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第五十五話 非常事態 その3

 辺境都市リントをぐるっと囲む都市防壁は高さが十メートル、幅は三メートルから五メートルある頑丈な壁だ。

 破損している箇所とかを除けば、頑丈な都市防壁の弱い部分は四方にある門になる。

 丈夫な扉と非常用に鉄格子を下せる仕掛けがあるけど、やはり他の場所よりは薄い。

 それに、都市の外に出ている人がいたら避難させる必要があるから、ギリギリまで門を閉め切ることはできないのだそうだ。

 馬車が出入りする大門は既にしっかりと閉じられて、すぐには開くことはできない。代わりに隣の通用門が開いている。

 その開いている門から魔物が入ってこないように見張るのがぼくの仕事だ。

 人間は入れる。魔物は入れない。簡単なお仕事だよ。

 魔物っぽい人も人間なら入れる。人っぽい魔物はたぶんいないから大丈夫。

 賊っぽい人間も取り敢えず入れていいって言われている。

 入った後は厳戒態勢の兵士の皆さんと下手な山賊よりもおっかない冒険者が待ち構えている。冒険者よりもおっかない顔のギルドマスターもいるよ。

 同じことが他の三ヵ所の門でも行われているはず。

 でも門の外で門番やっているのはたぶんぼくだけだ。

 そんな特別扱いは嫌だ~!

 ぼくの今いる東門は東の森に一番近い門だ。

 第三回東の森掃討作戦以後、安全確認中だったので冒険者も商人や旅人も東の森への立ち入りは禁止されていた。リントと東の森の間に開拓村などもないから、東門にやって来る避難民はまずないない。

 だからぼくの仕事は東門から魔物が入るのを防ぐことが中心になる。

 それから状況によっては冒険者が門から打って出ることもあるから、冒険者は出入りさせて魔物はシャットアウトしないといけない。

 え~、それって、魔物が攻め込んで来ている間中ずーっと門の外にいなきゃいけないの?

 それって、Fランクの下っ端冒険者には危険すぎない~って、おっさんに抗議したんだけど、


 「リョウヘイの防御力は異常だからな。ルークの全力攻撃を受けて無傷な奴は他に知らんぞ。」


 とか言われてしまった。

 いや、ぼくのセルフプロテクションには時間制限があるから長時間の防衛には不向きなんだよ……と言いたいところだけど、幸か不幸かその弱点を補う方法を開発しちゃったんだよね。

 それは、セルフプロテクション多重展開!

 考えてみれば前からやっていたんだよね、魔力の鎧と(シールド)の同時使用。

 (シールド)は魔力の鎧の一部を切り離す感じで作ったからあんまり意識していなかったけど、同じセルフプロテクションの鎧と(シールド)を別々に、同時に発動していたんだよね。

 今ぼくは魔力の鎧を纏って周囲を防壁で囲み、東門の通用門の前に(シールド)を展開している。(シールド)は自由に動かせるから、人を通す時にはどければいい。

 そして防壁と(シールド)は時間差で二重に展開している。片方が時間切れになっても、もう片方で防いでいるうちに再度展開すれば防御は途切れないのだ。

 これ見せた時、エリーザさんは「なんて魔力の無駄遣い」とか言ったけど、セルフプロテクションを維持するだけならそこまで魔力を使わないんだよね。たぶん回復する魔力の方が上回っている。

 つまり、理論上は半永久的にセルフプロテクションの防御を続けることができるのだ!

 いや、一睡もせずに二十四時間三百六十五日壁になれというのは無理だし、攻撃を受ければそれだけ魔力を消耗するから限度はあるけどね。

 それでもセルフプロテクションの時間制限を超えて防御し続けることは出来るようになった。

 うー、もっと早く気付いていたら屋敷の攻略ももっと楽できたのに~。

 そんなこんなで、ぼくはさっきからずっと門番やってま~す。


 でも暇なんだよね。人も魔物も全然来ないから。

 まあ、忙しくなるのも困るけど。

 いまさら人が来るとは思わないけど、魔物が来たら戦場になるよ。

 でも魔物が出て来ないと終わらないんだよね~。

 よその都市に向かってそっちの冒険者や領軍が倒してくれればぼくは楽だけど。

 東の森に一番近いのがリントだから、魔物がリントに来た場合が一番早く終わるのだそうだ。

 別なところに向かわれちゃうと終息までに時間がかかったり、大きな被害が出る可能性もあるらしい。

 でも、魔物の暴走(スタンピード)を真正面から受け止めるなんてヤダよ~。

 来るならぼくが引っ込んだ後にして~。

 と言うか、ぼくは何時まで門番やってればいいんだろう。

 まさか魔物が来るまで徹夜で門番やれとか言わないよね。

 ……言わないよね?

 まあ、しばらくは暇だ。門番しながら休憩しよう。

 えーと、セルフプロテクションを応用して……できた!

 空気椅子~!

 どっこいしょ。

 フ、フ、フ、魔法の使えない人には何もない空中に腰かけているか、こんなところで足腰鍛えている変人にしか見えないだろうけど、防壁を変形して椅子を作ったのだよ。

 ……今度クッションでも買ってこようかな。

 さてと。

 空気椅子に腰かけたまま、東の森をぼんやりと眺める。

 心なしか普段よりも森がざわついているように見える。気のせいかもしれないけど。

 セルフブーストで視力を強化して細かく見てもいいけど、そーゆーのは壁の上の監視塔でやっているはず。

 多少視力を上げたところで魔物が森から出て来るまでは見えないだろうし。

 門番の仕事は人でも魔物でも門の近くまで来てからだからね。

 しばらくは一休みだ。ふぅー。


 …………。

 …………。

 …………。


 あれ?

 東の空に何やら怪しげな影が!?

 東の森に飛行型の魔物はいなかったはずだけど……。

 とりあえず、セルフブースト。視力強化!

 あれは!

 ……東の森の偵察に行っていたドミニクさんだ。

 空を飛べるドミニクさんはこういう場面では大活躍する。

 と言うか、おっさんにこき使われる。アイテムボックスを使えるからこき使われるぼくと一緒だ。

 まあ、空を飛ぶドミニクさんは馬車よりも速いからね。

 空を飛ぶドミニクさんよりも速く走れる冒険者もいるんだけど、今は南の森に行っている。

 それにしても、やっぱりドミニクさんは速いなぁ。

 ぐんぐん近付いてくる。

 ぐんぐん。ぐんぐん。

 ……なんか、いつもより速くない?

 ドミニクさん、必死な顔で飛んで来るよ。

 これって、もしかしてヤバい状況なんじゃない?

 「リョウヘイく~ん、入れて~!」

 ドミニクさんが降りて来たから、(シールド)をどけて通用門から入れるようにする。

 ドミニクさんなら直接壁の上まで飛んで、そこで指揮しているはずのおっさんに報告できると思うのだけど……あ、全力で飛んできたからヘロヘロなんだ。

 高度を上げるのは結構疲れるらしい。

 地上に降りたドミニクさんは地面を歩いて東門の通用門に向かって行った。

 「もうすぐ魔物が来るから気を付けて~。ちゃんとこっちに来るように誘導したから~。」

 え?

 ええ?

 えええ?

 わざと暴走(スタンピード)を起こして魔物をリントに向かわせる作戦、あれって本気だったの~!


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