表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/19

九条先生の過去(終) ー見つけ出して、僕だけの番ー

<簡単な登場人物紹介>

九条くじょう まこと Ω(オメガ)

黒髪の美青年。20歳。

小中高大飛び級を繰り返し16歳で医学部を卒業し国家試験も満点で合格。特例で医師免許取得。自身が院長のΩ専用メンタルクリニックに勤める。

番は人気俳優・天上院 蓮だが、彼には一途な想い人「カレン」がおり、自ら身を引いて息子と二人で暮らしている。昔から今も蓮のファンであり、彼を愛し続けている。


天上院てんじょういん れん α(アルファ)

茶髪、切れ長の瞳にスタイル抜群、圧倒的イケメン。25歳。生粋の方向音痴。

国内外で人気のアイドルであり俳優。また世界的に有名な天状製薬の次期社長であり、投資家などさまざまなジャンルを席巻している。

高校の時から真を愛しており、離れ離れになった後もずっと探し続けている。

テレビに露出するたびに想い人「カレン」に愛を囁くが、実は真の名前を「カレン」と勘違いしている。


九条くじょう 修二しゅうじα

38歳。真の父親。

容姿端麗・文武両道。九条病院の院長であり、医学界の神と称されている。

世界で初めて認知症の治療薬を作り、世界最年少でノーベル賞を受賞している。

家族LOVE。害するものは許さない。

番であり、真の母である藤宮花恋は難産により亡くしている。


ひいらぎ β(ベータ)

蓮の敏腕マネージャー。

蓮が幼少期から担当している。


天上院てんじょういん まもる α 

蓮の父親。世界的に有名な天状製薬の代表取締役社長 。

修二とは幼馴染で親友だが、とある事件をきっかけに彼に逆らうことができない。

画面で向こうで、

君が「カレン」に許しを請う度に、

君がまだ「カレン」のモノではないことを、

喜ぶ僕を、許してください。

ーーーーーーー


「真先生ーーーーー医者って、みんながみんな、高い志を持っているわけではないと思うんですよ」

休憩室で久月とコーヒーを飲んでいた真は、思わず手にしていたコップを机の上に置く。

「顔に出ていましたか・・?」

「ええ、真先生は分かりやすいですから」

回診後、真は改めて己の未熟さを痛感させられた。

どんなに知識があろうと、やはり自分は周りの医師と比べて圧倒的に経験が足りない。

特に精神科に関しては患者個々に抱えている悩みが大きく違い、治療以前に、医師の言動一つで深く傷つく患者もいる。自分のような若く経験の浅い医師が、果たして彼らの助けになるのだろうかーーーーー。

そんなことを悶々と考えていたことが、どうやら久月は気が付いていたようだ。

「ここにはいろんな医師がいます。実家が開業医で仕方なくこの道に入った者、お金を稼ぎたくてなった者、モテたい一心でなった者・・・・そして、自分と同じ立場の人間に手を差し伸べたくて、若くして医師になった者」

「ーーーーーーーー」

「私はもう20年ほど精神科にいますが、だからと言ってすべての患者を正せるわけではないーーーーーこの科は、特にね」

久月はコップを置くと真を真っすぐに見た。

「僕は真先生は精神科が合っていると思っています。あなたはどんな患者でも一人一人しっかりと向き合う心を持ってる。彼らは、寄り添える人を求めていることが多いですから」

「久月先生は、どうして精神科医を志したんですか?」

自分の質問に久月は苦笑する。

「ーーーーーーーー自分が孤独でないと、確認するため。ですかね」

「?」

「真先生も、もしかしたらいつか私の動機に、共感してくれるかもしれませんね」

あの時の久月の表情が、切なくて、でもどこか優しくて、自分はそれ以上追及することはできなかった。

後に久月は後天性のΩで、自身の第二性が受け入れられず、自殺未遂を図り九条病院に入院し、父である修二に感化され医師を目指したことを知る。


********


「カレン・・・必ず君を見つけ出す。そしたら死ぬまで君のそばにいることを、どうか許してはくれないだろうか」

天上院蓮の握手会会場の騒動について、蓮は翌日に謝罪会見を行った。

謝罪と言っても、握手会事態は問題なく行われ、事前に手荷物検査や書類審査はきちんと行われていたため、蓮が記者から強く追及されることはなかった。

それよりも蓮が「カレン」という女性に対して、想いを堂々と電波で発信し、その詳細を話さずに去ったことが一躍話題となった。

ネット上では「カレン」が誰なのか憶測が飛び交い、一部では大喜利のネタに使われたりと、SNS上で異様なまでの盛り上がりを見せる。

修二は容態が落ち着きすやすや眠っている真の枕もとに座り、【世界的大俳優・天上院蓮に想い人か!?】という見出しのテレビをじっと見ていた。

「カレン」。

高校の時に真と蓮が接触し、自分の元から真が離れてしまうような気がして、真を守るふりをして引き離した。蓮の父である守から、蓮が真に異常な執着を見せていることは聞いていた。あれだけ誰とも番わなかった蓮が真と番ったのだ、今更蓮が真以外に靡いたとは一ミリも思わない。

