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第四十八話 勇者会談 その1

2022/1/11 誤字訂正

誤字報告ありがとうございました。

 それから数日間、件の勇者が到着するまでぼくは王都の観光をしたりしながらだらだらと過ごした。ぼくの保護者扱いのおっさんとその護衛のルークさんも一緒だ。

 レイモンドさんも、この際王都でできる仕事を全部やっておく、とか言ってぼくの予定に合わせてくれていた。爆音石は一応生産を始めたらしい。

 そして、ついに勇者が王都にやってきた。


 「余がこのイーハトーヴ国王の王子、パトリックである。」

 誰だこいつー!!

 声に出して叫ばなかったぼくを褒めてやりたい。

 いや、こっちが王子としての公式の態度なんだろうけど、ちょっと変わり過ぎだよ~。

 現在、神聖ベルガ帝国とイーハトーヴ国王の勇者会談が始まったところだ。

 場所は、一応どこの国にも属していない組織ということで、冒険者ギルドの一室が提供されている。その関係で王都のギルドマスターとおっさんが立会人だった。

 イーハトーヴ国王側の出席者は、イーハトーヴ国王公認勇者(?)のぼくと、イーハトーヴ国王の王子(リック)、それと司祭のエレーナさんの三名だった。

 一方、神聖ベルガ帝国側は、

 「俺が勇者アキトだ!」

 まずは、神聖ベルガ帝国の勇者。黒い髪、黒い目、いかにも日本人らしい顔立ち。年の頃はぼくと大差ないくらいかな? なんとなく年下の気がする。

 強気の態度、と言うよりは強がって虚勢を張っているように見える。今の王子(リック)はなんか王族の威厳っぽいものを全開で出しているからね。勇者として魔王(笑)の息子相手に怯むわけにもいかないのだろう。

 「私はベルガ正教の聖女ケイティです。」

 勇者アキト君の横に座っていた女の子は、聖女ケイティと名乗った。

 赤みがかった金髪の、気の強そうな女の子だ。エレーナさんと似たような感じの白い神官服を着ている。

 年はぼくやアキト君と大差なさそうだけど、西洋人風の顔立ちやスタイルをしているので、アキト君と並べるとお姉さんにしか見えない。胸なんか神官服がはちきれそうだ。

 そう言えば、ぼくもジョン達と一緒にいると一人だけ年下に見られることが多かったなぁ。

 そして次は――いない。

 勇者一行はこの二人だけだった。

 ちょっと少なすぎない?

 勇者パーティーならば他にも剣聖とか、賢者とか、あと雑用係の一人もいるもんじゃない?

 そんでもって、雑用係を追放すると新たな力を得て復讐に……え、それは別の話だって?

 まあ、何にしてもたった二人で魔王討伐なんて無茶が過ぎるよね。

 それともこの聖女様、実は回復や支援だけじゃなくて、前衛でガンガン戦える脳筋殴り聖女とか……


 ――ギロリ!


 ひぇぇ~、睨まれちゃったよ。なんで? 考えが顔に出ていた?

 まあともかく、たった二人で一国に正面から喧嘩を売ってその王様を暗殺しようとしているのだから無謀だよねぇ。

 今二人が五体満足でここにいるのはイーハトーヴ王国側が招き入れたからにすぎない。

 二人ともそのことを分かっているのかいないのか。

 おっと、ぼくも挨拶しなければ。

 「えーと、イーハトーヴ国王の勇者をやっています、渡瀬亮平です。よろしくお願いします。」

 ぺこり。

 ふっ、ぼくだってちゃんとした日本人だ。この程度の挨拶くらいできる。する機会がなかっただけで。

 「え、あ、こ、こちらこそよろしく。」

 ぺこり。

 つられてアキト君が頭を下げた。日本人だよねぇ。ビジネスマンだったら名刺交換を始めるのかな?

 「って、日本語!?」

 あ、気が付いたみたいだ。『渡り人』に与えられる言語を理解できる能力は、かなり自然に言葉を翻訳してくれる。だから意識していないと相手が何語を話しているのか分からなくなることがあるんだよね。

 でもこれで確定だ。アキト君は日本から来た『渡り人』で間違いない。最後の「よろしくお願いします」だけ日本語で言ったんだけど、この部分を日本語だと理解できるのは日本人の『渡り人』くらいだ。

 「そうだよ。ぼくも日本から来た『渡り人』だよ。」

 内緒話をするつもりはないので、こちらの言葉で話す。

 これはぼくなりの援護射撃だ。話し合いの中心は王子(リック)とエレーナさんになるけど、勇者アキトと同じ『渡り人』のぼくまで魔物扱いするわけにはいかないだろう。

 なんか『渡り人』と言う言葉にケイティさんがびくりと反応するけれど、何か言う前にエレーナさんが自己紹介をした。

 「大地母神レーア様の神殿で司祭を務めされていただいています、エレーナと申します。」

 「さすがは魔物の国ですねぇ、魔物が神官の真似事なんて。でも魔物にレーア様の名を口にしてほしくないですわ。」

 「レーア様は寛容なのですよ。権力に媚びて差別主義に走った異端の宗派とは違って。」

 いきなり始まる舌戦。と言うか嫌味合戦? なんかエレーナさんも黒いオーラを出している!

 同じ神様を信奉しているのに、なんでこんなに仲が悪いの!?

 『たぶん同じ神様を信じているからっス。』

 え、そういうものなの?

 『異教徒なら違うことを言っていても当然っス。でも同じ宗教で違うことを言う人を認めたら、自分が間違っていることになってしまうっス。だから異端は徹底して排除されるっス。』

 確かに異端審問とか危なそうな気がする。

 ――所詮は神の走狗、くだらぬ争いをしておるな。

 あ、聖戦士黒歴史さんだ。

 ――我まで神の先兵の仲間にするでない! ……いや、光と闇を併せ持つ……これはこれでありか?

 あれ? なんか自己完結しちゃった。

 『そして派閥争いに負けて異端にされた側が変に拗らして悪魔崇拝とか始めるっス。いい迷惑っス。』

 黒歴史さんを置いて憤慨する阪元さん。なんか(元)悪魔が崇拝者をディスってるんですけど。

 『既存の権力のアンチテーゼとして悪魔と言っているだけっス。本当の悪魔の苦労を知らないっス。』

 少なくとも阪元さん的には悪魔崇拝は嬉しくない信仰らしい。

 ――そこは悪魔としてしっかりと信者を指導せんか!

 『嫌っスよ! 拗らした狂信者は言うこと聞かないっス。それに人を導くのは悪魔の仕事じゃないっス。天使とか預言者の仕事っス。』

 ……狂信者は悪魔も嫌らしい。ぼくも近寄りたくないよ。


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