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第八話 魔術の修行をしてみた

 今日も午前中はルークさんとの訓練を行った。

 最近はうさぎ跳び含む基礎訓練は準備運動扱いになっていて、メインはルークさんとの模擬戦だった。

 本当に戦って覚えろ! な訓練をやっているよ。

 ルークさんとの模擬戦では、ぼくは原始魔術を使いまくっているんだけれど、正直まるで歯が立たない。

 これでもぼくも少しは腕を上げたんだよ。

 セルフブーストも必要な部分だけ使用して効果時間を延ばしたり、一時的に強化の度合いを大きくすることもできるようになった。

 どぶさらいの仕事が効率よく行えたのも、セルフブーストの使い方が上手くなったからだ。

 それでもルークさんには全然通じないんだけどね! 戦闘技術の差が越えられない壁になっているよ。

 ルークさん曰く、「ちょっとばかし速くて力強いくらいで負けていたら、魔物となんてやり合えねーよ。」だそうだ。

 さすがはAランク冒険者、言うことが違う。

 そして魔物ヤベ~。

 自分で言うのもなんだけど、ぼくのセルフブーストで強化した身体能力は超強力だ。自分でもドン引きするくらい強い。一般人なら束になってかかって来ても敵わないくらい強い。

 それが魔物と比べたら「ちょっとくらい」で済まされてしまうんだから、魔物ヤバい。

 冒険者やるにしても、魔法が使えるようになってから遠距離攻撃が基本だね。セルフプロテクションで守りも固めれば完璧かな。

 そうそう、セルフプロテクションと言えば、魔力の鎧を身に纏うことに成功しました! パチパチパチ。

 今のところ五分くらいしか持たないけど、それなりの強度があって、形も結構自由に作れる。

 カッコいいデザインの鎧にすることもできるんだけど、魔法使いじゃないと見えないんだよね、これが。

 こちら、魔法の使えない者には見えない鎧でございます……裸の王様じゃないからね! ちゃんと防御力あるからね!

 ルークさんにも見えていないから、どれだけ凄い鎧を作っても自慢できない。でも、ルークさんは鎧の弱いところを的確に突いてくるんだよね。どうやっているんだろう?

 ルークさんにも破れないほどの強度にしようとすると、鎧では駄目で、厚い壁を作らないといけない。そうなると、こちらからも攻撃できなくなるんだよね。

 ちゃんとした魔法が使えれば、無敵のバリアーに守られながら一方的に攻撃とかできるのに。


 さて、午後は自由時間だけれど、今日は原始魔術の勉強をしようと思う。

 そう、魔法ではなくて魔術。

 別に魔法を諦めたわけじゃないよ。魔法の勉強も指パッチンの練習も毎日続けているよ。

 ただ、エリーザさんから原始魔術の本を借りたんだ。

 一般的には使い物にならない原始魔術でも、ぼくならば魔力のゴリ押しでどうにかなる可能性がある。色々と試してみる価値はきっとある。

 ふっ、ふっ、ふっ、世界でただ一人の魔術使いだ!

