きのたけ戦争
今日は一旦部室に集合してから帰宅するらしい。
この学校の七不思議の一つ「帰宅部の部室」に到着した。
「あっ!ミライちゃん!良かったぁ〜誰も来ないと思ってたよ。」
教室に入るとナユタ先輩に抱き着かれた。
「まだ、私しか来てないんですか?」
「そうなんだよ、みんな来るはずなんだけどなぁ。」
「そうなんですか……」
「あ、そうだ、ミライちゃんもみんな待ってる間暇でしょ!一緒に……」
ナユタ先輩は机の上からスマホを取り、こちらに見せた。スマホゲームだろうか……。
「一緒にスマホを解体して組み直すゲームしようよ!」
できないわ!!!!!
この人、パズル感覚で精密機械分解して治すのか……私にはできない。
「いや、ナユタ先輩、さすがにそれは…、」
「あ、そうだよね、ごめんごめん、大丈夫だよ、ちゃんとハンデは付けるから私はミライちゃんが始めて30秒後に始めるから!さすがに私は馴れてるから速いに決まってるもんね、ごめんごめん。」
30秒でなにか変わるんか?
「いや、そういうことではなくですね……私、スマホの解体も組み直しもできないです。」
私の言葉にナユタ先輩の動きが止まった。
「え……これ、みんなできるんじゃないの?」
「いや、多分この学校で……いや、女子高生でそれできるのほとんどいないと思いますよ。」
「だって、ヨミだってできてたよ!?」
「あの人を普通と考えるのは間違ってますよ。」
「そ、そうなんだ、私って、ズレてたんだ……ぐすっ」
ナユタ先輩が落ち込んでしまった。
どうしよう、なんか、泣き始めちゃったし……、
困っていると部室の扉が開きマユラ先輩が入ってきた。
「みんな、ハロー!!……ってナユタ先輩が泣いてる!!まさか……ミライちゃん、やった?」
何をだよ、何をしたんだよ私は。
「いや、ミライちゃんは悪くないんです、私のせいなんです。全部私が悪いんです!!」
いや、ナユタ先輩、その言い方だとまるで私が先輩に庇われているみたいになってません?私、何もやって無いんですけど………。
「ミライちゃん!なにしたの!」
「いや、私は何も……」
ガラガラガラ……また、扉が開く。
ヨミ先輩だった……
「さぁ、有象無象共きのたけ戦争だ!戦争をしよう!」
コンビニのレジ袋に大量の「きのこの町、たけのこの村」というチョコ菓子を詰め込んで威勢良く部室に入ってきたヨミ先輩。
「ちなみに私は「たけのこ」と「きのこ」を混ぜて砕いて粉にしてから食べるのが好きだ。」
異端だよ!第三勢力だよ!テロだよ!!
先程まで通常JKと自分のギャップに泣き崩れていたナユタ先輩が立ち上がった。
「あらあら、ヨミさん……それは宣戦布告と受け取っていいのかしら……砕いて粉にする…ね、そんな野蛮なことが出来るなんてあなたホントにJKなの?」
いや、あなたもさっき自分と通常JKにギャップがあって泣いてたじゃないですか……てか、そのお嬢様キャラなに?
「きのたけ戦争、その戦争に私が終止符を打つわ!」
ナユタ先輩は「きのこ」か「たけのこ」か!?
「私は……両方分解してから一つに組み立てて食べる派だわ!」ドヤッ!!!
だから、第三勢力やめろや!なんでこの人達は2つ選択肢があると無理矢理一つにしたがるんだよ!
「きのこ」と「たけのこ」を混ぜるな!キメラを作るな!
ナユタ先輩の言葉にヨミ先輩が驚愕する。
「お前……まさか、混ぜたのか……。」
「フッ、感の良いガキは嫌いだよ……。」
「まさか」じゃないだろさっき説明してただろ。
てか、なにリアクションしてるんだよ、ヨミ先輩も混ぜてただろ、それもナユタ先輩より酷い方法で。
「マユラちゃんは「粉派?」「組み立て派?」どっち?」
どんな選択肢だよ……。きのたけはどこにいったんだよ。
「え〜、私?私は……、「きのこ」かな?」
この場合は第三勢力だし、選択肢外だけど、まともな答えだ。やっぱ、マユラ先輩は常識があるなぁ。
「だって、「たけのこ」は爆発するし……ね?」
なんでだよ!どこをどうしたら爆発するんだよ!「ね?」じゃないよ状況説明が必要だよ!!めっちゃ気になるよ!!
「そうですわね、「たけのこ」は爆発しますもんね……すみません、そこは考慮していませんでした。すみません。」
「私も考えてなかった……ごめん。」
ナユタ先輩とヨミ先輩が頭を下げた。
なに、「たけのこ」って爆発するの?常識なの?私が知識不足なだけなの??
「あ、ミライちゃんは「粉派?」「組み立て派?」「きのこ派?」」
バグみたいな三択が急にこちらに降り掛かる。
「わ、私は……「たけのこ」ですけど……。」
「「「た、たけのこ!?!?」」」
あ、これ選んじゃいけない選択肢だったんだ。
「え?待って、ミライちゃん、ホントに「たけのこ」!?あの「たけのこ」!?」
どの「たけのこ」だよ。
「まぁ、その「たけのこ」ですね。」
私はヨミ先輩が手に持つビニール袋を指差しながらそう言った。
「まずい、この部活のヒエラルキーが変わる!」
「そうだね、これからはミライちゃんを部長…いや、神として祀る必要があるね。」
「ヤバいよ、ヤバいよ。」
「たけのこ」……お前いったい何したんだい?お前はただのお菓子じゃなかったのかい?いつの間にアーサー王伝説のエクスカリバーみたいな立ち位置になったんだい?
「あ、でも、神様になるには肉体捨てなきゃいけないんじゃないっけ?」
ヨミ先輩のスキル狂人が発動した。
「肉体を捨てる?ミライちゃんを殺すのですか?でも、それは神を殺すことに……。」
「いや、神は肉体を失うことで真に神となるから、ミライちゃんも殺されることを望んでいるはずだよ。」
望んで無いわ!殺すなバカタレ!
「あ、じゃあ、私、魚の内蔵取り得意だからミライちゃんの内蔵取るのと血抜きやるね〜。」
マユラ先輩……嘘だよね、マユラ先輩はまともだって……いや、まともじゃないわ、終わったわ。
やばい、早く話を逸らさないと私が死ぬ!!
「め、メメちゃんは「きのこ」と「たけのこ」どっちが好きッ!?」
「わ、私ですか!?そ、そうですね……」
全員の視線がメメに向く、私はメメちゃんがきのこを選ぶと信じている。まさか、この会話の流れでたけのこを選んで私と一緒にマユラ先輩に捌かれてバッドエンドはホントに笑えない。
「私は……」
私は息を呑む、頼むメメちゃん、この地獄に終止符を!!
「私は皆さんと一緒に食べれるなら全部大好きです。」ニコッ!
彼女の嘘偽りのない言葉が世界を救った。
彼女の笑顔で世界が輝きを取り戻した。
私と先輩達はその笑顔に浄化されていった。
あぁ、戦争なんてくだらない。この笑顔こそが世界が大切にしなければいけないものなんだ。
私達は静かに、ただ静かに、メメちゃんに跪いた。
「「「「さぁ、帰りましょう、神様 」」」」
私達はメメ神様と共に帰路につくのであった……。
世界救済エンド。