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第四十五話 亮平、王都に行く

 ぼくは今、王都に向かっている。同行者はレイモンドさんだ。

 これにはちょっと理由がある。


 「少々問題が発生しまして、リョウヘイさん、王都まで来ていただけませんか?」

 突然やってきたレイモンドさんに頼まれたのだ。

 「爆音石の生産を依頼した魔道具(マジックアイテム)工房で手こずっておりまして、一度実際に作る所を拝見したいそうなのです。」

 あれ? 魔法術式を刻印して付与するだけで難しいことないはずなんだけどなぁ。

 まあ、往復の交通費に滞在費、更に報酬も出すと言われて行くことにした。

 せっかくだから、王都ってところを観光してくるよ。


 そんな感じで王都に行くことにしたのだけれど……

 「王都に行くのも久しぶりだな。」

 「俺はAランク昇進試験の時以来だな。あれ、リントでできないんですか?」

 なぜかおっさんとルークさんが一緒なんだよね。


 「実は儂も王都に行くことになった。」

 レイモンドさんの依頼を受けて、王都に行くことを報告したら、おっさんからそんなことを言われた。

 なんかすごい偶然……

 「王都のギルドからの依頼で、リントに現れた『渡り人』、つまりリョウヘイを国の要人に引き合わせて欲しいというものだ。」

 じゃなかった! 見事にぼくがらみの案件だった!

 ぼくが王都に行くことになったから便乗して自分の用事も片付けるつもりだよ!

 あれ? もしかしてレイモンドさんも共犯者(ぐる)

 「まあ心配するな。この国は『渡り人』を保護しているから悪いことにはならないさ。才能溢れる『渡り人』が現れたから顔合わせしておきたいのだろう。」

 うーん、面倒なことにならないといいけど。

 「いずれは通る道だ。国難が迫っている状況で才能を見込まれて難題を押し付けられるよりも、何もない今のうちに済ませておいた方が気楽でいいぞ。」


 そんな感じで押し切られて、おっさんも一緒に来ることになった。ルークさんはその護衛だそうだ。

 レイモンドさんも護衛を一人連れて行くから、計五人で王都に向かうことになった。

 普段レイモンドさんは護衛を三人くらい連れて辺境の村や町を行き来しているけど、今回は魔物とほとんど遭遇しない王都が目的地で、しかもおっさんとルークさんが同行するということで今回は護衛を一人に絞ったんだそうだ。

 おっさんとルークさんが護衛代わりというわけだ。その代わり、テイラー商会の馬車に便乗して乗せてもらっている。

 今回テイラー商会で用意した馬車は、行商用の荷馬車ではなく旅客用のちょっと豪華な奴だ。ちゃんと御者もいるからレイモンドさんが自分で御者をやる必要もない。

 その馬車に五人で乗り込んで、ぼくたちはリントの北門を出た。


 リントを出て真直ぐ北に三時間ほど進むと、フェリという都市に着いた。

 リントと同様に大きな都市防壁を持つこの都市は、リントが建設される前の辺境都市だったそうだ。

 過去に頑張ってフェリからリントまでの森やら平原やらから危険な魔物を駆逐しまくったらしい。自然破壊とか大丈夫なのかな?

 このフェリにもあるテイラー商会の店に馬車を預けて、ぼくたちは乗り物を変えることになる。

 なんと、フェリから王都までは鉄道が通っているのだ。

 なんでも、初代国王が百年計画で国中に鉄道網を張り巡らせようとしたのだそうだ。

 ぼくたちはチケット(かなり高い)を購入して車両に乗り込んだ。まあ、このチケット代もレイモンドさんが出したんだけど。

 車内はさほど広くなかった。横は三人掛けのボックス席の横に通路があり、新幹線から二人掛けの席を抜いた感じかな。まあ、日本の新幹線とかと比べても仕方がないけど。

 長さの方もそれほどなくて、マイクロバスくらいだろうか。それが二両編成だった。

 そして日本で見かける鉄道との最大の違いが、この車両を引っ張る動力だ。

 それは、()だった。馬車鉄道と言うらしい。

 ファンタジーな世界だから、魔法か何かで動くと思った? ぼくも最初に聞いた時はそういうのを想像した。

 実は初代国王も魔導列車の開発を指示したのだけど、技術的な問題で没になったのだそうだ。

 魔導列車を実現しようと思うと、列車を牽引する動力車それぞれにドラゴンクラスの魔石が必要になるんだとか。

 いやー、さすがドラゴンはすごいねぇ。ドラゴンの魔石がたくさんあったら、この世界の問題はほとんど解決するんじゃないかな。将来ドラゴンが乱獲されるんじゃないかと心配だよ。

