天上院てんじょういん れん α(アルファ)

茶髪、切れ長の瞳にスタイル抜群、圧倒的イケメン。25歳。

子役時代から俳優として活躍し、今や国内外で人気のアイドルであり俳優。また世界的規模の天状製薬社長の息子であり、投資家などさまざまなジャンルを席巻している。

テレビに露出するたびに想い人「カレン」に愛を囁くことでも有名。


・九条 ルイ

真と蓮の間に生まれた子供。三歳。


・「カレン」

蓮の想い人。詳細は不明


・葉山

Ω専用メンタルクリニックに勤める看護師。自身もΩ。


・立花

天状製薬のMR。若いころは天上院家に勤め、蓮の子守役だった。そのため、蓮のことを「坊ちゃん」と呼ぶ。

愛しい人の愛しい人は、

今日も手の届かない、画面向こう。

ーーーーーーーーー




「ルイー!!!!お迎え遅くなってごめんね!」

父・九条 真の声が聞こえ、ルイは読んでいた本から顔を上げた。

父子家庭である自分にとって、延長保育は毎度のこと。

いつも申し訳なさそうに迎えに来る真を見て、ルイは駆け寄ると言った。

「パパ。僕は待つことに抵抗ないし、大丈夫だよ」

父にはいつも笑顔でいてほしい。

父の仕事は尊敬しているし、父が多くの人を救ってることはとても誇らしい。

それに自分に一生懸命な父を、ルイは心の底から愛していた。

それ故に、自分の存在が父の邪魔になりたくなかった。

「ルイ・・・・・・」

ルイの言葉に真は苦笑する。

その時、ルイはふと思った。

父の弾けたような、満面の笑顔を見ていないのは、いつからだろうかーーーー。


*************


「ルイくんはどこー!!!!」「ルイくんとあそびたーーい!!!」

園庭から女子の声が聞こえる。

九条ルイは裏庭のベンチで一人読書をしていた。

黒髪に切れ長の瞳、三歳にしては足が長くスタイルが良く、彼は現時点で日本語と英語、そして中国語を話すことができた。誰もが認める容姿端麗、文武両道三歳児である。

しかも本人は無自覚なのか、誰でも平等に接し、はっきりしている性格からか、男女ともに人気が高かった。そのせいか、ルイが遊びに参加すると取り合いで喧嘩になったりし、先生に迷惑をかけることがしばしば。

