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第6話 かすかな決意

「................................................知らない。でも(たて)があんまりにもあの子達をかばうようなことを言うなら......」



俺を睨みつける目つき自体はそんなに恐くはないけど、強い本気の意思だけはひしひしと感じられる。


まぁ、今更いろいろ文句を言ったところで(かすか)の心にはあんまし響かないだろうし、俺もそこまで糾弾しようとまでは思わない。

ある程度は理性が残ってるみたいだし、このへんで手打ちにして、あんまり掘り下げないでいいか。


余計なことを口走って、最悪の事態に陥るなんて、まったく望んでないしな。

とりあえず、あんまりメチャクチャなことをしないように、釘だけ指しておこう。



「............はぁ......。まぁいいや、あんまり悪さすんなよ。っていうか、断ってる俺が言うのもなんだけど、アプローチするなら、吟嶺(ぎんね)五行(ごぎょう)みたいなピュアな感じのが近くにいるんだからさ。それを参考にしなよ」


明稀端(あけは)ちゃんと四谷(よつや)くんがピュアな感じのカップルって?」


「そうだろ? どうみても純粋にラブい感じじゃん。あいつらに、どういう経緯で付き合うことになったのか聞いても、なかなか教えてくれないけどさ。吟嶺も結構モテるけど、めんどくさがってなかなか彼女作らないヤツだったらしいじゃん。それを五行は堕としたんだから、聞いてみたらなんか参考になるんじゃないの」



ということらしいのだ。

吟嶺は基本的にめちゃくちゃ面倒くさがりな性格をしてる。


俺のカミングアウトに適当な返事をしてくれたのも、シンプルにめんどくさいと思ってた可能性が高い。

そういうところが一緒に居て楽で楽しいんだけどね。


ともかく、大学入学したばっかりの頃にちょっと聞いたところによると、昔から彼女とかに尽くしたりするのもめんどくさいから、しばらくは付き合ったりするのは考えてない、的なことを言ってた。

見たところ、五行はかなりベタベタしがたるタイプっぽいし、吟嶺的にはめんどくさがると思ってただけに、彼らが付き合い出したと聞いたときには凄く驚いた記憶がある。


気持ちが変わったんだろうか。

吟嶺の言う『しばらくは』の期限が切れて、普通に彼女を作りたいと思うようになった可能性も普通にあるか。


まぁそんなことは些細なこと。


大学に入ってからも何人もの女子の誘いを断ってた鉄壁の吟嶺を落した五行の話を聞けば、幽も今よりは適切な振る舞いができるんじゃないか、と思ってのコメント。

いやほんと、自分を落とそうとしてくれてる子相手に言うセリフじゃないよなぁ、とは思ってるよ。



「まぁ、何されても、幽とは付き合わないと思うけどね」


「......あたしのこと、嫌いとかじゃ、ないんだよね......?」


「ん? あぁ、そうだな。好ましいヤツだとは思ってるよ。そうじゃなかったらこんなに遊んでないしさ」


「そっか............。うん、わかった。それで、明稀端ちゃんがやったことだったら、参考にしても良いんだよね?」


「いや、わからないけどね? 何したのか知らないし。けど、あの2人の感じを見てたら、なんかいいんじゃないかな?」


「楯も。もしも楯が、あたしが絶対楯のこと裏切らないって、今の4人がずっと仲良くできるって信じられたら、あたしとの付き合いも考えてくれる?」



凄く必死に尋ねられて、若干気圧される。


自分から『五行を手本にしてみたらどうか』なんて無責任な言葉を吐いた手前、否定するのもどうだろうと思う。

それに、もしもほんとにそんなことができるなら、俺がそこまで信じられるようになったら、幽の誘いを断る理由もない。


喜んで付き合わせてもらうことになると思う。



「それは............そう、だね。もしそんなことになったら、俺の方から土下座でお願いするまであるね。無いと思うけど」


「へぇ〜。ふぅ〜ん。そっかぁ。そうなんだぁ。えへへ。そっかそっか♪」



なんで今の話でそんなに自信を持てるのかわからない。

けど、突然上機嫌でニコニコ顔になる幽を見て、ちょっとキュンとする自分もいて。


すでにちょっと絆されてるのダサすぎる、って自戒する。



「うんうん。了解了解。それじゃあ、あたし、準備しなきゃだから、今日は帰るね」


「んぁ? えらい急だな......」


「うん、ちょっとね〜♡」



さっきまでの威勢は何だったのか。


飲み会が終わって、吟嶺と五行が帰ってからずっと、部屋に残った幽に玄関で問い詰められるみたいなやりとり。

いつまで続くのかと思ってたら急にこれ。


情緒不安定かな?

いやハテナではないか。情緒不安定だな。


けど、幽の表情はかなり明るいし、かといって自ら命を断ったりするような過剰に明るい感じってわけでもなさそう。

いそいそと部屋の中で掛けてたコートを羽織って帰宅の準備をしてるし、心配するほどじゃなさそう。



「まぁすぐそこだけど、気をつけて帰れよー」


「うん、ありがと」



見た感じ問題なさそうだし、幽には悪いけど、家もすぐそこだし、呑みすぎてしんどいから送ってくのも辞退させてもらうとしよう。



「それじゃあ、楯。今日もありがとね」


「んー、こっちこそ。ありがと」




ニコニコ笑顔で手を振りながら帰っていく幽に、俺も軽く手を振って返す。


ギィィ。




これまた真冬の深夜の嫌に響く、締まりゆく扉の音の中に、小さく幽の声がした気がした。




「ごめんね」





不穏過ぎる言葉だったけど、あまりにも眠いから、気のせいだと思うことにした。

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