 チートなマジシャンに、ぼくはなる! って、それじゃ手品師だよ。

 まあいいや。それじゃ、早速読んでみよう。

 ………………。

 …………。

 ……。

 ……Zzzzz。


 ハッ! 危うく寝こけるところだった。

 難しすぎるよ、この本。日本語で書いてくださ~い。あ、本当に日本語で書かれても読めないだろうけど。

 いやいや、これは最初から真面目に読もうとしたのが間違いだったんだ。

 ぼくが知りたいのは原始魔術の使い方であった、原始魔術の歴史的・社会的意義とかじゃないんだ。

 えーと、目次、目次……。

 あった、原始魔術の実例が載っている箇所はこの辺りかな。

 ふむふむ……。

 ………………。

 うーん、これは……。

 ………………。

 あれ、もしかして……。

 やっぱりそうだ。原始魔法は、魔法文字を一文字だけ使って、あとは魔力操作で現象を引き起こしている。

 そして、その効果はだいたいが書く魔法文字の少ない初級の魔法と似た様な感じだ。

 だったら、初級の魔法の魔法術式を最初の一文字だけ書いて、あとは魔力操作とイメージで補えば魔法っぽいことができるはずだ。

 たぶん本当は順序が逆で、原始魔術に制御用の魔法文字を追加して使いやすくしたものが今の魔法なのだと思う。

 いずれにしても、初級の魔法術式を調べて何をやっているのかを理解し、それをイメージと魔力操作で再現すれば原始魔術になるはず。

 まずは試してみよう。

 (ルクス)の魔法文字を書いて、魔力注~入~!


 ――ピカァー!


 「うぎゃあー。目が、目が~!!」

 セ、セルフヒーリング~!

 ふぅ、セルフヒーリングならば目を瞑っていても使えるようになっていたから助かったよ。

 ちょっと込めた魔力が多すぎたみたいだ。すぐに消したけど、危うく失明するところだったよ。

 でも、ちゃんと魔法……魔術は発動した。それも、これだけ強い光なら目眩ましにも使えるんじゃないかな。

 集束させたらレーザービームみたいになるかも。

 ちょっと試してみよう。

 今度は魔力を少なめにして……


 ――ポワン!


 よし、今度はまぶしくない。魔力を加減すれば明るさを調整できるみたいだ。

 次は放たれる光に方向性を与えてみる。

 今は魔力で出した光球から全方向に光が出ている。このままだと光を強めるとぼくまで眩しくなるから、一方向にだけ光が出るように集束させていく。

 よーし、だんだん光の範囲が狭まって、その分光が強くなってきた……って、眩しい!

 集束した光がこっちに向かっているよ。この光を反対側に向けて……向けて……何で向かないの!?

 じゃ、じゃあ、光源の方を動かしてみよう。えーと、お、動いた、動いた。動いたけど、何で光がぼくに当たったままなの!?

 ……光源を頭上に持って行って、スポットライト!

 背後に動かして、後光!

 顔の下に持ってきて、ホラー!

 ふう。

 やっぱりどうやっても光が自分に向かってくるよ!

 これはあれか? セルフなんちゃらって感じで原始魔術は自分だけしか対象にできないとか?

 光の原始魔術、セルフライティング!

 これでもう、自分を照らす光には不自由しない。

 冗談は置いておいて、対象が自分だけというのは不便だなぁ。

 というか、魔術で攻撃とか無理じゃねぇ?

 ちょっと想像してみよう。


 「セルフファイアーボール!」


 ――ちゅどーん!


 駄目だ、自爆技しか思いつかない。

 一応、光以外も試しておこう。火は怖いから、とりあえず(ベントス)の魔法文字を書いて魔力注~入~!


 ――ゴォォォー!


 「アババババ~!」

 ぬおぉぉ~、向かい風が吹き付ける~。

 ハァ、ハァ、ハァ。

 やっぱりどうやっても自分に向かって吹きつけて来るよ。

 よし、セルフブローと名付けよう。威力を弱めにすれば、夏には扇風機の代わりになるぞ。


 攻撃魔術の開発とかはまた今度にして、今は使えそうな原始魔術を試してみよう。

 もう一度本に載っている原始魔術を見てみると……

 セルフヒーリングとセルフプロテクションとセルフブーストはもう知っているからいいとして。

 セルフスリープ。寝つきをよくする魔術……眠れない夜に試してみよう。

 セルフアジテーション。精神を高揚し、戦意を高める魔術……なんだかヤバいテンションになりそうなのでパス。

 セルフピュリフィケーション。毒、病気、呪い等を治す……まずはこの辺りかな。

 ふむふむ、セルフヒーリングが怪我やダメージからの回復ならば、セルフビュリフィケーションは状態異常からの回復といったところかな。

 なになに、昔は毒も病気も呪いも違いが分かっていなかったから不浄なものを取り除くという概念でまとめて対処した? なるほど、分からん。

 気休め程度の効果しかない? 果たして、ぼくが使っても同じことが言えるかな?