極力面倒ごとを避けたいルイは休み時間の大半を一人で過ごすことが多い。

ふと顔を上げると、裏門付近にサングラスにマスク、そしてすっぽりフードを被った怪しい青年がうろついている。

スマホを見てはどこかへ消え、そしてまた裏門に戻ってくる。

「・・・・・・」

厄介ごとに巻き込まれるのは御免だ。

無視して過ごしていたが、サングラス越しにその青年と目が合うと声をかけられた。

「ここって・・・・にじいろ保育園で合ってる?」

「ここは霧ヶ峰保育園、にじいろ保育園は霧ヶ峰駅の向こう側」

「つまり・・・どっちに行けばいいのかな?」

「駅の向こう側だから、ここ真っすぐに行って交差点に差し掛かったらずっと左」

「駅・・・・」

「待って、どうやってここまで来たの?」

「車、マネージャーが運転してくれるから」

ルイは平然と返答する青年に深いため息をついた。

彼の態度から迷子常習犯で、おそらくこういった場面に何度も遭遇してきたのだろう。

立ち上がるとルイは裏門の青年に近づく。

「Koogleマップ見ても帰れないの?」

「うん、あとマップ見ても自分の直感で動いちゃうんだよね」

「迷子の原因はそれだよね?」

苦笑する青年を見てルイは目を丸くした。

「・・・・・天上院 蓮」

彼の動きが一瞬固まる。

「驚いた・・・・よく分かったね」

彼はサングラスを外し、マスクを顎まで下す。

そこにはかの有名すぎる大スター・天上院 蓮の姿があった。

「僕のパパが好きでよくテレビ見てるから、背格好や仕草を見れば・・・それに、方向音痴で有名だし」

「この変装、結構気が付かれないんだけどな・・・。さすが俺のファンだね」

「僕はファンじゃない。パパが見てるテレビが嫌でも目に入ってくるかだけだから。それに僕はパパのこと大好きだから、正直いつも嫉妬してる」

淡々と否定するルイに蓮は驚いた表情を浮かべる。

今まで蓮が出会ってきた人たちは全力で蓮に好意を向け、媚びたり気を引くことで必死になる。

蓮を邪険にするルイの存在は、彼にとって新鮮なものであった。

「あと一個気になったんだけど・・・今時、保育園にそんな本が置いてあるの?」

ルイが手にしている本を見て蓮は眉間に皺を寄せた。


『大人になるとは ~他人の感情を汲み取る術を学ぶ~』


保育園児が手に取る本としては、かなりかけ離れたものであった。

「これはおじいちゃんの家にあった本を借りただけ。園にはないよ」

大事そうに本を抱きかかえるルイを見て、蓮は自分と同じ視線になるまでその場にしゃがみこんだ。


「どうしてそんなに、大人になることを急ぐの?」


「え・・・」

「まだ君、子供でしょ」

裏門の隙間から蓮はルイに手を伸ばすと、頭をぽんぽんと触る。

父以外から久しぶりに子ども扱いされ、ルイは思わず赤面した。

「別に、何を読もうと勝手でしょ・・・それに・・・・」

苦笑する父の姿が脳裏を過る。

「早くパパの力になりたいし・・・それに、パパにいっぱい笑ってほしいから・・・」

自分が早く父の隣で、父を支えられるようになれば、きっと父も以前のように笑ってくれる。

そのためには、今以上の努力と、子供のままではいけないのだ。


ーーーーールイ、お前が父を守りたいというのなら・・・お前が、力をつけなければならないーーーーー


あれ以来、自分は子供であることを捨てた。

Ωで、番とも縁を切られて、でも人生に悲観せず、前向きに生き、弱者に寄り添う父を幸せにするために、有限の時間を活かせるだけ活かさなければならない。

甘ったれた子供のままではいけないのだ。

「君の事情は分からないけど、俺がもし君の父親だったら・・・・寂しいかな」

「・・・・・なんで」

「もちろん大人になることも嬉しいと思うけど、自分の子供には、たくさん甘えてほしいかな。それに、『自分のせいで子供が大人にならざるを得なかった』のなら、尚更ね」

「-------」

テレビ越しで見る彼は、「カレン」「カレン」うるさくて、顔は笑っていても目が笑ってなかったり、でもそんな彼を父は好意的に捉えていて、嫉妬から嫌な奴だと思っていたが・・・・・なぜか彼の言葉が腑に落ちてしまう。

赤の他人から言われた言葉が、こんなにも自然に受け入れていることにルイは驚いた。

「・・・・長生きしてるだけあるね」

自然と笑みを浮かべてしまう。

ずっと悩み、モヤモヤしていたものが晴れたような気がした。

ルイの笑顔に蓮は一瞬目を見開くが、どこか切なそうな表情を浮かべた。

ピピピピピピピピピピ・・・・

その時、蓮のスマホの着信音が鳴り、彼はポケットからスマホを取り出した。

「ごめん、柊。俺も迷いたくて迷っているわけじゃなくて・・・今霧ヶ峰保育園ってところにいるよ。その場から動かずに待っていればいい?」

どうやら蓮の保護者が迎えに来るようだ。

やり取りが終わりスマホを切ると、蓮はほっと胸をなでおろした。

「マネージャー迎えに来てくれるみたい」

「絶対に自力で帰れなかったし、良かったね」

「んーーーーー可愛げないね、君」

蓮はそう言うと声を押し殺して笑う。

「解決したみたいだし、休み時間も終わるので僕は保育園に戻るから」

「あ、待って待って!君さ、連絡先交換しない?」

唐突な申し出にルイは耳を疑う。

「え、何言って・・・・」

「何だか君のこと、放っておけなくて。ほら、それにもし芸能界とかに進出するってなったとき、俺とつながりあると強いよ?そうじゃなかったとしても、君のパパ、僕のファンだし持っていて損はないんじゃない?」

