表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/62

第五十四話 非常事態 その2

 南の森の異変はだいぶ前から知られていた。

 原因は今のところ不明。何度か送り込んだ調査チームもそこまでは突き止めていない。

 ただ、南の森の奥深くで、魔物の勢力バランスが崩れたのではないかと考えられていた。

 強大な魔物が生まれたのか、それとも逆に森の主的な魔物が死んだのか。あるいは特定の魔物が大発生でもしたのか。

 広大な南の森の奥深くで発生した異変は、連鎖的に森全体に波及していく。

 異変に巻き込まれて住処を追われた魔物は、玉突き現象を起こして大移動を始める。そして最終的に行き着く場所の一つが東の森だ。

 東の森にもいられなくなると、魔物に居所は無くなる。森を出て、安住の地を探し求めるはぐれ魔物となる。

 人や村を襲うことのある厄介なはぐれ魔物だけれど、森を出ることは魔物にとってもリスクが高いことだ。だから魔物もギリギリまで森を出ようとしない。

 けれとども魔物にも縄張り意識とか生活空間とかがあり、あまり過密になるとストレスが溜まるらしい。

 東の森に魔物が過密に詰め込まれた状態になると、何かのきっかけでパニックを起こして集団で森を飛び出し、暴れまわるようになる。これが魔物の暴走(スタンピード)だ。

 東の森掃討作戦は、東の森の魔物が過密にならないように間引くことを目的にしていた。

 しかし、南の森の異変が終息しない限りは、いくら間引いてもまた魔物がやって来る。

 第三回東の森掃討作戦の後、魔物の空白地帯になった東の森に住処を失った魔物が大挙して押し寄せ、一気に過密状態になったしまったのだと考えられていた。

 そういうと、森掃討作戦が暴走(スタンピード)を引き起こしたように聞こえるけれど、魔物を間引かなければそのままじりじりと魔物の数が増え、やっぱり暴走(スタンピード)が発生しただろう。

 予想外だったのは、掃討作戦から短い期間で数多くの魔物が東の森に集まってしまったことだった。

 通常だったら、魔物も警戒するから、掃討作戦を行った後すぐには東の森に魔物はやってこない。だから、東の森の魔物の増加傾向から暴走(スタンピード)発生時期を予測しようとしていたそうだ。

 その予測を超えて一気に東の森の魔物が増えたから対応が後手に回ったしまった。

 実は三回目の東の森掃討作戦を行った時点で魔物の暴走(スタンピード)の発生は不可避と考え、フォルダム辺境伯は領軍を動員する準備をしていたのだそうだ。

 暴走(スタンピード)の予測時期が一気に早まったため完全には間に合わなかったけれど、ギリギリ最低限の領軍を魔物対策として送り込むことに成功した。

 けれども本当に最低限だけだったので、リントのように都市防壁で守られた都市は後回しになった。

 領軍の対応は後回しになったけど、暴走(スタンピード)した魔物に真っ先に襲われる可能性のある都市の一つがリントだ。だからリントのことはリントの冒険者が守ることにした。

 以上、おっさんの語る現状の公式見解だよ。


 なんだか大変なことになっているけど、それでも十年前よりはましなんだそうだ。

 十年前の魔物の大襲来は、強い魔物が多い南の森で発生した大暴走(スタンピード)で、しかも魔物の進行方向がちょうどリントを直撃したんだって。

 今回は東の森のあまり強くない魔物が相手だし、全てがリントに向かって来るとは限らない。

 その分領軍の人は大変らしいんだけどね。

 東の森から西に向かってくればリントだけど、反対側の東に向かうとボウロという辺境都市がある。北に向かえばフェリだ。

 これらの大きな都市は都市防壁を持っているからまだましだけど、守りの薄い開拓村や小さな町などもあちこちにある。

 特にフェリよりも北に魔物の大群が向かってしまうと被害が大きくなるから、領軍は結構な広い範囲を守らなければならない。

 特に他の領地にまで魔物の群れが行ってしまうと、フォルダム辺境伯の責任問題になることもあるらしい。

 その点ぼくたちは都市防壁の内側に籠っていればいいのだから気楽なもの……などといえるほど簡単な話ではないらしい。

 都市防壁で防ぎきれるという予想は都市防壁が完全な状態だったらの話だ。致命的に壊れているところはないにしても、いつでもどこかしら補修工事をしているのが都市防壁だ。一箇所でも破られれば街中に魔物が入って来るのだ、絶対に安全とは言い難い。

 さらに言うと、都市防壁を破れるような魔物はいないというのもただの予測で保証はない。暴走(スタンピード)では何が起こるか分からないのだ。

 それに、都市防壁が魔物を防ぎきったとしても、魔物がいなくなるまでリントの外に出られないから、長期にわたると困ったことになる。

 まず、冒険者が干上がる。やっぱり冒険者の仕事は街の外にある。

 商人にとっても死活問題だ。流通が止まれば商品が枯渇してしまう。

 実は農家も困ってしまう。大きな畑は都市防壁の外にある。

 籠城に備えて食糧などは備蓄があるらしいけど、長期化すれば問題が起こるだろう。

 幸い、農家はだいたい収穫が終わったからしばらくは大丈夫らしい。

 辺境の商人も、魔物に足止めされることはよくあるからある程度は備えているそうだ。

 真っ先に問題を起こすのは、冒険者なのだそうだ。仕事をしていない冒険者はただのゴロツキ同然だからね。

 だから冒険者ギルトども事態を長期化させないためにも、冒険者が問題を起こす暇を与えないためにも、冒険者を積極的に動かすのだそうだ。

 どうでもいいけど、おっさんぶっちゃけすぎ!


 今回もいっぱい働いたよ。

 都市防壁の上から攻撃する予定だから、武器とかいっぱい持って行ったよ。弓と矢をいっぱいとか、おっきな弩砲(バリスタ)とか、投石用の石たくさんとか。

 ぼくのアイテムボックスをフル活用すれば、最初に全部の荷物を詰め込んで各所を一度回ればそれで終わりとできるはずなんだけど、さすがにそこまで段取り良くはいかなかった。

 今回は準備期間もなかったからね。十メートルくらいある都市防壁を上に行ったり下に行ったり大変だった。

 それに弩砲(バリスタ)とか投石機(カタパルト)とか大きなものは一度分解しないとポーチの口から入らないんだよね。

 地上で分解したり壁の上で組み立てたりするのは別の人がやったけど、それなりに手間がかかるんだよね。

 あげく、持って行った先で置き場が無くて、さらに別の場所に持って行ったりとかなりドタバタした。

 まあそれでも昼頃にはどうにか迎撃の準備が終わった。まだ暴走(スタンピード)は起こっていないみたいなのでセーフ。

 今回も強制依頼、それも緊急性・重要性が高いものなので、ぼく以外のFランク冒険者にまで声がかかっていた。

 断ってもリントから出られないし、ジョン達も参加しているよ。

 ただ、今回は壁の上から攻撃するから、遠距離攻撃が中心になる。

 弓を使うハリーや、魔法使いのマークは攻撃に参加できるけれど、剣士のジョンは出番がない。石を投げるか、弩砲(バリスタ)投石機(カタパルト)の操作の手伝うくらいだろう。

 今回前衛職の冒険者は、都市に魔物が侵入された時の備えとして一部地上で待機するけど、他はだいたい雑用になる。

 ぼくも遠距離攻撃は石を投げるくらいしかできない。

 だから、暴走(スタンピード)が始まっても、ぼくは荷物運びの雑用かな。


 そう思っていたんだけど。


 何で東門の()で門番やらされてるの~!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