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第四十六話 魔道具工房にて

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 翌日、ぼくはレイモンドさんに連れられて魔道具(マジックアイテム)の工房に向かった。

 おっさんはルークさんを連れて王都の冒険者ギルドに向かった。ぼくを国のお偉いさんに引き合わせるという依頼だったから、その日程を調整するのだそうだ。

 さすがにお偉いさん相手にいきなり押し掛けるわけにはいかないから、ちゃんとアポを取って会う日時を決めなければならない。

 そちらは早くても明日以降になるだろうから、今日はレイモンドさんの方の用事を済ませることにしたのだ。


 『タルコット工房』

 それがレイモンドさんの懇意にする魔道具(マジックアイテム)の工房だった。

 「オレがここの工房主のヘンリーだ。で、そっちの兄ちゃんが……」

 「ええ、『爆音石』を作ったリョウヘイさんです。それで、上手く作れなかったそうですが、どのような状況なのでしょうか?」

 「おう、それなんだが、ちょっと見てくれよ。」

 挨拶もそこそこに、ぼくは建物の奥へと連れ込まれていた。

 それなりに広い部屋に作業している人が十人にも満たない、けれども色々な道具や作りかけの魔道具(マジックアイテム)らしきものが散在してなんだか雑然とした、そんな場所に出た。

 そんな雑然とした部屋の一隅にテーブルが一つ、その上には人の頭くらいの大きさの石が一つ置いてあった。

 「もらった魔法術式で試作してみたのがこいつなんだが……」

 よく見ればその石には魔法文字が刻印されていた。ああ、魔法文字が分かりやすいように大きな石で試作したのか。

 ヘンリーさんは、その石を両手で持つと、そのまま床に落とした。

 ええっ、ちょっと、そんなことしたら!!


 ――ポワン!

 ――バチバチバチバチ!


 うすぼんやりした光と、ずいぶんと控えめな音が弾けた。

 あれ? 直視したら危険なくらいの光と、至近距離だとしばらく耳が駄目になるくらいの轟音が出るはずなんだけど。

 「見ての通り、まるで威力がねぇ。魔法術式は同じはずなんだが……」

 確かに見た感じ、魔法術式は間違っていない。大きな石に大きな文字で刻印されているから分かりやすい。

 「魔法術式に問題がなければ、後は製造過程に違いがあるとしか考えられない。たのむ、こいつを作るところを見せてくれ!」

 ヘンリーさんは小石を手に頭を下げる。たぶんこの小石はぼくが作った爆音石なのだろう。

 あれ、ヘンリーさんの持っている爆音石、魔力が抜けている。使用済み!?

 まあ、元からそのつもりで来たのだし、作るところを見せる分には問題ない。

 さっそく実演することになった。


 まずはアイテムボックスから小石を一個取り出す。

 「この石を爆音石に加工します。」

 一応取り出した小石をヘンリーさんにも見せる。

 はい、種も仕掛けもございません。

 次に、サラサラっと魔法術式を書く。ヘンリーさんも見覚えがあるだろう。さっきの大きな石に書かれていたのと同じものだ。

 そして、刻印(スカルプタ)の魔法文字を書いて魔力を込める。

 「刻印!」

 次いで、付与(ドーナ)の魔法文字を書いて魔力を込める。

 「付与!」

 はい、完成。

 正直これだけの単純な工程のどこに違いが入る余地があるのかよく分からない。

 魔道具(マジックアイテム)の工房の本職の人ならば見慣れた光景じゃないのかな。

 「…………。」

 「…………。」

 「…………。」

 あれ、何か反応が……

 「な、何なんだ今のは!」

 「魔法を使わずに刻印と付与を行ったぞ! どうなっているんだ!」

 「それより何なんだ、あの付与した魔力の大きさは!」

 「指で書いた魔法術式を小さな小石に縮小して刻印したわ! あれはラグナック派の開祖の師匠がやったという失われた魔法(ロストマジック)のはずよ!」

 うわぁ。いつの間にか部屋の中にいた全員がぼくの周りに集まって見ていたよ!

 そして口々に突っ込み始めた。もう収拾がつかないよ。

 ヘンリーさん、何とかしてください……って、何やってるんですか、ヘンリーさん?

 ヘンリーさんはできたばかりの爆音石を手に取ると、その手を振り上げ、そのまま床に向かって――!

 ぼくは慌てて後ろを向くと、耳を塞いだ。


 ――ピカァー!

 ――ババババババッー!


 背後で強力な閃光と轟音が炸裂した!

 悲鳴が上がっているっぽいけど、轟音にかき消されて聞こえない!

 光と音だけで殺傷能力はないはずなんだけど、それでも至近距離は危ない。

 光と音が収まったのを見計らって、そーっと振り返る。

 「これだよこれ! この光量、この音量、この威力!」

 何でヘンリーさん平気なんですか~?

