きなり
自分の身体を食べてみたい。
例えば僕の無駄に大きい太ももを削ぎ落とし、上手に皮を剥いだらそれなりの肉塊にはなるのでそれを焼くのか茹でるのかそれとも生のままでいくのかはあとで考えるとしてこうすれば少なくとも食べる準備にはなる。
肉を削ぎ終わったあとの骨はスープを作るのにでも使う。
しかしここで問題がある。僕は痛いのは非常に嫌いだし、肉を取り除いたせいで自分の脚が使えなくなるのも御免だ。
じゃあ自分の太ももじゃなく、他の人を殺してその人の太ももを食べれば良いじゃないか、という人がいるかもしれないが、それではだめだ。
勘違いしないでほしいが、僕は人間が食べたいというわけでは断じてない純粋に、自分自身を食べたい。
さあどうしようか。
さあ。
僕はしがない一般人なので、クローン技術で自分そっくりの命を生み出してそいつを食う、などという真似はできるはずもなく。
結局僕はいつも諦めるようである。仕方がない。今持てる力でやれることには限界がある。
僕には脚が片方ない友達がいて、そいつは痛いのもいとわず僕と同じような欲望を持っていて諦めずに叶えようと行動にうつったらしい。彼は会うたびいつも幸せそうに見える。この間ふいに彼の顔面を殴ってみたらしっかり痛がっていたので痛いという感覚は普通に残っているらしく、僕はなおさら彼の欲望の強さに感服したのだった。
「麻酔を使えば良いのさ。」
ある日、駅の中を一緒に歩いていると彼は言った。
「あの時、使ってたの?」
僕は彼に聞き返した。彼と僕との会話の中であの時と言ったら彼が足を切り落とした時という意味以外にない。
「いや、そういうわけじゃないが。でもお前がどうしても痛いのが嫌だというならそういうのもありじゃないかと思ってさ。」
カン、カン、と彼は傘を鳴らした。疲れたからおぶってくれ、という意思表示だ。
僕は彼を背中に乗せる。
「…いや、それでも駄目だ。味が変わってしまうかもしれない。僕にはそれが許せない。」
「そうか」
頭の後ろから声がした。
僕らはそのまま電車に乗って、9駅先の海沿いの町に着いた。有名な岩の崖があるところで、彼は僕の見ている前で、そこから飛び降りて死んでみせた。
僕は知っていた。最後まで彼は僕を下に見ていた。
貯金がとうとう尽きたので僕はその日から歩いて移動しなければならなくて、それで気付いたら今の街に来ていた。ビルがたくさん立っていて、夜でも明るい。
とうとう知り合いが居なくなったことに気づいたのもその街で初めて寝た朝のことで、こんなことなら僕も死んでおけばよかったんだろうかと思わなくもなかった。
お腹がすいた。普段はパンを食べるけど今は貯金が尽きた。枕にしてたゴミ袋の中身を探ってみるが、残飯を食べるのは流石に人間じゃないカラスのすることだと考えてそこから食べ物を見つけようとするのをやめた。
とうとう知り合いが居なくなったので知り合いを作らないといけないから僕は近くの店に入ってそこに居た人に働かせてくださいと頼んで断られて断られたのはその人がその店の従業員ではなく客だからに違いない。
脚があるから歩ける。やはり足を切り落とすわけにはいかないなと思ってウロウロしていたら道に大きな穴が空いていてそこに車や人が落ちていった。とうとう知り合いが居なくなったので知り合いを作らないといけないので穴に入るとそこは思ったより深くて僕は落ちて太ももに怪我をした。痛くて嫌だったけれど血が止まらないので舐めてみたので僕は僕の身体を半分食べることができたも同然だが美味しくないのが今でもわからないなと感じる。
そして疲れたから眠ったらここにいたのです。あなたは誰ですか。