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伏龍街八丁目十二  作者: 夜船
第二話 ローストビーフと葬儀
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 その日は家に帰ると案の定雨が降った。しかし使徒の襲撃はその程度ではやまない。


 ハヤテは七丁目で羊型の小さな使徒と戦いながら、背後で傘をさすユキマサを振り返った。


「ユキマサユキマサ! お願いがある!」

「何だ? 珍しいな」


 レインコートに噛み付いてくる羊を、殴り飛ばして倒す。しかし羊型は群れで襲ってくるので、倒すのには時間がかかった。ねだるのには好都合だ。


「ウォルコット・カンパニーで二週間後パーティがあるらしいじゃないか!」


 ユキマサは斜め上に視線を投げ、そんなのもあったな、と呟いた。


「お前、今朝の電話ってまさか……?」


 身体にまとわりつく羊を蹴り飛ばし、核だけが落ちていく。ユキマサはそんなハヤテの様子を眺めつつ、ため息をついて答えた。


「ああ。……たしかに友人のツテで招待されてるが、それがどうした?」

「私も連れていけ!」


 ハヤテは顔についた羊を投げ飛ばし、足についた羊を蹴飛ばして倒す。しばらくそれを続けていると、羊の群れはすべて霧散した。


 ユキマサはハヤテとともに核を拾い集めはじめる。


「……そうだな、じゃあ──」


 ユキマサは核を拾い終えると、ハヤテに条件を投げた。


「明日から二週間、一度も死ななければ、おまえを連れていくことにする」


 ユキマサの手を取って立ち上がったハヤテは、その条件を出したユキマサを信じられない、といった目で見た。


「無理に決まってんだろ、今日はまだ良かったが次にいつ大型使徒が出るかもわからん。私だって死ぬときゃ死ぬし、死にたくて死んでるわけじゃない」


 怒りながらそう主張するも、ユキマサが一度言い出したことを撤回するのはかなり珍しいということも理解していた。ユキマサは声色を変えずに返答する。


「あの薬剤注射いくらすると思ってるんだ。ただの肉なら俺が買ってやるよ」

「調理するのは誰だと思ってるんだきさま!」

「調理済みのを買ってやるよ! あとそれに──」


 ユキマサの傘の中に入って、ハヤテは「それに?」と首をかしげた。ユキマサが言葉に詰まっているのを見て、ハヤテはつけ込める隙を見つけたとばかりに笑った。


「あはは! なんだその顔! まるで私に何かあるみたいじゃないか!」

「うるさい! 別のことを思い出してただけだ!」


 面白いのでからかってやろうとユキマサの左手を握る。


「別のことって──これのことか?」


 薬指に輝く指輪。先日イソシマという客に話題にされたときは、ひどく困惑していた。自分になら正直に話してくれるだろうか、という気遣いも多少はあった。本当に多少だが。


「ち、……違う。いいだろ別に、どうだって」


 これは本当に困っている。これ以上の後追いは危険だと判断し、ハヤテは手を離した。


「まあな。どうせ私のことが心配なだけだろ?」

「……もうそういうことでいい」


 諦めてため息をつくユキマサを尻目に、ハヤテは家の方向へ歩いていく。



 そこからの二週間はまさに命懸けだった。心做しかふたりの連携も強まったようだ。


 悪魔型、天使型の使徒にはすぐ十字架の剣を振るい。


 羊やイノシシなどの動物型に対しては、噛み跡による致命傷を防ぐために防弾チョッキを調達し。


 ハヤテが苦手な鬼型や龍型は、ユキマサも拳銃で参戦した。小型のものなら彼も核を射撃し、破壊した。


 ――絶対に死んではならない。


 人間による本来の戦闘を久しぶりに思い出したハヤテは、身を切るようなスリルに興奮を覚えた。それはユキマサも同じだったように思われる。


 死んだらダメだ。何度もユキマサにそう言われ、ハヤテは久しぶりに人間に戻った気がした。


「殊勝なものだな」


 パーティの前日、ドライアド型の使徒と戦いながら、ハヤテはそう言った。


「死なないでくれと言われているようで、少し嬉しかった。またやろうか」


 ハヤテは小刀をドライアドの胸元に刺すと、奇妙な悲鳴を上げながらそれは消滅した。人型に近い使徒は比較的警戒レベルが高く、苦戦するかと思われたが、ハヤテの食欲の前には大した脅威ではなかった。


「……おまえ、この仕事向いてるかもな……」

「ははっ、まあそうかもしれん!」


 パーティに行くことが決まって、ハヤテは上機嫌にドライアドの核を拾った。

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