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第五十三話 非常事態 その1

2022/1/25 タイトル修正

 最近のリントは活気付いていた。

 辺境都市リントの主要産業は冒険者だ。

 冒険者は魔物を倒して素材を持ち帰り、あるいは薬草やその他希少な植物等を採取する。これらがリントの産物となるのだ。

 ……冒険者って、狩猟採取民族?

 まあともかく、冒険者の取ってきた素材を売買したり加工したりしてリントの商人や職人は稼ぎ、また報酬を得た冒険者がジャンジャン金を使うことで街は潤うのだそうだ。

 だから冒険者が活躍するほど、リント全体が活気を帯びることになる。

 今、リントの冒険者は一働きをして懐が暖かい状態だ。金を持った冒険者は金遣いが荒くなる人が多いから、商店街も賑わっている。

 ただ、この状況はあまりよろしいものではないらしい。

 何しろ、第三回東の森掃討作戦の成果なのだ、この好景気は。

 ぼくも参加したよ~。ほぼ強制的に。

 荷物持ちやってぇ、駆けずり回って魔物の死体を回収してぇ、たまに遊撃もやってぇ、終わったら解体祭りやってぇ。

 数年間は遊んで暮らせるお金は手に入ったし、あの屋敷だけでも結構自給自足できそうなことも分かったから、しばらくはのんびりしようかと思ったんだけどなぁ~。

 まあぼくの超過労働は良いとして。本当は良くないけどちょっと置いておいて。

 冒険者ギルドはぼろ儲けしているはずなのに、おっさんが浮かない顔をしているんだよね。

 「東の森の魔物の増加が止まらん。強い魔物も増えてきた。十年前のような魔物の大暴走(スタンピード)の予兆かも知れん。」

 冒険者ギルドとしては浮かれてばかりもいられないらしい。

 東の森への立ち入り制限が強化されていたりするから、本当は冒険者も浮かれてばかりはいられないのだけど、懐の暖かいうちはさして気にしないのが冒険者というものだ。

 ぼくはただの下っ端冒険者だし今のところお金には困っていないのでそこまで気にすることはないんだけど、魔物に襲われてリントに住めなくなったら困るなぁ。家も買っちゃったし。

 おっさんは何度目かになる南の森偵察チームを送り出した。

 南の森の奥深くまで探索できる高ランクの冒険者は数が少ないし、何かあった時のためにリントにも高ランクの冒険者を残す必要もあるから、人の遣り繰りが大変なのだそうだ。

 「保護期間が終わってランクを上げた後だったら、リョウヘイにも行ってもらいたいところなのだが……」

 だから、ぼくをそんな危険地帯に連れ出そうとしないで~!



 それから数日後、リントに非常事態を告げる鐘の音が鳴り響いた。



 「先日間引いたばかりだが、東の森に再び多数の魔物が集まってきている。近いうちに魔物の暴走(スタンピード)が起こるだろう。」

 集められた冒険者たちを前に、おっさんが衝撃の事実を語る。

 これに対して冒険者たちの反応は……

 「「「あ、やっぱり!」」」

 解体祭りにしか参加していないFランクはともかく、東の森の掃討作戦に参加していれば肌で感じていたのだ。


 魔物多過ぎ!!


 あ、これは解体祭りでも感じていたか。解体しても解体しても終わらないんだよ~。

 まあともかく、いずれ魔物の間引きが間に合わなくなって、東の森から魔物があふれ出すだろうということは皆薄々気付いていた。

 「幸い今回は東の森からの暴走(スタンピード)だ、リントの都市防壁が破られることはないだろう。」

 十年前は大変だったらしい。南の森から強力な魔物がわんさかと押し寄せて、都市防壁も一部だけど破られたのだとか。魔物の侵入も許してしまい、民間人にも被害が出たそうだ。

 「だが、悪い話もある。まず南の森の調査に行った高ランク冒険者は出たばかりだ。暴走(スタンピード)には間に合わんだろう。」

 ルークさんも調査に行っちゃってるんだよね。もう南の森の中に入っているから呼び戻すことはできないし、連絡が付いたとしても戻って来るまで何日もかかる。

 「それから、領主にも緊急で連絡してあるが、領軍がリントに来ることはない。領軍は開拓村や他の都市防壁を持たない都市への対応で手一杯だ。」

 防壁を持たない開拓村なんかだと、常駐している冒険者が数体程度の弱い魔物を倒したり追っ払ったりするのがせいぜいで、暴走(スタンピード)が発生すると村を捨てて逃げるしかないのだそうだ。

 「東の森は既に魔物が過密状態になっている。経験上、暴走(スタンピード)は遅くとも三日以内、早ければすでに始まっているかもしれん。今から間引くことはできんし、リントの一般市民を避難させる暇もない。リントは俺たちで守るぞ!」

 普段は近隣の開拓村を支援し、魔物からの避難先にもなるリントだけれど、今回はリント自体が魔物の襲撃を受ける可能性が高い。

 他の開拓村や都市は領軍に任せて、リントはリントの冒険者の手で守るということになったみたいだ。

 「魔物の暴走(スタンピード)が治まるまではリントに籠城することになる。リントの一般市民には都市防壁の外に出ないように通達を出している。我々も原則壁の上から魔物を撃退する。」

 都市城壁を破れない魔物ばかりなら、これが一番の安全策だよね。元々リントにはこういう事態に備えて日頃から籠城する準備が行われているそうだ。

 「今回は総力戦だ。人手が要る、Fランクにも働いてもらうぞ。」

 リントは広いから、都市防壁全体に人を配置すると結構な人数になる。リントに常駐している兵士さんもいるけど、交代要員も考えるとあんまり余裕がないらしい。暴走(スタンピード)が終わるまで24時間戦い続けるわけにもいかないからね。

 直接戦闘に参加する以外にも仕事はたくさんありそうだし。

 「それと、リョウヘイには別にやってもらいたいことがある。詳細は後で伝えるから頼む。」

 え、ぼく?

 また荷物運びかな?

 リントは広いから大変そうだなぁ。


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