 それでは行ってみよう! 浄化(ミヌス)の魔法文字を書いて、セルフビュリフィケーション!

 ……毒も病気も呪いもないから、効果が分からん。てへっ。

 ん? いや、待て。何かが違う。

 ああっ、服がきれいになっている! 冒険者ギルドでもらった古着には洗っても落ちない汚れが染みついていたのに、まるで新品のようだ。

 それに、午前中の訓練でさんざん汗をかいたのに、何だか全身すっきりしている!

 もしかして、セルフビュリフィケーションで汚れも落ちている? だったら……

 ぼくは一度自室に戻り、替えの服を引っ張り出す。

 冒険者ギルドから支給された服は三着分。これを洗濯しながら順繰りに着ている。つまり、今着ている服の他に二着、加えてこの世界に来る時に着ていた服が一着。

 全ての服を取り出し、いちいち着替えるのは面倒だから手に持ったままセルフビュリフィケーションを使う。

 すると――

 「おお、洗っても落ちなかったどぶさらいの時の汚れまできれいになっている!」

 やった、これでもう洗濯の必要が無くなった。洗濯機とか無いから結構面倒だったんだよね。

 しかし、考えてみるとぼくの原始魔術はどぶさらいの仕事と非常に相性が良い。

 セルフブーストで強化すれば作業はサクサク進むし、疲れたらセルフヒーリングで回復できる。

 やってみて気が付いた服が汚れる問題も、セルフピュリフィケーションでたった今解決した。

 倍の速さで終わるのならば、普通ならば毎日働いてギリギリ生きていける仕事でも、そこそこ余裕のある実入りのいい仕事になるんじゃないかな。

 しかも、まだ最初の一回目でこれだ。何度も続けて慣れればもっと効率が上がるだろう。

 いずれぼくは、世界一のどぶさらいに……

 ――なってどうする!

 的確な突込みをありがとう、黒歴史の幻影さん。

 ――だから変な名前を付けるでない! 我は終わらぬぞ! あの栄光の日々を闇に封じることは許さぬ!

 でも、あの頃のぼくは闇属性に傾倒していたんだよなぁ。闇属性は闇に帰るのも一興では?

 ――ぐっ……、だが終わるわけにはいかぬ。汝はようやく攻撃魔術を手に入れようとしているのだからな。

 いや、それみんな自爆技だから。そんな危ない魔術、使う気はないよ。

 ――魔力防壁で守ればよいではないか。

 いや、恐いだろう、それ。敵のど真ん中に突っ込んで行って、自分に向けて攻撃魔術を連発するんだよ。いくらセルフプロテクションで守られていても、無茶苦茶恐いぞ。

 ――自爆はロマンであろうに、嘆かわしい。今の汝ならば、炎獄の抱擁ダークネスフレアサクリファイスすらも再現できるであろう。

 だからやらないって。自爆はロマンだけど実際にやっちゃ駄目なやつだよ。

 炎獄の抱擁ダークネスフレアサクリファイスというのは昔考えた自滅技だ。自らの肉体を燃料として暗黒の炎を燃やし、自分ごと相手を焼き尽くす禁断の技だ。

 燃えながら相手に抱き着くから、女の子相手にやるとセクハラになる、という意味でも禁断の技だ。もちろん、やったことないよ! やったら人生詰むから!

 でも、原始魔術を使えば本当にそれっぽいのが再現できそうで怖い。

 自爆技は妄想の中だけで十分だよ。


 攻撃魔術の研究はまた今度にした。

 何かの時の切り札として使えるようになった方がいいのだろうけど、その前に魔法を使えるようになりたい。

 それと、どぶさらいのプロになる気はないけど、手軽な小遣い稼ぎにはなりそうだからまたやろうかな。


黒歴史さんこと心の声(マインドボイス)は亮平とは別人格、ではありません。友達の少なかった亮平の悲しい自問自答だったりします。

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