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【完結】「幼馴染みがほしい」と呟いたらよく一緒に遊ぶ女友達の様子が変になったんだが【2巻発売中!!】  作者: ネコクロ


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第35話「二人きりで食べたい」

「――ねぇ、秋人。今日はさ、二人だけで食べない……?」


 翌日の昼休み、人差し指を合わせてモジモジとする夏実が急にそんなことを言ってきた。

 秋人に直接言っている言葉ではあるが、周りには春奈と冬貴をはじめとしたクラスメイトたちもおり、皆驚いて夏実を見つめている。


「どうして二人きりなんだ……?」


 秋人は熱くなる顔を我慢しながら、夏実に理由を尋ねた。

 夏実は手で髪を耳にかけながら、恥ずかしそうに頬を染めて口を開く。


「その……相談、したいことがあって……」

「相談……? 他の人がいるところじゃできないこと……?」

「まぁ、そんなところ……」


 相談と言われてしまうと、断るのは渋られる。

 だけど、ここで二人だけ抜けることも躊躇ってしまった秋人は、困ったように冬貴を見た。


「夏実がこんなこと言うのは初めてだろ? 行ってやれよ」


 折角夏実が勇気を出したのだから、そんな夏実のことを冬貴は後押しした。

 それにより、秋人も決断する。


「わかった、それじゃあ夏実と行ってくるよ」

「あ、ありがとう……!」


 秋人が頷いたことで、夏実はパァッと表情を輝かせてお礼を言った。

 それを見ていた女子たちは、よくやった、と言わんばかりに小さく拍手する。


「お、俺たちは別々で食べようか?」


 秋人たちが抜けるということで、春奈と二人残されることになる冬貴は、そう春奈に声をかけた。

 春奈は夏実たちを見つめていたのだけど、困ったように笑いながら頷こうとする。

 しかし――パシンッと、夏実が冬貴の背中を叩いた。


「いってぇ! な、何するんだよ……!」


 よほど痛かったのか、顔を赤くして涙目で冬貴は夏実を見る。

 すると、夏実はジト目で冬貴の顔を見据えた。


「冬貴さ、いつまで逃げてるの? ここで春奈ちゃん逃がして、他の男子に声かけられたらどうするわけ?」


 夏実は他の人間には聞こえないよう、声を抑えて冬貴に耳打ちをした。

 春奈は男子から大人気の女の子だ。

 いつもは春夏秋冬グループで固まっているから声をかけられないが、春奈がフリーになった今では声をかけられるかもしれない。

 夏実はそう言いたいのだ。


「い、いや、さすがに女子の中に混ざるだろ……?」


 春奈の性格をよく知る冬貴は、戸惑いながらも否定をする。


「わからないわよ? 春奈ちゃん、強引な男子には押し切られるかも」

「女子がそうさせないだろ……?」


 春奈はクラスの女子たちにとって、妹的立ち位置にある。

 だから、男子が強引に迫れば、女子たちが守ると冬貴は考えているようだ。


「そうやって、一緒に食べない理由を探してるようだったら、いつになっても振り向いてもらえないわよ……?」


 いろいろと理由を付けた夏実だったが、これでは冬貴が覚悟を決めないとわかると、直接的な言葉を用いて説得に移った。


「こ、こんな急には無理だろ……」

「二人きりになるチャンスなんて、そうそうないわよ?」

「どうやって誘えって言うんだよ……。こんなみんなが見てる中でさ……」


 どうやら、冬貴は全然覚悟が決まらないようだ。

 夏実もお節介を焼いている自覚はあったけれど、このままでは一生冬貴が春奈とくっつくことはないと思った。

 だから、強引な手段に移る。


「春奈ちゃん、ごめんね! 冬貴がさ、一人で食べるのは寂しいって言うから、一緒に食べてあげてくれない?」

「ちょっ、おい!?」


 いきなりとんでもないことを言われ、冬貴は焦ってしまう。

 しかし――。


「う、うん、いいよ」


 春奈は、意外とあっさり了承した。


「え、い、いいの……?」


 春奈が嫌がると思っていた冬貴は、戸惑いながら尋ねる。

 すると、春奈は小さく頷いた。

 そして、隣にいる夏実は呆れた表情を浮かべている。


「いつも一緒に食べてるんだから、嫌がるわけないでしょ……」

「いや、だけど……二人きりだし……」

「あのね、春奈ちゃんは優しくて寛大なの。あんたの被害妄想なんて、当てはまらない相手なんだからね?」

「そ、そっか……」


 戸惑いながらも、冬貴は嬉しそうに頷く。

 春奈と二人きりで食べられることが嬉しいようだ。


「うぅん……?」


 そんな光景を見ていた秋人は、腕を組みながら首を傾げていた。

 さすがに鈍感な秋人でも、今のやりとりは思うところがあったようだ。


「秋人、場所移そ」


 冬貴と春奈をまとめることができた夏実は、ご機嫌な様子で秋人の元に戻ってきた。


「どうしたの?」

「あっ、いや……そうだ、俺今日母さんがお弁当作ってくれなかったから、パン買いに行かないといけないんだった」


 夏実に対して秋人は首を左右に振って誤魔化し、困ったように笑った。


「あっ、それなんだけど……実は、秋人のお弁当も作ってきてる」


 夏実は顔を赤らめながら、鞄から二つのお弁当箱を取り出す。

 その様子を見ていたクラスメイトたちはざわつくが、一番驚いているのは秋人だった。


「な、夏実、お弁当作れたのか……!?」

「なんで驚くのよ!? 怒るわよ!?」


 あまりにも秋人が驚愕しているため、夏実は顔を真っ赤にして怒ってしまう。

 だけど、不器用な夏実がお弁当を作ってきたことに驚いているのは、冬貴や春奈も同じだった。


「だ、だって、いつも購買で弁当を買ってきてただろ……?」

「わ、私だって、本気を出せば料理くらいできるのよ……! と、とりあえず、行こ……!」


 夏実は怒りながらも秋人の手を引っ張ってきた。

 周りに注目されているため、早くこの場を去りたいのだろう。


「わ、わかった……。じゃあ、行ってくるよ」


 秋人は冬貴と春奈にそう告げ、引っ張られるように教室を出ていった。

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