運命
「ふしゅー、ふしゅー、人間殺す、人間殺す」
いつも通りのヨミ先輩。
「毒殺?いいえ、それでは足りません。もっと苦しめなくては、……」
いつもとは違うナユタ先輩。
「私達の神に手を出そうだなんて良い度胸だね。腹掻っ捌いてあげようか?」
いつも通りのマユラ先輩。
なぜ、帰宅部の部室で先輩3人が復讐の鬼と化してるかというと………私達が信仰する女神であるメメちゃんが告白されたらしい。
私達は今からその告白したやつの命を貰いに行くところである。
「み、皆さんに相談したいことが……」
いつも通り部室に集まり帰宅しようとしたとき、メメちゃんがこの話題を口にした。
「同じクラスの子に告白されてしまいまして……」
そして、現在我々はクソガキ抹殺作戦を実行するに至る。
「私達はこれからメメちゃんの可愛さにドキッと(恋愛的)したクソガキをドキッと(恐怖)させに行く。異論は無いな!!」
「無い!!」
ヨミ先輩の言葉に私達は呼応する。
「では、向かおう!我らが神を奪うことがどれほど罪深いものなのかその身をもって味わってもらおうじゃないか!!」
私達は勢いよく部室を出た。
メメちゃんに告白したクソガキは容姿端麗、博学多才、文武両道、そして、性格も良い。
ちなみに特に他意はないがヨミ先輩は引き合いに出す。
ヨミ先輩は容姿端麗、博学多才、運動音痴、サイコパス、狂人、クソ野郎、そして、性格は類を見ないほど悪い。
このように我々とは住んでいる世界が違う生き物だ。(クソガキは良い意味で、ヨミ先輩は悪い意味で)
「ヨミ先輩、アイツめっちゃ良いやつじゃないですか?」
「メメちゃん、私あの人欲しい。私の彼氏にしたい。」
マユラ先輩が乙女になっている、アイツやりやがる。
「何を言う、奴は抹殺対象だぞ。」
「そうですよ、彼は万死に値することをしたんですよ。」
この先輩二人はただ人を殺したいだけに見える。
「まぁ、そうだよね、いくらカッコよくてもメメちゃんに手を出したんだもんね。じゃあ、しょうが無いか。」
マユラ先輩が納得した。
物騒なことを話していると私の服の裾をメメちゃんが引っ張った。
「ミライちゃん、あのね……」
私達は一旦部室に戻った。
「ミライちゃん、私、あの人と付き合いたいんだ。」
「え……」
顔を真っ赤にしながら私にそう伝えるメメちゃん。
「私、彼のことが好きだったの、入学してからずっと……だから、私は彼が告白してくれてとっても嬉しかったんだ。」
それはまずい。今まさにメメちゃんが好きな彼は邪悪な三人の手によってこの世から消されそうになっている。
「先輩達やミライちゃんが心配してくれるのはとっても、とっても嬉しい。でも、やっぱり私は彼のことが好き……うぅん、大好きなの!」
先輩達のあれを心配という言葉だけで済ませるのは無理がある気がするが……まぁ、今はそんなことどうでもいい。
「そっか、メメちゃんが選んだならそれで良いと思うよ。私はいつだってメメちゃんの味方だからね。」
「あ、ありがとう、ミライちゃん!!私、彼のところに行ってくる!」
「うん、いってらっしゃい。頑張ってね!」
私は笑顔でメメちゃんを見送った。
あーー、いいなぁ、青春してるなぁ。
私にも青い春来ないかな………。
さて、私にはメメちゃんの背中を押した責任がある。
彼女の恋愛が上手くいくよう動かなければならない。
「さて、無理ゲーしますか。」
私は先輩達を体育館に呼び出した。
「ミライちゃん、いい作戦とはなんだ?」
「せっかく、もう少しで取れる(命)と思ったんだけどな。」
「ミライちゃん、私達をここに呼んだということはそれ相応の作戦があるんでしょ?」
勝てるだろうか、いや、勝てないだろうな。この戦力差は歴史の教科書に載る武将も裸足で逃げ出すレベルだ……けど、それでも……。
「先輩達にはこれからメメちゃんが告白を終えるまでここにいてもらいます。」
「ッ!?」
私は先輩達に宣戦布告をした。
「ミライちゃん、それは私達を裏切るということかしら?」
「ミライちゃんが私達を足止めねぇ。」
「甘く見られたものだね。」
先輩達が各々武器を持ち戦闘態勢に入る。
私はここで終わるだろうがそれでも良い。大切な友人が幸せになるためなら私はここに命を賭ける!!
