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1.九条先生の番(つがい)

<オメガバース用語>

・オメガバース

男性 / 女性 の他に、「α( アルファ /β( ベータ /Ω( オメガ 」という第2の性、3種類の性別がある。


〇α(アルファ)

数が少なく、生まれつきエリートでリーダー・ボス的な気質を持ち、社会的地位や職業的地位の高い者が多い。


〇β(ベータ)

最も人口が多く、身体特徴や行動等も一般的な普通の人間と変わらず、発情期も存在しない。

オメガの発情に誘惑されることもある。


〇Ω(オメガ)

数はアルファよりも少なく、絶滅危惧種のように扱われることもしばしば。

約三ヶ月に1度の頻度で発情期が存在し、基本的に発情期は10代後半から始まる。

繁殖に関することのみが仕事とされていた歴史があるため社会的地位では最も低いカーストにあり、冷遇され蔑まれることも多いため自分がΩだと隠す者が多い。


☆αとΩの関係

「つがい(=番)」というのはアルファとオメガの間にのみ発生する繋がり。 フリーのオメガはフェロモンでフリーのアルファを誘い、番になったオメガはフェロモンを発さなくなる。

番になる基準は運命的なものであったり、性行為の際にアルファがオメガのうなじを噛むと番になるとされている。 この番は本能的なものによるものであり通常の恋人関係や結婚よりも強いものとされ、一旦つがいになるとどちらかが死ぬまで解除されないと言われる。

死ぬまで君のそばにいることを、

どうか許してはくれないだろうか

ーーーーー



「アルファだろうとオメガだろうと関係ない、君は人より何百倍も努力した。胸を張って生きればいい」


オメガのくせにと周囲から疎まれ、握手会でついポロっと自分の弱音を吐いてしまったとき、彼は自分の目をまっすぐに見てそう言った。

それがたとえ社交辞令だとしても、その言葉にどれほど未来の自分が救われ、過去の自分が報われただろうか。

自分の顔を見て、彼は一瞬驚いた表情を浮かべ、気恥ずかしそうにほほ笑んだ。

あの時の彼の笑顔は今でも脳裏に焼き付いている。

やっぱり好きだな、と思った。

この想いはきっと自分が死ぬまで変わることはないだろう。

たとえ彼が自分の番で、他の女性を愛していたとしてもーーーーーーーーーー。




「九条先生!」

背後から自分の名を呼ばれ、九条くじょう まことは我に返る。

振り返ると看護師の葉山が自分宛ての郵便物を手に立っていた。

「先ほどの患者様で最後です。外に製薬メーカーの方がお待ちですが、お疲れのようでしたら出直してもらいましょうか・・・」

「ごめんごめん、少し昔のことを思い出しちゃって。メーカー対応するので葉山さんは仕事が終わったらあがってね」

慌てて立ち上がろうとするとバランスを崩して倒れかける。

それが分かっていたのか、葉山は自分の腕をグッと掴み転倒を阻止した。

「九条先生・・・・最近働きすぎでは?」

「いや、しっかり休みは取れているし大丈夫。ありがとう」

「メーカーの対応、私がしておきますよ。このクリニックで誰よりも若いからって一人で抱え込みすぎです!大人を頼りましょ!」

「僕も十分大人なんだけどな・・・・・」

「二十歳になりたてのくせに何を言っているんですか」

心配そうな表情を浮かべる葉山に九条は優しい笑みを浮かべた。

自分は小中高大それぞれ飛び級して進学したこともあり、16歳の時に医学部を卒業した異例の経歴を持っている。その後四年間父のもとで研修を行い、今は念願のΩ専用メンタルクリニックの院長をやっているのだ。

そのため、現在二十歳なので職員は皆、自分のことを上司というよりは後輩のように接してくれる。

それが嫌だという人もいるだろうが、自分はこの関係性が好きだった。

「大丈夫。それにたぶん、天状製薬さんだから新薬の説明に来てくれたと思うんだ。採用するか僕が判断しないとだから・・・・・それに・・」

「それに、なんですか」

「僕には発情期が来ないから、みんなよりずっと体の負担が少ないしさ。心配してくれてありがとう」

その言葉に何か言いたげな彼女であったが、観念したように「はい・・」と小声で返事をすると、控室へ去っていった。

Ω専用メンタルクリニックは、患者だけでなく職員は皆Ωである。

ただ番のいる自分は発情期が落ち着いており、皆より若いプラス体の負担が少ないのは事実だった。

「(それに抱き潰されて、翌日体にくることもないし・・・・)」

そんなことを思いながら時計に目をやる。まだ保育園のお迎えまでには時間がある。

足早に待合室に向かうと、一人の男性が立っていた。

「立花さん!お待たせしました・・!」

「いえいえ、営業時間外に申し訳ないです。むしろここで待たせてもらって」

立花は軽く会釈する。

「すみません、19時にはここを出たくて・・・!」

そう言い資料を受け取ろうと手を伸ばすと、待合室に備え付けてあるテレビから大きな歓声が聞こえた。

「『ここで今回映画の主役をされる天上院さんから、告知を一言いただきたいと思います!』」

その言葉と共に舞台袖から笑顔で登場する圧倒的イケメンが一人。

彼の名前は天上院てんじょういん れん

圧倒的美貌、文武両道、それでいて柔らかい物腰、謙虚で慎ましい。国内外で大人気のアイドルであり、俳優であり、投資家でもあり・・・・

「うわー、また坊ちゃん映画の主役されるんですかー」

今来ている世界的に有名な天状製薬の社長の息子でもある。

ちなみに立花は前に天上院家に勤めていることがあったらしく、その時の名残で天上院蓮のことを「坊ちゃん」と呼んでいた。

「この映画の原作、あともう少し読み終わるので終わったら絶対見に行きます・・!」

「九条先生、本当に坊ちゃんのこと好きですよね~!」

「彼がいたからこそ、今の自分があるので・・・」


ーーーーーアルファだろうとオメガだろうと関係ない、君は人より何百倍も努力した。胸を張って生きればいいーーーーー


壁にぶつかっても、彼の言葉が自分を奮い立たせてくれる。

「あーーー、また始まりますよ。例のアレ」

立花が軽くため息をつくと、画面向こうの彼がカメラに向かって真剣な表情を浮かべた。


「『カレン・・・必ず君を見つけ出す。そしたら死ぬまで君のそばにいることを、どうか許してはくれないだろうか』」


天上院はいつもテレビに出ると必ず「カレン」という女性に対して、愛の言葉を言うことで有名であった。そのフレーズは日によって違い、ファンの一種の楽しみになっている。

ただ「カレン」が何者なのか、マスコミや記者は暴けておらず、天上院自身もそれ以上言及することはないため彼女に関する情報はほぼゼロである。なので「カレン」が実在するのか、実在したとしても何者なのか、未だに明かされていない・・・。

「九条先生、すみません!お子さんのお迎えもありますよね。手短に説明します!今度うちから出す新薬なんですが・・・・」

立花が慌てて資料を渡すと話し始める。

自分には子供が一人いる。番との間にできた、愛息子が。

説明する立花をじっと見ながら、九条は切なそうな表情を浮かべた。

彼は夢にも思わないだろう。

天上院と自分が番であり、彼との間に子を授かっていることを。

読んでいただきありがとうございます!

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