恐らく自分が蓮の前で「カレン」という名を口に出したことで、彼が真の名前を勘違いしていると修二は推察していた。


「真と蓮を引き裂いた罰が当たったんだ、父さん。どう?テレビをつけるたびに、自分の愛した番の名前を呼ばれる屈辱は」


病室に入ってきた一人の青年が、険しそうな表情を浮かべて修二に言い放つ。

その青年は、真とそっくりな容姿をしていた。

九条実くじょう みのる

真の双子の兄であり、世界で有名なソフトウェア開発者でもある。彼の開発したSNSやセキュリティソフトは世界で幅広く活用されている。自国のセキュリティ対策も実の技術により確固たるものになり、総理大臣である美濃部曰く、九条実を敵に回したら国が沈むと揶揄するぐらい、自国、そして世界に対する彼の貢献度は大きい。

普段海外に拠点を置く彼だが、真に何かあればどこへでも飛んでくるほど、真を溺愛する重度のブラコンでもあった。

修二が真が倒れた旨を実に伝えたときには、すでに実はどこからか情報を得たのかプライベートジェットを飛ばして帰国していた。

実は眠る真の頬に触れる。

「父さんに天上院蓮を責める権利はない。こうなったのも、全部、父さんのせいなんだからーーーーーー。真の意志を、自分のエゴで捻じ曲げたりしなければ…」

「・・・・分かっている」

「そう。だったらいいんだけど・・・外で看護師さんたちが父さんを探していた」

「オペがある.....終えたら、またここに寄る」

修二は立ち上がると病室から出ようとしたが、その直前で立ち止まった。

「実・・・・元気に過ごしていたか?」

「......別に気にしなくていいよ、僕は真と違って、『α』なんだから」

その言葉を聞き、修二は口を開け何かを言いかけるが、噤むと静かに病室を後にした。

実は枕もとに座ると、切なそうにに真を見つめる。

「僕の真・・・可愛くて、優しい、僕の弟ーーーーー」

同じ顔なのに、真の顔は自分と全く違う。

「・・・僕が父さんから逃げなければ、真が傷つくことも、運命を捻じ曲げられることもなかったのかな・・・・・」

過去はもう変えられない。

「真一人に、父さんの重すぎる愛を背負わせた。いつかこうなることは予測できたはずなのに」

真が起きたら、彼の願いをできる限り叶えよう。

彼への贖罪には、到底及ばないけれども。


*********


真っ暗な世界に、重力を無視して自分はふわふわと浮いていた。

なぜここにいるのかも分からないまま、真はその闇に身を委ねる。

何か大切なことを忘れている気がするが、その「大切なこと」と向き合う精神力が、今の自分は捻出できない。そもそも、それが何かも、分からないままーーーーーーー。


--------------逃げないで。


誰かの声が聞こえた直後、体をグッと引っ張られる。

背後からそっと誰かに抱きしめられた。

顔を向けると、そこには白衣を着た自分の姿が。


--------------それでも、確かめなければならない。それが、「僕ら」の責任だから。


「!!!!!」

真は目を開ける。

体を動かそうとするが、鉛のように重く、起き上がることは困難だった。

視線だけを動かすと、ベッドサイドに自分とそっくりな姿の青年が目に入る。

「み・・・のる・・・・?」

声を絞り出すと、彼は涙目になりながら椅子から立ち上がった。

「真・・・!ああ、良かった、本当に良かったーーーー!!!」

双子の兄・九条実が真をそっと抱きしめる。

実と直接会うのは数か月ぶりだが、週に何度かビデオ通話をしていたこともあり、久々感はあまりなかった。

「(僕は・・・どういう状況なんだっけ…)」

よく見ると、自分はベッドの上におり手には点滴の針が刺さっていた。

状況が呑み込めない真を見て、実は真から一旦離れると椅子に腰かける。

「父や他の人が来る前に、今の状況を説明しよう。それに人伝ではなく、僕も真の状況を大雑把でいいから把握したいーーーー真の、一生の味方でいる。だから正直に答えてくれ」

彼は真の現状を話し始めた。

ここは九条病院の病室で、握手会で高熱を出して気を失った真は丸一日目を覚まさずに眠り続けていたこと。そして高熱の原因は、初めての発情期で激しく犯され、さらに番になったことで、急激な負荷が体にかかったからとのことだ。

「(そうだ・・・僕が蓮の意志を無視して、無理やり番にーーーーー)」

起きたばかりで頭がうまく回っていないが、あの時とった自分の行為が間違いだったことは嫌でも分かる。加害者なのに、今にも泣きだしそうな自分が心底憎い。

苦渋に満ちた表情を浮かべる真を見て、実は口を開いた。

「天上院蓮に、レイプされた?」

真は首をできる限り大きく横に振る。

実はその返答に驚く様子もなく、続けて質問する。

「真が望んで天上院蓮に抱かれたーーー誘ったのは、真から?」

頷く。

「天上院蓮を、愛している?」

頷く、何度も。

「天上院蓮と番になったことを、後悔している?」

「ーーーーーーーーーーーー」

真はじっと実を見た。

蓮のことを考えたら、本当は頷くべきなのだろう。

蓮は自分と番関係を望んでいない。望まれない関係を、自分の我儘で捻じ曲げて、無理やり関係を持った。後悔すべきなのだろう。でも、自分の醜い本心が囁いてくる、「自分の番は、彼だけなのだ」と。