命を賭けた部内戦が始まった。
「やっちゃえ!バーサーカー!」
ナユタさんの指示に従いマユラ先輩が物凄い勢いで近づき木刀で私に殴りかかる。
それを避けた先には木製バットを持ったヨミ先輩が待ち構えていた。
脇腹に直撃する。私は痛みに表情歪ませながらも身体を捻りヨミ先輩に蹴りを入れる。
しかし、その蹴りも空を切った。
全てが読まれている、こちらの動き、考えが先読みされている。ほぼ未来予知に近い動き、こんなことができるのは……
「流石ですね、ナユタ先輩。」
後ろでヨミ先輩とマユラ先輩に指示を出している全知全能のナユタ先輩。その指示が私の攻撃を完封している。
「後輩に褒められると嬉しいね。でも、ミライちゃんはここで終わりだよ。」
ヨミ先輩とマユラ先輩が完璧な連携で攻撃してくる。
反撃する隙がない。
私の気が緩んだ瞬間を二人は見逃さず、二人の攻撃が私にクリーンヒットする。
激痛が走る、意識が消えかけている。なんで、なんでこの人達は………
運動部じゃないんだよ……。
パタッ……。
私の身体が言うことを聞かない。やっぱり、この三人を相手にするのは無理があったな……でも、それでも、………。
勇気ミライ……エクストラスキル発動。
スキル名………「主人公補正」
まだ、立てる。私には守るべきものがある。
「おやおや、まだ、立ち上がるのですか?諦めればこれ以上痛い目にはあいませんよ。」
完全に悪役と化したナユタ先輩がそう言う。
「私はメメちゃんの幸せな顔が見たいから。ここで折れるわけにはいかない。」
「そうですか……残念です。さようなら。」
ナユタ先輩のその言葉を聞き、ヨミ先輩とマユラ先輩がこちらに向かって走り出す。
ナユタ先輩の予測は敵が人間であることが前提だ。
では、その予測から外れるにはどうすれば良いか。
簡単だ、人間では不可能な動きをすれば良いのだ。
「リミッター解除!!」
ヨミ先輩とマユラ先輩は目を見開いた。
なにが起きたのか分からないまま二人は地に伏していた。
「これで終わりです、ナユタ先輩。」
私はマユラ先輩から奪った木刀の剣先をナユタ先輩に向ける。
「まさか、貴方にそんな力があると思いませんでしたよ。しかし、甘いです、私が何の策も無くここにいるとでも?」
そう言ったナユタ先輩は私に銃口を向けた。
「それは…!?」
「そうです、これはこの間作製した決戦兵器ミライ・ブレイカーの小型版、オリジナルほどの火力は出ませんがそれでも目の前の貴方を消し飛ばすほどの火力はあります。さぁ、これでも貴方は諦めませんか?」
余裕の笑みを浮かべるナユタ先輩。
多分、もうすでに私のリミッター解除状態の動きを含めて計算し終えているのだろう、あれは間違いなく私に当たる。それなら……
「ナユタ先輩、知ってますか?私の家、勇気家の家訓を……」
「家訓?」
「そうです、我が家の家訓は……」
私は木刀を振り上げる。
「当たって砕けろです!」
木刀が光り輝き、周囲の光を吸収する。
「束ねるは未来の息吹……以下略!ミライ・カリバー!!!」
私は眩い光を放つ木刀を振り下ろした。
「くっ!?」ナユタ先輩も引き金を引いた。
大きな2つの力がぶつかった。
体育館「マジ?それは流石に耐えられんてw」
体育館は吹き飛んだ。
砂煙の中、二人は未だ地に伏してはいなかった。
「今ので倒れないなんて……流石はナユタ先輩ですね。」
「ミライちゃんもやりますね……これ程まで追い詰められるとは思いませんでしたよ。でも、もうすぐ、ヨミとマユラが目覚めます。立っているのもギリギリの貴方ではどうすることもできませんよ?」
「いや、私の勝ちです。」
体育館だった場所の入口で嬉し涙を浮かべながらこちらに手を振るメメちゃんの姿が見えた。
私が見てる未来は一つだけ……その未来が目の前に現れた。
「ミライちゃん!私、付き合うことになりました!」
太陽の様に明るい笑顔で私を見るメメちゃん。
私はその笑顔を見れただけで幸せに包まれた。
しかし、力を使い切った私の身体は光の粒となって消え始めた。
「待ってください、ミライちゃん!私はまだ貴方に伝えたいことが……、」
メメちゃんが涙を浮かべる。
「メメちゃん頑張ったね……これからももっと幸せになるんだよ。」
私の頬にもいつの間にか涙が流れていた。
……泣くつもり無かったんだけどな。
私の身体は静かに消えていった………。
…………ミライ消失エンド。