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第五十話 勇者会談 その3

 王都でやることは全て終わったので、ぼくたちはリントに帰ることになった。

 アキト君は王都の冒険者ギルドで、ケイティさんは神殿で預かることになったので、ここで二人とはお別れだ。

 アキト君はともかく、ケイティさんは大丈夫かな? 異端の信者として肩身の狭い思いをするんじゃないかと思うけど、まあぼくが気にすることではない。

 勇者の力があれば辺境のリントの方が活躍できそうだけど、アキト君の場合はこの世界の一般常識を学んでもらう方が優先だと言うことで王都に留まってもらうことになった。

 ちなみに、勇者アキト君のチート能力は、剣術だった。

 神聖ベルガ帝国でも、『渡り人』であると判明する前に棒切れ一本で盗賊を撃退したりと大暴れしたらしい。

 ちょっとうらやましい。

 ぼくは魔法の資質だったから、冒険者ギルドで調べてもらうまでわからなかったし、魔法は勉強しなければ使えない。

 勉強しても使えていないけど! 指パッチンがぁ~!

 もしもぼくが神聖ベルガ帝国に現れていたら、何もできないうちに野垂れ死んだんじゃないかな?

 アキト君は棒一本持っただけでいきなり無双したらしいから凄い。

 ルークさんも才能があるって褒めていた。

 それほどの強さを持った勇者だから、高い防御力を持つぼくが呼ばれたんだそうだ。いくら同じ『渡り人』でも、神聖ベルガ帝国で色々と吹き込まれた勇者が暴れて攻撃してこないとは限らない。

 ぼくが単なる魔法使いで、物理的な防御力が低ければ勇者と引き合わせることはしなかったとか。う~ん。

 その勇者アキトも、ルークさんと模擬戦をやった時は経験の差かルークさんが圧勝したけどね。

 逆に言うと、ルークさんのようなAランク冒険者くらいの強い護衛がいないと暴れる勇者アキトを止めることは難しいということだ。王子(リック)も結構危ないまねをしていたんだなぁ。

 王子(リック)の話では、神聖ベルガ帝国の思惑は、イーハトーヴ国王に入ってすぐに勇者アキトに暴れさせるつもりだったらしい。

 ベルガ正教の偏った知識しか持たない神官を聖女だと言ってただ一人同行させたのも、その偏見に満ちた意見でアキト君を煽って狼藉を働かせるため。

 イーハトーヴ国王への勇者派遣の通達をわざと遅らせたのも、王国側が勇者と気付かずにただの犯罪者扱いをして対立が決定的になることを狙ったもの。

 だから勇者が問題を起こす前にイーハトーヴ国王側が接触し王都まで連れて来た時点で、神聖ベルガ帝国の策謀は九割方潰せたのだそうだ。

 しかし、最後の最後で王族殺しをやられてはたまらない、ということで勇者との会談は結構慎重に対応したのだそうだ。あんまりそうは見えなかったけど。

 ぼくを巻き込んだのもその一環で、同じ『渡り人』がいれば多少は落ち着いて話を聞いてくれるかな、という期待だったらしい。

 なんかぼくの扱い軽くない?

 最初に政治や宗教の関係の話で議論を吹っ掛けたのも、勇者がどの程度帝国の思想に染まっているかを確認するためだったそうだ。

 ケイティさんが熱くなって反論したように、ベルガ正教の教義や神聖ベルガ帝国の思想にどっぷりとつかった人は反論せずにはいられない言葉を意図的に並べ立てたらしい。

 そんな白熱した議論にまるでついてこれなかったアキト君を見て、これなら逆上して暴れることもないだろう、と判断したのだそうだ。

 実際、アキト君は帝国に使い捨てにされたことをあっさりと認め、亡命することを決断した。

 正直ぼくがいる意味はあんまりなかったというか、ルークさんがいるだけで良かったような気もするけど、まあそう言うのは結果論だよね。

 実際、アキト君はずいぶんとルークさんに懐いていた。亡命を決めたことも、やはりルークさんの説得、あるいはハーレム王の存在が決定的だったらしい。

 それと、ルークさんがいれば暴れるアキト君でも止められただろうから、護衛としても十分だ。

 やっぱりルークさんが今回は最大の功労者じゃない?


 「少年、君にはこの本をあげよう。ハーレム王の自伝だ。これを読んで励むといい!」

 「ありがとうございます!!」

 ルークさん、何渡しているんですか!? というか、普段からその本持ち歩いているんですか!?

 「お、リョウヘイも読むか? 王都に来たついでに布教用に十冊ほど補充できたから、一冊やるぞ。」

 ぼくは遠慮させていただきます。

 布教用ってハーレム王は宗教ですか?

 そう言えば、ルークさんは以前にもジョン達にも何か渡していたような……。

 もしかして、布教用の他にも読書用、保存用とかで何冊か確保してあるんですか?

 そう言えば、おっさんとルークさんから王都で買ったお土産を預かっているんだけど、ルークさんの重い鞄の中身は全部ハーレム王自伝書だったりするのか。

 『他にも「ハーレムのすゝめ」とか「ハーレム王研究読本」とか「私が愛したハーレム王」とかもあったっス。』

 ルークさん、王都に何しに来たのさ?


 アキト君達との別れも済ませて、ぼくたちは王都を後にする。

 帰りも馬車鉄道だよ。

 王宮からの依頼を受けたということで、王子(リック)がチケットをくれた。

 でも帰りの交通費もレイモンドさんが出してくれる予定になっていたから、儲かったのはレイモンドさんなんだけどね。

 それとは別に報酬も貰ったよ。金貨がいっぱい。形としては国からの依頼ということでとっても高額だ。

 ぼくはほとんど何にもしてないんだけど、こんなにもらっていいんだろうか?

 おっさんにも「危険手当と口止め料込みだ、おとなしくもらっておけ。」とか言われたし、受け取ったけど。

 一番活躍したというか役に立っていたルークさんは、あくまでおっさんの護衛なので国からの報酬はない。冒険者ギルドからの報酬には多少色を付けると言っていたけど。

 ルークさん自身は王都で色々と買い物ができて満足みたいだからいいけどね。


 列車が出発した。また五日間の鉄道の旅だ。

 それにしても……来るときも思ったんだけど、この鉄道は駅の名前が変。

 駅のある町の名前に関係なく「白鳥の停車場」とか「鷲の停車場」とか、鳥の名前繋がりかと思うと「南十字星(サザンクロス)」なんてのもあった。そんでもって、王都の駅が「銀河ステーション」。

 名付けに『渡り人』が関わっていそうだけど、いったいどこへ向かっているのだろう。

 そんなことを考えながら、ぼくたちはリントへと帰った。


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