「うん・・・僕の前では、噓をつかないで、真。僕はどんな真でも、味方でいるよ」

実は涙を流す真の頭を優しく撫でた。

離れていても、こうして無償の愛をくれる兄の姿に、真はぼろぼろと両目から涙を流す。

「後悔は、していない…うん…僕の番は、彼だけなんだ」

「僕は真が望むことを何でも叶えてあげたい・・・蓮と掛け合って、もう一度会わせることだってーーーーー」


「『いやー!!天上院蓮さんの想い人「カレン」さんが一体誰なのか本当に気になりますね~!会見ラストに話されたシーンをもう一度ご覧くださいー!』」


つけっぱなしになっていたテレビから、信じたくない言葉が聞こえる。

実が慌ててリモコンを手にするが、その手を静かにそっと下ろした。

今ここで隠したところで、この話題はテレビ、SNS、そして人の間で噂されている。真に隠し通すのは無理だと悟ったのだろう。


カレン・・・必ず君を見つけ出す。そしたら死ぬまで君のそばにいることを、どうか許してはくれないだろうか


番である真以外の名を、愛おしそうに呼ぶ蓮の姿がそこにはあった。

「・・・・嘘、だーーーーー」

蓮には、テレビで謝罪するほど想いの強い相手がいた。彼の表情、言葉から分かるーーーーーきっとその想い人は、彼の番。彼が一生を添い遂げたいと願う、愛しい人。

自分の行いが原因で、もしかしたら「カレン」が蓮から離れてしまったのかもしれない・・・自分が一つの人間関係を崩壊させた。

加害者。

「真、僕は蓮が真の名前を勘違いしてーーーーー」

「実・・・・・、何でも......何でも願いを、叶えてくれるんだよね?」

真はテレビから流れる蓮の謝罪会見を見ながら言う。

「天上院蓮を、父さんから守って・・・そして僕を、天上院蓮から、隠してーーーー僕が彼に関わった痕跡を、すべて消してほしい」

「真!一度蓮と話をするべきだーーーーー!!!!」

実の言っていることは正しい、その選択が間違いなく最良だ。

もしかしたら、彼は自分の名前を勘違いしている可能性だってある。でも、もし勘違いではなかったら・・・?蓮と話して、謝罪して、必要があれば番を解消してもらうーーーーー自分と蓮のつながりを、自分の手で断ち切るーーーーーーー。

そんなこと、自分ができるはずがない。

「実・・・・、僕はもし蓮と向き合って、僕との関係は間違いだったとはっきり言われたら・・・・きっと、生きてはいけない。僕は、臆病で、愚かな人間だ……加害者のくせに、自分の責務から逃れようと、こんなにも醜く足掻いてる‥‥」


--------------それでも、確かめなければならない。それが、「僕ら」の責任だから。


頭の中で聞こえる自分の声に、真は泣きながら苦笑する。

今の自分にはその勇気がない。

向き合わなければ、自分の時がずっと止まることぐらい分かっている。

何も解決しないことぐらい、頭ではもうとっくに分かっているーーーーーそれでも、ムリなんだ。


ーーーーー君は、俺のものだーーーーー


あの時の言葉を信じて、曖昧な事実のまま生きていくことは、罪なのだろうか?

実は「カレン」は自分のことで、彼がきっと勘違いしているだけ・・・そう思いながら、一人生き続けてはダメなのだろうか?


もしあなたから身を隠したら、僕を探しに来てくれますか?

天上院蓮・・・・僕の、最愛の番。


*********


院長室のドアを実は勢いよく開ける。

「父さん、パソコン貸して。真のファンクラブのデータとか諸々全部消すことにしたから。防犯カメラの映像もーーーーーーー」

「どうした実、何をーーーーーー」

「何をじゃない!!!!!本当に、どうしてこんなことに・・・・二人はすれ違っているだけなのに・・・・」

実は両目に涙を溜めながら、空いてる席のパソコンに腰を掛け作業を始める。

真が蓮のファンクラブに入っていたこと、

握手会会場にいたこと、

それら全てを抹消してほしいと真は願った。

呆然と立ち尽くす修二に実は思わず鼻で笑う。

「真は、父さんから蓮を守れってーーーーーーははッ、父さんが蓮を殺せるはずないのに」

実はキーボードを叩きながら言い放つ。


「母さんを犠牲にして、父さんは蓮の命を救ったんだから」


修二は苦渋に満ちた表情を浮かべた。

実の言ったことが紛れもない事実だったからこそ、反論できなかった。

天上院家は、九条修二には逆らえない。

なぜなら過去に、修二は自身の最愛の番を犠牲にして、天上院家の愛息子である蓮の命を救ったのだから。


ーーーーー守、あなたにしか頼めない・・・しゅーちゃんを、よろしくね。


それぞれの過去が歪に絡み合い、二人の運命の邪魔をする。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