 魔導列車が駄目ならば、蒸気機関を開発する手もあるのだけど、そちらも諸般の都合で没になったみたいだ。もしかすると産業革命を起こして公害や環境問題が発生することを嫌ったのかもしれない。

 それで結局、長距離を走り続けられる機械を作るよりも、駅毎に替えの馬を用意する方が簡単だったということらしい。

 まあ、レールの上を走る馬車みたいなものだけど、それでも普通の馬車より速くて快適で輸送量アップになるのだそうだ。

 滑らかなレールの上を走るから振動が少なく、摩擦も少ないから普通の馬車よりも多くの荷物を素早く運べるらしい。

 どのくらい速いかというと、鉄道を使わないと一月近くかかる王都への旅が、五日で済んでしまうくらい速い。

 まあ、王都まで一直線に近い鉄道を使わないと回り道も多かったりするらしいのだけれどね。

 また、レールだけではなく、魔導列車を研究していた際に開発された魔道具(マジックアイテム)もふんだんに使われていて速度や輸送力の強化に貢献しているのだそうだ。

 その分運賃はお高くなっていて、鉄道を利用するのはよほどの金持ちか、経費で落とせる役人等が緊急と認められた場合に使う程度らしい。

 レイモンドさんはお金持ちだけど、爆音石の生産を急いだ方が利益になるという商会の判断で鉄道を使うことにしたらしい。おっさんはそこに便乗した形だ。

 まあギルドマスターが何ヶ月も留守にするのはまずいだろうから、冒険者ギルドとしても経費で行ける気がするけど。

 ぼくたちの他には物好きな金持ちも緊急の用件を抱えた人もいなかったみたいで、一両丸々ぼくたちで独占している。

 後ろの車両は貨物用になっているらしい。

 やがて定刻になり、発車ベルが鳴る。

 そして馬車鉄道は静かに走り出した。


 五日後、ぼくたちは無事王都センダインに到着した。

 え、早い?

 そんなことないよ、ちゃんと五日かかっているよ。

 ただまあ、思い起こしてみると特に変わった出来事はまるでなかったから、あっという間に着いたという感じはするかな。道中は退屈でやたらと長く感じたけど。

 各停車駅では一時間くらいは停車時間があったけど、乗り遅れると困るから街に遊びに出るとかはやっていない。

 この馬車鉄道は一日一便も無いそうで、乗り損なうと翌日どころか二、三日待つことになるんだそうだ。

 列車が野盗に襲われるといった定番のイベントも起こらなかった。この馬車鉄道は野盗にとって襲うほどの()()()はないのだそうだ。

 乗客は金持ちの可能性が高いけれど、必ず乗っているとは限らないし、重要人物ならばそれなりの護衛が付いている。ルークさんが本気になれば、雑魚野盗の十人や二十人くらい簡単に蹴散らしてしまうだろう。

 貨物の方もわざわざ運賃の高い鉄道を利用するくらいだから重要な物ではあるのだけれど、高く売りさばけるものとは限らない。国の重要書類とか、下手に奪っても扱いに困るものだったりすることも多いらしい。

 そんなわけで、本当に何事もなく王都まで到着した。

 今日はもう夕方なので、宿を取って終わり。

 久々にまともなベッドで寝れるよ~。

 この馬車鉄道の速さの理由の一つは、昼夜問わず走ることにあったりする。その代わり、寝台車じゃないのに車内で寝ることになる。

 野宿しながらの旅よりはよほど楽らしいけど、五日間ずっと座席で寝るのはちょっと辛かったよ~。

 ふと目が覚めるとぼくは、夜の馬車鉄道の、小さな黄いろの電燈のならんだ車室に、窓から外を見ながらすわっていたのです。

 座りっぱなしで体があちこち痛いよ~。

 今日はゆっくり寝よう。


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