急な提案にルイは動揺する。

大スターがこんなにも必死に理由を並び立てて自分の連絡先を聞く状況がまずおかしい。何か裏があるとしか考えられないが・・・・・・・父は彼の熱狂的なファンだ。

父が、もし自分と蓮との間に繋がりがあれば・・・喜んでくれるだろうか。

「・・・・・僕の携帯番号でもいいですか」

「もちろん!俺あとでショートメッセージ送るね」

ルイは蓮に自身の携帯番号を伝え、会釈して園に帰っていった。

その後姿を見届けると、蓮は自身の携帯に目を落とす。

私用携帯の連絡先を開き、ルイの携帯番号をすぐに登録した。

「あー、名前聞きはぐっちゃったな・・・」

『名もなきパパ大好き保育園児』。

登録して一人ツボにはまりクスクス笑っていると、後ろで車のクラクションが鳴った。

「天上院さん!!!!一人で行動するのはやめてくださいって言いましたよね・・?どうしたら撮影現場から30分も離れた場所まで来れるんですか・・・・僕は、あなたのお手洗いにまで付き添わなくてはいけないんですか!!!???」

怒り奮闘のマネージャー・ひいらぎに「ごめーん」と笑顔で謝ると後部座席に乗り込む。

「私用携帯なんていじって、珍しいですね」

「うん、今新しく連絡先登録した子がいてね・・・」

「は!?!?!?一切連絡先他人に教えたがらないあなたが!?どういった風の吹き回しで・・・」

「なんだろう、直感?」

驚くマネージャーを無視し、ルイは先ほどの少年を思い出す。

自分とそっくりなあの瞳・・・なぜか、ここで繋がっておかなければならないと、本能でそう思ったのだ。それに・・・・


ーーーーー長生きしてるだけあるねーーーーー


あの時浮かべた彼の笑顔が、どことなく「カレン」に似ていたから・・・・・

「あと天上院さん、例の件なんですが進展ありです」

「!?」

蓮は私用携帯から顔を上げ、後部座席から身を乗り出す。

「『カレン』が見つかったのか!!!!!!!!!」

「この前、立花に会ったんですが・・・・番がそばにいないΩがいるそうで、気になり調べてみたら身体的特徴がほぼ一致・・・・さらに九条くじょう 修二しゅうじの息子でした。ただ名前が『カレン』ではなく、それと・・・・」

柊が言葉に詰まる。

「やっぱり九条修二の血縁者だったか・・・!そこまで該当したら間違いないだろう!!!!!今すぐ彼の元に連れていってくれ・・・・」

声を荒立てる蓮をミラー越しに柊は見ると目を伏せた。

「三歳の、お子さんがいるそうです・・・・時期も『あの時』と合致します。ほぼ間違いなく天上院さんの子供かと・・・」

その言葉に、蓮の手から私用携帯が滑り落ちた。

ああ、俺の愛しすぎる番との間に、子供がーーーーーーーーー。

「この後の予定はすべてキャンセルして、九条修二の元に向かう」

「ですが、今撮影の途中で・・・」

「関係ない、今すぐに向かってくれ・・・頼む・・・」

蓮の姿に柊は静かにうなずくと車を出した。



*************



「ルイー!!!!お迎え遅くなってごめんね!」

ルイはいつも通り駆け足で迎えに来てくれる父に駆け寄る。

「パパ、僕は待つこと・・・・」


ーーーーーどうしてそんなに、大人になることを急ぐの?ーーーーー


いつもの文言を言いかけた時、ふと蓮の言葉を思い出す。

「ルイ?」

「・・・・・待つことは、嫌いじゃないけどーーーーパパともっと長く一緒にいたいから・・・もっと早く・・・迎えに来て、ほしい・・・・・」

その言葉に、父は両眼に涙をため、満面の笑みで自分を抱きしめた。

「うん・・・・パパもルイともっと一緒にいたいから、もっと早くお迎えに来るよ。仕事が遅くなる時は、先に迎えに来る、いっぱいいっぱい我慢させて、ごめんね」

父のまぶしい笑顔に思わずルイも涙目になってしまう。

こんなことで良かったのか。

ルイは思わず笑みをこぼした。

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