 「うー、さすがにオリジナルは違うなぁ。」

 「どうして私たちが作るとあんなにしょぼいのかしら?」

 「バカ、それをどうにかするためにわざわざ来てもらったんだろう! 絶対にアレを作ってみせるぞ!」

 あ、あれ? 不意打ちを食らったはずの周りの人も案外元気だ。

 回復魔法をかけあったりしているからまるで平気というわけではなさそうだけど。

 この世界の職人は、魔物よりも根性がある!?

 「ヘンリーさん、室内で使うのは危ないからやめてくださいよ。」

 いつの間にか部屋の外に退避していたレイモンドさんが戻ってきてヘンリーさんに苦情を言う。

 レイモンドさん、分かっていたのなら止めてください。

 「はっはっは、悪い悪い。どうしてもこいつの威力を確かめたくてな。」

 この人、絶対に悪いと思っていないよね!


 「皆聞きたいことは同じだろうから、代表して俺が聞く。」

 一旦仕切り直しとなった。

 それはいいのだけど、何でぼくが尋問される流れになっているの!?

 まあ、ぼくの作った爆音石と何が違うかはっきりさせないといけないから仕方のないことだけど。

 「まず、今やった刻印も付与も魔法じゃねえよな。何をしたんだ?」

 「ぼくは指を鳴らせないので、原始魔術で魔法と同じようなことをやっています。」

 そう言えば原始魔術でいろいろできるのは珍しいんだっけ。周りの人たちがざわめくけど取り敢えず無視。

 「指で書いた大きな魔法文字を小さな小石に刻印していたが、あれはどうやった?」

 「小石に納まるようにそのまま縮小するイメージで刻印したら上手くいきました。」

 縮小コピーみたいなイメージでやったらあっさりとできたんだけど、一般的じゃなかったみたいだ。

 後で聞いたけど、狭い範囲に小さい字で魔法術式を書くときは、細い筆で手書きするのだそうだ。

 「付与した時の魔力量がものすごく多かったようだが?」

 「ぼくは魔力量が多いらしくて、普通に付与しようとするとあのくらいの魔力を籠める感じになります。」

 ぼくの場合、これ以上魔力量を減らそうとすると細かな魔力操作に神経を使うことになる。

 「「「それだ!」」」

 「魔力が足りなかったから光も音も弱々しかったのか!」

 「そうか、ふつうの魔道具(マジックアイテム)は付与時の魔力はほとんど影響しないから気が付かなかった!」

 「だったら俺達も付与の時に意識的に魔力を多く籠めればいいのか。」

 「でも結構な魔力量よ。私たちではすぐに魔力切れにならない?」

 「生産量を確保できないと冒険者に行き渡らないし、価格も上がってしまうな。うーむ。」

 「人を増やして増産するにしても、冒険者の皆様が使い捨て出来る程度に価格を抑えなければ売り上げは見込めませんし。困りましたね。」

 「そうだ! この前作った魔力充填器を持ってこい!」

 「え、あの失敗作をですか?」

 「付与された魔法に対する魔力充填には使えただろう。」

 「ああ、その手があったか!」


 工房の職人のみんながあわただしく動き始めた。さりげなくレイモンドさんまで会話に加わっているし。

 ところで、魔力の量の問題だってことは最初から見当ついていたよねぇ?

 ぼくに質問する意味なかったよねぇ?

 単なる好奇心で聞いてきたよねぇ?

 まあいいけど。


 その後、無事爆音石の大量生産はめどが立ったということだ。

 なお、話の中に出てきた「魔力充填器」というのは、魔石で動く魔道具(マジックアイテム)が魔力切れを起こした際に、魔石に強制的に魔力を充填する目的で作られた魔道具(マジックアイテム)だそうだ。

 魔力のモバイルバッテリーみたいなものかな。

 ところが出来上がったものは魔石に魔力を充填することはできず、魔道具(マジックアイテム)に付与された魔法に魔力を充填するだけという使い道のない魔道具(マジックアイテム)になってしまったのだそうだ。

 普通の魔道具(マジックアイテム)の場合、刻印された魔法術式に魔石か使用者から魔力を供給する部分の魔法が起動すればよいだけなので、付与魔法で一緒に付与される魔力で十分、それ以上に充填する必要はないのだそうだ。

 ところが、ぼくの作った爆音石は最初に籠めた魔力だけで動作するため、魔力充填器が大活躍することになる。

 完全に失敗作だと思っていた魔道具(マジックアイテム)が、使い捨ての魔道具(マジックアイテム)という新分野の商品を作る有力な武器になると、ヘンリーさんも大喜びだった。

 まあ、ともかく、レイモンドさんの用件はこれで無事終了した。


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