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始まり

「問おう、勇者達よ」

体を分断され、上半身のみが地面に落ちた状態で魔王は言った。

あたり一面は瓦礫の山となり、大きくえぐられた地面は争いの激しさを物語っている。


「なぜ人に与する?なぜ我ら魔族に敵対する?」

愚問だな。

私は人間で、お前たち魔族は私達に危害を加えるからだ。


「だが勇者よ、お前たちのその力はこの魔王をも超えた。

そんなお前らは人と言えるのか?」

ごちゃごちゃ口が減らねえ奴だ。

姉貴、さっさとこいつの脳天砕いてやろうぜ。


「フン…、そのうちお前たちも人の醜さに絶望し我らと同じく人を滅ぼさんとするぞ」

するわけがないでしょう!

わかったような口をきかないで!!


これ以上の会話は無駄だと剣を魔王の顔めがけて振り上げる。

そして振り下ろされた剣が命を断つ瞬間


「わかるさ…俺もかつては勇者だったからな」


その言葉を最後に人と魔族の永い永い戦争は終わった。






ガクンッ

「キャッ」

強い衝撃とともに意識が戻され、小さく悲鳴をあげてしまった。

「ああ、この辺りは道が悪くてですね。すみませんね」

「いっ…いえ…」

馬車の引き手の声に慌てて、口元を拭う。


「姉貴、寝すぎだろ。よだれ垂れてたし」

しかし向かいに座っていた弟にはバレていたらしい

「ちょっとレオン!そういうのは身内以外の方がいらっしゃる場では言わないのがお約束でしょ!?」

「いてぇ⁉」

弟の頭頂部に強烈な打撃を食らわせ黙らせる。


「ハッハッハ、勇者様方は中がよろしいですなあ」

まだ若干の恥ずかしさを残しながらも、荷台から外を覗く。

どこまでも澄んで蒼い空に、生い茂る草原。

綺麗な空気を胸いっぱいに吸い込んだアイリスは、己の真紅に煌めく髪を梳かしながらここ数日の出来事に思いを馳せる。


王都から三日三晩馬車を走らせ遠く離れた地まで来たのには訳がある。



【双極の勇者】として弟のレオンと共に魔王を討伐したアイリスは、凱旋パレードの熱も冷めやらぬ内に王宮に招集された。 

そこには苛立ちを隠さない王と必死にアイリスたちのご機嫌を取ろうとする大臣だった。


「国家安全保障法、三十一項に基づき勇者アイリスとレオンを()()()()()()へと登用する!!」

王が高らかに宣言するのを、私はカーペットのシワに目を落としながら聞いていた。

くだらない。


「役員?勝手にてめえが決めんな!!」と烈火のように怒り出した弟の頭を右手の腕力で押さえつける。


「そ、双極の勇者様方の手を見込んでの依頼でしてね。けっして給金も悪くないので…」

あせあせと大臣がフォローに入る。


わかっている。

勇者の力を持つ私達は王の近くにおいておくには危険すぎるのだ。

なんせ数百年終わらなかった魔族との争いを半年という凄まじい早さで終わらせた私達だ。

もし国家に反逆の意志でも見せようものなら、2人VS国の兵団でも結果は明白だ。


だから王はできるだけ穏便な形で私達を遠くへ追いやりたかったのだ。


まったく王族の矜持もないというか、せめて尊敬できる姿を見せていただければ反逆など考えもしないというのに。




「はぁ…」

「なんだよ、姉貴。姉貴が引き受けるって言ったからこうなってんだぞ」

「それはそうなんだけど…何というかこの国の未来が思いやられると思ってね」

頭を抱えつつ再び外の景色に目をやる。

それにしても何もないところだ。


ここで本当にあの仕事があるのだろうか。

そんな不安をよそに馬車は停まる。


「着きましたよ」

降ろされたところには無骨で巨大な灰色の建物があった。


来るものすべてを拒むような石門には金属のプレートがはめられ、()()()()()()()()と書かれている。


国家特務役員、その最初の仕事は刑務所の所長。


ここが私達勇者の新たな居場所だ…!

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